64 暖かな日差し
燦々と輝く太陽が大地を暖かく照らり、体を包み込むその暖かさは幸せを感じさせる。川のせせらぎが奏でる心地よい音色は聴く者に心地の良さを与えてくれる。そんな自然が織りなす優しく静かな空間であるはずのこの場所で、その場に似つかわしくない顔をしている者が。
「うぐぅ……」
「くぅぅぅん……」
眉をひそめ額に汗をにじませ、その苦悶の表情からまるで苦行を押し付けられているのではと思い違いしてしまう程であ。しかしながら、その苦行を緩めることなく施行されることに、子供らはさらに顔を歪める。
「ううぅう…… わうぅぅうーーーんーー!!」
たまりかねた者が一人___マメが魂の叫びを空へ向かって放たれる。
「まめ、もう少しがんばろうね。」
「くぅぅん……」
集中力が切れてきているマメは、項垂れるようにして席に腰を下ろす。その隣では同じように注意力が散漫になっているウルエルザが口をすぼめて手元を見つめている。
「しっかりと勉強しておけば、将来の役に立つからね。」
苦行もとい勉強を行っていた二人はその目の前の問題に頭を悩ませていた。
今行っているのは簡単な算数__計算問題である。
この世界で生きるにあたって、狩りなどは必要な技術である。それに異論を挟むつもりはない。実際狩りによって獲物を得、それにより肉や皮といった素材が入手でき、それらは生きていく上で必要なものである。またそれら肉や素材を売る事によって金銭を得ることも出来る。だから狩りの技術は必要なのである。
ではそれら狩りの技術だけがあれば良いのか。否、そうではない。確かに狩りは必要な技術だか、世の中それだけで回っているわけではない。村や街で暮らすにはそれら以外の物も必要になってくるのだ。
今はまだ良いのかもしれない。子供は庇護されるべき存在であり、大人が守ってやれば良い。しかし、永遠にそのままで良いという訳ではない。子供は成長して大人になっていくのだ。では、このまま大人になった時どうなるか。生きていく上で必要な知識や技術、それらが身についていないまま大人になる。結果は目に見えている。それではダメだ。
知識や技術は生きていく上で絶対に必要になってくる。そしてそれらは必ず糧となる。そのため今のうちから子供らに勉強をと思い至ったのだ。
この世界の事柄についてあまり知らない自分としては、子供らに何を伝えられるのかを考え、そして思い至ったのが算数であった。
算数は生きていく上で役に立つ技術であり、買い物をする時にも、有って損になることはない。また仕事として考えた上でも、非常に有利になる技術である。この世界での世間一般では複雑な計算式を行える人はごく僅かであり、簡単な計算も一般層にはそれほど浸透していなかった。知識層や商いを仕事としている者は算術として親しんでいるのかもしれないが、そうで無い者にとっては未だ専門技術なのである。
子供たちが将来独り立ちする時に、役に立つであろう技術を幼いうちに身に付けさせる為に、こうして算数の授業を行っているのだ。
しかし、当人にとってはあまりうれしくない時間のようだ。特にマメは開始数分で頭から煙が上がる始末である。これまで必要でなかった技術ということもあり、仕方がないのかもしれないが……。
頭から煙が出ているマメではあるが、そんな苦労をしているマメを他所に、涼しい顔をしている者もいる。
単眼族・多眼族の双子の姉のネルエルザは、村で生活していた時から算術を嗜んでいたようであり、基礎的な計算であれば問題なく使うことが出来ていた。幼いながらも家の手伝いやら何やらで、生きていく上で必要な技術は一通り身についているのだ。
そんなネルエルザには、今掛け算割り算を教えているのだが、こちらも地頭の良さもあってか、問題なく習得していっている。この調子で成長して行けば、小学校高学年程度の技術はすぐに身につくであろう。
そして、そんなネルエルザと同じように、計算に高い適性を持ってたのが子供の中でもう一人いた。狐人のヤァコだ。彼女もネルエルザ同様基礎的な計算を難なくこなすことが出来た。そしてそれだけではなく、すでに掛け算割り算といった計算も完璧に使いこなせるようになっている。これはネルエルザを上回る適正である。ヤァコの正確な年齢は定かではないが、元の世界の同い年くらいの子供と比べても恐らく見劣りしないだろう。それだけの能力があればこの世界でも問題なく生きていけるだろう。この子がどこまで成長してくのか今から楽しみである。
しかし当の本人はそんなそんなことなどどこ吹く風、まるで気にしていない様子である。今も用意した座敷でアセナと一緒に日向ぼっこしながら気持ちよさそうにして寝いる。
その様子を羨ましそうに見つめるマメであるが、ヤァコは既にやるべき事を終えて休んでいるのであって怠けている訳ではないのだ。
「うぅぅ……。 ヤァコばっかりズルいです……。」
「ズルくないよ。マメもお昼寝したかったら勉強がんばろうね。」
「くうぅぅん……」
「シュン! 出来たよ!」
「おっ、どれどれ。」
ウルエルザが手元の粘土板を抱えて近寄って来る。この粘土版は紙が希少なこの異世界で紙の代わりに使用される筆記用具である。木の板枠の上に薄く敷き詰められた粘土を木の棒などで引っ掻いで文字などを書くことが出来るのだ。
「おおっ、ほとんど正解してるね。」
「えへへ。」
「よし、それじゃあ間違えたヶ所をもう一度考えてみようか。」
「……」
ウルエルザが口をすぼめてこちらを凝視してくる。その眼は何かを訴えかけてきている。
「……ウルエルザ、えっと……?」
