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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!  作者: ヤナギ・ハラ
第一章 異世界転移 新しい身体と新しい世界
17/79

17 冷静になれ

「こっちだ、まぬけ野郎。」


 気を引くように声をかける。


 突然目の前にオオカミの顔をした人物が現れ、男は驚いた様子をみせる。

 呆けた顔をしていたが、はたと気がつくと大声をあげながら腰に差していた剣を抜く。


『ᨊ、ᨊᨊᨉᨀᨗᨔᨆ! ᨉᨚᨀᨚᨀᨑᨕᨑᨓᨑᨙᨈ!!』


 物凄い形相でこちらを睨み威嚇してくる。

 剣先をこちらに向け、懐から取り出した何かを口へ持って行き咥える。次の瞬間けたたましい笛の音がその物から発せられる。おそらく何かしらの事態に遭遇した場合知らせるための合図の笛なのだろう。


 このままではこの場に大勢の人間が集まってきてしまう。それだと床下に隠れている彼らも見つかってしまう。この場から移動するために、目の前の男に付いて来いと目線を向ける。


『ᨀᨗᨔᨆ! ᨉᨚᨀᨚᨊᨗᨕᨗᨀᨘ! ᨈᨚᨆᨑᨙ!!』


 男の声を無視し先へと歩いていく。



 少しすると笛の音を聞きつけた男の仲間が二人駆けつけてきた。



『ᨊ、ᨊᨊᨉᨀᨚᨕᨗᨈᨘᨖ!?』


『ᨓᨀᨑᨊ! ᨕᨗᨀᨗᨊᨑᨗᨕᨑᨓᨑᨙᨈᨙᨀᨗᨈ!』


 合流してきた奴らも驚いた様子でこちらを見ている。

 一定の距離を保ちつつ剣先で常にこちらを牽制しながら囲むようにして警戒している。


「安心しろよ。いきなり襲いかかったりしないさ。」


 声をかけつつ歩みを進めていく。少しでも床下に隠れている三人から離れなければならないからだ。多少不自然でも止まるわけにはいかない。


「こんなところに突っ立ってないであっちに行こうぜ」


 手でジェスチャーしながら進む先を指差す。その先にはオークを埋葬場所へ続いている。理解できたがどうかは知らないが男達は、包囲を崩さないようにしつつ、その場所まで移動していく。







 埋葬場所まで移動すると、そこにはリーダー格の人間が立っており、地面には拘束されたゴブリンが数名横たわっていた。その姿を見て少し安堵した。よかった、問答無用で切り捨てられてはいないようだ。恐らくあの笛のせいで集まらなければいけなくなり、切り捨ててる場合ではなくなったのだろう。


『ᨊ?ᨊᨊᨉᨔᨚᨕᨗᨈᨘᨖ!?』


 リーダー格の男がこちらを訝しげな視線を向けながら何やら喋っている。それに応えるように近くにいる男が喋りだす。恐らく出会った経緯などを説明しているのだろう。


『ᨊᨊᨗᨆᨚᨊᨚᨊᨊᨚᨉ、ᨀᨚᨕᨗᨈᨘᨖ。』


『ᨓᨀᨑᨗᨆᨔᨙᨊ。ᨀᨗᨐᨘᨕᨘᨊᨗᨆᨙᨊᨚᨆᨕᨙᨊᨗᨕᨑᨓᨑᨙᨈᨙᨀᨗᨈᨊᨚᨉᨙᨔᨘ。』


 人間たちが話をしている間、隙を見てマップを確認する。奴らにはこの画面が見えないのだ何をしているかわからないだろう。

 この四人の男の他に近くに敵は居ないようだ。だが、遠くからこちらに近づいてくるマーカーが多数見受けられる。森に行っていた連中だ。先程の笛の音を聞き、引き返してくるのだろう。あと数分もすればこちらに合流されてしまう。これ以上数が増えればさらに厄介な事になる。その前に何とかしなければ…。


 しかし、どうすればいいのか良い案が浮かばない。

 何か手立ては無いか。


 そんな事を考えていると、リーダー格の男がこちらに近寄ってきた。


『ᨀᨗᨔᨆᨊᨊᨗᨆᨚᨊᨚᨉ? ᨊᨔᨙᨀᨚᨊᨚᨐᨚᨕᨘᨅᨅᨔᨗᨐᨚᨊᨗᨕᨗᨈ。』

  

 男が何やら話しかけてきた。しかし何を言っているのかわからない。


『ᨀᨗᨔᨆ!ᨀᨚᨈᨕᨙᨊᨀ!』


 叫ぶや否や、いきなり剣の柄頭で顔面を殴打してきた。鼻を強打され、思わずよろけて膝をつく。鈍い痛みに顔をしかめる。


「シュン!!」


 それまで黙っていたミミが焦った様子で飛び上がる。心配して近くに寄ろうとした所を手で制する。こちらが声をかけてしまうと不審がられてしまうので、声は出していない。ミミの姿はこいつらに見えていないが、だからといってその存在を教えてやる必要はない。それに万が一ということもある。なので極力ミミとは接しないようにする。


