第1話 プロジェクトを任されました
「このプロジェクトは、水島だけでやってみようか」
週ごとの朝ミーティングで、北地課長から言い渡される。
「え?」
意識せずに素っ頓狂な声が出ていた。
「そろそろ水島君にも新規の担当を持ってもらおうと、大砂君と話していたんだ。
これなら大丈夫だろうって、迫野君も言っていたしね」
完全に外堀は埋められている様だ。
まぁ、そうされなくても、北地課長からの作業指示に逆らえるわけは無い。
きちんと周りにヒアリングを掛けてもらえるだけでも、俺の事を考えてくれていると思える。
「分からなくなったら、いつも通りに他の人に聞けば良いからね」
「はい、頑張ります」
(大砂さんや迫野さんに聞いているって事は、荷が勝ちすぎる内容ではないという事だろう)
迫野さんや大砂さんは、決して無茶振りをしない。
仕事量が多くなることはあっても、出来ない事を振ってくることは無い(と思う)。
ミーティングの後、北地課長に呼び止められた。
「明日、お客さんの所に行くから心の準備はしておいてね。
あ、これがお客さんの資料で、やりたいことはこれに書いてあるから読んでおいてね」
「ありがとうございます」
その日は、北地課長から頂いた資料を読みながら、他の担当先の対処を行った。
今は案件も無く、『既存ユーザーの保守』という建て前の元、「バグが出た!」だの「上手く動かないから何とかしろ」だのの電話を受けていた。
それらも大抵は勘違いか操作ミスだった。
相手が同年代か少し上くらいなら、きちんと説明すると納得してもらえるのだけど、さらに上の人が絡んでくるとそうはいかない。
「それだと使いにくいから、こう直せ!」とか言われてしまう。
「(いや、今の動きが仕様通りで、そう言う風に変える気なの? 本気なの?)
承知いたしました。
その様に変更することを、そちらの担当の方とお話ししますので、代わって頂けますでしょうか?」と電話を代わって貰う。
電話の保留音が鳴り、暫くすると担当の方が電話に出た。
「いつもお世話になっています、山本です」
「(本当にお世話しているよ)こちらこそ、いつもお世話になっています」
「いや~、本当にすみません。
どうしても俺が直接言うって聞かなくて……」
「(そっちで何とか止めて欲しかったな……)いえ、良いんですよ。
で、本当に言われていた通りに、変更されますか?(面倒だし、やりたくないです)」
「そうですね。
変えないと納得しない様子何ですが……何か説得材料、ありますか?」
「(説得材料か……)そうですね。
ここを変えると、他にも影響があるのでそこも変更する必要がありますし、それで費用が掛かります……とか、ですかねぇ」
「費用ですか? 保守では間に合いませんか?」
「はい、少しの変更なら保守で行けると思いますが、ここを変えると結構な作業量となりますので、保守では無理だと思います」
「口頭でも良いので、見積もりを出して貰う事は出来ますか?」
「磯崎に言って下されば、お出しできると思いますよ。
概算になると思いますが……」
「磯崎さんに回して貰えますか?」
「はい、少々お待ちください……」
電話を保留して、磯崎さんへ電話を回す。
「磯崎さんですか? お疲れ様です、水島です。
山本さんの所でプログラムの変更要求がありまして、見積もりを出して欲しいそうです。
お話して頂けますか?」
「良いけど、水島君は変更に対応できるの?」
「正直言うと難しいです。
新しい所の仕事を割り当てられたんで、今はそちらを優先したいです」
「あ、あの作業が行ったんだ。
うん、分かった。
それで、修正するとしたら、どれ位の工数掛かるの?」
「そうですね、10人日位は必要でしょうか」
「分かった。
じゃあ、電話に出るよ」
「お願いします」
後で聞いたところ、保守の一環として修正してもらうつもりだったそうで、費用が発生するのは想定外だったらしい。
磯島さんも結構吹っ掛けたようで、山本さんが上司に金額を伝えたところ「そんなに掛かるの?」と驚いていたそうだ。
その話を聞いて、少しだけ胸がスッとした。




