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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!  作者: ヤナギ・ハラ
第四章 迫りくる脅威
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68 小さな抵抗

「ピィッッ!! シュン!! シュン!! 」


 意識を失い倒れた狼人を必死に起こそうとするハーピー族の少女。その顔は涙に濡れ顔はクシャクシャになっている。


 虎人は音もなく少女の背後へと移動する。


「ピィっ! ピィ! ピ___」


 突然、糸が切れた操り人形のように、少女はその場に崩れ落ちる。先程まで鳴き声を上げていたのが嘘のように、ただ静かに地に伏している。


 虎人の鋭い一撃が、少女の意識を刈り取ったのだ。しかしその一撃は相手に致命傷を負わすようなものではなく、あくまで意識を失わせる為のものである。実際少女は気を失っているが、傷一つ付いていない。もし虎人が何も考えず一撃を加えたならば少女の命は既に失われていたであろう。


 気を失い地に横たわっている少女に視線を向ける虎人。




 ハーピー族を依頼人の元に連れて行くこと。それが今回の依頼内容である。


 胡散臭い人間族の商人から引き受けた依頼であるが、虎人にとってはどうでもいいことだ。仕事を引き受けそれを達成する。ただそれだけだ。依頼人の素性などは気にする必要もない。手間をとって裏を取る必要もない。そもそも虎人を謀る愚か者などいないからだ。だから無駄な労力を割く必要などないのだ。


 しかし今回の依頼人は、どうやら愚か者であったらしい。


 まぁ、それは今考えることではない。後に然るべき処理をすれば良いだけだ。

 そう思い虎人はこのくだらない依頼を終わらせるため、獲物であるハーピー族の少女を連れ帰ろうとする。




 風を切り裂く音が森の中を通り抜ける。それを耳にした虎人はそちらを一瞥し、腕を振り上げる。そして虎人めがけて迫りくるそれを苦もなく掴み上げる。手には槍が握られていた。


「ほう」


 虎人は感心したような声を上げる。

 そしてそのままその掴んだ槍を頭上へ構える。


 バシッツ!!!


 叩きつるような激しい音とともに槍に衝撃が伝わる。それを苦もなく払いのけると虎人はその頭上へと視線を向ける。

 その先には宙を舞う小さな影が一つ、その影はひらりと宙を舞い後方へ飛び退き音もなく地面へと着地する。


「ふむ、アラクネの子か。」


 小さな影、その正体はアラクネ族の少女であった。その幼い少女先程の鋭い投槍をしてきた張本人でる。


 槍を投げて注意を引きつけ、その隙をついて頭上から一撃を食らわせる作戦だったであろうその攻撃を、虎人は容易く防いでみせる。


 アラクネの少女はその剥き出しの殺意を隠そうともせず虎人を睨みつける。その圧力は相当なもので並の者ならばその迫力にたじろいでしまうだろう。

 しかし、そんな少女の気迫を、虎人はまるでそよ風に当たるかのように平然とそれを受け止めていた。


 アラクネの少女は手にしている槍を構えながら、ゆっくりと上体を低くする。

 低く、より低く。地面に伏していると見間違ってしまうほどに。


 静から動へ


 アラクネ族が用いるその爆発的なまでの瞬発力で瞬時にして間合いを詰める。

 虎人の足元へ、鋭い突きを放つ。足元への避けにくい攻撃を虎人は前の足を後ろに下げ半身になり難なくそれを躱す。

 突きを躱された少女は、しかし動きを止めることなくすぐさま跳躍し、続けざまに上段から虎人の顔めがけ槍を突き刺す。虎人は顔を横にずらし紙一重でそれをさけつつ奪った槍で反撃を加える。

 少女は空中で器用に体を回転させその反撃を回避し、そのまま回避した回転力を利用し横からの薙ぎ払いを放つ。しかしその攻撃は虎人に当たることはなく、逆に槍を掴まれてしまう。

