44 囚われた友
突然部屋に訪ねてきた犬の妖精スクォンク。
彼は泣きながらも必死になって言葉を発する。
友を助けてほしい、と。
『どういう事だい?』
『お、おいらの…、と、友達が、つ、捕まって、連れて行かれた…。お、おいら、必死になって、止めようとしたんだ…! だ、だ…だけど、おいらじゃ止められなかった…。』
言葉の節々で嗚咽が漏れる。涙は止まらず、時折過呼吸のような症状が出て苦しそうにしている。それでも必死に言葉を続ける。背中を擦っってやりながら、会話を続けるように促す。
『そ、それで、 あ、あ、あいつらの後を、追いかけた、んだ。 おいら、は、鼻はいいから…。これで、この町まで、き、来たんだ。 でも、おいらだけじゃ、た、助けられない。 おいら、よ、弱いから…。 な、なさけないよ。友達を、た、助けられないんだ…。 そ、それで隠れて影から、様子を、み、見てたんだ。』
そこまで言うと、スクォンクは力強い目線でこちらの顔を見つめてくる。
『そ、そしたら…、そ、そこで寝てる鳥の子が近づいてきて、そ、それであいつらに襲われで…。お、おいら怖くて、出ていけなかった。目の前で、襲われているのに…。 おいら、情けないよ…。 で、でも、そしたら、そこに、あ、アンタが現れて、アイツらを、お、追い返しちゃったんだ…!』
スクォンクが、震える前足でこちらの手を掴んでくる。その手は小さく、か弱くみえる。しかし、その小さな手で、しっかりとこちらの手を掴む。
『お、おねがい、です! あい、あいつらから、と、友達を助けて!!』
ここまでのスクォンクの話から、先程の疑問に確信が持てた。
『…あの荷馬車に、君の友達が乗せられているんだね。』
スクォンクが力強くうなずく。
やはりあの荷馬車には、商人によって運ばれていた…いや、連れ去らわれた者達が乗せられていたのだ。
人身売買
この世界に奴隷制度があるかどうか判らないが、あの商人はそれに類する商いをしているのだろう。そして、スクォンクの友は、商品として捕まってしまったのだ。
あの時の事を思い出す。あの商人の視線、あのネットとした不快な視線。あれは獲物を見つけた目だったのだ。
「なるどね…。だからあいつら後を付けていたのね。ピピィを狙うために。」
ミミが嫌なものを見えるような目で外へ視線を向ける。
その視線の先、宿屋から少し離れた場所に、マーカーが一つ表示されている。
あの商人たちは、こちらの動向を探るために一人尾行をつけていたのだ。このマーカーはその尾行者のものだ。建物の影に隠れるようにして、こちらの動向を探っているのだろう。
何故こちらの動向を?
そんなものは決まっている。
奴らの狙いはピピィだ。
恐らくスクォンクの友と同じ様に捕らえるつもりなのだろう。
自分は聖人君主ではない。困る人々を片っ端から救おうなどという驕った思いは、持ち合わせていない。
しかし、仲間の事となれば話は別だ。
大切な仲間を傷つけさせたりはしない。
何があっても守る。
スクォンクの願いだが、もしこれが彼だけの問題だったならば、助けるという選択はしなかったかもしれない。
しかし、これは彼だけの問題ではない。降りかかる火の粉は払わねばならない。
『スクォンク、聞いて。』
彼の顔をまっすぐ見ながら、こちらの意を伝える。
『君の言いたいことはわかった。でも、助けられうかどうかはわからない。それでもいいのならば、様子を見てみようと思う。それでいいかい。』
スクォンクはあふれる涙を拭おうともせずに、何度もうなずく。
『そ…、そ、それでも、いい、です! ち、ちから、かして下さい!』
――――――――――――――――――――
どうやら奴らは思った以上にどうしようもない連中だったらしい。
正直やつらの扱い方にどうするべきか悩んでいた。
あいつらはピピィを狙ってくる敵であることは間違いない。
何かしらの対処は必要だと思っている。
しかし、だからといって町中でドンパチするという気はなかった。
これまで敵と何度か戦ってきたが、それらは襲われた集落であったり森であったりと、人の目につかない場所である。言ってみれは非日常的な場面であり、法の外での出来事だ。しかし、今現在ここは町中だ。法があり、秩序がある。
