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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!  作者: ヤナギ・ハラ
第四章 迫りくる脅威
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63 少女の思い

「何度見てもビックリだよなぁ……」


 ここから先、およそ五十メートルほど離れた的に命中した矢を遠目に確認した狼人が、ため息混じりにそう呟く。彼のそんな表情を見ると、自然と笑みがこぼれてしまう。もっともっ驚いて欲しい、そう思い幼い少女は彼に言葉を投げかける。


「もっと遠くの的にも当てられるよっ!」


 そんな少女の言葉に、彼はさらに驚いた表情をしてみせる。

 やった! また驚かせちゃった!

 いたずらが成功したかのように、少女は満面の笑みを浮かべる。


 彼の驚いた表情が好きだ。

 彼の嬉しそうな表情が好きだ。

 彼の喜んでくれる笑顔が好きだ。


 彼が見せてくれる、その全てが少女を幸せにしてくれた。


 こんな風に心の底から笑える時がくるなんて、少女は思ってもいなかった。

己の境遇に絶望し、何もかもから逃げて道端の隅でひっそりと暮らしていた日々。

 

 何故自分がこんな目に合わなければならないのか。自分がいったい何をしたというのか。少女にはわからなかった。ただただ、つらい日々を過ごすだけの人生。そんな人生にいったい何の意味があるのだろうか。


 少女には姉がいた。優しく、そして頼りになる姉。いつも少女の傍に寄り添い、周りから守ってくれていた姉。少女は姉が大好きだった。そんな大好きな姉がいたからこそ少女はこの辛い人生を生きてこれたのだ。


 しかし、世界はそんな少女にさらなる苦痛を与えてきた。少女と姉は、何者かも解らぬ人間族に捕まり、そして狭く暗い部屋に閉じ込められてしまった。そこからは、いつ解放されるのかも解らぬ日々であった。



 世はこんなにも残酷なのか。こんなにも苦しめて来るのか。少女はただただ絶望するしかなかった。




 ある日、少女を取り巻く状況が一変した。


 捕われていた少女らを、一人の狼人が解放してくれたのだ。そしてそれだけではなく、驚くことに彼は暖かい食事と寝床を提供してくれたのだ。久しぶりの温かな食事に我を忘れてかぶりつき、綺麗な寝床に、自分でも驚くほど深く寝入ってしまった。


 久しぶりに人らしい暮らしをすることが出来て、少女は満足であった。これからまた道端での生活になるが、それも定めとして受け入れていた。それがこの世の摂理なのだと。


 しかし、狼人の彼はそれを良しとはしなかった。

 彼は一緒に暮らさないかと言ってくれた。

 彼の言っている意味がわからなかった。

 何故そんなことを言ってくるのか。

 それに……。


 この眼が気持ち悪くないのか


 少女はこの眼のせいでつらい日々を過ごしてきたのだ。

 この醜く悍ましい眼。

 姉のように、綺麗で美しい三つ眼がよかった。

 少女はこの大きな一つ眼が嫌いだった。



 そんな少女の瞳を、彼は綺麗だと言ってくれた。

 周りから気味悪がられてきた大きな眼を、変じゃないと言ってくれた。

 彼はそんな瞳が好きだと言ってくれた。


 それからの事だが、少女はあまり覚えていなかった。

 頭の中がグチャグチャで、思考が定まらず、何を考えていたのか思い出せなかった。感情が爆発したかのようで抑えることが出来ず、ただただ叫ぶ事しか出来なかったのだ。そんな少女を彼は優しく抱きしめてくれた。安心させるように頭を撫でてくれた。少女の全てを彼は受け止めてくれた。そんな彼の暖かさは今でもはっきりと覚えている。自分を優しく包み込んでくれた温もり。溢れ出る幸せ。忘れる事など出来るはずがなかった。


 そこからは幸せの日々であった。毎日美味しい食事をお腹いっぱい食べることが出来て、暖かい寝床で不安に襲われる事なく安心して眠る事が出来る。薄汚れたぼろ切れを纏うのではなく、汚れていない綺麗な服を着て生活することが出来た。人並みの生活、人並みの幸せ。彼は少女にそれらをもたらしてくれた。


 温めたお湯に浸るお風呂という物まで彼は教えてくれた。温かなお湯に浸かることがこんなにも気持ちが良い事だなんて、少女は知りもしなかった。身も心も、溜まっているた汚れが全て洗い流されて行くような気持ち良さであった。全身を包み込んでくれる幸福感。少女は確かな幸せを感じていた。


 それら全てを少女に与えてくれた彼。

 少女を抱きしめ優しく受け入れてくれた彼。

 少女はそんな彼が何時しか大好きになっていた。


 家族以外で初めて少女を受け入れてくれた人物、それが彼であった。幼い少女がそんな人物に惹かれるのは、ある意味当然だったのかもしれない。これまでの少女は、大好きな姉がいたから生きてこれた。そんな姉のために生きていたと言っていい。そしてこれからは、姉に加えて狼人の彼のために生きていこう。少女はそう考えるようになっていった。





 それからというもの、どすれば彼の役に立てるのか、少女は考えるようになっていった。しかし、なかなか上手くは行かなかった。


 単眼族・多眼族は魔法適正が高く、少女の双子の姉のネルエルザは、上手に魔法を扱うことが出来た。彼から魔法のコツを教えてもらうようになってからは、大人顔負けの技術を身に着けていった。しかし双子の妹である少女は、上手く魔法を使うことが出来なかった。彼からいくらコツを教えられても、あまり上手く行かなかった。


