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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!  作者: ヤナギ・ハラ
第ニ章 新たな旅立ち 新しい仲間
35/79

35 命の洗濯

 一時の睡眠をとった後、起きて寝室を出るとフェノーとエインセルがテーブルについてお茶をしていた。


「やぁ、シュン。よく眠れたかい?」


「ああ、おかけでぐっすり眠れたよ。」


「そうかい、それはよかった。」


「あの寝床はお手製なのか? めちゃくちゃ心地よかったよ。おかげで起きるのに苦労する。」


「あはは、そうだよね。ボクも気に入ってるんだ。 あれはフェノーのお手製さ。」


『フェノーの?』


『うむ。あれは森の中で自生している植物の種子から採れたもので作った寝具だ。エリーが藁では嫌だと言うのでな。』


 エインセルはけらけらと笑っている。


「藁より断然あれの方がいいと思うんだけど、フェノーは藁のほうが好きらしい。シュンだってあれの方がいいと思わないかい。」


 彼女の言葉に頷く。日本人としては、やはりどうしても藁より綿などの方が肌に合う。

エインセルも同じ様な感覚らしい。フェノーはその全身を毛で覆っているので、なめらかなコットンとかよりも藁が合っているらしい。


「シュンもお茶でもどうだい。」


「そうだな、頂くよ。」


 二人の好意に甘え、お茶を頂くことにする。



 ゆったりとした心地の良い時間を堪能していると、足元をコツコツと何かに小突かれる。視線をそこに向けると、そこには包帯だらけの犬が足を叩いていた。


「おっ、お前か。 ずいぶん元気そうじゃないか。もう具合はいいのか?」


 両手を犬の脇に持っていき、そのまま犬を持ち上げる。

 

「ハッ ハッ ハッ ハッ 」


 犬は吐く息と共に尻尾をブンブンとふる。その様子はすでに傷ついた犬などではない。元気いっぱいだ。

 犬を下におろし、体を触って傷口を確かめてみるが、どうやら傷も上手く塞がっているようだ。本当救急キットの治癒力には感謝するしかない。何故このような治癒が出来るのか不思議ではあるが、回復したのは事実であるので、あまり深く考えるのはよそう。


「それにしても…、血糊でべっとりだったから、かっちかちに固まっちゃってるなぁ。」


 血だらけの状態から急いで傷口にガーゼを被せそのまま包帯を巻いたので、それらが完全に固まってしまっている。これは取るのに苦労するだろう。


『フェノー、何処か 水 浴びる 場所 ないか。』


 これはただ拭いただけでは落ちないだろう。井戸の水か何か汲んで、それで柔らかくしてから洗い流してやらないと無理そうだ。タライなどがあれば行水でも出来るのだが…。


『それならば、家の裏に水を汲める場所がある。そこで洗ってあげるといい。』


『ありがとう。 使わせて もらう。』


 再び犬を抱きかかえてやると、その場所へと連れて行ってやる。


「よーし、これから綺麗にしてやるからなー。気持ちが良いぞー。」


「  ガウ!! 」





――――――――――――――――――――




 驚愕、愕然、唖然

 どのような言葉が正しいのだろう、そしてどの言葉が適切なのだろう。

 今どのような感情が渦巻いているのが自分でもわからない。

 しかしそんな中、確実にこれだけは言える。


 歓喜


 この感情だけはおそらく間違っていないだろう。

 この世界に転移してからどれだけの月日が経っただろう。

 日本人にとって、それは無くてはならないものであった。

 しかしこの世界に来た時、それは失われた。

 いや、失われたと思っていた。

 しかしこれは…

 今目の前にあるこれは…



「シュン、さっきからどうしたんだい。」


「エインセル… これって…」





 _____湯槽じゃないか




「これかい? これはフェノーが自分の体を綺麗にするために作った水溜めだよ。彼意外綺麗好きでね。それであの中に入って行水するのさ。彼は毛が多いから普通の桶では上手く洗うことができないのさ。」


 フェノーは確かに体が大きい。その為、普通の桶では上手く湯浴みができないらしい。それでこの水溜めということなのだろ。よく見れば、確かにこれは湯槽などではなく、ただの水溜めだ。形としては桶に近い。桶を楕円にしたような感じだ。しかし、体の大きなフェノーが行水する為に作られたため、そのただの桶だが大きい。それこそ普通の一般家庭の浴槽よりも大きい。底の高さも申し分ない。

 しかし、これはあくまで水を溜める為の器でしかない。火を起こして湯を温める機能などはない。もしこの器に火など付けたら燃えてしまうだろう。

 これでは水しか溜めることしか出来ない。


 しかし諦めきれるだろうか。目の前には立派な湯槽がある。

 それを目前にして、諦められるだろうか。


 否


 日本人に出来るはずもない。風呂は日本人の血だ、血液だ。

 それを諦めるなど、出来るはずがない。

 

