36 出立の時
「いやぁ、すまないね。あんまり気持ちがいいものだからつい寝入ってしまったよ。」
翌朝、顔を合わせるとエインセルは照れた笑いをこちらに見せる。
昨日の残念な姿はそこにはなく、いつもの佳麗な姿で優雅に朝食を取っていた。
「お風呂で寝るのはあんまり身体に良くないから気をつけた方がいいよ。」
「あはは、覚えておくよ。」
席につくと、フェノーがお茶と軽食をテーブルの上に用意してくれる。
『フェノー、いつも ありがとう。』
『構わない、気にしなくて良い。』
フェノーはその大きな体に似合わず、とてもよく気配りが出来る紳士な妖精だということがこの数日一緒に過ごしていてよくわかった。凄い出来た妖精だ。
彼の入れてくれるお茶はでれも美味しく、味わい深い。自家栽培をするだけのことはある。
まったりとした時間を謳歌していると、眠い目を擦りながらピピィが起きてきた。
ピピィも席につき、フェノーから出されたお茶を美味しそうに飲んでいる。
「ピィ お茶おいしいね。」
「そうだね。」
全員分のお茶と軽食を用意し終えた、フェノーも席につく。
『ところでシュンよ。これからの予定はどうするのだ?』
フェノーからの質問に対し、お茶を飲みながら考える。
『これから か。』
実は少し前から考えていた事があるのだが、この数日でその思いはより一層強くなっていた。そのことをフェノーに伝える。
『人里 どこか 町 行こうと 思ってる』
『町?』
『ああ。 この辺り 情勢 しらない。 少し 調べて みたい。』
そう、この世界に転移して数ヶ月経つが、未だにこの世界について知らない事が多いのだ。人間の事にしてもそうだが、それ以外の種族についても、ほとんど知らないといってもいい。しかし、ここ最近起こった出来事を考えると、それではダメだと思い始めたのだ。何も知らないでは、何か起こった時に対処するのは難しい。守れるものも守れない。仲間を守るためには、そしてこの世界で生きていく上で、その世界を知る必要がある。そのためには人里に行く必要がある。
『世の中 知りたい。 でも、一人 ダメ。 だから 町 行く。』
『ふむ』
「確かに、これまでの事を考えると、知っておいた方が良いことも多そうだね。」
『ああ、 知らない。 ダメ 守れない。』
ピピィを襲った連中は、何故彼女を追っていたのか。
そしてアセナを捕らえようとした連中の事もある。
「すぐ出立するのかい?」
『いや、少し 休む 思う。 その後 行く。』
無理に旅を強行しても、体に負担が掛かるだけであまり意味がない。自分はともかく体が小さなピピィには無茶な旅は負担が大きい。彼女に無理のない旅にしなければ。
『フェノー それまで 家 いいか?』
『ふむ、構わないさ。 出立まで気楽に居てくれていい。』
『ありがとう。』
フェノーには、まだしばらく世話になるだろう、その間は出来るだけフェノーの手伝いなどをして少しでも役に立たとう。
「町か。」
「エインセル、どうかしたのか?」
「ん、いや、ちょっとね。」
しばらくの間、考え込んでいようだが、やがて意を決したかのような表情をし、こちらに向き直る。
「…よし、決めたよ。」
「エインセル?」
「シュン、ボクも一緒に行くよ。」
「……へ?」
「なんだいその反応は。随分つれないじゃないか。ボクも一緒に旅するのはダメなのかい?」
「いや、ダメっていうか…。」
いきなり彼女は何を言っているのだろう。エインセルは何故いきなり旅について行くと言い出したのだろうか。その理由が思い浮かばない。
「別に特別な理由があるわけでもないさ。シュンと一緒に旅をしたからそうするだけだよ。キミと一緒だと色々と楽しそうだからね。」
「はぁ…。」
「それに色々と世界を見て回るっていうのも、なかなか興味深いじゃないか。」
こう見えてエインセルは結構好奇心旺盛なところがある。
最初に会った時も、自分が興味を持った事に対して積極的に行動していた。
美味しそうな匂いに釣られ、迷うことなく料理を口にしていた。
彼女はとてもストレートだ。
今回自分達と旅をするということが、そんな彼女の琴線に触れたのかもしれない。
「そんな大事なことを、いきなり決めてもいいのか?」
「構わないさ。楽しそうな事があれば、それに興味をもつのは自然なことだろ? 好きなように生きるのがボクらしい生き方さ。」
エインセルのそんな物言いが、どこかミミと似ているような気がした。
ミミも自分に正直で自由な生き方をしている。
案外…いや、やはり妖精と精霊はどこか似ているのかもしれない。
「エインセルがそうしたいのであれば、俺は別に止めはしないが…、本当にいいのか?」
「もちろん。ピピィはどうだい? ボクと一緒に旅をするのは。」
「ピィ?」
「ピピィはボクのこと好きかい? ちなみにボクはピピィの事が好きだよ。」
「ピィ! ピピィもエインセル好き!」
ピピィがエインセルへと近づいていき抱きつく。
「ボクも一緒に旅をしてもいいかい?」
「ピィ! エインセル! 一緒! ピピィうれしい!」
ピピィは大はしゃぎしてエインセルに頭を擦りつけている。
…容易く懐柔されている…。
しかし、皆の了承も得たとなれば、自分だけが断る理由もない。
「…まぁ、ピピィもこう言ってるし、仕方がないか。別に何か楽しいことがあるとは限らないけど…、それでもよければ、よろしくね、エインセル。」
「うん、よろしくね。シュン。」
ちなみにミミはいつも通り頭の上でレーションを頬張っている。
この状態の彼女は我関せずレーションに夢中なので、基本反応しない。
