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今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!  作者: ヤナギ・ハラ
第一章 異世界転移 新しい身体と新しい世界
16/79

16 来襲

キリの良い所まで話が続くので、今回少し長いです。

  ペロペロ


 人間族に襲われたオークの村を訪れた自分たちは、瓦解した家々の中、隠れていた二人の生存者を発見した。


 ペロペロ


 発見した生存者のうちの一人は子供ゴブリンの知り合いだったようで、二人は再会出来たことを涙しながら喜んでいた。


 ペロペロ


 他のゴブリン達も生存者が居たことに心から喜んでいた。他に生存者が居なかったことは残念だがそれでも彼らだけでも生き残っていてくれてよかった。


 ペロペロ


 この村はオークの村で、当然ながらオークが生活していた。なのでその村の住人である子供オークが居たことは判るのだが、そこで疑問に思ったこともある。


 ペロペロ


 子供オークと一緒に隠れていた人物である。

 彼女は鳥の手足を持つ、元の世界ではハーピーと呼ばれる亜人種だ。

 何故彼女はこのオークの村に居たのか。


 ペロペロ


 彼女にはそこら変を聞いてみたいのだが、その前にやらなければならない。


 ペロペロ


「なぁ、その…。そろそろやめてもらえないかな。」


「ペロペロ、 ピィ?」


「さっきも言ったけど、もう大丈夫だから。」


「でもね、でもピィピィのせいで傷ついちゃったから…。ペロ」


「大丈夫だよ、もうすっかり良くなったからさ。ありがとう。おかげで傷ももう治ったし、それよりも君に聞きたいことがあるんだけど良いかな。」


 彼女は不承不承ながらもといった様子で、ペロペロ舐めるのを止めてくれた。そう、彼女はずっと自分の腕をペロペロと舐めていたのだ。


 何故舐められていたのかというと、腕につけられた傷が原因だ。


 というのも、最初彼女と出会った時彼女はひどく興奮していて、こちらに対して威嚇行動をとっていた。彼女のその鋭い鉤爪で掴みかかられたのだ。ただ、ボディーアーマーを着ていたので大した怪我など負っていない。ただボディーアーマーは腕までは守ってくれないので腕に多少傷がついてしまったのだ。とはいえ、少しばかり引っ掻かれた程度なのでほんのかすり傷である。しかし、傷を負わせてしまった本人である彼女はその負い目から腕の傷をペロペロと舐めていたのだ。


 当然かすり傷なので、血などすでに止まっている。それでも彼女は献身的に傷を舐めてくれていた。ただいつまでもこうしている訳にはいかないので、彼女には舐めるのを止めてもらうことにした。


 舐めるのを止めた彼女は、まっすぐこちらを見ている。


 改めて彼女と向き合う。


「キミに聞きたいことがあるんだけど。その…、きみってハーピーなのかい?」


「ピィ?」


 最初彼女と会った時、その姿から彼女の事をハーピーだと思っていた。姿形を見れば物語で語られているパーピーとよばれる種族にそっくりである。しかし、今は本当にハーピーなのかと疑問を持っている。


 鳥のような翼を持ち、脚には鋭い鉤爪を身につけている。

 まさにハーピーのそれ其の物だ。


 しかし、ある一点。

 本来のハーピーとは異なっていた。



 脚が三本生えていたのだ。




 三本脚のハーピーなど見たことも聞いたこともない。というより、脚が三本ある亜人など聞いたこともない。亜人にしろ獣人にしろ基本手足は二本ずつである。現にこの世界で出会ったゴブリンもオークもそうである。最初に見かけた人間族も当然二本足だった。おそらくこの世界に存在する亜人を含む人種の多くがそうなのだろう。