「…シュン、さっきからどうしたんだい…? なんか目が怖いことになっているよ…」


「え、あ、あぁ、 ごめん。 ちょっと考え事をしてたんだ。」


 あまりの衝撃でトリップしていたらしい。

 しかし、この湯槽をどうにか利用できないだろうか。

 どうすれば湯を温めることが出来るだろう。

 いや、この湯槽で湯を沸かさなくても、別の場所で沸かしたものをこの中に…


「…シュン、さっきより酷い顔になっているよ。」


「…え、あ。 うん。」


 流石にこれ以上うだうだしていいるのはマズイだろう。

 犬の方を見ると、なんだか呆れたような顔をしているようにみえる。

 …犬なのに随分感情表現が豊かなものだ。


「さて、じゃあ犬を洗ってあげよう。」


 近くの井戸から水を汲み、それを浴槽とは別の桶に溜めていく。そしてその水で犬をゴシゴシと洗ってやる。


「血が固まって毛にひっついちゃってるから大変だな。もっと念入りにほぐしてやらないと。」


 血で固まった毛を擦ってほぐしながら体を洗う。体を洗われている犬は身持ち良さそうにしている。実際冷たい井戸水が気持ちいいのだろう。血や汚れをあらかた落としてやり、手櫛で毛をすくようにして洗ってやると毛並みがだいぶ綺麗になっていく。


「だいぶ綺麗になってきたな。それにしても、すごい汚れていたなぁ。まぁ野生の犬なんてブラッシングなんてしないわけだから、汚れていて当然なんだけど。 というか、妖精は野生って言わないのかな_?」


 最後に水を全身にかけてやり、全ての汚れを落としてやる。

 体をブルブルと振って水をはじきとばしているその姿は、最初のボロボロの姿からは見違えるものとなっていた。


「お前結構美人犬だったんだなぁ。」


 ふわふわの毛並みにスラッとした手足、凛としたその表情に知性を感じさせる瞳。そこには薄汚れた犬などではなく、気品がある美しい犬が存在していた。

 犬種としてはどことなくボーダー・コリーに似ている気がするが、白黒の毛色ではなく、白を基調にプラチナブロンドが混じったような毛色になっている。どことなく神秘的な雰囲気だ。


「この姿だったら、特別な存在だと思って捕獲しよと考えたとかあり得るかもなぁ。」 


 陽の光によってキラキラと輝いてさえ見えるその犬は、こちらに近寄ってくると、おもむろに顔をペロペロと舐め始める。


「おわっ、うえぇつ。 こらっ! 口の中っ!舐めぇっ!」


「はははっ、その子シュンに助けてもらって感謝してるんだよ。」


 そのまま押し倒されるような形となり、さらにベロンベロン舐められる。すでに顔がよだれでベチョベチョである。

 よくよく考えると自分の顔は狼頭のスキンなので、犬からしたら同じ仲間どうしだと思っているのかもしれない。お互い犬ならば普通のスキンシップかもしれないが、生憎こっちは元人間なので、舐めコミュニケーションは持ち合わせていない。


「そういえば、この犬の名前はなんていうんだろう。」


 野生の犬ならば名前なんて無いのかもしれないが、この犬は妖精に近い存在だという話だ。ならば妖精犬のクー・シーの様に名前があるのかもしれない。

 

「その子の名はアセナというらしいよ。」


 犬と戯れている姿を笑って見ていたエインセルだが、自分がこの犬の名を気にしたらなんでもないように教えてくれた。


「へえ。アセナって言うのか。いい名前じゃないか。 この子に聞いたの?」


「いや、クー・シーから教えてもらったのさ。ボクではその子の言葉はわからないからね。」


「なるほど。…そういえば、クー・シーは何処にいるんだろう。起きてから一度も姿を見ていないんだけど。」


「彼ならもう帰ったよ。」


「えっ?」


「ここに留まっていても特に何かすることがあるわけでもないしね。その子の無事が確認できたら、すぐに立ち去ってしまったよ。」


「そうだったのか…。」


 クー・シーには今回の件でとても世話になったので、お礼を言いたかったのだが…その前にいなくなってしまったか…。また会った時に、改めてお礼をしたいものだ。


 