 両者の体格は比べるまでもなく、その圧倒的な差に掴まれた槍はピクリともしない。しかし、少女はそこで止まることなく、動かない槍を引き込み自ら虎人へと接近する。自ら虎人の懐に入り込み、腰に差していたナイフを取り出し全体重を乗せて虎人へ突き刺す。

 勢いを乗せた超至近距離からの突き刺し、それを虎人は片手で軽々と防いで見せる。払うでも受け流すでもなく、突き出されたナイフの刃をそのまま手で受け止める。


 全体重を乗せた突きも苦もなく防がれた少女は、しかし止まることなくさらなる

攻撃をしかけていく。


 取り出したマチェットによる薙ぎ払い、斬り上げ、袈裟斬り、繰り出される超接近攻撃、そして距離が離れたらナイフによる投擲。息つく暇もなく、止まることのない攻撃。そのどれもが躱すことすら困難に思えるほどの攻撃。凄まじい速度で放たれるそれらの攻撃を、しかし虎人はそれら全てを防いで見せる。

 まるでじゃれついた子供をあしらうかのように、苦もなくいとも簡単に。


「流石アラクネの子という所か。そのような幼さでこれほど動けるとはな。」


 これら一連の攻撃、並のものならば抵抗することすら困難であろう。それをこの小さな体で繰り出せるとは。虎人は関心た様子でアラクネの少女を見る。そかしその態度は少女を苛立たせるものであったようだ。余裕をもって攻撃をいなすその姿をみせられてはバカにされていると思ってしまうのだろう。


「そう落ち込むこともあるまい。その小さな体にしては頑張った方であろう。そこの狼人に手ほどきでも受けたか。あと十年もすれば一人前の戦士となれるであろう。今はしっかりと励めば良い。」


 少女の眼はより一層険しいものとなり、我を忘れたかのように突進してくる。手にしているマチェットを迷うことなく虎人の首へと目掛け斬りつける。それを虎人は少女の手首ごと掴み上げる。


「そしてその闘争本能、素養も十分であろう。」


 虎人はクツクツと笑い、そして掴んだ腕を高く持ち上げ、少女顔が目の前にくるようにして目を合わせる。


「だが、ワシに挑むにはまだまだ足りぬ。一流の戦士とりなり、その狼人のようにワシを楽しませてみせよ。」


 凶暴な笑みを浮かべながらそう伝えると、少女を掴んでいる腕とは反対の手で素早く少女の顎を撃ち抜く。激しく脳を揺らされた少女は自身でも気づぬうちに意識を手放してしまう。掴んでいた腕を離すとそのまま地面へと崩れ落ちていく。





「ぅぅぅううううぐぐーー!! ワンッッ!!」


 茂みの中から大きな声を上げながら小さな影が勢いよく飛び出してくる。そしてその勢いのまま、その影は跳躍し虎人へと飛びつく。


「ガブッ!!!! ふぐっ! ふぐぐーーっ!!」


 飛びついてきた影はそのまま虎人の腕へとおもいっきり噛みつき、唸り声を上げながら虎人を睨みつける。しかし、その行動とは裏腹に、その顔には恐怖の表情を浮かべ目には大粒の涙を溜めている。


「フーーッ!! フグゥゥッーー!!」


 フガフガと鼻息を漏らしながら、それでも虎人の腕に噛み付くことを止めないその小さな影__犬人の子供は涙を溜めた目で虎人を睨む。


 先程のアラクネの少女とは違い、そこには鍛錬により高められた技術は見受けられない。ただただ感情に任せて噛み付いているだけであった。


「____未熟。」


 虎人はそう判断する。

 戦士と呼ぶには稚拙すぎる。ただ感情に任せて行動しているに過ぎない。


 しかし、虎人は思わず笑みをこぼす。


 こんな技術も何もない犬人の子供が、己に向かって牙をむく。なかなか出来ることではない。これまでの戦いは茂みに隠れながら目にしていたであろう。自分では絶対に歯が立たないことを嫌でも理解しているはだ。それでなくても、本来犬人とは強者に対して敏感である。勝てぬ相手と知れば、立ち向かうことはせぬ種族なのである。群れで行動し、危険を避け、安全に狩りを行う。そういう種族が犬人いうものだ。


 だが、この目の前いる小さな犬人は、無謀にも強者に一人で立ち向かっている。犬人という種族としては愚かとしか言いようがない。


 しかし、虎人はそういった馬鹿が嫌いではなかった。


「犬の子よ。単身でワシに挑むとはいい度胸だ。」


 グワッツ!!