だが、もし本当に嫌なのであれば、何かしら言ってくると思うので、ミミもエインセルの同行には特に否定することもないのだろう。
そんなエインセルなのだが、時折チラっとミミの方へ視線を向けたかと思うと、直にそらし、また時折チラッと一瞥する。
……これはもしや……
「__旅に付いてくる気になったのって…、レーションに釣られたからじゃないよね…?」
ビクッと肩を震わせ、こちらを見つめてくる。
「…いやだなぁ。そんなこと無いにきまってるじゃないか。キミはお茶目だねぇ。」
とてもよい笑顔で、満面の笑みで、それはもう純粋な笑い顔で。
…どう考えても誤魔化____
「おやっ、アセナも起きてきたのかい。 キミもすっかり元気になったなね。」
アセナが起きてきたことをこれ幸いとでも言うかのように、わしゃわしゃとアセナを撫でている。…うまく誤魔化された気もしないでもないが、別に問いただす必要もないのでそのままにしておこう。
「でも、本当に元気になったよな。傷ももう心配ないだろう。」
エインセルと一緒になってアセナをわしゃわしゃする。アセナも嬉しそうに尻尾を振っている。綺麗な毛並みは撫でると気持ちが良い。
「ピィ! ピィ!」
ピピィも一緒になってアセナを撫でている。
翼をつかって器用なものだ。
「クーン クーン」
皆に撫でられアセナも嬉しいのだろう。
「クーン クーン」
「ピィ!アセナ! 一緒! 」
「クーン! クーン!」
「ピィ! ピィ!」
二人は会話でもするかのように言葉を交わし、とても楽しそうにしている。
ピピィからしたらお友達が出来たような感じなのかもしれない。
「ピピィ、アセナとお友達になれてよかったね。」
「ピィ! アセナお友達! ずっと一緒!」
「はは。ずっと一緒は難しいけど、この家にいる間はいっぱい遊んであげような。」
「ピィ!」
元気よく遊んでいる二人を眺めながら、少しばかりゆっくりするのも悪くないかな。そんなことを思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『フェノー 今日まで世話になった。』
『ふむ。』
あれから一ヶ月の月日が経ち、十分な休養もとれたということで、今日出立の日となった。
本来であればもう少し早く出立する予定ではあったのだが、ピピィとアセナの楽しげな様子をみていると、少しぐらい長引いても良いかなと思ったため今日まで延ばしていたのだ。しかし、そのお陰もあって、フェノーから色々と学ぶことが出来た。共通語もそのうちの一つで、以前よりいくらかスムーズに話せるようになっていった。
『あらためて、礼を。 色々とありがとう。』
『こちらこそ。シュンの話はとても興味を引くものだった。またいつか話しをしよう。』
『ああ。』
「それじゃあ、フェノー、行ってくるよ。キミの注いだお茶を暫く飲めないのは、少々寂しいけどね。」
『うむ。エリーも達者でな。』
「ピィ! フェノー! お家泊めてくれてありがとうね! ピピィ旅行くね!」
「うむ。ピピィも達者でな。旅では気をつけるんだよ。 また遊びにおいで。」
「ピィ!」
フェノーの胸に勢いよく飛び込み抱きつく。
体が大きく毛がフサフサのフェノーにピピィの小さな体がめり込んでなんともシュールな光景である。
「ワン! ワンン!」
アセナが尻尾を振って周りを駆け回っている。
「アセナも元気でな。もう捕まるんじゃないぞ。」
「ワン! ワン!」
フェノーとアセナに別れをつげ、森の中へと歩みを進める。
「よし、それじゃみんな。行こう。」
「これからどんな旅になるんだろうね。今から楽しみだよ。」
「ピィ! 旅! 皆一緒! 楽しいね!」
「最初は私とシュンと二人だけだったのに、なんだか随分賑やかになったわねぇ。」
「ワン!」
「本当、賑やかになったな。種族も皆バラバラだけど、楽しくやっていこうな。」
「ワン!」
「はは、アセナも随分たのしそうだな。お前も一緒に楽しん______」
「ワン!」
「_____…あれ?」
何故アセナが一緒に…?
あまりにも、ごく自然な流れで気が付かなかった…。
アセナは何故か当たり前のように一緒についてきている。
「…アセナ?」
「ワゥ?」
何?__って顔で小首を傾げこちらの顔を伺っている。
なんとも随分器用である。
「どうしたんだい、シュン?」
「ピィ?」
「なに、どうしたのよ?」
「いや、だってアセナが…」
何故か皆疑問に思っていない様子である。
まるで最初からそうであったかのように、当たり前に受け入れている。
「ワゥン?」
「アセナがどうしたんだい?」
「ピィ?」
「シュン、あなたまさかまた…」
「え、あ、ええ… 状況理解出来てないの俺だけ?」
この流れ前にもやったような気が…… いや、もう深く考えるのはよそう…
これから新たな旅の始まりだ。
デジャヴだなぁ……
今回にて第二章完結となります。
ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
なろう系作品にしてはかなりスローな進み具合な本作品ではありますが、
これからもゆっくりとではありますが頑張って行きたいと思っています。
次回から新章となる第三章の始まりとなります。
第三章では新たな登場人物が多数登場予定となっています。
また、ストーリにつきまして、今までより早い展開スピードとなる予定です。
何分まだまだ未熟ではありますが、
これからも本作品およびヤナギ・ハラをどうぞよろしくお願いいたします。
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