34 襲撃の謎
夜闇により何処までも続くと思われた深い森は、朝の日が昇ると共に、暖かな光で森全体を照らしていく。薄っすらと身を包む霧がその光を反射し、どこか神秘的な雰囲気さえ醸し出している。
そんな森の中、ぽつんと一つの家が存在していた。
その家の前で動く影が一つ。
その影は何かに気が付くと勢いよく走り出す。
「ピィーー!! ピィ! ピィーー!」
勢いよく飛び出してきたピピィはダイブするような形でこちらの胸に飛び込んできた。
「ピィ! シュン! シュン! お帰り!」
「ピピィ…、何も起きて待ってること無かったのに。 でも、ありがとう__ただいま。」
ピピィの頭を優しく撫でる。彼女は気持ちよさそうにして頭を擦りつけてくる。
「やぁ、おかえり。無事でよかったよ。」
エインセルが家から迎えに出て来てくれた。
「ただいま。エインセルも起きていたのか。」
「友の帰りぐらい迎えさせて欲しいな。」
彼女はそう言い、にっこりと微笑んでくれた。
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朝日が窓から差し込む中、室内にはティーの心地よい香りが鼻腔を蕩かす。フェノーが用意してくれたティーと軽めの朝食を皆で囲む。あっさりとしていて、そして喉越しの柔らかいティーは徹夜明けの身体は心地よい。
そんな朝食を取りつつ、今回の出来事について知り得た情報を皆に伝える。
「…なるほど、何者かが捕らえるように依頼…か。人間族は不思議なことをするんだね。」
依頼により狙われていたこと、また犬だけではなく、同じ様な存在も標的であったこと。そのことを伝えると皆、考える様子をみせる。
『何故そのような事を…。人間はあの者たちを捕らえて何をしようとしているのか。』
フェノーは犬の方を見て疑問を口にする。視線を向けられた犬は、そんなことはお構いなしにスヤスヤと寝息をたてている。日が昇ったとはいえ、まだ朝は早い。犬にしてみればまだお眠の時間だ。
『わからない。 妖精や精霊 人間にとって 特別 か?』
「いや、少なくともボクが知っている限りでは、人間がそれらに固執しているなんて話は聞かないな。まぁ、全ての人間のことを知っているわけではないから、絶対とは言えないけどね。」
結局のところ、何故今回のような事が行われたのかは、その依頼人とやらしかわからないということか。
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朝食も食べ終わり、ゆったりとした時間を満喫していると、自然と瞼が重くなってくる。徹夜での戦いから一夜明け、家に帰ってきた事による安心感、そして食事を取ったことによる程よい満腹感、その心地よさから思わずあくびが漏れてしまう。
その様子をエインセルが笑顔で眺めていた。
「シュン、少し寝たほうがいいんじゃないかい。昨日は一睡もしていないようだしね。」
「…んー、そうだな…。 ちょっと横にならせてもらおうかな。」
「ボクの寝床を使用するといいよ。」
「いいのか?」
「構わないさ。フェノーの寝床よりかは快適なはずだよ。」
「…ふぁぁ…… そうか… ならお言葉に甘えさせてもらうよ。」
エインセルに連れられ彼女の私室に行く。
質素ながもしっかりとした作りのベッドが置かれていた。
寝具の上で横になり、肌触りの良さを全身で堪能する。
「ゆっくりするといいよ。」
「ああ、ありがとう。」
エインセルは静かに部屋から出ていった。
何らかの動物の毛なのか、それとも綿のような種子毛なのだろうか、その肌触りは心地よくなんとも幸せな気持ちになる。
「これは… 気持ちがいいや…」
この世界での寝具などは荒いものが多かったので、転移して初めての経験である。
その心地よさにより一層瞼が重くなる。
これは抗うのは難し…い……
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微睡む意識の中、ゆっくりと瞼をあける。
昨夜の出来事はやはり心身に疲れがあったのだろう。
自分でも驚く程ストンと寝入ってしまった。
またこのベッドもその要因だろう。
肌触りがよく、そしていて心地が良い。
甘い微かな香りが鼻孔をくすぐる。
その全てが安らかな眠りへと導くのだ。
しかし、何時までも寝ているわけにはいかない。
己の欲望に抗いつつ、ゆっくりと身体を起こそうとする。
……身体を起こすことが出来ない。
疲れからか、妙に体が重い。
…いや、これは体が重い感覚ではない。体に重い物が乗っかっている感覚だ。
