39 鍛冶屋
大通りから脇道に、細い道を進んでいくと、少しづつ家々の様子が変わっていく。大通りが接客をメインとした店が多く並んでいるとするならば、こちらは専門を扱った店といった様子だ。そんな家々の一角に目当ての店を発見した。
鍛冶屋である。
宿屋のカピバラ店員に、どこか良い鍛冶屋を知らないかと訪ねたらこの店を紹介されたのだ。紹介された店は頑丈そうな石造りをしており、店の奥で鍛冶仕事をするのか、店の広さはかなりのものにみえる。
店の扉を開け店内へと入り室内を見回す。店内には様々な商品が綺麗に並べられており、武器や防具だけではなく、日用品などの道具なども同じ様に並んでいる。武器専門ではなく様々な道具を扱う鍛冶屋のようだ。
「ギルグルグュ。」
店内を物色していると、カウンターの奥から店員がこちらに話しかけてきた。そちらに視線を向けると、そこには、これまたファンタジーを彷彿とさせる姿をした店員が、そこに当たり前のように立っており、何事もなく店員として働いていた。
トカゲといっていいのだろか。その全身は鱗で覆われており、頭は爬虫類特有の横に平べったい顔をしている。長い胴体に短い手足がなんとも愛くるしい。体の半分ほどもありそうな長い尻尾は自切出来るのだろうか、などついどうでも良いことを考えてしまった。
しかし、今回はカピバラ店員の時のように呆けてしまうことはない。さすがに何度も同じ過ちは繰り返せない。前もって心構えをしていれば、どうとでもなるのだ。…まぁ驚きはするのだけども。
『ああ、武器を探しているんだが。』
そう、新たな武器だ。それを求めに鍛冶屋へと足を運んだのだ。
武器としては、既にP226xとM500xを所持しているが、ではなぜ鍛冶屋へと思うかもしれない。しかし、先の戦いでの経験で銃だけでは切り抜けることが出来ない状況も訪れて来るかもしれない。そう思い新たな武器をと考えたのだ。そして、それだけではなく、別の思惑からも武器を手に入れたかった。
戦力の偽装である。
銃という武器はその構造上どうしても攻撃が単調になってしまい、極端なことをいえば、物陰に隠れていればそれだけで簡単に防ぐことが出来てしまう。物陰に隠れていなくても、身を屈め素早く動くだけで容易に回避されてしまうのだ。銃の特性を知っていれば、対応策などいくらでも思いつく。現にグイルはあの短い間で的確に対処してきたのだ。彼が特別有能だったのかもしれない。しかしだからといって、では何も対策しなくていいのかと言うと、そういう訳にはいかないだろう。
敵に銃という存在を、その特性を隠匿する。そのための新たな武器を求めに鍛冶屋へと赴いたのだ。普段はその武器を使い、もしくは使っているように思わせ、極力銃という戦力を隠す。そしていざという時、こちらの戦力がバレる前に敵を殲滅する。そのための武器だ。
『どのような物をお探しで?』
『一般的な両手剣と、片手でも比較的ラクに扱える長さの物を探しているのだけど。』
『両手剣と片手剣か。戦い方は?』
『両手剣の間合いで牽制しつつ、近い距離での対応に短い方の武器を使うつもりだ。』
『ふむ…。』
トカゲ店員はこちらを観察するような視線をむけており、何事かを考えている。何か気になる事であるのだろうか。
『…お前さん、剣術は素人か?』
突然の言葉に驚かされる。彼はこちらが剣の素人だと言い当てたのだ。確かに剣に関して言えばズブの素人であり、そこを否定するつもりはない。しかし、戦いの最中ならともかく、ひと目見て素人だと判断出来るものなのだろうか。
『…見て判るものなのか?』
『まぁ、ある程度はな。というかお前さんの格好からして剣使いのそれじゃないしな。それになんだいその格好は。意味がわからない。』
トカゲ店員は変なものを見るような視線でこちらの防具を指差す。
今身に付けているのはタクティカルベストでありこの世界では全くの未知であるはずの物だ。それも当然でこの世界に銃などという存在は存在しないので、防弾ベストという概念が存在しないのだ。無論この世界すべてを知っているわけではないので、もしかしたら世界の何処かに銃が存在しているかもしれないが、少なくともここら一帯ではメジャーではないはずだ。
『これは特殊な装備で、まぁ剣使用の防具ではないな。それと、普段はナイフを使っている。』
ベストから装備しているM9xバヨネットを取り出す。それを手に持ってトカゲ店員へ見せる。
