33 夜戦決行 後編
『グイル…』
『…貴様に名乗った覚えは無かったんだがな…。よく覚えている。』
よりにもよってこの男に襲撃がばれてしまうとは。
__いや、この男だからこそというべきか。あの時もグイルは場の状況を冷静に見極め、そして判断していた。一番の障害である奴を奇襲によって排除出来なかったのは痛い。
ナイフで牽制しつつ、グイルに勘づかれないようメイン画面を開き武器スロットから装備を変更する。
『闇夜に紛れての奇襲、そして化犬を使っての陽動、なかなか考えている。ストーティスが戻ってこない事をみると、奴の尾行はバレていたということか。…奴はああ見えてそこそこの腕前だったんだがな。それに気付くとは。あの化犬のせいか、それとも___』
グイルは鋭い視線をこちらに向ける。隙きをみせれば即座に切りかかってくるだろう。
『__貴様、いったい何者だ。』
グイルの問いかけには答えず無言で牽制する。
『あの魔道具、離れた距離からの攻撃を主としたものであろう。扉を挟んでの攻撃、なかなかの破壊力だ。しかし範囲は狭く一点突破の法撃、その性質は弩とさして変わらぬ。距離さえ潰してしまえば、どうということはない。』
グイルは正確に銃の特性を掴んでいる。洞察力といい判断力といい、そして未知の武器を持つ敵に臆することなく向かえるその胆力、かなり実践慣なれしている。
この狭い室内、大きく後ろに下がり距離を取ることもできない。ハンドガンによるアドバンテージは完全に潰されている。
『しかし、その魔道具は恐ろしく強力だ。初見であればまず回避は不可能であろう。そのような魔道具の存在は聞いたこともない。貴様それをどこで手に入れた。』
隙きを伺うが、グイルは油断をみせない。
『応える気は無し、か。まぁ良い。貴様を捕らえ本国へ連れて行く。そうすれば嫌でも口を割るだろう。』
その物言いに違和感を覚える。こいつらは今回の狩りの為に集められため傭兵の様な者だと思っていたが、今のグイルの発言は明らかにおかしい。
『お前 傭兵 違う。 国の 兵士…?』
グイルの眉がピクリと動く。
『…やはりただの獣人ではないようだな。大した洞察力だ。尚更逃すわけにはいかん。』
グイルは正面を構えたまま、素早く剣を突き刺してす。
突きを避ける為横からナイフで払いのけるが、すぐさま剣を引きそのまま横払いを繰り出す。それをバックステップで躱すが、既にそこは壁であり追い詰められる。
左からの横切りをナイフで受け止める。グイルは片方の手を剣から手放し、ナイフを持った右手首を掴んでくる。
『これで逃れられまい。』
ナイフを持った腕を封じられ、抵抗する手段がない。
そう思ったのだろう。
馬鹿野郎が
グイルはやってはいけない間違いを犯した。
ナイフを離しすぐさま右手首を返し相手の左袖口を掴み引き絞る。
そのまま相手を押しやり足を払い体勢を崩す。
足を払われたグイルはよろけるか、完全な足払いではないので転げるようなことはない。
ほんの少し体勢が崩れただけだ。
しかしそれで十分。
体勢を崩したグイルに対し、掴まれている腕を内側へ回すように返し、相手の腕を脇で挟む。その勢いのまま相手に密着し相手の腰を払う。そして脇で相手の腕を挟んだまま、勢いよく相手を地面へと投げつける。
地面に投げつけられた瞬間グイルの顔が苦痛に歪む。
脇固め。
柔道の試合では、脇固めをしたままの投げは反則技であり禁止されてる。
相手の関節を破壊する危険な技であるからだ。
しかしこれは柔道の試合ではない。
躊躇うことなく技を仕掛ける。
確実に腕を破壊した感触が伝わってきた。これでもう腕は使い物にならないだろう。
戦いの場で柔道家の腕を掴むなど素人は決して行ってはいけない。
グイルはこちらが魔道具による遠距離攻撃が主体の相手だと思い距離を詰めたのだろう。
そもそもの前提条件が間違っている。
____俺は柔道家だ。
脇を固められいるグイルは反対の手に持っている剣を離すと、懐に装備していたナイフを手にし、コチラの身体目掛け突き刺してくる。極めている腕を離しナイフを避けるとグイルは素早く身体を起こし距離をとる。
ナイフを構え、こちらを見据えるその顔には汗が滲んでいる。しかし、腕を破壊され、痛みが身体を襲っているだろうに、少しも戦意を失ってはいない。
『…なかなかの技だ。貴様の戦力、見誤っていた…。 だが、次はない。』
ナイフを持つ手に力を入れて構える。
『捕らえるつもりでいたが、こうなっては仕方がない____殺す。』
