62 子供たち、新たな装備を手にする。
『おう、来たな。注文の品はもう出来てるぜ。』
トカゲ店員は笑顔でそう応えると、出来上がった品物をカウンターの上に置いていく。結構な品数なので、台から落ちないように慎重に運んでいる。その様を子供達はそわそわしながら眺めている。
『結構な量だな。』
『そりゃそうだろうぜ。なんたってそいつら全員分の装備なんだからな。』
今回トカゲ店員に頼んでいたのは子供達の装備類一式である。アネアやネルエルザが行い始めた訓練であるが、今では子供達全員が様々な特訓を行っている。そしてそれに伴って武器や防具があらためて必要になったのだ。本当であれば子供達に戦いなどして欲しくはないのだが、この世界は常に危険が身近にあるので、自衛の意味も含めての訓練を行っているのだ。
『結構な荷物だがどうする。台車かなんかで運ぶか?』
『いや、ここで子供達に持たせて行く。』
『まぁ、それが無難だわな。』
トカゲ店員はカラカラと笑って応える。
『そういうわけだ。皆、各自装備を身に付けて。』
店の中で控えていた子供達は、目を輝かせて品物へと近づいていく。皆、自分に用意された装備に興奮しているのだ。
ちなみにいつも騒がしいマメは今の所比較的おとなしくしている。というのも、すでに先ほど興奮し過ぎて、アセナに叱られたばかりなのである。相変わらずである。
各自自分の装備を身に付けて、お互いに見せ合っている。今回用意した装備はガチガチの防具などではなく、比較的ライトな物となっている。体を守るための胴当てと、肘や膝を守るサポーターのような物を身につけ、それぞれに付随する武器などを装備するスタイルだ。その様子はどことなくサバゲーを連想させるような出で立ちとなっている。しかし残念ながら銃は無しである。当然だがこの異世界に銃と言うものは存在していない。
しかし、銃の代わりとなる飛び道具はこの世界にも存在していた。
今回はそれを子供たちに持たせることにした。
クロスボウ
この世界では弩で普及している遠距離武器である。
子供たちに自衛する為の武器を持たせようとした時、真っ先に思い浮かんだのがクロスボウであった。これは、剣やナイフといった刃物よりも扱いやすいと思ったからだ。また弓も候補としては考えたのだが、こちらも扱いやすさという点でクロスボウに軍配が上がったのだ。弓を扱うにはそれ相応の訓練を行わなければならないが、クロスボウであれば、少し練習すれば誰でもそれなりに使うことが出来る。取り回しや連射といった面ではたしかに不便な面もあるが、なにもこれで戦いを行うというわけではなく、あくまで自衛が目的である。そこまでの戦力は期待していないのだ。
子供たちはまだ幼く、体が小さいのもクロスボウを選んだ理由の一つだ。弓などは膂力がそのまま威力に関係してくるが、クロスボウは一度矢をセットすれば、誰が扱っても同じ威力を出せる。これは非力な子供にはありがたい。アネアなどは例外で成人以上の筋力を持っているが、他の子供達はやはりまだまだ非力なのだ。
先の理由からアネアには、クロスボウの他にも弓を渡している。彼女は力が強くかなり強い弓を引くことが出来るのである。そして弓の扱いも集落で暮らしていた時に狩りで弓を使っていたので申し分ないのだった。
皆一様に装備を身に着け、それぞれが皆良い表情をしている。
『みんな、似合ってる。』
『えへへ、 ありがとうシュン!!』
『シュンありがとう!』
『ありがとうです。』
子供たちの中にはそわそわして落ち着きのない者もいる。新しい装備が嬉しいのか、それとも早く試してみたいのか、もしかしたら、両方なのかもしれない。
トカゲ店員に礼を言い、子供たちを引き連れ店を後にする。そして今回揃えた武器装備を試すために、いつもの川岸へと足を運ぶのであった。
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装備に慣れされる為に、普段キャンプや魔法の練習をする川岸へとたどり着く。そこで各々練習させていくのだが、ここで子供らの意外な面を目にすることが出来た。誰でも簡単に使えるようにとクロスボウを用意したのだが、アネアは予想通りとして、他にも高い適正を示したのがマメとウルエルザであった。
狩猟本能の成せる技なのか、マメはその身体能力を活かし、素早く的に矢を当てることが得意であった。本来犬人は狩猟種族である、また集団での狩りを得意としていた。獲物を見つけたり、追い込み猟をしたりと、高い狩りの能力を持ってる。そしてそれが上手くクロスボウとマッチしたのだ。静かに素早く獲物へと近づき、そして狙いを澄まし獲物を仕留める。そんな狩りのスタイルがマメに適していたのだ。
そして一番意外であったのが単眼族・多眼族のウルエルザだ。本来単眼は男性しか持ち合わせていないのだが、ウルエルザは女性でありながら一つ眼という特異体質なのだ。ウルエルザはその一つ眼の大きな瞳を、まるでスコープでも覗いているかと錯覚するかの如く、かなりの精度で長距離狙撃を行うことが出来たのだ。
普通の感覚で言えば、普通の生物は両の目で見ることで、物を立体的に捉えることが出来、それにより獲物の距離感などを把握するのである。単眼では立体視することが出来ないのでは。そう思えてしまうのがだ、しかし実際はそんな事はなく、ウルエルザの一つ眼は高性能で、距離感などを、かなりの精度で把握することが出来ていた。そして視力も相当なもので、数百メートル離れた所にある米粒程度しかない小さな物もはっきりと識別することが出来るほどだ。ウルエルザはその眼を駆使し、クロスボウを上手に使いこなしていったのだ。
逆にいまいち使いこなせていないのが双子の姉のネルエルザと狐人のヤァコである。数メートルの距離であれば問題なく的に当てることが出来るのだが、これがだんだんと距離が離れていくにつれて命中率が下がっていき、距離が二十メートルともなると十回に一回当たれば運がいい程度であった。また、動く的に当てるのも苦手なようで、振り子のように動かした的にはまず当てられなかった。
しかし、彼女たちの年齢を考えれば特別下手と言うわけではない。彼女らはまだまだ幼い子供なのだ。それがいきなりクロスボウを手にして使いこなせと言う方が無茶苦茶である。なので二人には、焦らずゆっくりと練習すれば問題ないと言ってある。少しずつ上手く使えるなって行けば良いのだ。
ちなみに他のメンバーはと言えば、ピピィは当然のことながらクロスボウを使うことが出来ない。手が翼なのだから当たり前だ。
そしてアセナとスクォンクも使うことが出来ない。両者は犬なのだ。逆に使えたらそれはそれで恐ろしい。
古参で唯一使えそうなエインセルだが、彼女もクロスボウを使うことが出来ない。というか、使おうとはしなかった。それはクロスボウに限ったことではない。剣やナイフ、弓といった武器全般を使う事がないのだ。それは妖精としてそうなのか、それとも彼女個人の問題なのか。そのどちらかは分からないが、彼女は武器を使おうとはしなかった。
ただ、まったく扱えないという訳でもないうだ。現に料理などをする時は包丁やナイフといった刃物を使う所を何度も目にしている。なので道具そのものに危惧しているわけではないのだろう。
使いたくないという者に無理に使わせようとは思わない。そもそもがこれは他者を傷つける道具である。使いたくないというのであれば、本人の意志を尊重しなければならない。
それにそもそもの話、彼女らが武器を持たなければならないという場面に遭遇するという方が問題である。なので彼女を含め子供らをしっかりと守って行かなければならない。そう改めて感じさせるものであった。
子供たちには幸せになって欲しいですね。
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