『ナイフ使いか。そうは見えなかったんだが…。そのナイフを見せてもらっても?』
トカゲ店員の申し出に、M9xナイフを手渡すかどうか迷ったが、ここで渋って武器調達に難色を示されても得にはならないので、見せることにした。それでに銃ではなくナイフだけであれば問題ないだろう。
『ふむ。これは…普通の鉄ではないな。鉄に何かしらの素材を混ぜた合金か…? しかし、このような金属はみたこともない…。』
ナイフを受けとたトカゲ店員は、それをジマジとを見つめ、色々と思考しているようだ。バヨネットナイフは鉄にクロムを混ぜたステンレス鋼である。ただの鉄よりもクロムにより腐食しにくくなっており、またとても丈夫なのが特徴だ。
元の世界では20世紀に入って手法が確立された比較的新しい合金であり、ステンレスが世に出てからは、様々なものに使われている。
この世界ではクロムは発見されていないのかもしれない。そうであればステンレス鋼は未知の金属にみえるだろう。
『加えられた金属により鉄の劣化を防いでいるのか。それに、製鋼、精錬技術もかなりのものに見える。これはなかなか興味深い…。』
ナイフを見つめ、ひとりぶつぶつと呟いてているその姿はなんとも近寄りがたいものがある。しかしいつまでも見守っているわけにもいかず、こちらの世界に戻ってきてもわらねば。
『…ナイフを返してもらいたいのだが。』
声をかけられ、はたと現実に戻ってきたトカゲ店員は、ナイフをしげしてと見つめた後、手に持つそれをこちらへと返す。
『いや、済まなかった。見たことがない物だったので思わず見入ってしまっていた。それを精錬した鍛冶師はなかなかの腕前のようだ。』
精錬ではなく工業技術なのだが、それをわざわざ口にする必要はない。そもそもこのナイフは能力によって具現化されたものであり、工業技術かどうかすら怪しいものであはあるが。
『それで、武器は両手剣と片手剣だったな。これまでナイフ主体ということならば、あまり長物は必要ないのかもしれん。長物よりも比較的取り回しが良い剣にした方が良いだろう。予備の短剣はそのナイフより少し長い程度の物が適切か。』
そう言うとトカゲ店員は店内に並べられている武器の幾つかを見繕って、カウンターへと持ってくる。そして、その一つ一つの特徴などを細かく説明していってくれる。
『さて、こんな所か。後はまぁお前さんの好み次第だ。ここにあるのはどれもそれほど違いがあるわけでもないからな。』
確かに今運ばれてきた武器はどれも同じ様な性能で癖もなく使いやすそうである。素人の自分でも扱えるものを見繕ってくれたのだろう。それらを手に持って感触を確かめながら、一振りを改めて選び手に持って感覚を確かめる。
『…これが良さそうだ。』
選んだ剣はオーソドックな両刃の物で、形状としてはバスタードソードに近い。なぜこの剣を選んだかというと、特に理由もなく、何となくである。なんとなくこの剣の姿形に馴染みがある。その程度だ。おそらくこのオーソドックスな形が元の世界でもよく使われていたから親近感が湧いたのだろう。
『まぁ、そいつなら比較的大丈夫だろう。』
武器を選んだからといって、すぐに使いこなすことが出来るわけではないので、最低限使えるように訓練しなければならないだろうが、だが、あくまで予備としての装備であり、銃という武器の隠れ蓑としての得物なので、そこまで極める必要はない。
『さてと、次は短い得物だな。それも幾つか見繕ってやるから、そこから好きなのを選べ。』
店内から良さそうな短剣を選んでカウンターへと運んでいるトカゲ店員を後ろから眺めていたのだが、そこであるもを目にし、そこから視線を動かすことが出来なくなった。
『これと、これ… ん、お前さんどうした?』
トカゲ店員が何事かと話しかけてくるが、それもあまり頭に入ってこなかった。 その目についたそれの近くまで寄り、眺める。
『これは…』
『ん? ああ、それは癖のある武器であまりオススメはせんぞ。それに武器というより、むしろ道具に近いものだ。』
『…これを手に取ってみてもいいか?』
『ああ、それは構わないが…。そいつが気になるのか?』
トカゲ店員から許可をもらい、その武器を手にとって確かめる。
『やっぱり…。_____マチェットだ。』
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