54 思考
『攻撃、魔法……ですか?』
ネルエルザとウルエルザが魔法を使えるということで、川岸にて両者に魔法を実践してもらいその不思議な力を見せてもらう。その現象は現代を生きた者にとっては未知のものであった。
そんな現象を目の当たりにして、ふとした疑問が頭をよぎる。
ファンタジー作品などでよく目にする魔法だが、その多くが攻撃を主とした魔法である事が多かったと記憶している。ゲームなどでもやはり魔法と言えば攻撃魔法がメインであった。魔法で攻撃というのは、それほど当たり前のものとして存在していたのだ。
では、魔法というものが当然のように存在するこの世界では、どのような攻撃魔法が存在するのか。そう考えてしまうのは至極当然であろう。
しかし、その当たり前のように考えていた攻撃魔法であったが、現実としては少し事情が異なるようであった。
攻撃魔法についてネルエルザに質問すると、当のネルエルザは困惑した表情をみせるのであった。そこには何か、魔法という物に対しての解釈、理解、意識の食違いがあるようように思えた。
『この世界では魔法による攻撃__攻撃魔法のような術は存在しないのか?ファイアボールみたいに火の玉を飛ばし相手にぶつけたりアイスニードルのように氷を矢のように飛ばしたりとか。』
『えっと……。ふぁいぁ__火の玉ですか? 術……魔法を相手に対して使うというのは、多分出来なくはないと思いますけど…。えっと、試した事が無いので…。ひとに魔法を仕掛けるというのは、あまり一般的ではないと思います…。』
『そうなのか?』
『はい。少なくとも私達の村ではそうでした。魔法は生活の一部で、生活の支えの為に使用していました。』
魔法が存在するのに、攻撃魔法が存在しない?
これはいったいどういうことなのだろう。
あまりにも矛盾していないだろうか。
魔法について思いをはせていると、エインセルが声をかけてきた。
『シュンは魔法について、少し思い違いをしているのかもしれないね。』
『エリィ? それはどういう事だ?』
『魔法で攻撃することも出来なくはないけど、それは魔法の一部分でしかないのさ。無論攻撃魔法がまったく無いとはいわないよ。そういったことを得意にしている者たちもいるしね。魔術師、魔法師と言われる者は一般の者より魔法の扱いに優れていて、そういった者たちが魔法を武器として使用することもあるよ。でもね、それはそういった者たちが使用するってだけで、一般の者はやはり魔法は生活の一部で使うのが普通なのさ。』
『魔法が使えるのに、普通は生活にしか使わないのか?』
『そこが解釈の違いさ。たとえばねシュン。君は武器としてナイフを使用しているよね。それも一つの使い方さ。でもさ、考えてごらん。普通の人が皆ナイフを武器として使用しているかい?ナイフに限らず、刃物の一般的な使い方はどうだい。料理で使用する包丁、あれも立派な刃物だけど武器には使用しないよね。薪を割る斧もそうさ。衣服を裁断するハサミもそう。これらは全部刃物だけど、それを扱う人々は、それを生活の一部として使用している。これは別に特別なことじゃない。そしてそれは魔法にも同じ事が言えるのさ。』
『っ!!』
『もちろんそれが全てではないよ。普通の人は刃物を武器として使わないけど、逆に武器として使用する者もいる。剣とい刃物を使う者は剣士として剣術を高め、槍を使う者も同様にその技術を高める。魔法も同じさ。魔法を武器として使用する技術を高めた者は魔術師として、それ収める。何も魔法だけが特別なものというわけではない。使い方は人それぞれなのさ。』
エインセルが語ってくれた事は、まさにその通りとしかいいようのない物であった。そしてその衝撃にしばらく呆然とするしか出来なかった。
確かにその通りだ。元の世界でも、刃物はありとあらゆる所に存在していたが、それで人をどうにかしようという人物は稀で、それこそ犯罪者ぐらいであった。自身も幼い頃からカッターやハサミ、時にはノコギリや彫刻刀など様々な刃物を使用していたが、それらは武器として使用するものではなかった。刃物を扱えるからと言ってそれが攻撃技術とイコールではない。至極単純な話だ。
