37 いざ町へ
霧が立ち込める中、朝の訪れを知らせる陽の光とともに鳥や虫の鳴き声が森の中に鳴り響く。命あるものの力強さ、自然の強さを感じさせる。命の音だ。
そんな生命の力強さを身体で感じながら、日課となっているトレーニングを日が昇ると共に開始する。軽いストレッチから、そして準備運動をこなし、木相手に何度も打ち込みを行う。本来であれば対人での打ち込みや乱取りがトレーニングでは重要になってくるが、相手がいなくても、技の練習は可能である。相手がいないからと鍛錬を怠ればその技術、技は容易く鈍る。そのような事が起きないように、これらのトレーニングは欠かせないのだ。
それら十分な鍛錬を行った後は、銃を用いての射撃訓練を行う。しっかりと狙いを定め、確実に相手に当てられるように、ゆっくりと丁寧に射撃を行う。よく映画やドラマなのでがは、走りながら、もしくは飛んだり跳ねたりと動きながら銃を撃つシーンが見受けられるが、そんなものは所詮創作にすぎない。実際の射撃ではいかに体勢を整え、射撃姿勢を安定させて撃てるかが命中率に繋がってくる。これはゲームでも同じであった。FPSに代表されるゲームでは、走りながらの射撃では弾がバラけとてもじゃないが当たらない。なので、しっかりと足を止め、きちんと狙いを定めて撃つ練習を何度も繰り返す。そして同じ距離での練習に偏らないように10M―20M―30M―40Mと距離を変えての射撃訓練もしっかりと行っていく。
これらの射撃練習は以前から行っていたのだが、最近ではこの練習だけではなく、別の射撃訓練も行うようにしている。グイルとの戦いでハンドガンでの戦闘における弱点が明らかになったことで、その弱点を克服するための訓練だ。
C.A.R. System
これはアイソセレススタンスやウィーバースタンスといったオーソドックスな射撃体勢ではなく、銃を身体に密着させた、もしくはそれに近い状態での射撃体勢で銃を撃つ超至近距離にも対応する射撃方法である。これは距離を詰められた時に生じる不利を克服するための練習であり、これにより相手に距離を詰められ銃が撃てなくなるといった事や、銃そのものを掴まれ奪われるといったリスクを無くすことができる。
しかし、この射撃方法は、事前にプレイしていたゲーム内では使用されていなかったものであり、残念ながら最初から勝手にマスターしているといったことはなかった。なので初めから自身の身体に覚え込ませる必要があった。無論すべての知識が備わっているわけではないので、手探り状態での訓練である。以前見たことがある動画での動きを参考に、またこの撃ち方を採用していた映画のシーンを思い出しながら、手探り状態での練習である。
これらは直に身体に身につくものではないかもしれないが、それでも訓練していくしかない。弱点を克服するためには、ひたすら練習するしかないのだ。
これらの訓練を、時間を掛け丁寧行い、日課のトレーニング終了となる。
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「その銃というのは、本当に不思議な物だね。」
トレーニングを終え、皆で食事を摂っている中、エインセルが銃について口にする。これまで見たことも聞いたこともない銃は、好奇心旺盛な彼女の興味を引くには十分なものであった。しかし、銃は扱いに細心の注意を払う必要があり、一歩間違えれば大惨事に繋がる為、練習の際にも離れているようにと、きつく言い渡している。それでもやはり興味は尽きないのだろう。
「魔術の力ではなく科学?だったよね。その科学を利用した武器なんて、この世界ではお目にかかれないから、本当に興味が尽きないよ。」
エインセルはこの世界では発達していない科学の話を聞いた時、とても興味深そうにしていた。魔法や精霊魔法などが普通に存在しているこの世界において、それらの技術は未知なるものにみえるのだろう。魔術は科学の代わりとしてこの世界で発達し、そして生活に深く根付いたてきたのだ。そんな世界において科学技術の発達は難しいだろう。なので、そんなこの世界ではあり得ざる技術に好奇心旺盛な彼女が興味をもたないわけがない。
それは何も科学の話しだけではない。