 目の前にいる彼女は三本脚である。これは普通の亜人と違うことだ。


「ピピィはピピィだよ。」


 小首を傾げながらそう応える。


 ピピィ。それが彼女の名前だ。


「えっと、ピピィ、そうじゃなくって、なんていうかその…。」


「ピィ?」


 どう言えば良く伝えられるだろうか。良い表現が見つからない。

 なんとも戸惑っていると、そのやりとりに焦れたのかミミが間に割って入ってきた。


「ああ、もう!焦れったいわね! あなたピピィって言うのね? あなた他に仲間は居ないの? あなたみたいな翼をもってパタパターって飛ぶことが出来る人たちの事よ。どうなの?」


「ピピィみたいな人たち?」


「そうよ。あなたお父さんやお母さんは? あなたが生まれた村に住んでいる人たちはどうなの?」


「村にはピピィみたいな人沢山いたよ。ただピピィみんなとはちょっと違うって言われてたの。」


「皆とは違う?」


「ピピィは何とかの使いだからしっかりしなきゃいけないとか、何かを伝えなきゃダメだとか言われてたよ。それでね、その使命っていうので、色んな所に行かなきゃダメだって村の長老さまが言ってたの。それでね、ピピィはね、一人で色んな所行ったりしてるの。」


「なんとかの使い?」


「うん。ピピィにはよくわかんないけど、じきに判るようになるって。」


「うーん、なんかいまいち要領を得ないわね。」


 ピピィの話は本人もあまり理解していないのか要領を得ないものだった。


 しかしそんな要領を得ない話ながらも、ある一つの考えが頭をよぎる。

 確かに三本脚の獣人や亜人の話なんて聞いたこともない。だが元の世界では三本の脚を持ったものが神話上に存在していた。



 八咫烏やたがらす



 日本の神話で神によって遣わされた存在、又は神そのものとして登場する物語もあるカラスである。その容姿はカラスその物だが、普通のカラスと違う点として三本脚であることが挙げられる。日本神話においてはかなりポピュラーであり神社に祀られている事もある存在である。


 黒い翼と尾を持ち三本脚の脚を持つ。目の前の彼女はその八咫烏と姿が酷似していた。彼女はその八咫烏に近い種族なのではないだろうか。そしてそれを裏付けするかのように、彼女はミミのと会話するとこが出来た。ミミの話によれば、彼女の存在を認識することが出来るのは、シャーマンやドルイドといった神や自然と親しい存在である必要があるという。この点も彼女が八咫烏ではという根拠の一つだ。なにしろ八咫烏はそのような存在その物なのだから。


 これらの事をミミに伝えると、彼女は納得したような様子でうなずく。


「なるほどね。その八咫烏ってのは聞いたこと無いけど、確かにそれなら納得出来るわ。この子が他のハーピーと違うっていうのもそのせいかもしれないわね。もしかしたらハーピーという種族にとって、彼女みたいな存在は特別なのかもしれないわ。それなら村の人達が彼女に対して言っていた伝える者ってのも納得出来るわね。」


「この世界に八咫烏がいるかどうかはわからないけど、案外的外れでもないと思うんだよ。これならミミと話せる事も、俺と意思疎通出来る事も納得できるし。」


 自分とミミとの会話にピピィは小首を傾げている。話の内容についてこれていないようだ。


「でもこれでミミの他にも話が出来る人物が増えて、俺にとっては凄い幸運だったよ。」


 これまではミミとしか話が出来なかったので、ゴブリン達と意思疎通する時にもかなり戸惑っていた。そしてミミの存在自体も、誰しも認識出来るわけではなく、認識出来ていたとしてもかなりアバウトであったため、伝達に齟齬ソゴが出ることもしばしばあった。しかし彼女がいればかなりスムーズに話のやり取りをすることが出来るようになる。それはこの世界の言葉が話せない自分にとってはかなり有り難いことだ。