そう訪ねると、更に口をとがらせ、体をぽかぽかと殴りながら頭を押し付けてきた。
「おぁっ ちょっ!」
なおも胸を叩いてくるウルエルザに戸惑っていると、その様子を見かねた姉のネルエルザが助け舟を出してくれた。
「ウルはシュンに褒めて欲しかったんですよ。 ね、そうよねウル?」
笑顔で語りかけるネルエルザに、ウルエルザは顔を赤くし、唸り声をあげながら頭から突撃していく。
「ああ、そういうことか。」
うまく出来たら褒めてあげる。どうやらそんな簡単な事を失念していたようだ。
どんなに頑張っても、それが認められなければ子供としては、良い感情を抱かないだろう。
「そっか、そうだよね。 ネルエルザ、教えてくれてありがとう。ウルエルザ、こっちにおいで。」
顔を真赤にしたウルエルザが、俯きながら近寄ってくる。
ウルエルザの頭を優しく撫でなががら、謝罪の言葉を口にする。
「頑張って計算を解いたのに、無下にしてごめんね。 よくがんばったね。すごいぞウルエルザ。」
「……うん… えへへぇ」
褒められたのが嬉しいのだろう。先程とは違う意味で顔を赤くし、嬉しそうにはにかんでいる。
やはり褒められて嫌がる子供はいないのだろう。いや、大人であっても褒められて嫌な気はしないだろう。
ふと視線を後ろに向けると、そこには小さく丸まっている毛玉__もといマメがいた。
今思えば、マメに対しても褒めてやるということが少なかったように思える。確かにマメは計算があまり得意ではない。しかし、それでも頑張っていたのも確かである。そういった事に対して無下にしていたのかもしれない。
「マメ……」
小さく丸まっているマメに近寄り、そっと頭を撫でてやる。
「確かにマメは計算が苦手かも知れないけど、それでも頑張ってるのはすごいえらい事だと思うよ。確かに少し今詰めすぎたかもしれないね。これからはもう少しゆっくり頑張っていこうか。」
「……」
「それに計算はちょっと苦手かもしれないけど、何もそれだけが全てじゃないしね。狩りとかはマメもすごい上手だと思うし。」
丸まっているマメに語りかけながら頭、そして体をさすってあげる。しかし、それに対してなんら反応を示すことがない。無理強いしたせいで不機嫌になってしまったのだろうか……。
「……マメ…」
「……」
なおも無言でいるマメに、若干の不安を感じながら顔を覗き込む。そんなにもマメは傷ついてしまったのだろうか。
__スピィ スピィ
「……マメ?」
「スピィ スピィ」
「……えぇぇ……」
そこには丸まって気持ちよさそうに寝ている豆柴がいた。それはもうグッスリである。太陽の陽を体に浴びて、何の不安や憂えいを感じさせない、それはもう見事な寝っぷりである。
色々と思い悩んでいたのがバカらしくなるような、それほどの寝姿に思わす笑いがこみ上げてくる。ある意味マメらしいとも言えるかもしれない。
そんな様子を眺めていると、今まで気持ちよく寝ていたアセナが音もなくマメのそばに寄ってくる。マメの首の後ろ側を咥えると、そのまま座敷の方へと運んで行く。そしてそこでマメを離すと再び体を丸めて気持ちよさそうに寝入っていく。
いつもはマメが何かやらかすと厳しく叱るアセナだが、今回は何も言わずにマメを座敷に運ぶところを見るに、アセナもマメの頑張りを認めているようである。
アセナとマメとヤァコが三人で仲良く丸まって寝ている姿はなんとものどかで平和な光景である。
そんな姿に影響されたのか、これまで頑張っていたウルエルザも欠伸をしながら目をシパシパさせ擦っている。
「___よしっ。今日の勉強はここまでにしようか。折角気持ちがいい天気だし、このまま皆でお昼寝しようか。」
船をこき始めているウルエルザを抱きかかえ、そのまま座敷の方へと移動し横に寝かしつける。そしてそのままウルエルザは気持ちよさそうに夢の世界へと旅断っていった。
「平和な光景ですね。」
目を細め、笑みを浮かべてネルエルザが言葉をもらす。
「平和が一番だからなぁ。特に子供にとってはね。それに子供にとっては寝るのも仕事のうちだし。寝る子は育つっていうしね。」
「寝る子は育つ__ですか。良い言葉ですね。」
「ネルエルザはお昼寝しなくていいの?」
「はい、私はもう少し勉強したいので」
そういうとネルエルザは手にしている粘土板をかかげて見せてくる。
「そっか、ネルエルザはがんばり屋さんだな。」
頭を撫でると、嬉しそうにしながら体を傾けてくる、頭をなれられるのが好きなのは姉妹そろって一緒で、似たもの姉妹なのだなと改めて感じさせる。
「よし、それじゃあ、もう少し頑張ろうか。もうちょっとしたらアネアとエリィが狩りから戻ってくるから、そうしたら皆でお昼ごはんにしよう。」
「はいっ!」
気持ちの良い元気な返事が返ってくる。
その様子を笑顔で見守る。
本当に平和でおだやかな日々である。
いつまでもこの平和が長続きするのを願うばかりであった。
投稿時間が長いこと空いてしまい本ー当に申し訳ありませんでした。
自分でも何故こんなに長い時間がかかってしまったのか…、正直わからないです(汗
なるべく短いスパンで投稿したいとは思っているのですが、いやはや創作って難しいですね。
一応完走出来るようには頑張るつもりでいますので、皆様お付き合いの程をよろしくお願いいたします。
もしよろしければ、評価などしてくださると、とても嬉しいです。
創作のモチベーション維持にも繋がります。
よろしくお願いいたします。
感想なども随時募集しております。
それでは今後もよろしくお願いいたします。




