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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!  作者: ヤナギ・ハラ
第四章 迫りくる脅威
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67 獲物

 虎人は静かに足元に視線を向けている。先程までの凶悪な笑みは浮かべておらず、今まさに死闘を繰り広げていた男をただ見つめていた。視線を向けられている男は、虎人足元に力なく横たわっている。意識は完全に失っているようだ。


「……」


 虎人は目の前に横たわっている狼人の男を見つめ、そして先程までの戦闘を思い返す。これほどの戦いをしたのは何時ぶりであろうか。少なくとも、この数年は経験していない。ましてやこれほどの手傷を負わされるなど両の手で数える数もないだろう。

 深く傷つけられた左肩を目にする。そこには未だ血が流れ出てており、その肉は深く抉らている。幸い骨にまでは達していないが、それでも深手であることには変わりない。


「ふむ__」


 傷口に手を添え、力を込める。そして肉体操作を行い体内の魔力を循環させる。

 右手を離した時には、すでに出血は止まっていた。ただこれは血を止めただけに過ぎず、傷口を治したわけではない。あくまで応急処置である。後に手当をしなければならないだろう。


 この傷は狼人が操る魔道具によって負わされた傷である。その威力足るやまさに脅威といってよい。この身は鍛練によって極限にまで高められ、鋼のごとき耐久を得ている。生半可な攻撃では傷ひとつつけることすら叶わぬだろう。それをこうも容易く貫くとは。

 このような魔道具は己の知る限り存在しない。この国の物ではないだろう。かといって周辺国で作られた物とも思えない。もしこれほどの物が出回っていれば噂になっているだろう。


 謎の魔道具、確かにその性能には驚かされた。

 だがそれは虎人にとっては些細なことでしかない。

 それ以上に虎人の興味を引いたのはこの狼人本人であった。

 こいつはいったい何者なのか。

 虎人には魔道具よりもその方が重要であった。



 虎人は先の事を思い返す。



 それは今回の依頼の標的である狼人一行を森の中で追跡している時の事であった。複数の子供を引き連れている一団の跡を追跡するなど造作もない事である。実際追跡は訳無かった。標的は移動した痕跡を隠そうともせず、何も考えず移動している。


 なんとつまらない事か。

 くだらない。


 依頼の話を聞いたときは、多少は楽しめると思ていたが、とんだ肩透かしである。そう思い、狼人一行をなんの感情もなく追跡していた。


 それはある地点に差し掛かった時の事である。

 目標とは、まだ大分距離が離れていた。


 ふと何か、言いようのない感覚を感じる。

 それは違和感とさえ言えない、ほんのわずかな感覚。

 風に吹かれた方がまだ強いであろう、そのわずかな感覚。

 それを感じた時、虎人は瞬時に意識を切り替える。

 これまで培ってきた知識や経験、そして何度となく死戦を切り抜けてきた実戦経験、それらが虎人へ、その違和感を軽視するべきではないと告げていた。


 虎人は一切の油断を排除する。


 己の気配を完全に消し去り、その存在を誰からも気取られぬよう、音も立てず獲物へ忍び寄る。その熟練の技は最早神業とも言える領域へと達しており、獲物が己の首を掻き切られてなおその存在を認識出来ぬ程であった。


 獲物との間を詰めていく。

 獲物に気取られることなく、静かな足取りで確実に近づいていく。


 さらに距離を詰める。


 そして獲物との間隔は、距離にして三百歩と少しに差し掛かったところだろうか。


 ゾワリとした感覚

 その感覚に全身の毛が逆立つ。


 それは決して、微かに感じる違和感だとか、そんな生易しいものではない。

 虎人のこれまで培った経験が、そしてなにより生物としての本能が、それらすべが警告してくる。


 気配に感づかれたかっ!?


 獲物との距離はまだ遠い。未だ視認する範囲には収まっていない。にもかかわらず、こちらの気配を感知したというのか。


 ありえない。虎人の気配を殺す技術は、そう簡単に相手に気取られるような、そんな生易しいものではない。どんな相手であろうが察知されないだけの、確かな技術がある。


 しかし、この絡みつくような、すべてを覗かれ見透かされているような、凍てつく感覚が、虎人にその事実を突きつけていた。


 虎人の強者としての本能が告げる。


 虎人はすぐさま行動に移る。己の存在がバレているのにコソコソする意味など有りはしない。その強靭な脚力を用いて、数度の瞬きの間に相手との距離を僅かなものとする。


 迫った先、そこには子供らに指示を出す狼人が居た。こやつらが今回の標的で間違いない。そして、虎人の本能が危険を告げた張本人が、そこに居た。


 更に脚に力を込め勢いそにまま狼人へと迫る。急襲は初撃がかなり重要なものとなる。虎人は手に力を込め、先手を取るべく狼人に一撃を加えようと腕を振りかざそうとし____


