18 排除
引鉄を引いた。
なんの躊躇もなく。
続けざまに2発、計3発を一呼吸の間に撃ち放つ。
こんなにも引鉄が軽いのかと自分でも驚くほどそれは軽かった。
人を撃つ。
本来であれば躊躇われるものであり、決して軽いものではない。
撃つまではそう思っていた。
でも実際は違っていた。
撃った感触はある。
反動や衝撃もそれなりだ。
ただ、それだけだ。
放たれた弾丸は外れることなく全弾頭部へ命中する。数メートル程度しか離れていない距離だ、外すなどありえない。映画やゲームなどでは頭を撃たれると勢いよく破裂したりするが、実際はそんなことにはならず頭部は形を留めている。
急所である頭を撃ち抜かれた男は頭に小さな穴を開けその場へ崩れ落ちる。オクオクを切り捨てようとしていたリーダー格の男だ。一瞬で頭部を撃たれたのだ。自分が攻撃されたことすら認識していなかっただろう。
突然の破裂音と共にリーダー格の男が崩れ落ちた事に、周りにいた男たちが唖然としている。一体何が起こったか理解出来ていないのだろう。
マヌケなド素人が。
攻撃されたというのに、間抜けにも棒立ちのままその場を動こうとしない。今の状況に思考が追いついていない。あまりにも無防備だ。だからといって何もしないでいいという理由にはならない。初心者ですらもっとマシな動きする。
そんなことを頭の片隅で考えながら主な思考は別のことへと集中している。
冷静に次行うべき事を考え、身体はすでに行動していた。
手前左にいた男に対して蹴りを入れ後ろへ吹き飛ばす。あまり距離が近すぎると銃が有効でない場合があるからだ。蹴飛ばされた男はバランスを崩し尻もちをつく。そこに隙かさず二発の銃弾を撃ち込む。そして一歩近づきそこから更に二発銃弾を頭部へ撃ち込む。
すぐさま後ろへ向き直る。後方でこちらを囲んでいた男へ照準を向ける。やっと理解が追いついたのか男が動こうとするが、行動するのが遅すぎる。男が動くよりも先に引鉄を引く。胴体に二発、頭部へ二発。崩れ落ちた男はすでに物言わぬ物になっていた。
引鉄を引きながらこの状況の事を考える。
普通であれば人を撃つのに躊躇いなどが生じるはずだ。それに命を奪っているというのに、そこに感情が揺さぶられることがない。至って冷静だ。自分はこんなにも冷静に人を殺すことができる人物だったのか。
しかしそんな考えの中、主な思考はすでに別の事へと向かっている。
振り向いた先、右前方にいた男に目線を移す。
男はピピィを掴み上げていた。
リーダー格の男から手渡され、ピピィを今も手放していなかったのだ。
そんな男の元へ近づき腕を取る。
腕を掴まれた男はその腕を振り払おうと掴んでいたピピィを手放す。
ピピィを盾にされたら面倒なことになっていたが、この男にそんな事をする余裕は無かったのだろう。必死に掴まれた腕を振りほどこうとする。そんな無防備な男の首元を素早く掴むとそのまま身体を捻り、相手の身体を腰のあたりに乗せ、後ろへ足を払って男の身体をそのまま投げつける。
払腰
柔道の基本投げの一つだ。
突然投げられた男は受け身を取る事もできず地面へと叩きつけられる。
何も出来ずに地面へ投げつけられた男に銃を向け、頭部へ銃弾をニ発撃ち込む。
この間僅か数秒。
洗練された動きで敵を排除した。
何故このような動きが出来たのか不思議でならない。
敵を排除するのに迷いなく。
どのように動けばより的確に、より効率よく敵を倒すことができるかを考え、そして行動する。一連の動きは熟練された者の動きだ。
本来であれば自分にこのような事が出来るはずがない。
しかし、別の考えでは何故迅速に行動できたのか、それに納得する自分もいた。
ゲームだ。
そう考えると、今とった行動に対しての説明がつく。
ゲームでは敵がどう行動するのかを常に観察し考え行動してきた。同じことを何度も何度も繰り返し淀みなくスムーズに動けるように練習してきた。敵より常に先を見据え行動し的確に相手を排除してきた。それらの行動に気負いなどはなく常に冷静に対応する。
今この場で行われた行動がまさにそれであった。
男たちに殴られた時は、まだ現実であった。殴られれば痛みを伴ったし不安や焦りも会った。ピピィや子供ゴブリンが傷つけられた時は怒りや憎しみで頭に血が登っていた。
しかし、拳銃を手にしたその時から、思考が切り替わっていた。
まるでこれがゲームであるかのように、いや、ゲームそのものの感覚でその引鉄を引いたのだ。ゲーム内でいくら敵を撃っても罪の意識などは存在しない。そんな事は当たり前だ。だからそれらと同じようになんの罪の意識もなく敵を撃ち殺した。殺した今でも何かを感じることはない。ただ敵を倒した。それだけだ。ただ敵を倒すためにどう動けばよいか、どう立ち回れた優位にたてるか。効率よく倒すにはどうするべきか。そして実行した。
これは本当はゲームなのでは?
