第1話 開発方法のレクチャー
「後で、打ち合わせスペースに来てくれ。
ちょっと話があるんだ」
「はい、分かりました」
朝、出社すると迫野さんから声が掛けられた。
何か悪い事でもしたのか? と考えてみたが、思い当たる節は無い。
戦々恐々としながら、迫野さんから声が掛けられる時を待っていた。
「よしっと……水島、今から良いか?」
「はい、大丈夫です」
迫野さんと共に席を立ち、打ち合わせスペースへと向かう。
席が4つ程あり、横には白板が置かれている。
「早速だけど、大体教育も終わったと思うから、今日からは実際にモノを作って行って貰うぞ。
本来の開発の流れから説明するわ」
白板を前に、迫野さんが絵を描き始めた。
絵と言っても、棒人間だったけど……
「まず、お客さんと打ち合わせをして、『何がしたいのか』を聞き出す。
それを『要件定義書』に纏める。
ここまでは、大抵、北地さんか大砂さんと営業が客先に行って詰める感じだな」
白板に『要件定義書』と殴り書きをした。
「次に、さっきのメンバーから営業と俺や中垣内さんが入れ替わって、お客さんと話して概要を決める。
これを纏めたものが『概要設計書』として出来上がる」
続いて、『要件定義書』と白板に書かれた。
「この『概要設計書』から画面フローや機能フロー、入出力定義やデータベースのテーブル定義とかを書いて『基本設計書』が出来上がる」
『基本設計書』と白板に書かれた。
「そして、クラスの詳細な処理内容何かを書いた『詳細設計書』を作って、やっとプログラムを始めるわけだ」
『詳細設計書』『作成』と書かれた。
そして、『詳細設計書』の下に横線を引き、「此処までが設計工程となる訳だ」と言葉を付け加えた。
「作成が終わったらテストをして、全部のテストが終わったら晴れてリリースとなる訳なんだけど……」
『テスト(単体・結合・総合)』『リリース』と書かれた。
「本当なら、リリース以外の各作業の終わりにはレビューが入る。
作られたものが、正しいかどうか確認しないといけないからな」
俺は首肯する。
「本来なら、レビューが通らなければ次の作業には進めないし、上に書かれている作業が終わらないと次の作業には進めない。
だけど、全ての書類を揃えていく時間も無いし、後から作るものから揃える事も出来る。
例えば、さっき言ったデータベースのテーブル定義とかだな。
テーブル定義書とかは簡単に出力できるから、プログラムを作って後から定義書を作れば手間が1つ省ける。
だから、レビューを待たずに作って行って、後から纏めてレビューするんだ」
白板の『詳細設計書』の上に×を書いていた。
「詳細設計は、出来上がったプログラムから作る事が出来る。
だから、これは作らなくて良い。
だけど、仕様書を作る為には、コメントの書き方が決まっているし、コメントを多く付ける必要がある。
仕様書を作るために、沢山、コメントを書くようにする必要がある」
続いて、『基本設計書』には△を書いた。
「さっき言った、データベースは良いと思う。
此処にはクラス定義とか概要とかも書くのだけど、プログラムから引っ張って来る事も出来るのだけど、ここで作成する。
一覧みたいなものがないと、プログラムを作っていく時に機能の過不足が確認しにくいからな。
基本設計の時に書いておいて、後でプログラムにコピペする感じだな」
迫野さんは、ここで一呼吸つけて、話を続けた。
「画面定義とかも、出来上がったプログラムを実行してハードコピーを張り付ければ良いし、入出力はクラス定義から引っ張って来られるように、クラスを定義すれば良い。
あと、基本設計の概要とかも概要設計から持ってきて作る感じかな」
そして、『要件定義書』にも△を書いた。
「要件定義をしてくれないお客さんもいるから、これもあるか分からない。
酷い所になると、『あそこのあれと、同じモノを作って欲しい』と言われる事もあったらしいからな。
『既にあるものだから、直ぐに作れますよね?』 って言われて、北地さんが呆れていた案件もあったからな」
「そうですか……」
「大体だな、既にあるものとは言え、うちで作ったものじゃないから直ぐになんて出来るわけないんだけどな。
ファイルをコピーするのとは訳が違うんだから。
それに、そんなに直ぐに作って欲しいのなら、作った会社に持って行けって話だけどな」
「そうですね……」
何か、聞いてはいけない事を聞かされた様な気になった。
これ以上は掘り下げない方が良いだろう。
「おっと、話を戻すと、そんな訳で『概要設計書』から必要な機能を考えて、『基本設計書』でクラス定義をする。
そして、それを元にプログラムを作っていくんだ。
ここでは、大体、こんな感じで作ってる」




