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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!  作者: ヤナギ・ハラ
第三章 小さな仲間 守るべき子供たち
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幕間 03 侯爵家子息

 神童


 その言葉がこれほど当てはまる人物もそういないだろう。

 幼いながらも卓越した知能と身体能力をもつその少年は、周囲の大人を驚かせる程の才能を遺憾なく発揮していた。早くして学術を修め異例の若さで院を卒業し、剣を持てば訓練を積んだ兵にさへ匹敵するほどだ。

 文武兼備、その少年はまさにその言葉を体現する者であった。



 スレンディア王国

 少年が生まれた国の名であり、建国から数百年という歴史がある国である。少年はその国の貴族、スメィド・ラ・コリィン侯爵の長男として生を受けた。神童と呼ばれる少年は大いに期待され、その将来は誰が見ても明るいものであった。少年には双子の弟がいたが、弟は病弱で体が弱く、その事もあってより周囲からより期待されていた。当然のことながら家族も少年に期待し、双子の弟もそんな兄に尊敬の眼差しを向け、少年はそれらの期待に応えるべく己を磨き上げていった。



 少年の年齢が十一歳を迎えるころ、その才能を遺憾なく発揮する出来事が起こった。領内でその悪名が知れ渡っていた盗賊団を少年が兵を率いて壊滅させたのだ。 

 領内外に演習を披露する為、領内を移動していた時、滞在していた街の近くの街道で盗賊による略奪が行われたと都市長へ報告が入った。顔合わせの為偶然その場に居合わせた少年は、演習の為に連れていた兵を直に展開し、そして少年自身も護衛と兵を引き連れ盗賊討伐へと乗り出した。少年はその優れた才覚を駆使し、兵を己の手足のように指揮し、そして二日と経たないうちに盗賊団のねぐらを発見、制圧してみせた。


 この出来事は領内のみならず王国内で大きな話題となった。それもそのはず、わずか十一歳にして海賊団を討伐するなど、王国の長い歴史の中でも聞いたこともない快挙である。こうして少年の名は、王国内で広く知れ渡る事となった。


 その後も少年は周りの期待を背に侯爵家の名に恥じぬ働きをこなしてく。そんな少年を兄にもつ弟も、兄に負けぬよう病弱ながらも懸命に頑張っていた。成長するにつれその病弱も少しづつではあるが克服していき、また、体力面では兄に劣るものの、知識では決して引けをとってはいなかった。そんな二人を子供に持つ侯爵家の将来は明るいものだと誰しもが思っていた。





 少年の弟が誘拐された。






 少年がもうすぐ一六歳になろうかという時、領内を視察してしていた時の出来事であった。この数年侯爵領の治安はかなり良いものであった為、その事実を知った時はまさかと言うものであった。


 一体誰が、何のために。

 しかし、それを考えるのは後だ。少年は知らせを受けた時には既に行動していた。信頼できる部下とそして兵を引き連れ、弟を救出する為に。時間が経てば

経つほど相手側が有利になる。なので迅速に、騒ぎが大きくなる前に、相手にこちらの動きが察知される前に処理するつもりであった。


 街に放っていた手のものから情報を集め、数日内の怪しい動きをすべて集める。情報の優位性を知っていた少年は常日頃からこうして街に目を忍ばせていたのだ。そしてそれら手の者から集めた情報から、誘拐犯の跡はすぐに掴めた。


 神速と言えるほどの速さで実行犯のアジトを強襲。その場にいた犯人たちを一名を除きすべて斬り殺した。

 

 捕らえられていた弟も無事救出することが出来たが、これで終わりという訳にはいかなかった。


 誘拐犯の一人、生き残った最後の一人、その人物が問題であった。




 王国内の侯爵の子息であった。




 スレンディア王国の貴族であるルヴァレリア侯爵、その息子は、あろうことか同じ王国の貴族、コリィン侯爵の子息である少年の弟を拉致したのだ。


 これは本来ありえないことである。国内の貴族同士は、表面上争いをするこを好まず、こうして直接手を下すことなど前代未聞である。


 元々コリィン侯爵家とルヴァレリア侯爵家は、あまり仲が良くはなかった。そして、同じ侯爵という地位ではあるが、両者では格が違っていた。コリィン侯爵の当代は当家の歴史から見ても優秀な人物であり、また個人の武の力量も武神と言われるほどの傑物であった。そして軍を指揮すれば負け知らずであり、実際戦になれば他を寄せ付けない圧倒的な力で勝利を修めてきた。


 それに対し、ルヴァレリア侯爵の当代はあまりぱっとする人物ではなかった。いや、全体的に見れば優秀といってもいい部類である。しかしコリィン侯爵とくらべてしまうと、個として武力に優れている訳でもなく、歴史的に見ても優れた知略の持ち主でもなかった。


 同じ侯爵家として、どうしても比べられてしまうことに、ルヴァレリア侯爵はあまり良い顔をすることができなかったのだ。


 そんな両家の確執であるが、それを更に深める出来事があった。

 それが子息の誕生である。


 コリィン侯爵の嫡男は、当代以上の才覚を幼い頃から発揮し、代を変わる頃には国中にその名が知れ渡る程の人物になることは容易に想像できた。

 対してルヴァレリア侯爵の嫡男は、これといって特徴のないいたって平凡な子息であった。こうした事情がより両家の確執へと繋がっていった。


 そしてそれは家同士の確執だけではなかった。

 ルヴァレリア侯爵の子息は常日頃からコリィン侯爵と比べられる事に強い憤りを感じ、その感情は日に日に強くなっていった。それはもはや憎悪といっていいものへとなっていた。


