23 自分自身
「**、***********。 *****、******。」
森から聞こえてくる声は、親しい友にでも声を掛けるかのように、こちらに話しかけてきた。あまりにも自然なその声掛けに毒気が抜けてしまいそうになる。
マップを確認する。マーカーに示されるそれは敵意無しの表示である。しかしこんな深い森の中、こんな夜更けに一人で行動するには些か不自然だ。道に迷ってこちらに話しかけてきた?それにしては声が落ち着きすぎている。それにマーカーはかなり前からこちらを伺っていたフシがある。警戒を解くには不安材料が多すぎる。
「***? ********** ********。」
こちらが警戒する中、それをまるで気にしないかのような雰囲気でさらに近寄ってくる。
透き通るような白い肌に白銀を思わせるプラチナブロンドの髪、そして少年とも少女とも捉える事のできる中性的な容姿は非現実的に思えてくる。しかしその存在は決して非現実などではなく確かに目の前にいる。
そんな彼(彼女?)は少し困ったような表情をこちらに向けてくる。
「************、 *********。」
悲しげな表情を見せてくる彼にどう対処すればよいのか戸惑ってしまう。その容姿や仕草、表情などを見るに恐らく悪意をもって接して来ている訳ではないのだろう。それはマーカーからも見て取れる。しかし、なんて言っているのか理解出来ないので、どう応えればよいのか判らない。
「ピィ、お腹が減ってるの?」
判断に困っていると、ピピィが彼に言葉をかけて応える。
「*********。 ********、**********。」
ほっと胸をなでおろし、安心したような表情をする。
「*********************。 *******************。」
地面に置いてある器を指差して興味ありげな表情を見せてくる。
もしかして、料理に興味があってこちらに接触してきたのだろうか。
確かにこんな森の中では温かい料理にありつくのは大変かもしれない。そんな中こちらが料理を囲っていたから、興味をもって近寄ってきたのかもしれない。まだ完全に警戒を解くわけにはいかないが、料理程度であったらまだ残りはあるし提供しても問題ない。
「…よかったら食べていくか?」
そう応えると、彼は驚いた表情を見せこちらの顔を見つめてくる。
「**?… ***… *****…」
何事かを呟くと、こちらに近寄りさらに食い入るように見つめてくる。
「*****… *********?」
すぐ側まで近寄って来ると、こちらの顔を覗き込むようにして顔を上げてくる。
「…**、 **** **。」
「ピィ、面白い?」
「**、***」
そう言うと彼はピピィの方へと顔を向けてるにこやかに応える。
「******** ********* ***********…」
こちらの顔をさらに見つめてくる。何がそんなに興味を引きつけるのか。その表情はとても楽しそうだ。
ひとしきりこちらを眺めるようにしていたが、それに満足したのか側を離れると、焚き火の前へと移動しそこで温められているスープへと視線を向ける。
「*********** **、****************。」
「ピィ、食べたいの?」
「**。」
何やらピピィと話をしているようである。
話の途中ピピィはこちらに顔を向けると、彼の事を伝えてくれる。
「シュン、この子もごはん食べたいみたいなの。一緒に食べてもいい?」
どうやら、本当にスープを食べたがっていたようだ。彼(彼女)の存在は気になるが、悪い子ではないようだ。
「うん、そうだね。それじゃあ一緒に食べようか」
「*、**?」
「ピィ!一緒に食べましょうって。」
「****? *****」
嬉しそうに笑う姿はとても愛嬌があり、その表情をみてしまうと、変に警戒しているのが馬鹿らしくなってくる。そんな気を起こさせるには十分であった。
「なんだかな… 自分でもめっちゃ甘い気もするけど…。」
まぁ、ピピィもそこまで警戒していないみたいだし、飯ぐらいなら構わないか。
新しく器を取り出しスープをよそって手渡す。
彼は受け取ったスープを一口食べると、うなずくようにして微笑む。
「**、****」
時折ハフハフと熱そうにしながらも、美味しそうにスープを口にしている。どうやらお気に召したそうだ。彼が何者かは知らないが、作った食事を美味しそうに食べてくれると悪い気はしない。
「それにしても、この子はいったい何者なんだ。こんな夜更けに一人でこんな森の中に居るなんて。」
ぱっと見人間にも見えなくはないが、その非現実的な容姿からただの人間とも思えない。それに先程から彼が喋っていた言葉だが、人間が喋っていた言葉とは違う気がする。絶対に違うと断言出来るかと言うと、そういう分けではないのだが、なんとなくニュアンスが異なる気がするのだ。
そんなことを考えていると、ミミがなんでもないといった風に応えた。
「別に変でもないんじゃないの?」
「え…、だってこんな小さな子がこんな森で一人でいるなんて、危険じゃないか。」
「別に妖精族なんだから、森の中にいたって普通でしょう。何言ってるのよ。」
「そんな事言ったって危険なことには… … ん?」
彼女は今なんと…
「それにそんな小さな子って、別に子供でもないでしょうに。シュンって変なこと言うのね。」
ミミはおかしな物を見るような目つきでこちらを見ながら、食事を再開する。ミミにとって小さな来客は特別気にする存在でもないようだ。
いや、そんなことは今は問題ではない。
その前に、彼女はなんて言っていた?