「しっかし、本当に珍しいこともあるものね。シュンだけでも驚きだっていうのに、この子みたいなのも居るなんてね。」


「やっぱり珍しいものなのか。」


「そりゃそうよ! まぁ珍しいって言うのであればシュンの方が断然珍しいけどね。というか珍しいを通り越してもはや意味不明よ。」


「いやまぁ、それはそうかも…」


 それはそうだ。異世界転移など意味がわからない。元の世界ではそんな創作物が世にあふれていたが、こちらの世界ではそうは行かないだろう。




「それでピピィ、もう一つ聞きたいんだけど、キミはどうしてこのオークの村に居たのかな。」


 彼女の存在自体も不思議だが、その彼女がなぜこのオークの村に居たのかにも疑問が残ったのでその事を尋ねる。


「ピピィはね、いろんな所を飛んでいたんだけど、その時足を怪我しちゃって動けなくなってたの。そうしたら、その時オムオムさんに助けてもらって、そして怪我を治してもらったの。」


 ピピィの話によると、森で怪我をしていた時にこの村の住人であるオークに怪我を治療してもらい、容体が良くなるまで面倒を見てもらっていたそうだ。オムオムさんというのは、その時助けてもらったオークの名で、そして先程床下にいた子供オークの父親だそうだ。子供オークとピピィは友達となり一緒に暮らしていたそうだ。


 そんな生活をしばらくの間過ごしていたが、ある日村の外が騒がしくなったので何事かと思ったそうだ。


「そうしたらオムオムさんが家の中に飛び込んできて急いで下に隠れろって言ったの。村の外の人たちが襲ってきたって。「この子を頼む」って言ったの。だからピピィはオクオクを守ってたの。」


 人間族がオークの村に攻めてきた時の事を話してくれた。オムオムさんはオークの子供、オムオムとピピィを床下へ避難させて二人を守った。彼のお陰で二人は助かったが、彼自身は人間族に殺されてしまった。ピピィはオクオクを抱えるようにして暫くの間じっとしていたそうだ。かなりの時間床下に隠れていたが、このままでは二人とも餓えてしまう。なのでこっそり床下から這い出て村を探索して食料を探し、食料を見つけたらまた床下に戻り食事を取るということを繰り返していたそうだ。まだ人間族が近くに居るかもしれないと警戒し、これまで床下に隠れていたという。


 そうした中、食料を探していた時、この村に近づいてくる何者かの気配を感じ取って急いで床下に避難したそうだ。そんな警戒の中、自分が二人に近づいてきたのでピピィはオクオクを守るために必死に立ち向かって来たのだという。


「あの時はね、シュンを襲ってきた人たちと勘違いして攻撃してしまったの…。ごめんなさい…。」


 ピピィは塞ぎ込むように頭を下げ謝ってきた。状況をみれば彼女の取った行動はしかたがないことだ。むしろ褒めるべき行動でありけっして批難されるものではない。


「いや、ピピィが謝る必要はないよ。むしろ今までよくオクオクを守ってくれていたね。ありがとう。」


 そういいピピィの頭をなでる。つい頭をなでてしまったが、ピピィは嫌がる素振りは見せなかった。最初は戸惑っていたが、なれてくると彼女は頭をこちらに擦りつけてきた。気持ちよかったのだろうか。なんとなく昔飼っていたオカメインコを思い出してしまった。いや、インコと彼女を比べるのは失礼か。


 そんなことを考えていると、ふとあることが頭をよぎった。


「ずっと床下に隠れていたってことは、満足に食事を取れてなかったんじゃないか?」


 そう聞くと彼女はうなずく。それはそうだ。村は荒らされており、食料などもほとんど残っていないだろう。しかし襲ってきた連中が完全にいなくなったという確信もなく村の外に食料を探しに行くことも出来ず、それでも二人は残された少ない食料で今までなんとか餓をしのいでいたのだ。


 ピピィとの話を終えると彼女を伴ってオクオクの所まで移動する。オクオクは子供ゴブリンと話をしている。


「ピピィ、それとオクオク。お腹が空いているみたいだし、もしよかったらこれを食べてみないか。」


 そういってストックから携帯レーションを取り出す。二人ともかなりお腹を空かせているはずだしこれを食べて腹を満たしもらおう。それにあまり食料を食べていなかったせいで胃も弱っているはずだし、いきなり肉や木の実などを食べるよりも身体に優しいはずだ。