一瞬そう考えたが、すぐさまその考えを否定する。
これはゲームなどではなく現実である。それは紛れもない事実だ。
では何故あのような感覚になったのか。
戦闘をする時、相手を敵と認識し、それらを排除しようとする時、意識が切り替わるのだろうか。
理解が及ばないが、あながち間違いでもないのかもしれない。
なんとなくそんな感じがしてきた。
辺りに静寂が訪れる。
ほんの数秒の間の出来事だったが、もたらされた事実は一変した。
今まさに殺されそうになっていたオクオクや子供ゴブリン、そして捕らえられていたピピィは無事助かった。
「って、突っ立ってる場合じゃない! ピピィ、それに子供ゴブリンも、大丈夫か!?」
助かったとはいえ無傷ではない。
足元に倒れているピピィを抱きかかえる。
未だ意識を失っているが、しっかりと呼吸はしている。
よかった、死んではいない。
ゆっくりとピピィを地面へ寝かせゴブリンの方へと向かう。
彼も気を失ってはいいるが、息はしている。
二人が生きている事にホッと胸をなでおろす。助かってくれた事に安堵する。だが安心するのはまだ早い。傷を負っていることには変わらないのだ。
子供ゴブリンを抱きかかえピピィの側まで運ぶ。そして二人を並べるように寝かせる。
そしてタクティカルベストに収納されているアイテムを取り出す。
救急キット
ゲームでは緊急の蘇生アイテムとして使われるもので、プレイヤーが死亡していない限り体力を一定数回復することが出来るものだった。これはメディックなどの支援職が持っている回復アイテムではなく、全職種が使用することが出来るものだ。救急キットでは体力を全快させることは出来ないが体力を2割程度回復させることが出来る。
この世界ではまだどのような効果がもたらされるか検証していなかったが、恐らく大丈夫であろう。そういった期待を込めて救急キット使用する。
取り出した救急キットから注射器を取り出す。軍用などではこの注射器にはモルヒネやエピペン(アナフィラキシー補助治療剤)といったものが用意されているが、ゲーム内では瀕死の味方に問答無用で打っていたので、恐らく中身は違うのだろう。気付け薬みたいな使い方で使用しても問題ないはずだ。
ゲーム内での回復機能を信じ子供ゴブリンへと注射する。
すると打った直後、子供ゴブリンに反応があった。唸り声を上げた後、表情が和らいだように見える。呼吸も落ち着いたように見える。
注射器をもう一つ取り出し、それをピピィに注射する。
こちらも打った直後、苦しそうな表情だったのが和らいでいくのが見て取れる。
よかった。ゲーム内と同じようにきちんと効果が反映されたようだ。
これで少ししたら目を覚ますだろう。
二人を処置していたらミミが飛びついてきた。
「シュン! シュン! 大丈夫なの!?」
必死な形相でこちらを伺ってくる。
そういえば彼女にも心配をかけてしまったなと思い返す。
彼女はミミのこともかなり気にかけていた。とりあえず危機は去ったと伝えてあげよう。
「ミミには心配かけちゃったな。もう大丈夫だよ。二人にも今治療したからじき目を覚ますと思う。気にかけてくれてありがとう。」
安心したのかホッとした表情を浮かべ、二人の方へと飛んでいく。顔の周りを飛んで様子を見ているようだ。
「ミミ、そのまま二人の様子を見ていてくれないか。」
ミミにそう伝え立ち上がり、拘束されていたゴブリン達の方へと足を運ぶ。彼らも気絶こそしていないが、所々怪我をしている。捕まった時に痛めたのだろう。
彼らにも同じように注射器を打ち治療する。外傷がみられる箇所にはガーゼや包帯で処置を施す。これで大事には至らないはずだ。
「これで恐らくは大丈夫だと思う。もし具合が悪くなったり痛みが酷かったりしたら教えてくれ。」