 アセナを綺麗に洗い終え、とりあえずやるべき事はやり終えた。

 あと残る問題はこの目の前にある湯槽だけだ。


「先程から何か考え事をしているみたいだけど、いったい何を考えているんだい?」


「ん、ああ。 どうすればお風呂に入れるか考えていたんだ。」



「__お風呂?」


 エインセルは首を傾げ疑問の表情を浮かべていた。







―――――――――――――――――――





 すっかり日が沈み、森の中は闇に包まれている。奥から時折鳥や虫の音が聞こえてくる。

 その暗闇を、焚き火の光が一部を照らし、暖かな色で闇を塗りつぶしている。

 

 「よし、これで準備は整った…。」


 昼に湯槽を発見してからは、フェノーに浴槽を使う許可をもらい、そして浴槽の中に入れる湯を沸かすために大量の水を用意、それを少しづつ小分けにし、それを沸かしては冷めないように一旦収納、そしてまた別の水を沸かす。それを延々と繰り返していた。


 間に夕食を挟み、そうして長い時間を掛け、ついに準備は整った。

 沸かしたお湯を浴槽の中に注ぎ、ある程度溜まったら追加で水を入れて温度調節をしていく。それを何度も繰り返し、やっとのことで入浴出来るまでの深さまで湯を入れ終える。手を入れ温度を確かめるが、温度も丁度いい。


「よくもまぁ、水浴びするだけでこうも面倒くさい手間かけるわね。」


 ミミは呆れた様子でこちらの作業を見ている。

 確かにこれらは面倒くさい作業である。

 しかし、だからこそこの後の一風呂がたまらないのだ。


 服を脱ぎ、はやる気持ちを抑え、ゆっくりと静かに湯槽の中に浸かっていく。




「…………ふぁぁあ…」



 全身を包み込む幸福感、快い気持ちが身体を支配する。

 久しぶりに入った風呂は、極上の快感をこの身にもたらす。

 溜まった疲れが身体の穴という穴から抜け落ちるような感覚。


 それら全てがたまらない___幸せ


「…… やっぱ日本人は……風呂だよなぁぁ……」


 昔の偉人は、風呂は命の洗濯だという格言を残したというが…。

 その言葉に嘘はないと思える。

 これまでの全てが洗い流されるようだ。


 ……偉人の言葉だったっけ…?


 まぁ、そんなものは些細な違いでしかない。

 どちらにしろ風呂は偉大だと改めて思い知らされる。

 大自然の木々に囲まれながらの入浴、これは元の世界ですら体験したことのない贅沢だ。

 まさか異世界に転移して経験出来るとは思ってもみなかった。

 


 ただただ気持ちが良い



 ふと気が付くといつの間にかミミもお風呂の中に入っている。

 あれだけ冷めた目で見ていたのにちゃっかりしている。


「風呂に入ってみた感想はどうだい?」


「んーまぁまぁって所かしらね。」


 そっけなく答えてはいるが、その表情はどこか気持ちよさそうだ。


「…まったく。素直じゃないなぁ、この精霊さんは。」



 

 風呂を堪能していると、ふと視線を感じる。そちらに目を向けるとピピィが家の影から覗いていた。


「ん、ピピィか。どうしたんだい。」


「ピィ、シュン。お湯、熱くない?」


「ははっ、大丈夫だよピピィ。これはあつあつのお湯じゃなくて、ちょっと温かいお湯だからね。とっても気持ちがいいんだよ。」


 ピピィを手招きし、お風呂のお湯を手ですくい触らせる。


「ね?あったかいだろう。これはお風呂っていって、あったかいお湯で水浴びをするんだ。身体がぽかぽかして幸せになれるんだよ。」


「ピィ!幸せ!」


「そっ。とっても幸せだよ。」


「ピィ! 幸せ!! ピピィ幸せ入る!!」


「え、あっ! ちょっと!!」


 言うが早いかピピィは服を脱ぐと勢いよく風呂にダイブしてきた。勢いよく入水したため、お湯が少し外に溢れてしまった。


「ピィ! あったかい!! シュン! あったかいよ!」


「もうピピィったら、お風呂はゆっくり入るものだよ。」


「ピィ! お風呂! きもちいいね! ぽかぽか!  ピィ!」


 ピピィはうっとりした表情でお湯に浸かっている。

 喉から ピィ ピィと息が漏れている。


「どうだピピィ、気持ちいいだろう。」


「ピイ… きもちいいねー… ピィィ…」


 背中をこちらに預け、目をつぶって風呂を堪能している。

 その顔はとても幸せそうだ。

 ピピィの様子に思わずにんまりしてしまう。

 やっぱり風呂はこうなるよな。

 

「ずいぶん気持ちよさそうだね。ボクも仲間に入れてくれないかな。」


 声をかけられ、そちらに視線を移すと、 エインセルがゆっくりと近寄ってくる。

 

