第3話 会議で踊らされる
今日は大砂さんと共に、佐藤さんの元を訪問して打ち合わせをしている。
とは言え、話をしているのは大砂さんと佐藤さんで、俺は議事録用のメモを取るのに精一杯だった。
「それじゃあ、入力部分を先に出すという事で宜しいですか?」
「はい、入力までを先に出して貰えば使うまでに入力しておきますので、そうすればリリース当日には新しい方を動かすことが出来ると思いますので……」
「リリース後の、次の回からが本番だと伺っていました」
「最初はそのつもりだったんですけど、上がどうせ使うなら早い方が良いだろ?って」
「あぁ、そう言う事ですか……それでしたら、入力ももう少し早くして頂いて、確認する時間をもう少し欲しいですね」
「そうなると入力部分が出てくるのも、もう少し早くなるってことですか?」
「そうですね……そうすると余計な人手が掛かりますので、特急料金ではないですがその分を頂くことになりますね」
「う~ん、この打ち合わせの後、上の者と話してみますので、その後お電話させてもらっても良いですか? ちなみにですが、どの位になりそうか分かりますか?」
「その辺の値は磯島が握っていますので、この後、確認してお伝えいたします」
「はい、よろしくお願いします」
大砂さんから、小声で「この辺はどういう風に議事録に残すか、後で指示するから」と言われた。
俺としても、どういう風に書けば良いのか困っていたから助かった。
言った事をそのまま書くことは出来ないだろうなぁと、漠然とながら思ってはいた。
「では、その話し合いの結果次第ではありますが、スケジュールも引き直し致します。
そうなると、後、この場で決めないといけないのは……」
その後も打ち合わせは続いたが、平穏無事にとは行かなかった。
「こういう風にならないか? と上の者から言われて……」と言われると、従うしかないのが現状だ。
出来ない事を言われたら突っぱねられるのだろうが、出来ない事は無いと思われる事ばかりだから。
佐藤さんも、大砂さんが作った仕様の方が使いやすくなると考えているのだけど、上の人は今使っているモノに近い方が良いと言っているそうだ。
実際に使うのは佐藤さんや同僚の方々で、上の人は確認位でしか使わないと言うのに……
(でも、佐藤さんも逆らえない立場だろうしな……)
お互い、辛い立場である。
唯一の救いは、入力に関しては自由にして良いと言われているそうである。
なので、その部分については殆ど仕様のまま行くことが決まった。
「帰ったら議事録を作って貰えますか? 向こうに送る前に確認します。
あと、仕様書の直しをお願いします」
「先程の話で、どういう風に書けばいいか教えて貰えますか?」
「そうですね……『先に入力部分を提供することになった場合は、リスケを行う必要がある』と言う様なことを書いておいてください」
「ありがとう御座います」
「それにしても、相変わらずの様で……大変だろうけど、頑張って。
佐藤さんが全てを決められるようになったら、楽になるとは思うんだ。
後、2~3年の辛抱だと思うから」
「はい……」
後2~3年は、「上からの」指示に振り回されることになるのだろうか……