声をかけた後、言葉が伝わらないことを思いだす。ピピィが気がついたら改めて伝えてもらおう。
『ギャギャ、キャググギギャガヤ』
言葉は分からなくてもなんとなく言いたいことはわかったのだろう。ゴブリン達は処置された箇所を触りながら、感謝するよう言葉を投げかけてくれる。
「さてと…」
一先ず彼らの処置は終わった。しかしまだやることがある。
ピピィと子供ゴブリンを抱え物陰へと避難させる。オクオクとゴブリン達に二人の様子を見ていてもらう。
「ミミ、彼らの事を頼む。」
彼女にそう告げ、この場から移動する。
マップを確認する。
こちらに向かって来る幾つかのマーカーが確認できる。
そう、まだ敵を全て殲滅したわけではない。
安心するのはまだ早い。
先程の笛の音を聞いて引き返してくるのだろう。いや、もしかしたら先程の銃声に気がついたのかもしれない。笛の音とは違い銃声はかなり遠くまで届く。森の草木で音が吸収されるとはいえ、それほど離れていなければ十分伝わってしまうだろう。
森の中へ足を踏み入れる。
これから行うのは森林戦でだ。
先手を取るための行動を開始する。
ーーーーーーーーーー
森に入り、辺りを見渡し地形を確認する。同時にマップを確認しながら常に相手の動きを確認する。敵の総数は八、二人で行動しているのが二組、一人で行動しているのが四。それぞれが個々で村の方へ移動している。この世界の通信伝達事情はわからないが、恐らく携帯電話や無線といった遠距離伝達方法は主流ではないのだろう。もしあるのであれば、村での接触の時に使われているはずだ。ならばいくらでも対処出来るだろう。
身体を隠せそうな茂みを探し身を隠す。そして相手との距離が縮まるのを息を殺して待つ。茂みの中で銃を取り出しサプレッサーを装着する。
サプレッサーはゲームで初期から使用することが出来るアタッチメントであり、転移後でも使用することが出来た。P226xには他にもフラッシュライトなども取り付けることが出来る。
先の戦闘では取り付けていなかったが、今回の森林戦では準備する時間があり、また身を隠しながらの戦闘になるので役に立つだろう。
耳を澄ませながらマップを確認する。
敵マーカーがこちらに近寄ってきた。
右前方20メートルの距離に一人。
射程距離圏内だが、まだ撃たない。
引きつける。
両者の距離10メートル。
茂みから上半身を出し引鉄を引く。
二発、そしてさらに二発、連続で弾丸を撃ち込む。
撃たれた男はその場に倒れ込む。
すぐさま男の元へ移動し、その頭部へ銃弾を撃ち込む。
事切れた男を引きずり茂みの中へ押し込む。
そしてすぐさまこの場を移動する。
マップを見て警戒しながら敵に気付かれないよう移動する。
移動した先でまた身を隠す。
マップで敵の位置を確認する。
敵に気付かれた様子はない。
先程の銃撃で気付かれないか危惧したが、大丈夫なようだ。
マップを見ながら先程の戦闘について考える。
思っていたよりサプレッサーの能力が優れてい事に内心驚いていた。
本来のサプレッサーは完全に音を遮断するという効果はなく、あくまで音を抑えるというものだ。音が出るのでは付ける意味があるのか? という考えをする人もいるが、サプレッサーを付ける意味として、音を出さない事で相手に気付かれないようにする、というものではなく、音を抑えて相手にこちらの位置を特定されないようにする、という効果がある。
撃たれたことに気が付かない。ではなく、撃たれたが何処から撃たれているのか判らない。このアドバンテージは相当なものである。
またマズルフラッシュを抑えるという効果もある。撃った時に排出される火花を抑える事で視覚的にも気付かれないようにするものだ。
