32 夜戦決行 前編
暗い森の中、クー・シーの背中に跨りながら移動し、これからどう対処していくべきかを考える。
位置は常にマップで把握しているので、コチラが有利である。それに暗闇に紛れての奇襲となれば、かなりのアドバンテージとなる。
しかし、それでも決して楽な奇襲ではない。それはこのマーカーを見れば誰であろうとそう思うであろう。
現在マップに表示されているマーカーの数が9増まで増加している。
もちろん見間違いなどではない。現実として表示されているのだ。
これは恐らく、増援、もしくは別部隊が合流したと考えるべきだ。
それらのマーカーは一つを除き全て赤色に染まっており、争いを回避することは不可能である。
「まさか、倍以上に増えるとは…。でもだからこそ、こちらから出向いて正解だったな。この数に攻められでもしたら、とてもじゃないがエインセルたちを無傷で守るのは難しかっただろうね。」
「ガルルゥガルガルル グルルゥ ガルルガルグルゥ」
「意気込みはいいけど、何も考えずに突っ込むのは無しだよ。わざわざ危険を犯す必要なんてないんだから。」
敵を倒しました。こちらも全滅しました。それでは話にならない。
死んだらそれまで。復活はしない。
FPSでのチーム・デスマッチのように、無謀な特攻は出来ない。
だからこそ、より慎重に、考えて行動しなければならない。
「ただただ無闇に突っ込むのは絶対に駄目だ。先ずは確実に処理出来る所から少しずつ敵を減らしていくよ。」
「ガルルゥ ガルガルガルゥ ガウがる ガルガルガルゥ。」
人間など我の敵ではない。正面から食い破れば良い。
「それは駄目、リスクが高すぎる。確実に敵を倒すために、言うこと聞いてもらうよ。」
血気盛んなクー・シーをなだめるのに苦労する。彼は仲間の犬が傷つけられたことに相当頭に来ているようだ。だが、無駄な怒りはマイナスでしかない。冷静になってもらわねば困る。
相手の人数が、コチラよりも遥かに多いので、戦力を無駄にすることは絶対に出来ない。クー・シーは高い身体能力をもっているので、それを生かさなければならない。
「いい? こちらの合図があるまで、絶対に突っ込まないでね。俺はクー・シーと違ってそんな強くはないんだから、人間相手に無双なんて出来ないよ。」
「ガル…。 ガルルグルゥ ガルガルガルガウガル ガルガルグルガル。」
なんともいえぬ表情でパーティーについて言葉を漏らす。やはりパーティーを組む感覚に違和感を感じるのだろう。
クー・シーには移動の途中にパーティー申請を出していた。行動を共にする者としてパーティーを組まないのはいささか不安であった。それ以前に、やはり言葉が伝わらないというのはかなりマズイ。毎回会話ごとにミミに訳してもらう、というわけにもいかない。そんな二度手間、戦いの最中無駄でしかない。だからこそパーティーを組んだのだ。
「でも慣れてもらわないと困るよ。それに、一緒に組んだお陰でお互いの位置を正確に把握することが出来るんだし、だからこそ作戦が重要になってくるんだよ。」
「ガル ガルガルゥ」
「ありがとう。」
これから行うのは強襲作戦だ。
失敗は許されない。
気を引き締めていこう。
――――――――――――――――――――
木造の平屋の家が森の中に建てられている。
家の中に六,家の外に二、少し離れた所に一、マーカーが表示されている。
家の外にある二つのマーカーは見張りであろう。
扉の前に一人、裏口一人、注意深く森を監視している。
家の中にいる人間たちは今の所目立った動きはしていない。しかし、全員が都合よく寝ているということはないだろう。バレることなく行動するのは難しいが、それでもやらなければならない。
家の裏口に居る人間に注意を向ける。
腰には剣が差してあり、すぐ脇には槍と弓矢が置かれている。
松明の明かりを頼りに、森の中を警戒している。
夜中にも関わらず、怠慢ではないその監視する姿勢には好感がもてる。だからといって見逃す理由にはならないが。
警戒している男の側面から、物音を立てぬよう静かに距離を縮める。