そしてそれはこの異世界でも同じこと。
扱うのは人それぞれであり、魔法だろうが、刃物だろうが、根本としては同じ理屈なのだ。
ネルエルザが困惑していたのも当然だ。彼女は生活の一部として魔法を使っていたのだ。そんな子供に攻撃魔法は使えるのかと聞くなど、場違いにも程がある。知らなかった事とは言え、配慮に欠けるものであった。
『__失礼な事を聞いてしまった。すまない』
『あ、いえ! 別に失礼だなんて。謝らないで下さい。それに、確かに攻撃魔法というのは私達は使えませんけど、自衛として魔法を使用するのは別に特別なことではありませんし。』
ネルエルザの話によると、森の中で野生の動物などに襲われそうになった時などには、魔法を使用することもあるのだという。相手に致命傷をあたえることは出来なくても、撃退したり逃げるスキを作ったりは出来るらしい。その話を聞いて、ふと熊よけスプレーの事を思い出す。あれも致死性は無いが、スプレーに驚いた熊は逃げ出すという。それと同じような事なのかもしれない。
『それに、今はまだ未熟で簡単な魔法しか使えませんが、いつか、もっと上手く魔法を使えるようになりたいと思っています。』
ネルエルザは妹のウルエルザの方を一瞥し、その思いを伝える。
『もし私がもっと上手く魔法を使えていたら、もしかしたら、人間に捕まることもなかったかもしれないし、妹ももっと安全に暮らせていたかもしれません。だから自衛の為にも__妹を守るためにも、もっと技術を磨かなければ、そう思うようになったんです。私には剣や弓を使う使うことが出来ません。だからこそ魔法をもっと……。』
ネルエルザは己の決意を口にする。
幼い子供ながら、姉として妹を守りたい。
とても強く、そしていて尊い。
そんなネルエルザの頭を優しく撫でる。
ネルエルザはとても強い子だ。それでいて優しい。
ネルエルザが魔法を上手く扱いたいというのであれば、上達出来るようになにかしら手助けしてやることは出来ないだろうか。力になってやりたい。
だが別の世界から転移した身としては、魔法についてはまったくの素人といっていい。魔力などという未知の物についても何も手助けは出来ないだろう。
しかし、元の世界には科学が存在した。
その知識を役に立てることは出来ないだろうか。
数ヶ月という時をこの異世界で過ごし、経験したことでわかった事がある。
この世界と元の世界、この二つの世界では類似点が存在する。
自然現象や物理法則は同じように作用しているのだ。
物を投げれば地面へと落下し、木を燃やせば炭になる。
水を沸かせば湯になりやがて水蒸気となる。
絶対とは言えないが、おそらく化学式も同じであろう。
ならば元の世界での法則もこちらで適用出来るではないだろうか。
無論この世界には魔力という元の世界にはなかった不確かな物が存在する。それを抜きには語れないだろう。しかし、これほど類似しているのであれば、応用することは出来るはずである。
彼女らが扱う、操ることの出来る火や水、それらを科学的の面からアプローチしていく。そうする事で彼女たちの力になれるだろう。
『もっと魔法が上手く使えるようになるといいな。俺には魔法は使えないけど、手助け出来ることが在るかもしれない。だから、俺も出来る限り協力する。』
『本当?』
『ああ。立派な魔法使いになって、ウルエルザを守ってやろう。』
『私も頑張る!!』
隣で話を聞いていたウルエルザが大きな声を上げて、勢いよく抱きついてきた。
『私も頑張る!頑張って魔法を覚えて、お姉ちゃんを守る!!』
『そうか。皆でいっしょに頑張ろうな。』
『うんっ!!』
少しでもこの子たちの力になれるように、そう改めて決意する。
皆が笑っていられるように。
皆が幸せでいられるように。
魔法とはいったい何なのか。
そしてこれから魔法をどう使っていくのか。
少しでも気になると言う方は、ブクマ、評価、感想よろしくお願い致します!!