 レーションを見て子供ゴブリンが目を見開いている。そうか、そういえば彼はこのレーションを食べたことがあったなと思い出しながら、彼の分も追加で取り出す。


「よかったらキミも食べたらどうだい。遠慮しなくっていいからね。」


 そういいながら手渡そうとして、そういえば言葉が伝わらなかったなと思いピピィに伝えてもらおうと彼女の方に視線を向ける。


「ピピィ、オクオクにこれを食べるように言ってくれないか。栄養満点で美味しいから気に入ると思うよ。」


「ピィ? これなぁに?」


「携帯レーションと言って、軍用…いや、旅をする時に持ち運びしやすいようにした食べ物でこれ一つでいろんな栄養を取ることができるんだよ。一つでお腹いっぱいにすることは出来ないけど、それでも普通の食べ物よりは沢山栄養が含まれているから身体も元気になるよ。」


 ピピィにレーションを手渡し、残りを子供ゴブリンとオクオクに渡す。


『ガウ、ガウガガガウゥガウギャグ?』


 子供ゴブリンが何かを尋ねるかのように話しかけてくる。恐らく自分ももらっても良いのか聞いてるのだろう。それに応えるように笑顔で頷く。すると子供ゴブリンは顔をほころばせてレーションを受け取る。そしてオクオクに何かを伝えている。おそらく食べるように促しているのだろう。自身も美味しそうに食べ始める。


 最初は怪訝な顔をしていたオクオクであったが、目の前の子供ゴブリンが美味しそうに食べているので、意を決してレーションを口にする。次の瞬間目を見開いて驚いた表情をしている。子供ゴブリンが初めてレーションを食べた時と同じような表情をしていたため思わず笑ってしまった。


 レーションが美味しいと分かってからは、それはもう一生懸命食べている。よほどお腹が減っていたのだろう。なので追加でレーションを渡してあげる。それを受け取るとこちらに何か話しかけた後、また食べ始める。おそらくお礼でも言ったのだろう。


 この世界の住人にもレーションが受け入れられてた事に安堵しつつピピィの方に視線を向けるが、彼女はまだレーションを食べていなかった。


「ピピィ、キミは食べないのか?」


 ハーピー、いや彼女の場合は厳密にいうと違うのだが、彼女たちの種族はこういった食べ物に忌避感でもあるのだろうか。 


「もし食べたくなかったら無理に食べなくってもいいんだけど、もし遠慮してるとしたら気にしなくてもいいからね。まだ沢山あるから。」


 そう伝えるが彼女は未だ食べようとしない。というよりあまり話を聞いてない様子だ。彼女はこちらを凝視…、いや正確にいうとこちらの頭の上に目を奪われていた。もっと正確に言うならば、頭の上にいるミミから目が離せないのだろう。



「ウ゛ァ゛ァーーーーーン゛ーーーーーーーーーーー!! あ゛ぁだぁぁぁじぃぃも゛ぉぉおおおーーーーー!!!あ゛た゛し゛も゛ほ゛し゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ーーー」



 それはもう凄い形相である。先程からミミは頭の上で物凄い事になっていた。レーションを出した時から凄い催促していたのだが、まずはピピィとオクオクにあげるため彼女のことをスルーしていたのだ。いちいち反応していてはスムーズに渡せないからだ。すると彼女はどんどん騒がしくなりしまいには大声で泣き出してしまった。それはもう引くぐらいに…。


 頭の上でこれでもかってくらい暴れ、頭を叩き、地団駄を踏み、しまいにはこちらの頭の毛をむしり始めた。号泣して嗚咽をもらしながら。


 はっきり言おう。ドン引きである。


 そんなミミの姿にピピィは唖然としていた。他の者と違い彼女にはミミの姿が鮮明に見えるのでこの痴態も丸見えである。精霊がこんな姿を見せるなど思ってもいなかったであろう、その衝撃たるや開いた口が塞がらない感じである。