 それにしても…


「痛ってぇな…。キレんの早すぎだろ、クッソ…。」


 流石にいきなり殴られるとは思わなかったので対応が遅れてしまった。まさかこんなにも沸点が低いとは。こいつらどんだけ短気なんだよ。


 殴られた鼻を手の甲で拭いながら立ち上がる。拭った手に血が付いていた。鼻血が出ていたようだ。拭った血を床へと降る。


 男が更に殴りかかってくる。

 今度は横から殴るような形だ。

 犬のようなマズルだ、さぞかし殴りやすいだろうよ。


 しかし今度は殴ってくることが分かっていたので、大してダメージを受けることは無かった。この程度であればどうとでもなる。しかしこのままでは埒が明かない。それにいつ剣で切りかかってくるかわからない。


『ᨀᨗᨔᨆ! ᨊᨊᨉᨔᨚᨊᨚᨆᨙᨖ!』


 何も言わず立っている姿が癇に障ったのか、リーダー格の男は剣を抜き剣先を向けてきた。


『ᨀᨗᨔᨆᨔᨗᨊᨗᨈᨕᨗᨊᨚᨀ?』


「だから何言ってるかわかんねーって言ってんだろ。馬鹿かお前。」


 言い返してみたが、向こうもこちらの言葉なんて判るはずもなく会話にはならない。


 緊迫した空気が辺りに張り詰める。こいつらは人を殺すことになんら躊躇することはない。その事はオークの村を襲っていたことで証明されている。このままではいずれ殺されてしまう。それに自分だけではない。そこで拘束されているゴブリン達も同じように切り捨てられるだろう。



 どうする?

 どうすればこの状況を切り抜けられる。

 焦る心をなんとか鎮めようとする。

 パニックになっていては助かるものも助からない。


 手持ちの武器はP226xハンドガンとM9xバヨネットナイフ、そしてS&M M500xリボルバーだけである。これらでこの男たちを制圧できるか?

 しかしいくらゲームで扱いなれたとはいえこれは実践だ。人に向けて銃を撃ったことなどある訳がない。

 撃てるのか?自分は人に向かって銃を向けることが出来るのか。


 ふと日本にいた叔父のことを思い出す。叔父は自分の柔道の師匠であると同時に警察官であった。警察官であれば銃を所持しており当然訓練も行っていた。こんな時叔父はどうしたであろうか。



 叔父さん、俺どうしたらいい。



 心の中で問う。

 しかし応えてはくれない。

 ここは異世界だ。

 叔父はいない。

 答えは自分で見つけなければならない。


 

 そうこうしているうちに再度殴られる。今度は周りにいる男も加わる。リーダー格の男が剣で威圧している中、周囲を囲っていた男達が執拗に殴りかかってくる。

 ボディーアーマーを着ているので身体への打撃ではほとんどダメージを受けていないが、頭部へのダメージは防ぐことが出来ない。なので頭部を腕で守る。


『ᨆᨚᨕᨘᨕᨗᨕᨗ、ᨔᨗᨐᨅᨙᨑᨊᨊᨑᨀᨚᨑᨚᨔᨘ。』


 リーダーの男は何かをいうと剣を構える。周りの男は殴るのを止め離れていく。

 目の前の男の表情を見る。そこには気負いなどは一切見られない。

 こちらを躊躇なく殺す気だ。


 撃たなきゃいけないのか。


 男が剣を振り上げる。そしてそのまま剣を勢いよく振り抜…



「ピィーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


 けたたましい鳴き声が響く。その鳴き声と共に黒い影が勢いよく男へと襲いかかる。


『ᨊᨊᨉ!!?』


 驚く男に構わずその影は勢いを止めることなく掴み掛かる。


 ピピィだ。

 彼女は物凄い形相で威嚇しながら男へ迫り翼を大きく羽ばたかせ、その鋭い鉤爪で威嚇する。


「ピピィ!!」


 何故!?

 何故彼女がここに居る!

 床下に隠れていたのではなかったのか?!

 何故出てきた!?


 彼女は今なお男に掴みかかっている。男はいきなりの襲撃者に驚いているようだ。しかし次第に落ち着きを取り戻していく。


『ᨀᨚᨕᨗᨈᨘᨖ!?』


 リーダー格の男は一歩後ろへ下がり距離を取る、そして突き放すようにピピィの腹へと強烈な前蹴りを繰り出す。腹を蹴られたピピィはそのまま後ろへ蹴り飛ばされてしまう。


「ピ、ピィ… グホッ」


 大の大人から繰り出された蹴りだ。身体の小さい彼女からしたら耐えられるものではない。腹部を蹴られたことでその場で蹲り苦しんでいる彼女の元へ、リーダー男は近寄り無造作に後ろ髪を掴み上げる。そして無理やり身体を起こすと掴んでいる反対の手で顔を殴りつける。ピピィはその場に崩れ落ちてしまう。


「ピピィっ!!」


 彼女の元へ駆け寄ろうとするが、周りの男が剣で牽制して来、近寄ることができない。


『ᨆᨔᨀᨀᨚᨊᨊᨈᨚᨀᨚᨑᨚᨊᨗᨕᨗᨑᨘᨈᨚᨖ。』


 リーダーの男が崩れ落ちているピピィの頭を掴むと顔を持ち上げる。顔を強打された彼女は気を失っているようだ。口からは血が垂れ落ちている。


「ピピィ! ピピィ!」


 ミミが急いで彼女の近くへ寄り添う。目の前を飛んで必死に呼びかけるが彼女は目を覚まさない。気を失ったままだ。


「ギャギャ!!ギャウギャクギャ!!」


 突然またも大声が鳴り響く。

 子供ゴブリンが木の棒を振りかざしてリーダーの男に迫っていく。


 何故出てきた?!