そんな中で奴らは仕掛けてきた。
日が沈み、辺りが静かになった夜中、奴らは宿屋の一室に押し入ってきたのだ。こちらを尾行していた人物が部屋の場所を仲間に伝えたのだろう。そいつらは武装して部屋に突入してきた。
___もぬけの殻となった部屋に。
奴らがこちらの動向を探っているのはマップのマーカーによってわかっていたので、泊まる部屋を事前に変更していた。元の部屋はチェックアウトせずそのまま移った形となる。もし部屋をチェックアウトしてしまういと、別の客が泊まってしまう恐れがあったので、そのままにしておいたのだ。
今は移動した宿屋から状況を確認しているところだ。奴らは誰もない部屋に押し入り泡を食っている。計画が失敗して慌てている所だ。
部屋にはミミがいるので奴らの会話がこちらに筒抜けとなっている。精霊であるミミの存在は奴らには認識出来ていないのだ。それを利用しての情報収集である。万が一の事を考えミミには物陰から見張るように言っていたが、要らぬ心配だったようである。ミミは余裕綽々で奴らの会話をこちらに伝えてくれる。
こいつらは、やはり商人の命令で押し入ったようだ。そして奴らの会話から判ったことなのだが、どうも商人はこの町からすでに出立していて、次の町に向かっているようだ。そして部下をこの町に残しピピィを捕らえるように命令していたらしい。
ここでピピィを捕まえてから商人の後を追う形で町を出るつもりのようであったが、計画が失敗しピピィを捕らえることが出来なかったので、明日には商人の後を追うため町を出るみたいだ。
ピピィに固執するよりも荷馬車の移動を優先するつもりのようだ。しかし完全に諦めるというわけではなく、捜索のため町に一人残すようである。
これだけ情報を入手できれば充分だ。
ミミにもう偵察はしなくていいとこを告げ戻ってくるように伝える。これ以上彼女に苦労をしてもらう必要もない。
「それで、これからどうするの?」
戻ってきたミミがこれからの事を聞いてくる。
「明日の朝、あいつらがこの町を出立するより先に町から出て街道で待ち伏せする。町なかで刃傷沙汰は流石に不味いからね。どこか人気が無くなった道中で仕掛けるつもり。上手く奇襲出来ればこちらに気付かれること無く処理出来るかもしれないしね。」
「大丈夫なの?」
「なんとかするしかない。エリィ、ピピィと一緒に留守番を頼むね。」
この奇襲は如何に相手に気付かれないように仕掛けられるかが重要になってくる。なので自分とミミの二人だけで行動するつもりだ。それに、わざわざあいつらの前にピピィを連れて行く必要もない。
不意に袖を強く引かれる。下を見るとアセナが袖を咥えてグイグイと引っ張ってくる。
「アセナ…、もしかしてお前も行くって言うのか?」
「ワウッ!」
「いや、でも…。」
「別にアセナも連れて行ってもいいんじゃない?」
「ミミ!?」
「何驚いてるのよ。この子だって充分役に立つわよ?」
一緒に旅を続けて判ったことなのだが、アセナの身体能力はかなりのもので、狩りの技術は眼を見張るものがあった。傷だらけで出会った時の印象が強く、どうしても守らなければという対象に見てしまうのだが、アセナは幼いながらも卓越したハンターなのである。
そしてもう一つ判明した事がある。それはパーティーを組むことでアセナとの意思疎通が可能になるという事だ。これはクー・シーという前例があったのである程度は判っていたのだが、それでもやはり驚きは隠せない。ただクー・シーほど明確に言葉が解るというわけではなく言葉に込められている思考が読み取れるというニュアンスに近い。
「ワウッ!」
「……どうしても、ついてくる気か?」
アセナの意思は固いようだ。その瞳はまっすぐコチラを見据えている。
「……わかった。 一緒に連れて行くけど、絶対に言うことを聞くんだぞ。」
「ワン!!!」
「よし。それじゃあ、明日の計画だけど___」
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