第10話 初任給
「水島君、ちょっと良いかな?」
いつも通りに仕事をしていると、背中越しに大砂さんから声を掛けられた。
「はい、何でしょうか?」
立ち上がろうとすると、大砂さんから「そのままで良いよ」と言われたので、椅子を回転させてそちらへと向いた。
「はい、これが君の初任給だよ」
変な細かい模様の入った封筒に、カタカナで『ミス゛シマ シユウタ』と、名前と社員番号が印刷されている。
(何か古っぽい表記だな……)
「ありがとうございます」
「給料は入社時に指定した口座に振り込まれているはずだから、確認しておいてね。
入っていなかったら、色んな所に確認しないといけないから」
「はい、お昼休みにでも確認しておきます」
「銀行のアプリを入れてないの? 確認だけならそっちの方が早いから、入れておいた方が良いよ」
「入ってますけど、スマホ、使って良いんですか?」
「少しでも早く確認してくれた方が良いから、今出来るのならして欲しい」
「じゃあ、ちょっと失礼します」
椅子を戻し、鞄からスマホを取り出して銀行のアプリを起動する。
暗証番号を入力して、口座番号と残金が表示される。
残金は間違いなく増えているし、入出金明細にも『給料』の項目があった。
「大砂さん、大丈夫だと思います」
「分かった。
じゃあね」
「はい、ありがとうございました」
スマホを仕舞い、一息ついた。
落ち着いたところで、給料明細の中身が気になり、ミシン目の所を切り離して開けてみた。
「そういえば、今日が初任給だったな」
隣の迫野さんが、声を掛けて来た。
「はい、それで、ちょっと中を覗いてみようかと思って」
「まぁ、最初は気になるよな。
俺なんか偶に見るだけで、殆どはそのまま机の中に仕舞いこんである」
そう言って、笑いながら机を開けて見せてくれた。
奥には、封がされたままの給料明細が積み上げられていた。
「見なくて良いんですか?」
「見たって、毎月、そうそう変わる物じゃないしな。
大きく増減があった時は、何があったのかと思って確認するぐらいだな」
慣れてくると、そんな感じになるのだろうか?
「まぁ、明細で気になった項目があったら言ってくれ。
大体の意味は分かると思うから」
「はい、分かりました」
給与明細にさっと目を通して、机の中へと仕舞いこんだ。
そして、元の作業へと戻る。
もっと1人1人を課長なり、リーダーの前に呼んで丁寧に手渡しするとばかり思っていたのに、こんなサラっとプリントを配るみたいに配ってお終いなんだな……




