第3話 親友は魔法使い
今日も朝から、概要設計とにらめっこをしながら基本設計書を作っていた。
大体、開発経験も無いのに、概要から必要となる機能を洗い出せって言うのは……無茶振り以外の何物でもないと思う。
だが、サンプルとしている基本設計書に、似たような機能が結構あった。
その部分を切り貼りして、なんとなくそれらしく作っていく。
(あと、もう少しで終わりそうだな……)
そう思いながら、似たような部分を探して、コピペして修正していく。
(あれ?)
途中で、何かに引っ掛かったかのように動かなくなってしまった。
(重くなったのかな?)
キーから指を離して、動き始めるのを待つ。
30秒程待っても、動き出すことは無かった。
(あれ? おかしいな……今まで、こんなに待つことは無かったけど……)
更に30秒程待っても、やはり動き出さなかった。
「迫野さん、ちょっと良いですか?」
「うん? どうした?」
「何か急に動かなくなって……どうすれば良いのか分からなくなったんです」
「どれどれ……」そう言いながら、迫野さんは椅子ごと此方の席へと来た。
「マウスは動くし、ウィンドウの切り替えも出来るっと……動いているみたいだけど?」
「某表計算ソフトが動かないんです」
「あ~、こいつね」
そう言いながら、迫野さんはキーボードで2~3個のボタンを同時に押した。
すると、『タスクマネージャー』と表示されたウィンドウが出て来た。
迫野さんは、何事も無かったかのように、その中から某表計算ソフトの所を選んでいた。
「あ~、やっぱ落ちてるわ。
ご愁傷様」
「どういう事ですか?」
「偶にこいつ落ちるんだよ。
ほら」
そう言いながら、某表計算ソフトのウィンドウでマウスのボタンを押す。
「ここに(応答なし)って書いてあるだろ? これは落ちたって意味なんだ」
「そうなんですか……どうすれば良いんですか?」
「ほら、ダイアログでここから、これを選んで、『タスクの終了』ってやれば終わるから、また起動しなおせば良いんだけど……保存される前の状態に、戻っちゃうんだ」
「朝から保存はしていないから……じゃあ、今日、今まで修正した分は無くなっちゃうんですか?」
「う~ん、設定次第では少し前まで残っているけど……とりあえず、起動しなおしてみて」
迫野さんの言われた通りに、『タスクの終了』をして起動しなおした。
起動しなおした某表計算ソフトの左側に、何やら見慣れない表示があった。
「お、ツイてるね。
自動保存が設定されていたみたいだから、ここから選べば少し前の状態で戻れるよ」
「落ちる直前までは戻れないんですか?」
「それは無理だな。
だって、某表計算ソフトにも今落ちるとか分からないんだから。
少しでも直前に戻りたかったら、ここをこうして、1分とかにすれば良いよ。
だけど、1分ごとにちょっと遅くなったような感じになるから、その辺は自分との兼ね合いで決めてくれ」
「分かりました。
ありがとうございました」
「まぁ、何時かは通る道だからな」
そう言いながら、迫野さんは椅子ごと自分の机へと帰って行った。
何処かのお笑い芸人が言っていた『時を戻そう』を、現実で食らうとは思っても居なかった。