流石にゼロ距離まで接近するのは不可能であるが、そこまで距離を縮める必要はない。森の切れ目、こちらの身体を、木によって視線から遮ることのできるギリギリまで近寄る。距離にしておよそ15M。
ゆっくりと照準を男の頭に合わせる。
未だ男はこちらに気が付いていない。暗闇の中森を観察するというのは、それほどに難しいのだろう。
引鉄を引く。
放たれた銃弾は逸れることなく男の頭部に着弾した。
頭を撃ち抜かれた男は糸の切れた操り人形の様にその場に崩れ落ちる。
辺りを警戒しながら急いで男の傍による。
松明を足で蹴飛ばし家から離す。
火が家に燃え移っては隠密の意味がない。
男を森の中まで引きずり、その遺体を隠す。
マップを確認するが、中の人間にバレた様子はない。
無事見張りを処理出来たことにほっと一息つくが、安心するのはまだ早い。
家の中には未だ六人、扉の前に一人いるのだ、それらを全て処理するまで気を抜くことはできない。
静かに扉を開け、家の中に侵入する。入ってすぐの部屋には人間の影はない。
家の間取りはマップで確認することが出来る。
手前右の部屋に二人、その左の部屋に三人、玄関のすぐ傍の部屋に一人。
部屋に侵入するるが未だ気付かれた様子はない。
一人離れている奴を処理したいが、玄関のすぐ近くなので、見張りに気付かれる可能性があるので無理は出来ない。
物音を立てぬよう注意しながら部屋の奥まで進み、注意深く耳を済ませ各部屋の様子を確認する。三人部屋からは話し声が聞こえてくる。この部屋の人間は起きているようだ。すぐ隣の二人部屋からは、話し声は聞こえてこない。だが、寝ているとは限らない。
流石にこのまま気付かれずに、全ての敵を排除することは不可能だ。
《《クー・シー、どうやら中の人間を気付かれずに倒すのは難しいかもしれない。だから合図を送ったら、陽動を頼む。》》
《《ガルガルゥ》》
パーティーチャットの要領で離れた所にいるクー・シーにメッセージを飛ばす。
ゲームではおなじみの機能だが、この世界でも問題なく使用することが出来る。
銃を握る手に無駄な力が入らないよう、心を落ち着かせるよう深呼吸をする。
マップを見ながら、敵の位置を何度も確認する。
扉に手をかけ、鍵が掛かっていないかを確認する。
鍵は掛かっていない。
素早く中に入り、銃口を片方の男に向ける。
「ᨊᨈᨘ!?」
中にいた男は驚いた様子でこちらに顔を向けてくる。
やはり中の人間は起きていたようだ。
胴体に二発、さらに照準を頭に向け続けざまに二発撃ち込む。
突然部屋の中に侵入してきた狼顔の男に、残りの男が驚きの声を上げるが、それも一瞬で、すぐ近くに置いてある武器に手を伸ばし反撃しようと試みる。しかしそれよりも早くその男に照準を合わし、数発撃ち込む。胴体に四発、頭部に二発着弾し、男は反撃する暇もなく床に崩れ落ちる。
マップを見ると隣の部屋のマーカーに動きが見られた。恐らく今の戦闘で異変に気が付いたのだろう。やはり全く気付かれずに行動するのは無理であったか。しかし、何が起こったのか正確には把握出来ていないだろう。
素早く部屋の中を移動し、扉の裏側に身を隠す。
《《 クー・シー! 今だ!! 》》
合図と共にクー・シーが咆哮する。その凄まじい雄叫びに家がわずかに震える。
突然の出来事に人間達も驚きが隠せないのだろう、マーカーの動きが慌ただしくなる。
クー・シーの登場により人間の意識はそちらに向かっているであろう。隣の部屋の二人が玄関の方へと向かってく。そして残った一人がこちらの部屋へと向かって来る。その動きを扉の後ろに身を潜めながらマップで確認する。
「ᨕᨚᨆᨕᨙ! ᨕᨗᨆᨕᨚᨊᨚ… ᨊᨊᨉᨈᨚ…」
部屋に入ってきた男は部屋の中の惨状に声を失う。あまりの光景に動きが止まっているようだ。そんな棒立ちの敵に対し、マップで位置を確認しながら、扉の後ろから銃を構え、狙いをつける。そして扉越しに銃弾を撃ち込む。正確な狙いを付けることは出来ないが、当てるだけならば造作もない。
