最高?最悪?だったりする(終)
………ぅぁぁぁ……。
鐘の音。
「よしじゃあ今日はここまで!」
教卓の前にいた先生が広げている教科書をバッと閉じた。
オレはずっと黒板を見ている。
その理由は黒板に何かが書いてあるからではない。
そして今終わったのが6限目。
「絶望的だ…」
オレのつぶやいた一言で何が絶望的かは明白だろう。
そう…宇佐凪とまだ一度も会話を交わしていない。
同じクラスなのに…話せない。
話そうとすれば気まずくなってしまって…。
何だか自分らしくないと少しばかり思ってしまう。
オレは机にあごをのせた。
一体どうすれば…い い ん だ ろ…。
次々と帰っていく生徒たちをあとにしばらく席につき考える。
ダメだ…テンパっててどうすればいいか頭が回転しない。
どうしようどうしようどうしようどうしようっ!
………………。
「はっ!」
オレは頭の世界から3次元の世界にかえってきた。
教室にいるのはオレだけ。
しまった!!宇佐凪はどこに!
オレは慌てて鞄を持って下駄箱へ向かった。
もう遅いことくらい分かってる。
もう宇佐凪はいないことくらい承知済みだ。
いないことは当たり前、でも100%じゃない。
もし1%の確立でも宇佐凪がいるとしたら…。
まだ…間に合うのかもしれない!
オレはその1%にかけて、全力疾走する。
………………。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
下駄箱の前でヒザに手をおいて休憩。
床を見ている眼をあげたくはない。
今になって不安なんだ。
ほんとにいるんだろうかって…。
でも、顔を上げなきゃいても分からない。
「…………」
オレは息が整ったことを確認する。
そして………顔を上げた。
………………………。
………はは。
顔を上げない方が誰かさんにとっては幸せだったかもしれない。
悔やむのは自分らしくないとは思うが…。
今更1%にかけたことをバカらしく思うよ。
いないことくらい明白だって…。
よく考えてみればよかったんだ。
まったく…バカだよオレは。
そう自分をある意味自我自尊しながら靴をはいた。
もう悲しみよりもおかしさがこみあげている。
右手には傘。
置き傘だけど。
ふぅ……。
ほんとに…おかしいよな…。
よくよく考えれば99%が絶対のように1%だって絶対なんだ。
99%いないってことは絶対いない。
1%いるってことも絶対いない。
高校生らしく考えてみれば簡単なことだったんだよ。
無理なことだってね。
………………はぁ…。
なんだかんだ言って現実は2次元とは違う。
そんな簡単なほど甘くはできてはいない。
1%できるなんて無理な希望をいだいたのが、それこそバカだったよ…。
2次元のように幸せな終わりをできると勝手な想像でもしてたのかもしれない。
ありえない妄想にとらわれた期待。
そんなの…ありえないんだ…。
…………でも…オレより天然なやつもいたもんだ。
オレは入り口を抜けたところで横を向いた。
一呼吸したところで勇気を出して言葉を発する。
「宇佐凪」
その言葉に宇佐凪はオレの方を振り向いた。
声をかけられたことに驚いたのかオレの顔を見たから驚いたのか。
おそらく両方だろう。
「前原クン…」少し嬉し気に宇佐凪はオレの名を読んだ。
「お前どうせ今日天気予報見なかったんだろ?傘持ってないみたいだしな」
「えへへ……」図星だったのか宇佐凪は苦笑いをする。
少し悩んだ後オレは宇佐凪から顔をそらして言った。
「はいれよ、1人でおいてったら周りの標的になりかねないからな」
「でも近いし、いいよ…」
「はぁ…こんな土砂降りの中傘をささずに行けばどうなるか…分かってるだろ?」
少し悪魔的に言ってみる。
「………で…でも」
「あーもう分かったよ、ホラ。この手につかまればいいじゃない」
オレはさりげなく手をさしのべた。
いまどきちょっとベタかもしれないけど…。
だが宇佐凪はそんなこそ気にしないようでオレの手をそっとつかんだ。
宇佐凪はオレのとなりにかけ寄る。
「やっとはいる気になった?」
オレが聞いても宇佐凪は何も答えない。
怒ってる…のかなぁ〜…。
大体…高校生にもなって相合傘か…まったくバカらしいな…オレも…。
宇佐凪…もしかして恥ずかしがってるー……とかはありえないかぁ……。
無言のまま校門を抜ける。
そのあたりで宇佐凪が下を見ながら突然話し始めた。
「私ね、ちょっと不安だったんだ…。
中途半端で終わっちゃったから前原クン怒ってるんじゃないかって…もちろん今も」
歩きながら深刻そうなことを語る。
怒る?