 陶器のように白い肌は、焚き火に照らされ淡いオレンジに染められている。細くきめ細かやかなプラチナブロンドの髪は、火の光を反射して髪そのものが光り輝いているかのようにさえ見える。美しくも中性的なその顔も相まって、どこか作り物かと錯覚させるほどだ。


「エインセル…なんでそんな格好をしているんだい。」


「なんでって、衣類を着たままではお風呂には入れないじゃないか。」


 そういいながらとてとてと近寄ってきて、そのまま浴槽に入って来てしまった。


「とても気持ちよさそうにしているものだがら、興味が湧いてきてね。 それにしても…、これは…。__なんとも興味深いね……。」


「…年頃の女の子が人前で肌を出すもんじゃありません。」


「…キミもつれない事を言うねぇ。こんな気持ちが良いに、一緒に堪能したっていいじゃないか。」


 エインセルは両手でお湯をすくうと、顔をパシャリとかけ恍惚の表情を浮かべる。


「ただお湯に浸かるだけだというのに、それがこんなにも気持ちが良いものだったんだね…。」


「温かいお湯には一度も浸かったことなかったのか?」


「森では川や湖、池といった水場しかないからねぇ。冷たい湧き水での行水がほどんどさ。実際いままでそうやってきたからね。お湯に浸かるって発想を思いつかなかったよ。」


 その話を聞いて確かになと思った。火山などが活発な地域などでは温かい湯…つまり温泉が湧き出ることも珍しくないが、そうでもなければわざわざ苦労してまで湯を沸かすということはしないのかもしれない。


「そっか。こんなに気持ちがいいのに、残念だなぁ。」


「本当だねぇ…。お風呂を知ってしまったらもう冷たい水には戻れないよ。」


 肩まで湯につかり顔を赤く染めてお風呂を堪能している姿を見ると、彼女もお風呂の魅力に取り憑かれたのだろう。


「スピィ… スピィ…」


 気がつけばここにもお風呂の魅力にやられてしまったのが一人。

 ピピィはその気持ちよさに抗えず寝入ってしまっていた。


「ピピィ、お風呂で寝ちゃ駄目だよ。ほら起きて。」


「ピィ… ピィ…」


「寝てしまうのも仕方がないね。この気持ちよさはちょっと抗えないよ。」


 確かにお風呂眠くなるのは仕方がないが、本当に寝てしまうと、のぼせてしまうし、下手をしたら体調をくずしてしまう。仕方がないのでピピィを抱えてそのまま湯から抱き上げる。


「ピピィも寝ちゃったし、このままピピィを部屋まで連れて行って寝かせてくるよ。俺たちはもう上がるけどエインセルはどうする?」


「…ボクはもう少しお風呂を堪能しているよ。」


「そうか。あまり長湯するとこぼせちゃうから適当な所で上がるんだよ。あとコレ、水分補給するといい。」


 ストックから水の入った入れ物を取り出し浴槽の横へと置く。


「ありがとう、シュン。」


 ピピィを抱きかかえたまま家の中へと入り、部屋へ連れて行く。一旦服を取りに戻り、身体を拭いて服を着るとまた部屋へと戻る。濡れたまま寝てしまうと風邪を引いてしまうので、しっかりと拭いていく。髪の毛や羽を重点的に乾かしてやり服を着させる。その間ピピィは一切起きることが無かった。風呂の魔力恐るべし。


「…ふぁ…。 眠くなってきた…。」


 ピピィの寝の良さに釣られ、眠気が襲ってきた。

 大きくあくびをし、外を見る。そこには完全に夜となった森がある。


 もう結構な時間だしこのまま寝ようと考える中、ふとあることが気になりエインセルの部屋へと向かう。しかしそこに彼女は居なかった。


「……まさか」


 様子を見に家の外に出て湯槽の場所に行く。

 そこには浴槽のフチに頭を預け見事に寝入っている妖精の姿があった。

 口を半開きにし、気持ちよさそうに寝息をたてているその姿は、整った顔が災いしたか変にマヌケにみえる。


「…妖精ってもっとこう、神秘的な存在だと思っていたんだけどなぁ…」


 そこにいるのはそんな神秘的な存在などではなく、うっかり風呂で寝てしまうおマヌケ少女がいるだけであった。


ピピィと同じ様に抱きかかえ、そのまま部屋へと連れて行く。

 起きる気配はまったくない。




 …なんとも色々と台無しである。

 




「…はぁ… ……まだ寝れそうにないか…」






日本人ならお風呂ですよね。

自分はよっぽと体調が悪くならない限り絶対入るマンなので、

異世界行ったら多分もたないです。

異世界に生まれなくて本当よかったです。


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風呂好きの皆!

おらに力をわけてくれ!

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