先程サプレッサーを装着した状態で銃を撃ったが、自分が思っていたよりも数段音が抑えられていた。当然真横に敵がいれば気がつくだろうが、ある程度の距離ならば恐らく気が付かないだろう。それにここは屋外である。室内であれば音が反響して大きくなってしまうが、これだけ開けた場所である。耳を澄ませて音を聞かない限り反応出来ないだろう。
そんな事を考えながらも、常にマップを確認し、そして不用意に近づいてきた敵に対し銃弾を撃ち込む。先程と同じように倒れた敵を茂みへと隠しその場を移動する。
戦闘をしたら即座に場所を移動する。ゲームにおいて基本的な行動である。
更に一人、同じように排除する。
この世界の住人にとって、銃器による隠密戦闘など未知のものであろう。対処することも出来ずに銃弾の餌食となる。
マーカーの残りの数は五。
そのうちの一人は単独だからこれまでと同様に処理すればいい。
しかし問題なのが残りの四人だ。
こいつらは二人一組で行動している。
これまでと同じように行動しては片方に気付かれてしまう。
より慎重に行動しなければいけない。
マップを確認しながら二人組の側面へ回り込めるように移動する。
二人は数メートル間隔で移動している。
二人がこちらに近づくまで茂みに身を潜ませる。
両者がこちらの射程15メートル内に入ったことを確認。
すぐさま銃の引鉄を引く。
先ずは後ろにいた男に二発撃ち込む。男は唸り声を上げてその場に崩れ落ちる。
前を歩いていた男は後ろの男が倒れた事に気がつく。
振り向いた男は倒れた仲間に視線を向けていて、周囲に目を向けていない。
すぐさま前を歩いていた男に照準を向け銃弾を二発撃ち込む。
撃たれは男は体勢を崩す。そこへ隙かさず二発追加で撃つ。
後ろで倒れた男に照準を戻し、同じように二発撃ち込む。
茂みから出て二人に近づく。
そして倒れている男たちの頭部へ向けてそれぞれ二発ずつ銃弾を撃ち込む。
完全に排除出来たことを確認する。
残り三人
マップを確認し常に敵の位置を補足しながら相手に気付かれないように移動する。
ーーーーーーーーーー
残っていた三人も同様に倒し、全ての敵を殲滅した。
マップを確認するが、敵性を示すマーカーは表示されていない。
苦戦することなく敵を倒せたことに安堵する。
もう少し苦労するかとも思っていたが、杞憂に終わって一安心である。
ここまでスムーズに行動出来たのも、敵の銃に対しての対応力が低く、こちらの攻撃に適切に対処できていなかった事が大きい。もしきちんと対処をしていればこう上手くはいかなかっただろう。
村を襲った人間は全て排除したし、これで当面の危機は回避出来ただろう。
一先ず村に戻ろう。
村に戻ると、隠れていたゴブリン達が集まってきていた。
皆無事だったようで安心した。
無駄に被害が増えないでよかったと心から安堵する。
「ピィっ!」
こちらに気がついたピピィが駆け寄ってくる。よかった、無事目を覚ましたようだ。一時はどうなるかと思ったが、救急キットはゲームと同じように作用してくれたようだ。どの程度の怪我まで回復出来るのかはまだわからないが、今は無事回復してくれただけでも良しとしよう。
「ピィ! シュン、大丈夫? 大丈夫?」
不安そうな表情でこちらを伺ってくる。彼女は攻撃を受けた後気絶していたので、その後どうなったかわからなかったのだろう。
「ピピィ、もう大丈夫だよ。悪い奴らはみんな退治したから安心して。」
今なお不安がっているピピィの頭を撫でながら優しく声をかける。
「もう平気さ。それと、俺がやられそうになってた時、助けに来てくれてありがとう。ピピィのお陰でなんとか助かったよ。それより、あの時奴らに蹴飛ばされたけど、大丈夫かい。痛いところはある?」
「ううん、ピピィは大丈夫だよ! どこも痛くない! シュンは平気? どこか痛くない?」
「ああ、大丈夫だよ。ピピィに助けられたからね。」