 隠れてなきゃ駄目だ!!


 子供ゴブリンの目には涙が浮かんでいる。

それでも臆することなく向かってくる。

 ミミを助けようと危険を承知で飛び出してきたの。


 駄目だ…! 逃げろ…!


 そう言おうとしたが、それよりも先にリーダーの男は向かって来た子供ゴブリンを思いっきり蹴飛ばす。身体が小さな子供ゴブリンは弧を描くように吹き飛ばされ、そのまま地面へ叩きつけられる。地面を転がりそのままピクリとも動かなくなる。


「オク、オォクコブコブオク!!」


 物陰に隠れていたのだろう。オクオクが鳴きながら子供ゴブリンへと歩み寄る。鳴きながら必死に身体を揺するが、動く気配がない。


『ᨖᨚᨕᨘ、ᨐᨖᨑᨗᨆᨉᨕᨗᨀᨗᨈᨙᨕᨗᨑᨘᨅᨘᨈᨁᨕᨗᨈᨀ。』


 リーダーの男は掴んでいたピピィを部下へと渡し、オクオクへと近づいて行く。



 駄目だ、オクオク逃げろ!



 鼓動が早くなる。

 焦る気持ちから声がうまく出せない。


『ᨐᨖᨑᨗᨅᨘᨈᨖᨀᨚᨑᨚᨔᨘᨊᨗᨀᨁᨗᨑᨘᨊ。』


 男はニヤけた面を浮かべ剣に手をかける。


 止めろ、手を出すな!!


 不安や恐怖、そしてなにより激しい怒りが身体を支配していく。

 何故こいつらはこうも平気で相手を傷つけるのか。

 彼らが何をしたというのか。

 

 目の前の人間の理不尽な行動に、激しい憎悪が生まれ身体を駆け巡る。


『ᨔᨗᨀᨔᨗᨀᨗᨔᨆᨑᨅᨘᨈᨆᨚᨈᨆᨊᨗᨐᨐᨀᨘᨊᨗᨈᨈᨘ。ᨀᨚᨕᨘᨔᨗᨈᨙᨕᨊᨚᨈᨚᨑᨗᨚᨔᨔᨗᨉᨔᨗᨈᨙᨀᨘᨑᨙᨈᨊᨉᨀᨑᨊ。』


 男はちらりとピピィの方へ視線を向ける。しかしすぐオクオクへと視線を戻す。


『ᨖᨚᨕᨘᨅᨗᨊᨗᨀᨚᨊᨚᨕᨚᨑᨙᨆᨗᨔᨘᨀᨑᨀᨚᨑᨚᨔᨗᨈᨙᨐᨑᨘ』


 剣を頭上へと持っていき構える。


『ᨔᨗᨊᨙ。』


 そしてその剣を振り下ろす。





「ヤメローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」





 全身の血液が沸騰しそうな、激しい怒りが身体を支配し…









 平静が訪れた。









 それまでの感情が嘘のように静まり、心は平常心になる。研ぎ澄まされた精神は、むしろ普段より冷静といっていい程だ。頭は冷え思考がクリアになる。緊張や不安は払拭され物事を俯瞰から眺めているような感覚になる。



 常に冷静になれ。


 そんな言葉を思い出した。柔道を教わっていた叔父から言われていた言葉だ。

 どんなに緊張していても、どんなに気負っていても、頭は常に冷静でいろ。身体は熱く、頭は逆に冷たく。自分が何をすべきか常に考え、相手が何をしてくるか、何が起こっても冷静に対処できるよにしろ。その言葉を常に心に刻みながらいつも試合へと望んでいた。試合中は常に冷静でいられた。


 同じような事をFPSを始めた時にも言われたことがある。

 最初は上手くプレイすることが出来ずに、やったやられたに苛立っていたら、シゲから同じような事を言われたのだ。お前は柔道のときはめちゃくちゃクレーバーなんだから、同じような要領でやれば良いんだよ、と。

 そこからプレイスタイルが変わった。常に全体を把握し、自分は何が出るか、相手に対してどう立ち回るか、それらを冷静に客観的に見つめる。どんなに劣勢になっても常に勝ち筋を探し冷静に対応する。



 冷静になれ。


 何が出来るか、どう行動するべきか。




 ホルスターから銃を抜き相手に照準を合わせ構える。

 そこには焦りや気負いは一切感じられない。

 研ぎ澄まされた動きだ。



 なんの迷いもなく



 呼吸でもするかのように



 そうすることが当たり前のように







 引鉄を引いた。















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