 そこへ来て今回のこの事件である。

 少年に悪意がむけられていることは少年自身知っていた。しかし、だからといって直接行動を起こすなど思ってもいなかった。しかし、実際に事は起こった。


 そして、誘拐犯である人物の目を見て確信した。

 

 今回の出来事は決して今回だけで終わるものではないということを。


 目の前の者の目は狂っていた。

 もはや物事を冷静に判断出来ないほどに。

 いや、そもそも冷静であれば誘拐など起こすことはなかっただろう。


 この者は、そこまで落ちていたのだ。


 侯爵家とはけっして弱い立場ではない。王国内で絶大な権力を有している。この憎悪に狂った人物は、このままではいずれコリィン侯爵に害をなすだろう。そしてそれは両家の確執という生易しい問題ではない。国を巻き込こむ。それはもはや個人の問題を過ぎ去っていた。


 両家の侯爵としての立場。

 こいつはいずれその地位に付く。

 狂ったまま。


 その狂いのまま国に災いをもたらすだろう。

 その目を見て確信した。








 少年は目の前の人物の首を撥ねた。


 





 侯爵家の子息が王国貴族の者を殺害した。


 瞬く間にその噂は王国内に広まった。その事実に国中の貴族が驚き、そして困惑。裏で暗躍することはあっても、表立って、それも直接自身が手にかけるなど聞いたことがない。いくら誘拐犯の主犯であったとしても、殺害していい筈がなかった。


 ルヴァレリア侯はコリィン侯爵を激しく糾弾した。自分の息子がしでかした誘拐事件を棚に上げ、恥も外聞も気にせず。しかし、コリィン侯爵はその糾弾を受け入れるしかなかった。いかにあちらに非があろうと、裁判もなしに王国貴族を裁いてはいけないのだ。


 ルヴァレリア侯は決して引かないだろう。しかし、何時までのルヴァレリア侯のするがままという訳にもいかない。


 このままの状況が長く続けは両家共に不味い事態となる。それは両家としても、そして国としても見過ごす事は出来なかった。しかし、今回のこの事件はあまりにも事が大きすぎた。



 解決の糸口すら見えないこの状況において、少年はある決断をする。




 自身の出生を削除することを伝えたのだ。


 これは侯爵家としての身分を放棄する__という事ではない。王国内の貴族の歴史から己がいたという存在を無かったことにするとに他ならない。

 

 これには両侯爵家だけではなく、王国内のすべての貴族がその耳を疑った。貴族というのは、その名を、家を、誇りを、名誉を何よりも大事にする。一族の血を何よりも大切にする。そんな貴族社会にとって存在そのものを無き事にするなど、貴族にとっては考えられないことであった。

 たとえ悪名であれ、その名は貴族の歴史の中に刻まれる。たとえ死しても名が消えるということはない。名声であれば、それは死後も延々と語り継がれるものであるだろう。名が消えるということが、それは死よりも恐れる事なのだ。


 ルヴァレリア侯爵の子息は、亡き者となったが、その貴族の歴史から消えた訳ではない。死後もその存在は歴史に刻まれる。


 しかし少年は、その王国貴族の歴史から消えると宣言したのだ。

 これまで少年が残してきた功績も、これから成すであろう名声も、侯爵として王国内の歴史に名君として確実に刻まれるであろうその名を。


 これにはコリィン侯爵も黙っているわけにはいかなかった。そして他の貴族たちもこの時ばかりは少年を止めた。罰としてはあまりにも重すぎると。死刑よりも重い罰だ。


 しかし、少年は己の言葉を貫いた。


 たとえ、今回違う罰で罪を償ったとしても、両家に必ずしこりが残る。それはけっして小さいものではない。だからこそ、重すぎる罰を受けることで、今回の一件を無かった事にするのだ。




 ルヴァレリア侯爵側はこの少年の提案を受け入れた。たしかに己の息子は亡き者となったが、名は残る。しかし、コリィン侯爵側はその少年の存在が消えるのだ。


 そう、その優秀な少年が。

 将来侯爵の位を継ぐあろう少年が。

 そうなれば、次期当主は優秀な少年ではなく、病弱な弟という事になる。


 同じ侯爵という立場ではあるが、両家の格はコリィン侯爵の方が上である。将来その差は今より開くことが確実であった。しかし、今この瞬間からその差が開くことは無くなった。優秀な次期当主がこの世から消えて無くなるからだ。ルヴァレリア侯爵側からしたら受け入れないという選択肢は存在しなかった。


 コリィン侯爵は必死になって少年を止めた。少年の弟も、涙を流し兄を説得した。


 止めて下さい。

 お願いします。

 兄様行かないで。


 少年はそれら全ての言葉を受け止め、そしてなを強い意志を持って己を貫いた。




 







 その日、スレンディア王国の歴史から少年の名は消えた。


 これまでの功績も。


 これからの名声も。


 それら全てが消え去った。











今回は幕間ということでシュン達から外れた話となっております。

この話がこれからどうストーリーに繋がってくるのでしょうか。


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