奴の腕を破壊できたのは奴が油断していたからだ。こちらが接近戦が出来ないと思っていたからこそ不用心に腕を掴んで動きを封じようとしたのだ。しかし、そんな行動はもうとってこないだろう。先程とは違い、明らかに殺す為の攻撃を仕掛けてくるはずだ。
組んだ状態ではこちらが有利だが、ナイフ戦ではあきらかに分が悪い。グイルが有利である。それは片腕が破壊された今でも変わらないだろう。
ホルスターから銃を取り出し、その銃口をグイルへと向ける。
グイルはすぐさま距離を詰め、そして身体を捻り射線上から身をそらす。
『それは喰らわん!』
銃はその性質上、銃口が向いている場所にしか弾を撃つことが出来ない。いくら弾速が早くても、射線上に的が無ければ当たることはない。
グイルはこの短期間でその性質を見抜き対応してきた。
恐ろしいまでの対応力。
一流の戦士といっていいだろう。
先ほどと同じ様に身体を反らしたことで、攻撃は当たらない。
そう考えているだろう。
事実その身のこなしから射線上に奴を捉えることが出来なかった。
しかし、先程とは条件が異なっていることに奴は気が付いていなかった。
奴が身を反らすも関係なく、その引鉄を引いた。
弾は奴の顔の横で発射され、当たることなくそれた。
先程まではP226xハンドガンを使っていた。
9mmの弾を使用する比較的反動が少ない銃だ。
しかし、今撃った銃は違う。
M500xリボルバー。大口径の弾を使用するこの銃は、撃った時の反動が大きく、慣れない者が撃つとその衝撃から使用者の手首を痛めてしまう程だ。マズルフラッシュはその大口径に相応しいもので、凄まじい発砲音はもはや爆発となんら変わらない。
そんな凄まじい衝撃を発する銃を顔のすぐ横で撃ったらどうなるか。
グイルは片膝を付き動きを止めてしまう。
その耳からは血が流れており、発砲時の衝撃の凄まじさを物語っている。
爆風によっておそらく鼓膜は破れているだろう。
三半規管はグチャグチャなはずだ。
もしかしたら衝撃で脳が揺れているのかもしれない。
必死に体勢を整えようとしているが、上手く身体を動かすことが出来ないでいる。
震える足を必死に抑え、なんとか立ち上がろうとしている。
こんな状況になっても決して諦めないその姿勢に、敵ながらも尊敬に値する。
そんなグイルに対し照準を定める。
「……ᨀᨘᨔᨚᨁ…」
部屋に爆音が響き渡り___一つの命の灯が消えた。
――――――――――
家の外に出てクー・シーの元へと足を運ぶ。
そこには複数の男達が横たわっていた。
後方からクー・シーを援護する手はずであったが、助けは要らなかったようである。
「こっちも終わったみたいだね。」
「ガルルガルガル ガルグルゥ」
わかっていたことであるが、クー・シーの身体能力は相当なものだ。
日本にも熊などの猛獣がいたが、その比ではない。
銃で抵抗したとしても無事ではすまないだろう。
「ガルルルゥ グルル ガウガル グルガル」
「間一髪だったよ。相手が油断していたから何とかなったけど、そうでなければどうなってたか…。」
本当に紙一重であった。
もしもう一度対峙したならば、恐らく倒されいるだろう。
今回の戦いでは、こちらの弱点が目に見える形で明らかとなった。それらについては、今後対策していかなければならないだろう。
足元に転がっている男たちを見下ろす。まだ二名程息があるようだ。その男たちに向かって銃を構える。
「ガルル」
情報を聞き出さないでいいのかと聞いているのだろう。
「ああ、問題ない。」
拷問して話を引き出したとしても、大した情報は得られないだろう。偵察の男と同じで、グイルに集められただけのメンバーであろう。唯一情報をもっているグイルは、たとえどんな手を使っても、決して口は割らなかっただろう。そしてそのまま生かしておくには奴はあまりにも危険すぎた。
倒れている人間にそれぞれ銃弾を撃ち込む。
マップからは全てのマーカーの表示が消え去った。
いや、その表現は正確ではない。
敵対表示である赤マーカーは全て排除した。
それが正しい言い方だろう。
マップには今だ一つのマーカーが残っている。
離れた所に一つあるそのマーカーは敵対を示す赤色ではない。
そのマーカーの所へ向かう。
そこには、焚き火を囲っている一人の人物がいた。
その者の隣へと近寄ると、隣へと腰を下ろす。
『… 終わったみたいだな。』
『… ああ。』
その人物はこちらを警戒するでもなく焚き火に木をくべている。
『何故、 一人 ここに。』
こちらの問いに対し、相手は不思議そうな顔をして応える。
『やつら人間は大抵そうだろう。獣人と一緒に居る方が珍しい。』