旅を一緒にするにあたって、自分はこの世界の住人ではない__異世界からの転移者だということをエインセルに伝えることにしたのだ。別に真実を話す必要は無かったのだが、やはり一緒に旅をする上で、話しておかなければと感じたからだ。それに、エインセルであれば、話しても問題ない、彼女ならば、受け入れてくれる__そんな予感がしたのだ。そして実際に、彼女は驚くほど簡単に自分という存在を受け入れてくれた。
それからというもの、エインセルは元いた世界の話を興味深そうに聞いてくる。話すそれらは彼女にとってどれもこれも新鮮で面白いものなのだろう。
「俺からしたら、魔術なんてものが不思議で仕方がないけどな。なんでそんな現象が起きるのか未だに理解できないよ。」
そしてそれはこの銃についてもだ。何故何も無い所から物質を具現化出来るのか。意味がわからない。質量保存の法則とはいったい何処にいったのか。しかし出来てしまうのは仕方がない。そういうものだと割り切るしか無いのだ。自分は学者でもなんでもないのだ。世界の真理を追求するつもりはない。
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町を目指し出立してから、既に2週間近く経過していた。移動距離は100キロを優に超えているだろう。そんな長旅ではあるが、皆なんでもないかのように歩みを進めている。これまで長旅をしてきたピピィはもちろんのこと、身体の小さなエインセルも問題なく旅を続けることが出来ていた。驚いたことにエインセルはその小さい体に似合わず結構体力があったのだ。いや、そもそもが妖精だから普通の種族とは違うベクトルなのかもしれない。なので、森の中移動するという過酷な旅も、なんら問題なく続けられているのだ。
しかし、そんな旅も、もうすぐ終わりを迎えようとしている。
「そろそろ町にたどり着く頃じゃないかな。」
「エリィはその町に行ったことがあるんだっけ。」
「うん、とはいえそこまで詳しく知っているというわけではないけどね。フェノーノーが町に用がある時に一緒に来たことがある程度だしね。」
エインセルはフェノーの付き合いで何度か町に来たことがあるらしい。フェノーは基本自給自足での生活をしているが、その全てを自身でまかなえるわけではない。希少な調味料などはやはり町でなければ入手できないのだ。
そして鍛冶関連も町にでなければこなすことが出来ない。いくらフェノーが優秀だからといっても、農具などを作ったり直したりはすることは難しいそれに刃物なども軽い研ぎなんかは出来ても、本格的な打ち直しなどはやはり鍛冶屋でなければならない。そのため、時折町に足を運んでいるのだ。
ちなみに、エリィとはエインセルの愛称であり、エインセル本人から「キミにはエリィって呼んでもらいたいな」と言われたため、それからはこの呼び方にしている。
「ピィ! 町、楽しみ!」
町に近づくにつれ、ピピィのテンションがどんどん高くなっていく。
「町についたからからって、あんまり騒いじゃダメだからね。人が沢山いるところで一人で出歩くと迷子になっちゃうから、ちゃんと傍にいるんだよ?」
「ピィ! 大丈夫! シュン一緒!」
るんるんスキップしながら実に上機嫌である。
…本当に大丈夫だろうか…。
まぁ、パーティーを組んでいるので、仲間の位置は常にマップで確認することが出来るので、迷子になるということはないのから、平気だとは思うが…。それにしてもやはり心配である。__町に付いたら手をつないでいた方がいいのだろうか。
「ミミ、エリィ、大丈夫だとは思うけど、なるべくピピィから目を離さないようにしよう。」
「はは。シュンは心配性だな。いくらピピィが可愛くても過保護はいけないよ。むしろキミの方が何か騒動に巻き込まれないか心配だよ。」
「そうよ。あなたこの世界に最近来たばっかの赤ちゃんなんだから、このミミさんがしっかり面倒みてあげるわよ。」
……え、何?この認識の違い…
「ピィ、シュン大丈夫だよ? ピピィが一緒にいてあげる! 」
ピピィ、そんな純粋な目で見つめないで……
何故かパーティ全員に心配され、めげそうになる気持ちをなんとか持ち直し、改めて町へと向かう。町では何が起こるかわからないから、気を引き締めていこう。
…うん。 別に悲しくないので気にしないでいよう。
嘘ではないよ?
今回から新章突入になります。
さらなる冒険を是非お楽しみ下さい。
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