 異様な感覚が虎人を襲う。


 全身の毛が逆立つのを感じた。


 咄嗟に身を屈め体を半回転させ勢いそにままに狼人へと強力な後ろ蹴りを食らわせる。虎人が放った蹴りは狼人へと深々と突き刺さる。その脚から伝わる感触から、相手は致命傷を負ったと判断。虎人はさらなる追撃をするべく狼人へ迫ろうとし、さらに踏み込む。


 だが踏み込んだと同時にまた先程と同じ気配を感じる。しかし今度は踏み込んだ直後のため、回避行動を取ることが出来ない。咄嗟に両の腕で急所となる首と心の臓をガードする。


 瞬間、何かが破裂するような強烈な爆音が鳴り響く。ガードしていた腕に鋭い痛みが襲う。続けざまに二度三度と爆音が響き、その度に己が体に傷がつく。


 虎人は身をひるがえし、後方に下がり狼人と距離を取る。そして狼人を警戒しながらも自身の腕を確認する。そこには刺突武器で攻撃を受けたような傷痕が残されていた。


 狼人が直前に構えていた物。それを虎人はすぐさま魔道具と判断、その道具の特性を推察し、対応すべき行動を思考する。


 直後虎人は驚くべきものを目にする。

 狼人への攻撃、そこには確かに手応えがあった。

 致命傷は免れないはずである。

 

 何事も無かったかのように立ち上がる狼人がそこにはいた。


 無傷__いや、ありえない。

 立ち上がる前には吐血していた。それは間違いない。

 しかし、現実として狼人はこうして立ち上がり、まっすぐこちらを見据えている。その瞳は瀕死の男のそれではない。


 虎人は知らずしらずのうちに笑みを浮かべていた。

 己の一撃をまともに受け、立ち上がる者など久しく存在していなかった。

 目の前の男は虎人の攻撃を受け、なお平然と目の前に立ちふさがっている。それがたまらなく虎人を刺激し、昂ぶらせた。

 虎人は、ただただ目の前の男と戦うことだけに集中していった。



 それからの戦いは虎人を満足させる物であった。

 狼人から繰り出される攻撃の、その一つ一つが虎人を警戒させるに十分なものであった。そして虎人の攻撃を受け切るだけの体捌きも見事であった。並の者であれば一呼吸の間に八つ裂きにされていたであろう。狼人はそれらの猛攻をしのいでみせたのだ。


 結果として狼人はこうして意識を失ってはいるが、それでも決してこの者が弱かったというわけではない。虎人が認めるだけの強き者であった。


 しかし、戦いの中で虎人は若干の違和感を感じていた。

 確かに狼人は強敵であった。全力をもって戦いに挑んでいたと思われる。しかし、そこに何か、言いようのない違和感。これが狼人の全てでないような、本来の戦い方はまた別にあるような、そんな違和感だ。

 別に確信があるわけではない。しかし、これまで幾多の戦を、死闘をくぐり抜けてきた虎人だからこそ感じるかすかな違和感、それを感じとっていた。


 しかし現実として狼人はこうして戦いに敗れ意識を失っている。

 戦いとは結果がすべてである。

 それが現実なのだ。


 虎人は思考を切り替える。まだ成すべきことが残っている。

 その本来の目的が。


「ピっ……ピィィィィィィイイイーーー!!!」


 森の中に激しい叫びが鳴り響く。

 これまで戦いに巻き込まれぬよう木の上に避難していたハーピー族の少女が甲高い声を上げながら勢いよく飛び込んできた。


「ピィ! ピィ! シュン! シュン!!」


 少女は狼人の所まで飛んでくると、その大きな翼を使い狼人の体を揺すっていく。激しく動揺した様子で目に涙を浮かべている。パニックで周りに目が行っていないのか、すぐ目の前に獰猛な虎人がいるというのに、それにも構わらずただひたすら泣きながら狼人の名を叫んでいる。




 その様子を黙って見ていた虎人が、静かな表情で言葉を発する。








「さて____目的を果たすとするか。」


虎人の目的とはいったい何だったのでしょうか。

それが次回判明するのかもしれません。


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