第2話 風邪をひくのは気が緩んでいる証拠
「申し訳ありません。
風邪を引いたようで熱が出てしまいまして、今日はお休みさせて欲しいのですが……」
どうやら、昨日、風邪を引いてしまったようだ。
咳などは出ていないのだが、熱が38度まで出てしまい身体がだるい。
「ふ~ん、でも、どうして風邪なんて引いたの?」
「分かりませんが、朝起きたら風邪を引いてまして……」
本当は理由は分かっている。
昨晩は久々に定時に上がったので、ネトゲにログインした。
久々だったので、ついつい前のめりになって遊んでいたのだが、いつの間にか寝落ちしてしまった。
寒くなって目が覚めたのは3時頃だった。
その時も多少寒気がしたのだが、それよりも眠気の方が勝ってしまいそのまま布団へと直行したのだが、朝に目が覚めるとこのざまである。
「ふ~ん、気でも緩んでいたんじゃないの? そうじゃなかったら風邪なんて引かないから。
まぁいいや、北地さんに伝えておくよ」
「済みません。
よろしくお願いします」
通話を終了する。
でも、どうしてこんな日に限って電話を受けた相手が、中垣内さんなのだろうか? 普段は時間ギリギリか遅刻してくるのに……
中垣内さんは、自分に甘く他人に厳しい傾向がある。
他人に対しては時間とか勤怠に厳しいのだが、自分には……第一、打ち合わせにも自分が遅れてきても詫びの言葉の1つもないのに、他人が遅れてくると北地課長でも「遅いっすよ~」とか言う。
本人は冗談で言っているのかも知れないが、その様子を見ていると俺はいつも(どの口が言っているんだ?)と思っている。
迫野さんと話した時も、「まぁ、普通はそう思うよな」と言って苦笑いしていた。
大体、北地課長だって、前の打ち合わせが延びたから遅れてきた訳で、何も忘れていたとかと言う訳ではない。
その事は皆分かっているんだけど、ひょっとして空気が読めない子なのだろうか?
それでも仕事は出来る為、誰も何も言わないそうだ。
「あれで、仕事もできないって言うなら、直ぐに馘首だろうけどなぁ」と、迫野さんの談。
そんな訳で、中垣内さんにこう言った電話をするのは躊躇うと言うか、出来ればしたくは無い。
勤務開始時間前なら中垣内さんが居る確率は低いと思ったのだけどな……
それにしても、気が緩んでいると風邪を引くのか。
今回の俺の場合はそうだったのだが、気を引き締めていれば風邪を引かないと言う訳ではないと思う。
ひょっとして、インフルエンザも気合があれば掛からないとか言うタイプなのだろうか? くわばらくわばら……
明日、出勤して分かったのだが、中垣内さんは徹夜でお客さん対応をしていたため、あの時間に会社に居たそうだ。
電話を取ったのも、お客さんからの電話待ちだったそうである。
いろんな意味で、タイミングが悪かったようだ。