妖精だから、森の中にいても普通とかなんとか…。 妖精…?
「…… え? この子って妖精なの!??」
突然大声を出したせいか、ビックリした様子で飛び上がる。
「ちょっと! いきなり大声出さないでよ! 驚いてスープこぼしちゃったじゃないの! もう!」
ミミはジト目でこちらを睨んでくる。
「ご、ごめん! …じゃなくって、ミミ。 この子妖精なの?」
「何よ。今まで気がついてなかったの? 呆れた…」
あからさまに批難するような表情でこちらを睨めつけてくる。そんな顔をされても気が付かなかったのだから仕方がない。
「いや、だって…。妖精ってあの妖精?」
「あのって、他にどんな妖精があるのよ。」
「どんなって…。妖精なんて初めて見たから。」
そう応えると、ミミは溜息をつくような仕草をした後、諭すような口調で話し始める。
「まぁ、シュンはこの世界の住人じゃなかったから仕方がないか。 さっきも言ったけど、その子は妖精よ。妖精といってもいろんな種がいるけど、その子は森に住む妖精みたいだし別に森に一人でいても不思議じゃないわ。 それと、シュンは小さな子って言ってるけど、別に子供ってわけじゃなないわよ。子供っぽい見た目の妖精なんて、いくらでもいるわ。」
ミミからそう伝えられ、改めて妖精の方を見つめる。その姿はやはり小さな子に見える。しかしこのような見た目でも子供ではないという。この世界の妖精ではこれは普通のようだが、やはり日本人の感覚としては、どうしても幼く感じてしまう。
そんな幼くみえる妖精はというと、こちらを驚いた様子で見つめている。
いったい何をそんなに驚いて…、ああ。そうか、しまった。
転移者な自分にとって、妖精という存在があまりにも珍しかったため、不躾ながら彼のことをじっと凝視してしまっていたようだ。マナー違反である。そんなこちらの無作法に驚かせてしまったようだ。
「あ、ごめん。あんまりジロジロ見られたくないよね。驚かせちゃってごめんね。」
「まったく、シュンは本当に気配りが足りないわね。」
「そんな事っ!… いや、初対面の人をジロジロみたら、そりゃデリカシーないって言われても仕方がないか… 面目ない。」
確かに配慮にかけていたのかもしれない。
そう思い妖精に頭を下げ謝罪する。
「***…、*** ***** ********」
なおも驚くような素振りをみせ、こちらに喋りかけてくる。その様子はなんとも妙で、もしかしたら、こちらの無作法に驚いていていたわけではないのかもしれない。
「えっと…。 ミミ、彼はなんて言ってるんだい?」
「その子、シュンが私と話してるから驚いているのよ。普通は精霊と会話なんて出来ないでしょう。だからシュンのことが珍しいんじゃない?」
なるほど、そういう事なら納得できる。この世界では精霊と会話できる人物は多くないみたいなので、その珍しさから驚いたのだろう。しかし、精霊と会話していることが物珍しかったというのだとしたら…。
「そんな風に言うってことは、彼はミミの事が視えているのか。」
「まぁ、妖精なんだから視えてても別におかしくないんじゃないかしら。」
「妖精ってみんな精霊の事が視えるのか?」
「そういう訳でもないわよ。妖精の種類によっても視え方はまちまちみたいよ。はっきりと視える子もいればまっやく視えない子もいるし。」
「そうなのか。妖精といっても色々なんだな。それで、ちなみにそこの彼は?」
「まぁ、視えてるんじゃないかしら。でも様子から察するに、言葉までしっかりと聞き取れるって訳でもないみたいね。」
ミミとの会話から妖精というものを少し理解できた所で、改めて彼の方を見る。
彼は相変わらずこちらに顔を向けているが、今は驚いた表情というよりかは、にこやかに、そして興味深そうな顔をしている。
「**、*********。」
器を下に置き、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
妖艶な表情をその笑顔に携え、どこか現実的でないその美しい顔を寄せてくる。
