第1話 初出社
いよいよ、俺、水島周大は、本日から社会人としての第一歩を踏み出す。
時計を見ると、朝6時の少し前だ。
(こんなに早く起きたのは、小学校の遠足の日ぐらいか……)
入社式には、家から1時間もあれば着く。
逆算して、最悪でも7時半までには家を出なければいけない。
(シャワーでも浴びるか……)
俺は朝シャン派だ。
理由は2つあって、1つはシャワーを浴びないと目が覚めない様な気がする為。
もう1つは、寝癖が酷くてそれを直す為だ。
軽く濡らして整えるなんて事が不可能だと思えるくらいに爆発しているのだから、朝シャンが当たり前の事となっていた。
シャワーを浴びてTVを点けて端を見ると、6時24分を表示していた。
(まだ時間があるな……7時15分に家を出るとしても、まだまだ余裕だ)
TVをぼんやりと眺めていたら、6時半になり目覚まし代わりのスマホが大音量で鳴り響いた時には、少しビビッてしまった。
(すっかり忘れていた)
まったりと過ごしていたのに、今も心臓がバクバク言っている。
(いいや、さっさと用意して、会社に行くか。
きっとこれは、神様が早く行けと言っているに違いない)
俺が忘れていただけなのだが、神様のお告げと言う事にして会社に行く準備をする。
15分後には、何処から見ても社会人1年生の出来上がっていた。
着慣れていないのが見てすぐに分かる、スーツにネクタイ姿。
下ろしたての、革のカバンに靴。
朝シャンの後、電気シェーバーで髭もきちんと剃った。
起きた時には酷かった寝癖も、全くない。
会社までの道順も、スマホのナビに登録してある。
「良し、行ってくるか……」
まだ7時前ではあるが、俺は家を出た。
歩くこと約10分。
駅に着いた時には丁度7時だった。
路線図を見て会社の最寄り駅を確認し、料金分の切符を買う。
(昨日、確認しておいて良かったな……初見殺しだろ、あんな路線図)
交通網という言葉がぴったりと当てはまるかのような、あんな路線図は今まで見たことが無い。
俺の田舎なんて、路線図には線が1本伸びているだけだったし、大学でも交差している線が2~3本あるだけだった。
加えて、本数にも驚かされた。
(1本逃しても、次から次に汽車が来るしな……)
田舎で1本逃したら、次に来るのは早くて1時間後。
タイミング次第では2~3時間待ちなんてこともあった。
大学の時に少しは改善されたものの、それでも、ここまで頻繁に来ることは無かった。
(駄目だ、さも「当然」のように振舞っていないと、田舎者がバレてしまう)
そうやって振舞おうとしている事で、少し挙動不審になり却って田舎者だとバレてしまうという事が分かるのは、次の年の4月にそれらしき人を見かけた時だった。
その時になって、去年の自分もあんな感じだったのかと振り返る事が出来た。
1度乗り換えをして、会社の最寄り駅に到着する。
(何か異常に疲れたんだけど、俺、やっていけるのかな……)
会社までは、ここから歩いて5分とスマホのナビが告げている。
現時刻は7時48分。
流石に今から行っても誰も居ないだろうから、飲み物を買って駅の待合室で時間を潰すことにする。
8時15分ぐらいに此処を出れば、8時20分ぐらいに到着するから丁度良いだろう。