 いつまでもこうしている訳にはいかないので、とりあえずはミミを大人しくさせなければ。いい加減頭も痛くなってきたし、毟られた頭部も気になる。禿げたりしないだろうか…。


「ミミ、もういい加減暴れるのは止めてくれないか。スルーしてたのは悪かったけど、先ずは彼女たちを優先したかったからだよ。別にミミを除け者にしたかったわけじゃない。」


 ミミは鼻をすすりながらも、とりあえずは暴れるのを止めてくれた。


「グスっ、のけものにしない? ぐすっ」


「しないよ。」


「じゃあ、わたしにもそれくれる?」


「あげるよ。いつもあげてるじゃないか。 ほら」


 レーションを新たに取り出しミミに差し出す。受け取ったミミは鼻をすすりながらも、レーションを抱きかかえるようにして食べ始める。


「どう、美味しい?」


「モグモグ… グスっ  うん…。」


「そう。 よかった。」


 その様子を眺めていたピピィは、はたと気がついたように手にしているレーションを見つめる。そしてこちらを伺うようにして口を開く。


「ピィ…。 ヘンな食べ物じゃ、ない?」


「ないないっ!安心て食べていいよ。ほらっ、そっちの二人みたいにさ。」


 オクオクと子供ゴブリンの方を促す。そこには美味しそうにレーションを頬張る二人がいた。


 その様子を確認したピピィは、ありがとうと言いながらレーションを口にする。


「!!」


 一口食べた後は、それまで疑っていたことがまるで嘘のように美味しそうにレーションを頬張る。やはりこの世界の住人にとってレーションは今まで食べたことがないような味なのだろう。昔のレーションはお世辞にも美味しくないと聞いたことがあるが、最近ではかなり改良されて普通の食事となんら遜色のないものとなっている。種類によってはそこらの食品より断然美味しいほどだ。



 オクオクが食べ終わったようなので、追加でレーションを渡す。これまでろくに食べ物にありつけなかっただろうからレーション一個では物足りないだろう。レーションを受け取ると笑顔でお礼を言い、また美味しそうに食べ始める。ピピィにも後で追加でレーションをあげよう。



 しばらくして皆満足したように食べ終わる。ピピィにいたってはピィピィと鳴きながら楽しそうに身体を左右に振っている。喜びの舞だろうか。


 あれだけ暴れていたミミはというと、大きく膨らませたお腹を擦りながら頭の上で幸せそうにして寝っ転がっている。精霊妊婦の再誕である。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 村の生存者との再会も済み、一息ついた所で埋葬するための穴掘りを再会する。ゴブリン達が頑張ってくれたお陰でもうかなりの所まで掘り進んできた。これならもう少しで終わらせられるだろう。


 ピピィとオクオクには近場で休んでもらっている。ピピィの翼の手では穴を掘るのは難しいだろうし、オクオクも今まで隠れていたことで体調も万全とはいえない。なので今は休むように言ってある。子供ゴブリンには彼らに寄り添ってもらっている。オクオクも友達のゴブリンと一緒に居たほうが気が休まるだろう。


 

 日が傾く頃、そろそろ夕日が近い時間帯にようやく埋葬の穴を掘り終えることができた。遺体の数が結構あるが、この穴の大きさなら問題なく全ての遺体を埋葬できるだろう。


 傷ついた遺体を丁寧に穴へと移動させていく。穴掘りと違いこちらは直接遺体に接するので気が落ち込んでくるが弱音など言っていられない。途中オクオクが大声で泣く姿が見られた。ある遺体に寄り添うにして泣いている。おそらく彼らがオクオクの家族だったのであろう。