そう答えた男__猫獣人のガルスは、何故そんなことを聞くのだと言いたげな表情をしている。なるほど、奴ら人間はあまり獣人と一緒には居たがらないらしい。それでガルスは一人ここで暖をとっていたのか。
ガルスと最初にあった時、彼は森を案内するために雇われたと言っていた。そして別れ際、人間たちのマーカーは赤色に変化していたが、彼のマーカーだけは変わらずそのままの色であった。そしてこの夜襲の直前にもマップで確認したが、やはりひとつだけ色が異なっていた。彼の位置はグループから一つだけ離れており、本来であれば孤立した相手から始末するのが奇襲の常套手段だが、敵対表示ではなかったため、後回しにしたのだ。
『グイルは相当な使い手だと思っていたんだが…。まさか倒されるとはな。』
『グイル 何者 だ』
『さあな。だが、ただの傭兵だとも思えん。もしかしたら以前は何処かに所属していたのかもしれんな。時折そんな雰囲気を感じ取れた。』
『狩り 理由 知ってる か。』
『…いや、俺が最初に聞かされていたのは、森の中を案内しろというものだけだ。狩りの事も、後になって知らされたぐらいだ。だが…』
ガルスはクー・シーの方を一瞥すると、また直に焚き火の方へと顔を向ける。
『奴ら、どうやらあの犬そのものを狙っていた訳ではなさそうだ。あの犬というより、むしろ妖精や精霊といったものに近い存在を標的としていた風だ。そっちの妖精犬にも意を向けていた。』
『クー・シーも 狙って た?』
『いや、流石に無理だ。戦力が足らないということで、一度引き、後に多くの部隊を連れてて捕獲する作戦を計画していた。』
「ガルル! ガルグルゥ ガルルグルゥ」
鼻息荒くクー・シーは唸り声をあげる。
自分を標的にするなど笑わせるなといった感じだ。
『何故 妖精 存在 狙う』
『先程も言ったが、俺は何も聞かされていないから分からんさ。さっきの話も奴らの会話を横で聞いていたから知ったに過ぎん。』
ガルスはそこで一旦言葉を止め、こちらに顔を向けてくる。
『……あの犬は、無事か?』
『…ああ。 怪我 治った』
『そうか…』
ふと笑ったように見える。どうやら彼は犬の容態を気にしていたようだ。
『さて…』
ガルスは立ち上がり、側に置いてあった武器を手に取ると、ゆっくりと構える。
『俺から話せる情報はコレぐらいた。___流石にお前ら二人と対峙して勝てるとは思っていないが、それでも抵抗ぐらいはさせてもらうぞ。無駄に命を散らしたくはないんでな。』
『ガルス 勘違い する』
『__何?』
『俺 ガルス 戦う ない。』
ガルスは武器を構えているが、そのマーカーはなんら変わること無く白のままだ。つまり敵ではないのだ。こちらから敵対しても意味がない。…というか敵でもない相手に襲いかかるとかどんな危険人物だよ。
『…見逃すというのか。』
『違う。 元から 敵違う。 戦う 意味ない。』
訝しげにこちらを見ていたが、しばらくして、納得したのだろう。武器を収めて焚き火の前に腰を下ろす。
『__不思議な奴だ。妖精と共に居るだけではなく、お前という存在…。本当に何者だ。』
『さあ、 な。』
しばらくの間、二人で焚き火を眺める。木が割れる音が森の中静かに鳴り響く。
『…さて__』
その場で立ち上がる。
何時まこうしていも仕方がない。
やるべき事は終わり、聞ける事も聞いた。
『ガルス これから どうする。』
『どうもしない。俺の仕事はあくまで森の中での案内だ。夜が明けたら町にもどるだけだ。』
『そうか』
そのまま言葉を交わすことなくその場を後にする。
ガルスとは別に親しい仲というわけでもない。無駄に別れの挨拶を必要はない。
グイル達が居た小屋へと戻り奴らの荷を探る。大した情報は得られないだろうが、それでも全く無駄ということはないだろう。ついでに奴らの武器や防具といった装備、そしてアイテムなども回収する。
「これで全部終わったな。 それじゃ、みんなの所に帰ろう。」
「グルル」
さて。早く帰って皆を安心させてあげるとするか。
今回本格的な戦闘になりましたが、実はかなりギリギリな戦いでした。
本来ハンドガンは超接近して使うものではありません。
作中でも語りましたが、もしグイルがシュンの能力を正確に把握していたら、一方的な戦いになっていたでしょう。勝てたのは運要素が強かったです。
戦いでは何よりも情報が大切です。
シュンはその事を身にしみて分かったと思います。
彼は今後どうするんでしょうかね。
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