いくらサイレンサーを付けているとはいえ、扉が破壊される音までは消し去る事はできない。しかし、外の喧騒によりその音はかき消されてる。
扉の後ろから姿を出し、男に銃口を向ける。男は血だらけながらまだ息がある。少なくない弾を扉越しに撃ったが、やはり急所に当てることは難しかったのだろう。それでも半数以上は命中しており、著しいダメージを追っている。
「ᨁᨖ_ ᨕᨚ ᨕᨚᨆᨕᨙᨖ__」
男の言葉を聞くことなく頭部に銃弾を撃ち込む。
今だ敵がいるのに、無駄口を聞いている暇はない。
残りのマーカーは四つ。
家の外でクー・シーと対峙しているマーカーが三つ、家の中に一つ。
クー・シーには無理に戦おうとせず、距離をとって牽制するように頼んでいる。
何も正面きって戦う必要はないのだ。
クー・シーはその躯体から凄まじい威圧感があり、到底無視出来るものではない。そのため、敵はどうしてもクー・シーを警戒せざるを得ない。注意が一箇所に集中している間に自分が後方からアタックする。
部屋の窓から外を確認する。男が三人クー・シーと距離をとって対峙している。やはり、人間側からは向こう見ずに突っ込むということは出来ないのだろう。剣に盾持ちが一人、槍が一人、弓を構えているのが一人。
弓使いがクー・シーに向かって矢を放つ。しかしその矢はクー・シーに当たることなく森に吸い込まれていく。クー・シーはその身体能力の高さから、軽やかな動きで矢を躱している。剣使いと槍使いが、間合いを図りながら、そして弓使いを守るような位置で陣形を組んでいる。
剣使いや槍使いより、警戒すべきは弓使いだろう。遠距離からの一方的な攻撃は、たとえ当たらないとしても面倒だ。
援護射撃をするため、窓から弓使いに照準を合わせる。クー・シーに気を取られているので、後ろが完全に無防備である。
弾のリロードを終え、弓使いに照準を合わせようと銃を構える。
直後その照準を後ろへと向け、そして扉に向かって装填された弾を打ち尽くす。直にリロードを行い、再び銃を構え扉へと照準を合わせる。マップで確認していたマーカーの内の一つ、家の中に表示されていたものがこちらの部屋へ向かってきていた為、背後を取られる前に先制を打つ為に扉越しにマーカーへ向かっての発砲である。
マップを確認するが、扉の向こうのマーカーは今だ表示されている。今の射撃では仕留めることが出来なかったのだ。
何があっても対処できるよう警戒しつつ、扉へと近づく。
扉へ手を伸ばした瞬間、物凄い衝撃音と共に目の前の扉が粉々に砕け散る。砕けた破片が幾つも飛び散り、その破片で身体に浅い傷がつく。その幾多もの破片の中、動く影を視界に捉える。反射的に後ろへ飛び退く。瞬間、鋭い閃光が元の場所の空間を切り裂く。直に銃を構え影へと銃口を向ける。狙いをつけた瞬間それは銃の横へ身体を反らし射線から身体を外し、勢いそのまま身体ごとぶつかるようにして距離を詰めてくる。
『やはり魔道具であったか』
距離を詰められ銃を構える空間が潰される。このままでは弾が当たらない。
相手はこの密着状態から攻撃するため、肩でこちらを押し出し、自信の身体を捻り剣を繰り出す空間を作る。その空間を埋めるような形で下からの斬撃が迫る。
すぐさま銃を手放しベストからナイフを取り出し剣筋へと割り込ませる。衝撃が手に伝わり思わずナイフ手放しそうになるが、既の所で耐えナイフを相手に押し付けるようにして相手の剣を払いのける。斬撃を防がれた相手は一歩後ろへと下がり、剣を正眼へと構える。相手の剣の間合い圏内、しかしこちらのナイフの間合いはあと半歩という位置取りをされ、主導権を相手側に奪われる。
ナイフでは届かない、銃では近すぎる。そんな絶妙な間合いをとりながら相手は油断なくこちらを見据えている。
その男には見覚えがある。
犬を助けたあの時、鋭い視線を向けてきていた男だ。名は確か__
『グイル…』
グイルはその鋭い視線を再びこちらへと向けてきた。
後編は今日の0時に上げる予定です。
お付き合い頂けますと幸いです。