 家族に別れを告げ、子供ゴブリンに肩を支えられるような形でその場から離れていく。まだ小さいのに家族と別れなければならないなんて…、かける言葉も見つからない。


 夕日により空一面鮮やかな琥珀色に染め上げられた頃、ようやく全ての遺体を埋葬することができた。


 埋葬された場所でゴブリン達が何かを唱え始めている。皆目をつむり手を胸の前に持ってきて呟く。そこらく彼らなりの死者への祈りなのだろう。


 この世界に仏門は無いとは思うが、自分も両手を合わせ南無阿弥陀仏と唱える。自身は熱心な仏教徒というわけではないが、こういうのは心の持ちようだろう。


 目を開けゴブリン達の方を見ると彼らはまだ祈りを続けている。まだ続きそうだったので、あることをしようと村の中へと足を運ぶ。


 埋葬した場所には墓標のようなものは設置されていなかった。この世界に墓標の文化があるかどうかはわからないが、埋葬するからには墓地という概念はあるはずである。ならばそれを示す墓標があってもいいだろうと考えたのだ。なので手頃な石か板材が無いか探しに来たのだ。あまり大きい物や数が多いと運ぶのが大変だが、共同墓地ということで一つあればいいだろう。







 しばらく村の中を探索したが、適したものは見つからなかった。これは村の中で探すのではなく森の中から探した方が良いのかもしれない。それに森ならば木を切り倒してそれを加工して墓標にしても良いかもしれない。


 そんなことを考えながら皆の所へ引き返そうと歩みを止めた時、頭の上で寝転がっていたミミが勢いよく起き上がり声を荒げる。


「何…、どういうこと!?」


「ミミ、どうした?」


「村に近づいてくる人たちがいるの! それも沢山!」


「何だって!?」


 急いでマップを確認する。すると画面にはこの村に向かってくる複数のマーカーが表示されていた。


 複数のマーカーが何故?しかしそれだけならばさして不思議ではない。ミミもそこまで驚かなかっただろう。問題はその映し出されたマーカーの種類だ。



 マーカーは赤く表示されていた。



 これは敵対する勢力を示す色である。元のゲームでは敵は赤マーカーで味方は青マーカーで区別されていた。もしこの世界でも同じ設定が通用しているのならば、今この村に迫ってきている赤マーカーは敵ということになる。


 急いでゴブリン達の元へと走る。


 走りながら思いを巡らせる。どうしてこの村にあんな数の敵マーカーが迫ってきてるのか。マーカーの人物はいったい何者なのか。嫌な予感がする…。


「みんな!聞いてくれ!!」


 その場にいるゴブリンたちへ声をかける。いきなり大声を出されたのでゴブリン達が驚き戸惑っている。しかし悠長にしてはいられない。


「ミミ、そしてピピィ! 今から言うことをゴブリンの皆に伝えてくれ!」


 急いでこの村に敵が迫っていることを伝える。ピピィには自分が言った言葉をそのまま、ミミにはゴブリンドルイドに伝えてもらっている。


 ゴブリン達が慌ただしくしだしたので、急いで隠れるように促す。固まって隠れると見つかってしまうので、皆散り散りに去っていく。


 ピピィとオクオク、それに子供ゴブリンを引き連れて村の中へ走る。訪れた先には床下収納がある。小さい三人ならば皆ここへ入ることが出来るだろう。急いで三人を中に入れ蓋をする。これならば外にいるよりも安全だ。しかし身体の大きい自分はこの中へ入ることが出来ないので、近くの瓦礫の隅へと身を潜める。


 他のゴブリン達は大丈夫だろうか。上手く隠れられているか心配だ。






 暫くすると村の中にいくつもの足音が聞こえてくる。


 物陰からその様子を伺う。その瞬間胸を締め付けられるような感覚に襲われた。間違いない。この村を襲っていた連中だ。あの時と同じように鎧を身にまとっている。腰には剣が差されている。


 あの連中は何故この村に戻ってきたのだ?