寝たままの状態で視線を体の方へと向ける。
「 スピー スピー スピー 」
いつの間に潜り込んで来たのか、ピピィがお腹の上に乗っかってスヤスヤと寝息をたてている。羽毛布団ならぬピピィ布団である。重いはずだ。
「ピピィさん、重いんですけど…。」
「 スピー スピー スピー ピィ ピィ」
完全に熟睡している。全く起きる気配がない。
頭を撫でたり首をこちょこちょするが、意に介さず心地よさそうに寝ている。
「まぁ、しかたがないか…。」
ピピィには心配をかせさせてしまった。
それに彼女は自分が帰って来た時、寝ないで出迎えてくれた。その反動が来たのだろう。
「起きたみたいね。」
「ん、おはよう。ミミ」
ミミがひらひらと飛んで目の前に降りてきた。
「昨日はおつかれ。ミミもゆっくり休んでいいんだよ。」
ミミにも昨日は凄く世話になった。
マップによって映し出されるマーカー表示はミミとの共有で成り立っている。
彼女の察知能力のおかげであそこまでの精度になっているのだ。それはゲームの時のそれを上回っている。彼女がいなければあそこまでスムーズにはいかなかっただろう。
「まあ、そのことはいいわよ。」
ミミはふわりとこちらの体の上に降りてきてそのまま腰を下ろす。
「さっき、何故人間族たちがあの犬の子を狙っているのかって話ししていたわよね。」
「うん。でも結局はわからないままだったけど。」
「…人間族たちのことなんだけど」
ミミは一旦言葉を止めると、ちらりとピピィの方に視線を向け、そしてまた前を向く。
「本当は内緒にしているつもりだったんだけど…」
「…どうしたんだ。」
「……あいつら、ピピィのことも狙っていたっぽいわよ」
「なんだって!!?」
ミミの衝撃発言に思わず飛び起きそうになる。
お腹の上で寝ているピピィがいるので、既の所で留まるが、それでも今の発言は聞き流せるものではない。
「__人間がピピィを…狙ってる…? ミミ、どういうこと。」
「最初ピピィ達と会った時の事を覚えてる?」
ピピィと最初に会った___オークの村が人間達に襲われ壊滅、その瓦解した村の中で、隠れていた生存者を発見した。それがピピィとオクオクだ。
「ああ、覚えている。村は全滅だったが、そこで、隠れていた彼女たちを見つけたんだ。」
「その後、人間族がまた村に来たわよね。そこで彼女たちを守るために、シュンがあいつらの前に姿を表した。 そしてあいつらに痛めつけられていた時、シュンを助ける為にピピィが思わず飛び出してきてしまった…。」
「ああ、そうだった。」
「その時、人間族のリーダーっぽい男が、飛び出してきたピピィを見て、こう言っていたの__」
『ᨆᨔᨀᨀᨚᨊᨊᨈᨚᨀᨚᨑᨚᨊᨗᨕᨗᨑᨘᨈᨚᨖ』
どういうことだ。
その物言いは、相手のこと__ピピィの事を認識していなければ発せられない言葉だ。
…人間はピピィのことを知っていた_?
「それだけじゃないの。その後も、まるでピピィを知っているかのような話しぶりだった…。あいつら、彼女のことを追っていたのかもしれないわ。」
人間はピピィの事を知っていて、そして追っていた__
もしそれが、ミミの話が本当ならば、
それではまるで…
「…ピピィを追ってオークの村に__」
そして村は襲われた。
「だからね、ピピィに無理に話す必要ないと思って黙っていたんだけど…。」
ミミの言いたいことはわかる。
もしこの話が真実ならば、彼女を守るためにオークの村は犠牲に…。
その事を知れば彼女は自分のせいで村が犠牲になったと、自分を責めるだろう。
「…そうだね。 …ありがとうミミ。」
ピピィを見る。
彼女は今も気持ちよさそうに寝ている。
人間達がいったいどんな目的があって、彼女たちを追っているのか…。
それとあの犬やそれに類似した存在を狙う…。
これらは関連しているのか。
今はまだ、何もわからない…。
しかし、どんな理由があろうと…。
ピピィの頭を撫でる。
寝ている彼女は目を覚まさないが、その表情は幸せそうだ。
「ピピィの事、守ってあげなさいよ。」
「ああ。」
どんな事があっても、彼女を傷つけさせたりはしない。
今回にきて、何故村に人間が来たのか、そのわけが少しだけ判明しました。
ですが、何故人間がこのような事を行っているのか。
それはまだわかりません。
今後少しずつ明らかになっていくのでしょうか。
次話は明日の0時に上げる予定です。
少しでも面白いと思って頂けたらなら、
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