 焦らないでいいと彼は言ってくれたが、少女の気は晴れなかった。



 彼はよく狩りで獲物を取ってきてくれた。森へ入り、食料や素材を手に入れ、それによって得た肉やお金で皆の腹を満たしてくれた。


 狩りで役に立てれば良かったのだが、今まで狩りなどしたことがない少女では、役に立つことが出来なかった。


 狩りではアネアが大活躍していた。

 少女と一緒に人間族に捕らわれていたアラクネ種の女の子。


 アラクネ種というのはその凄まじい身体能力で見事に狩りを行う。アラクネ種の子供であるアネアも、大人顔負けの狩りの腕前であった。そして、その狩りの技術で彼の役に立てていた。


 同じくらいの年齢だと思われるアネアは彼の役に立たているのに、自分はなんの役にも立てないでいる。そのことに少女は言いようのない悔しさが彼女の胸に広がっていく。


 彼の役に立ちたい。

 彼に喜んでほしい。

 彼の笑顔が見たい。


 それが出来ぬ歯がゆさが彼女を支配した。



 それはひょんな事から始まった。


 何時ものように暖かい寝床で目覚めは彼女は、その日彼と一緒に鍛冶屋へと向かう。そこで子供たち皆に配られた装備を身に着けた。子供でも無理なく装着できる軽い装具で、体力のない少女での問題なく着ることができた。


 そこで装備と一緒にある武器を渡された。

 クロスボウである。


 そこで少女はこれまでの鬱屈した感情を晴らすかのように目覚ましい活躍をしてみせた。彼女はクロスボウを手にした事で、己の才を遺憾なく発揮したのだ。


 単眼族の瞳はとても高性能で、かなり遠くまで見通すことが可能であった。そしてそれがクロスボウで狙撃を行うのに、とても相性が良かったのである。少女の大きな瞳は、遠くの獲物をしっかりと捕らえ、そして正確に撃ち抜こことが出来たのだ。


 また同じ遠距離武器である弓ではなくクロスボウという事も彼女にとって僥倖であった。弓では彼女の力では弦を引く力が足りず威力不足となってしまうが、クロスボウであれば誰が扱っても同じ威力で射る事が出来る。非力な少女には、まさにうってつけであった。


 無論利点だけでなはなく、欠点もある。クロスボウは射出するまでに弓とは比べ物にならないくらい時間を要する。連射速度が著しく低いのだ。またクロスボウの種類にもよるが、弦を掛けるのに結構な力が必要になり、小さな子供ではまともに扱えないという大きな問題点も有る。だが、それは絶え間なく戦わなければならないという場合に発生する弱点であり、ある程度余裕がある場合にはそれを補うことが出来る。


 現に今クロスボウを扱っている少女は問題なく活用出来ている。弦を引く者と矢を撃ち出す者が同じである必要はないのだ。力の弱い少女に代わり、力のある者が弦を引く。そしてそれを受け取った少女が矢を射る。

 

 その結果がこの長距離射撃である。


 少女は嬉しくて仕方がなかった。自分では彼の役に立てない。他の子たちは役に立てているのに、自分だけ何もすることが出来ない。そう思っていた。


 しかし、今は違う。クロスボウを手にした少女は、彼が驚くほどの適性を見せた。これは他の子どもよりも高い能力であった。射撃技術だけを見るのであれば、それはあの優秀なアネアに比肩しうるものであった。非力な自分でも彼の役に立てる。それが少女にはたまらなく嬉しかった。


 もっと役に立ちたい。

 もっと驚かしたい。

 もっと喜んでほしい。


 その想いが、幼い少女を前へと突き動かしていった。






 遠く離れた、もはや視認するのが困難になろうかという程の的に、まるで吸い込まれるかのように矢が突き刺さる。矢が当たったことを確認した少女は満面の笑みを浮かべる。その笑顔を彼の方へ向け様子を伺う。


「本当にすごいぞっ! ウルエルザ!」


 彼が興奮した様子で声を上げてその絶技を絶賛する。今当てた的は、距離にして百メートルは離れているだろう。すこし乱暴ではあるが、気持ちのこもった手で少女の頭を撫でる。


「こんなロングショット! ハンドガンじゃ無理だよ! それをクロスボウで射抜くなんてっ!」


「えへへっ! 私すごい?」


「凄すぎだって!」


「私もシュンの役に立てるかな?」


「決まってるじゃないかっ! もちろんだよ!」


 その言葉を聞いて、少女は胸が熱くなる。こんなにも喜んでくれる。その事に少女は瞳に涙を浮かべ、そしてそれを悟られぬように彼に抱きつく。彼はそんな少女を受け止めるようにして抱き返して来てくれた。


「私ねっ! もっともっと、シュンの役に立てるようにするっ! そんでねっ! シュンに喜んでもらえるように頑張るっ!」


「そっかぁー! ありがとう、ウルエルザ。」


 少女はその言葉を体現するように力いっぱい彼に抱きつく。彼からは暖かな温もりが伝わってくる。そして自分と同じように力強く抱き返してくれる。


 その事に少女は確かな幸せを感じていた。


 この幸せをいつまでも感じていたい。

 この幸せをいつまでも維持できるように。

 


 これまで以上に彼のために行動しよう。

 幼い少女はその小さな胸で、大きな決意をするのであった。






大きな瞳が大きな活躍!

自前の天然スコープとか、ぶっちゃけチートくさいです。

まぁ彼女のこれまで苦労してきたので、少しぐらい大目に見てやって下さい。

……大きい目だけに(ボソッ



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