こちらが元気だと知って安心したのだろう。ピピィは嬉しそうな顔をして頭を擦り付けてくる。感謝の気持ちも込めて丁寧に頭をなでてあげる。
「シュン、あなた大丈夫なの?」
ミミがこちらに飛んできた。彼女にも色々と不安を掛けさせてしまったな。
「ああ、もう大丈夫だよ。襲ってきた連中は全員排除した。暫くは平気だと思う。」
「そう、よかったわ。でも一人であまり無茶な事をしないでよね。」
「心配かけてごめん。でも大丈夫、無茶なことはしないよ。」
これは別に嘘ではない。無茶なことはしないつもりだ。
今回は上手くいったが、毎回こう上手く事が運ぶ保証は何処にもない。それに拳銃だけでそうそう有利に戦えるとも思えない。所詮は拳銃だ。大した武力にはなりえない。
映画などでは拳銃だけで大立ち廻りをして派手に活躍する場面などいくらでも観れるが、実際はそんなことはありえない。銃弾を相手に当てるには高い技術力が必要であり、弾が当たらない事などザラである。
また殺傷能力もそこまで高くはない。今回使用したP226xに使用されている9mm弾は汎用性が高く様々な銃に使われているが、重火器などと比べるとどうしても威力不足は否めない。事実海外では、興奮した犯罪者に対して10発近く発砲したがそれでも止まることはなく犯罪者が持っていた刃物によって警官が負傷するという事件も起こっている。マン・ストッピングパワー不足である。
今回上手く殲滅出来たのは、相手がこちらに気づくことなく不意を突いて銃弾を撃ち込み、なおかつ確実に頭部を破壊したからこそだ。もしお互い臨戦態勢の状態で交戦していたら違った結果になっていただろう。それに相手が銃という物の存在を知らなかったのも大きな要因だ。もし銃という概念を知っていれば、対処することは容易である。
決して過信してはいけない。そのことを忘れてはならない。
「今回は上手く行ったけど、次も同じように出来るとは限らないしね。安全第一で行くつもりだよ。」
安堵した表情を見せると、ミミは頭の上に飛んできていつもの定位置に腰を下ろす。
彼女にしても今回のことは気が気ではなかったのだろう。いくら自分は相手に見えないから無事だとはいえ、知り合いが傷つくのをただ見ていることしか出来ないのは辛いものだろう。
子供ゴブリンの方に足を運び彼の容態も見る。どうやら彼も無事気がついたようだ。見た感じ重症といった感じではないので、こちらもアイテムが効いたのだろう。
「君も無事でよかったよ。あの時はピピィの為に立ち上がってくれてありがとう。でもあまり無茶はしないでくれよ?」
子供ゴブリンの頭を撫でながら話しかける。内容はピピィに訳してもらっている。感謝された子供ゴブリンは照れくさそうにしている。
ふと子供ゴブリンの事について考える。そういえば彼の名前を知らなかった。お互い言葉が通じないから名前を聞けていなかったのだ。なんともマヌケな話だ。
そんな事を思いながら、ピピィに頼んで彼の名前を教えてもらう。
子供ゴブリン、彼の名前はゴブゴブと言うらしい。
ゴブゴブ、なんともゴブリンらしい名前だ。
「ゴブゴブか。いい名前だね。俺はシュンって言うんだ。改めて宜しくな!」
こちらも名を名乗る。もちろん伝わらないので、ピピィに訳してもらう。
『ガウグア、… ジァュン?』
「そう、シュンだ。」
『ジュァン…、ジュウ、 ジュン!』
彼らの声帯のせいか上手く発声出来ていないが、それでも十分彼の言葉は伝わった。
「そうそう、上手いじゃないか! 宜しくな!ゴブゴブ。」
『ガウギャウ!! ジュン! ジュン!』
彼は嬉しそうな顔でこちらの名前を呼んでくれた。
今回予期せぬ戦闘が起こってしまったが、彼らを救うことが出来て本当に良かった。
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