 未だ腕に噛み付いている犬人に虎人は殺気を放つ。


「ッッツ!! クゥゥンっ… クウゥウン……!」 


 虎人から放たれる、その恐ろしいまでの圧力に、犬人はたまらず鳴き声をあげてしまう。目からは大粒の涙が滝のようにこぼれ、緩んだ下半身は、止めることが出来ずただただ垂れ流されてしまう。


 しかし、それでも犬人は噛むのを止めなかった。

 

 力の限り噛み付いている。

 自分にはそれしか出来ないとでも言わんばかりに。

 ただがむしゃらに。


 しかし、実際の所虎人には傷一つついてはいなかった。幼い牙では虎人の鍛えた肉体を貫くことが出来なかったのだ。もしかしたら犬人もそのことに気付いているのかもしれない。しかし、それでもなお噛み付き続けたのだった。


「何もかもが未熟、だがそれでもワシに歯向かうか。」


 虎人は隠そうともせず笑い声をあげる。こんな愉快なことはない。虎人の人生の中でこんなにも小さな子供に牙を向けられたことなど無いからだ。これが笑わずにいられるだろうか。


「ではワシもお主に力を示さなければな。」


 腕に噛み付いている犬人の子に、ニヤリと笑いを向け____



 虎人から本物の殺気が放たれる。



 先程の殺気がまるでお遊びであるかのよな、そう勘違いしてしまう程の強烈な殺気。虎人が強者と対峙した時に発する戦いの中で放たれる殺気。


 それをその身に受けた犬人はプツリと何かが切れたように力なく倒れてしまう。あまりの殺気に小さな犬人は限界を迎え意識を手放したのだった。


 崩れ落ちた犬人の子供の首根っこを掴んだ虎人は、それをそのまま茂みの近くへと放り投げる。




「___それで、お前は歯向かっては来ぬのか?」


 犬人を放り投げた先、茂みの奥へと顔を向ける。

 ガサゴソと茂みが揺れ動く。そしてその茂みから犬人の子とさして変わらぬ小さな子供が姿を現す。その小さな子供は特徴的な尾を持ち合わせていた。


「ほう…… 狐人の__それも二尾か。珍しい者がいたものだ。」


 神獣、もしくは神そのものとされる伝説に謳われる九尾。

 狐人はその末裔と言われている。

 彼らの尾は一般的には一尾であるのだが、稀に複数の尾をもつ個体が現れることがある。その者らはより濃く九尾の血を受け継いでいるとされている。


 二本の尾を持つ狐人の子供は茂みからゆっくりと姿を現すと、そのまま犬人の前まで進み、気を失っている犬人にぎゅっと抱きつく。


「………」


 狐人の子は犬人の子を抱きしめたままじっと虎人を見つている。

 その瞳は激情にとらわれているわけでもなく、また恐怖の色に染まっているわけでもなく、ただただ真っ直ぐ虎人を見つめていた。


 そんな不思議な狐人に視線を向けていた虎人であるが、しばらくして興味を失ったかのように狐人の子から視線を外す。

 虎人にとって向かって来ることなく、何もしてこない者など本来興味を抱く対象ですらない。先の二人は未熟ながら勇猛に立ち向かってきた。だからこそこの珍しい二尾も何かあるのではと関心していたのだが、何もしてこないのであれば、注目する必要もない。


 興味を失った虎人は、依頼を続行するため倒れているハーピー族の少女の傍へ足をはこぶ。






 少女を抱えあげようと身を傾けた瞬間、虎人に向かって一本の矢が放たれた。


シュンだけでなく子供たちも倒されてしまいました。

圧倒的な虎人の前に、為す術もないないのでしょうか……。



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