「怒ってる?何でそう思ったの?」
オレの頭に疑問符が浮かんだことに宇佐凪は驚いたのかこちらを見た。
そして再び顔を下げると頬を少し赤くして話す。
「ええっとね?ホラ、男の子ってしょせん本能で動く野獣でしょ?
だから中途半端に終わって満足してないから…かな…」
何気に宇佐凪少し苦笑い。
…………。
なぬ!?
う〜ん何気に毒舌だな…
しかも、しょせん、って…。
「あははっ…それは一部の男子かもねー…。少なくともオレは違うよ」
「あっ!そうなの?なんだーじゃあもっと早めに仲直りしておくべきだったね」
仲直り…オレからみては縁直しってとこか。
宇佐凪は気が楽になったのか俯いていた顔はいつのまにか前を向いていた。
オレも少し気が楽になった。
ちょっと肩にはいっていた力が抜ける。
オレにとっての縁直し、宇佐凪にとっての仲直りは成功した。
これで何とか明日からは悩まずに済みそうだ。
そんなことを考えていると宇佐凪の家が見えてきた。
何度か遊びに行ったことがある。
一軒家で二階建て、上の下ほどの家だった。
「あれ…だよね確か」
「うん」
「そっか」
とはいうものの2人の足が宇佐凪の家まで止まることはない。
止まる理由もないからだ。
家の前まで来てオレは足を止めた。
当然だが。
「ありがと、あとはちょっとくらい濡れても平気だから」
と宇佐凪は傘を出てオレのほうを見る。
オレも宇佐凪を方を見た。
「ん、ああ」
そして嫌らしい笑みとともに
「あ、今私の家に来ればもれなく私の着替え…みれちゃうけど…?」
誘惑するような…冗談なような発言。
そんなことを言うなら傘にまだはいってればいいじゃないと思うが…まぁいい。
何かあの生活から少し性格変わったんじゃ…。
オレは顔をそらして遠くを見た。
「いや…いいよ…誘われてるワケじゃないし…」
………………反応しない宇佐凪。
聞こえてないワケじゃないと思うけど。
オレは目だけ動かして宇佐凪の様子を見ようと努力する。
だがそれは宇佐凪の手をとらえるのが限界だった。
諦めたオレは再び遠くを。
ちょっと気まずい雰囲気。
とりあえず………。
「じゃ…じゃあオレは帰るから」
オレはまだ顔をそらしている。
とりあえずこの空気はせっかく縁直したというのにきつすぎるよ。
すると宇佐凪は小声でボソッとつぶやいた。
「誘ってたのに…」
……………!
意味が違う!
今の発言は「誘惑」のほうだろう…!
オレの「誘う」は約束とかの方なのだが…。
まぁあの状況で「誘う」なんて言えばそう考えてもしょうがない、か。
その撤回をするためオレは宇佐凪を見ようと
「それっちが…………」
振り向いたオレ。
それとほぼ同じタイミング。
「…!」
オレは息を呑んだ。
あまりに唐突なことに目を閉じることを忘れてしまっている。
手に持っていた傘がゆっくりとそれるように落ちていった。
瞬きさえも忘れてしまったほんの数秒。
目の前にある宇佐凪の顔。
閉じられた宇佐凪のまぶた。
オレの唇にある唇の感覚。
体が動かせない。
頭が真っ白になる。
え…、え!?
……………………。
……………………。
宇佐凪はオレから離れると
「んじゃね♪純クン♪」
と満足そうに言うと風のように家へ駆け込んでいった。
………………ええっと…。
まだ頭が混乱してる。
……………キス…されたんだよな…。
うん、それは間違いない。
口付け、キスって最初は前歯が当たるものだと思ってたよ。
宇佐凪が顔をかたむけていたせいか、それはなかったけど。
first kiss・・・だったんだけどね。
しかも最後名前で呼んだな…。
はぁ…あっけないな…まったく…。
全部宇佐凪に流されてしまった。
しょせん、鍵はオレではなく宇佐凪の手にわたったようだ。
「はぁ…」
後悔のため息、というより少し喜びのまじった吐息。
こんな終わり方…思ってもみなかった。
友達以上恋人未満
この関係がこんなにもあっさり崩れちゃったのか…。
ふぅ……。
最悪だったのか最高だったのか分からない3日間。
その結末が……。
やっぱり…神様はオレにバッドエンドをくださったようだ。
いろんな意味で…。
……………。
ま、いっか。
とオレは後悔をせずに傘をひろうと、ゆっくりと歩き出すのであった。