顔と顔が接触するのではと思える距離にまで近づくと、こちらの顔を撫でるようにして触れてくる。
「****** ******?」
彼の言葉をミミに教えてもらい、言葉に詰まる。
自分が何者か。
他の世界から転移してきた自分はいったい何者なのか。
何故このような事になったのか。
こちらが知りたいぐらいである。
こちらが応えに詰まっているとピピィが彼に話しかける。
「ピピィはね、ピピィって言うんだよ! それでね、こっちはシュン!ピピィとシュンはおともだちなんだよ! それでね、この精霊さんはミミって言うんだよ!」
ピピィは楽しそうにこちらの自己紹介を始めた。
「ピピィ達はね、とっても仲良しなんだよ!」
そう応えるピピィはとても嬉しそうな表情だ。
「ピィ、あなたのお名前はなんて言うの?」
こちらの紹介が終わったピピィはそう言って彼のに名前を尋ねる。
そう言われた彼は、ハッと気がついたかの様な顔をする。
「***********、************。」
彼はヒラリと立ち上がると、手を腰に当て優雅にお辞儀をしてみせる。容姿が整っていると何をしても様になるようだ。
「***自分自身**。 ************。*************。」
彼は優雅な佇まいで自己紹介を始める。
彼の言葉を訳してもらうと、やはり妖精で間違いないようである。
しかし、そんな自己紹介の中で、気になる事があった。
今彼は、自身のことを何といって自己紹介した…?
自身のことを「自分自身」といって紹介しなかったか。
これが妖精が自己紹介する上で持って回った言い方だとしたら、ただの変な言い回しなのだろう。しかし紹介された時、「自分自身」という言葉なのだが、何故か自分は理解することができた。
普通の言葉などは意思疎通の際に弊害が起きる。しかし、そうでない場合がある。個人の名前などは、そのまま聞き取れるのだ。
「自分自身」が名前?
なんだが哲学的な話しではあるが、この場合は違う意味を持つ。
元の世界でも同じ様な言い回しの話が存在していたのを思い出す。
海外に伝わる伝承で、イングランド北東部に住む少年の元に、ある少女が現れたという。
少年は少女に名前を聞くと少女は「自分自身」と応えたのだ。
実はその地域の方言でエインセルという言葉があり、意味は「自分自身」という。
少女は自分の名前をエインセルと教えると、少年は彼女が言った「自分自身」に対して、ボクも自分自身だよと自己紹介したのだ。
今回の自己紹介で彼は自身を「自分自身」と言った。
ということは彼は…
「もしかして、彼は自分自身なのか。」
エインセル、先も言った通り海外で伝わる妖精の名。
彼はそのエインセルという妖精なのか。
きっとエインセル(自分自身)という言葉も、自分に判りやすいよう元の世界の存在に当てはめ適度な言葉で訳されているのだろう。
しかし、それにしても、この自動に訳される仕組み、いったいどうなっているのだろう。今回はかなりややこしぞ…。
「ってか、エインセルだとしたら 彼 じゃなくっ 彼女 か!」
女性に対してなんとも失礼な思い違いである。
しかしこの容姿では間違えるのも仕方がない。だからといって言い訳にはならないだろうが。
「自己紹介ありがとう。エインセルでいいのかな。俺はシュンで名前だ。よろしく。」
彼女に向き直り、改めて自己紹介をする。
言葉は伝わらなくとも、彼女も自己紹介されたと判ったのか、優雅にお辞儀する。
「**。***** ***** シュン。」
こうして彼女、エインセルとの自己紹介は、混乱しながらも、なんとか無事済ませることが出来たのだった。
ここまでご拝読頂きありがとうございます。
今回新たな人物が登場したのですが…
会話書くのが面っっ倒くさかったーー!
ルビふるのあれ疲れる!!
でもあれこれやるのは楽しかったです。
彼女は今後どう主人公たちと絡んでくるのか、それともその場だけのキャラなのか、乞うご期待!
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みなさんよろしくお願いいたします。