 一度滅ぼした村に、あいつらにとって不自然だ。納得がいかない。もしかしたら何らかの意図があってこの村を襲ったのか? そしてその目的のためにまた戻ってきたのだろうか。


 それにしてもタイミングが悪すぎる。こちらが村に訪れた時と重なって戻ってくるなんて。



 いや、タイミングが悪いのではない…


 逆だ、タイミングが良すぎる。



 もしや、見張られていた?


 村を滅ぼした後、一度村を離れ遠くに見張りを置き、村の様子を伺い生存者がいるかどうか観察していたのだろうか。そして生存者が居た場合その者を始末するために戻ってきたとしたら…。


 もしかして生存者のオクオクとピピィが目撃され… いや、この場合自分たちがこの村に押し寄せた事で注目を集めてしまった可能性もある。大人数で訪れたのだ、もし見張りが居たらすぐに見つかってしまうだろ。


 奴らはオークを埋葬した場所でなにやら調べている。やつらが村を去った時にはオークの遺体が所々に放置されていたが、今ではその全てが埋葬されている。これで完全に何者かがこの村に居たとばれてしまっただろう。


『ᨐᨖᨑᨗᨊᨊᨗᨆᨚᨊᨚᨀᨁᨀᨚᨊᨚᨆᨘᨑᨊᨗᨕᨗᨈᨐᨚᨕᨘᨉ! ᨔᨁᨔᨙ!!』


 奴らの一人が声を上げ、周りの連中に指示を出している。恐らく奴がこの中のリーダーなのだろう。命令を受けた者はその場から移動する。どうやら探索しろと命令を出したのだろう。命令された人間の何人かは森の方へと向かっていく。村と森の探索に班を分けたのか。


 マップでマーカーの数を数える。全部で12人と一個分隊程度の人数である。やはりどこかしらの軍属なのだろうか。この世界の勢力など知る由もないのだが、皆同じような装備や武装なので騎士にろ軍にしろどの道どこかしら所属なのは間違いないだろう。盗賊や野党といった類は無いと思われる。


 森に八人向かい、村には四人残っている。その四人の中にリーダー格の奴も残っている。相手の人数はそこまで多くはないとはいえ、完全武装した者達だ、もし見つかればただでは済まないだろう。なんとかしてやり過ごさなければ。皆無事に隠れられていれれば良いのだが。


 人間の一人がこちらに近づいてくる。息を潜めてその様子を伺う。大丈夫、まだ気が付かれている訳ではないようだ。


『ᨕᨗᨈᨔᨚ! ᨁᨚᨅᨘᨑᨗᨊᨉ!』


『ギャ**ギャギャクギャ!』


 村の中央から声か聞こえる。ゴブリンの一人が見つかってしまったみたいだ。

 マズイ、このままではそのゴブリンが危ない。


『ギャ! ギャギャギャ!! ギャ!』


 どうやらまた別のゴブリンが見つかってしまったようである。


 目の前に人間が踵を返して声のする方へと向かおうとしている。応援へ駆けつけようとしているのだ。



 ガサゴトッ



 不意に物音が鳴り響く。

 その方向へ目線を向ける。

 その物音は床下の方から聞こえてきた。


 中にはミミとオクオク、そして子供ゴブリンが隠れている。他のゴブリンが見つかってしまったことに動揺して物音を立ててしまったのだろうか。


 マズイ! 人間もそちらへ目を向けている! 気付かれた!?


 何も無いところから突然物音が上がったのだ。怪しい決まっている。


 クソッ! どうする!? このままでは彼らが見つかってしまう!


 何か手はないか?




 そうこうしている間にも人間はどんどん床下へと近づいていく。


 このままでは駄目だ、なんとかしないと。


 どうする? 


 何かしないと。


 何を?


 どうすれば?!





 クソッ…






「こっちだ、まぬけ野郎。」





 物陰から姿を表し男に声を掛けている自分がいた。










今回村を襲った人間族に対して前回とは違い自らの意思で姿を表した主人公。

彼はこの先どうなってしまうのでしょうか。

次回ご期待下さい。



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