鈍感の返事なんて決まってたりする
「前原クンのことが好きなの!!」
宇佐凪は思い切り目をつぶって言った。
体育倉庫には夕焼けの赤い光が差し込んでいる。
それはまるで体育倉庫が燃えているようでもあった。
言った直後に頬を赤らめうつむく。
分かっていたことだがどうにも表せない衝撃が心をはしった。
人を好きになることは簡単だ。
だが人から好かれるのは簡単なことじゃない。
それに好かれるということはその人の気持ちをいつか理解してなくてはならない。
そうすれば相手を傷つけるか喜ばせるか。
そういう絶対的差の決断が必要となる。
…………………………だが。
今この瞬間でそんな決断を悩む時間など必要なかった。
「決めてある」ということを除いて、だ。
決めてなかったとしても決断に時間はかけなかっただろう。
いくら鈍感だって自分の気持ちさえ気づけないワケじゃない。
こうなることを…オレは…望んでいたんだ。
今度の宇佐凪は別に異常はない。
きっと、いや、絶対にその一言はオレへの本当の思いだ。
応える。
いや、応えることがオレにはできる…。
応えよう、いや応えたい!
「うん」
オレは2つ返事をして宇佐凪と目を合わせる。
宇佐凪もその行動を見て返事の答えが分かったようだ。
少し雫をためながら嬉しそうな笑みをうかべた。
「…うれしい…!」
そして腰を曲げて顔に近づいてくる。
何をするかは分かっている。
理性をもったオレでも逆らおうとは思わなかった。
宇佐凪の吐息が唇にかかる。
オレだって緊張していて少し動揺し唇が震えていた。
……結局何事もなく終わることはできないみたいだ。
最初こそはがんばってたけど…。
1日2日が何も起こらなかったことに正直期待をいだいていたかも…。
何かが起こるのは最後だって決まってるからね。
まぁ宇佐凪が色々誘惑(というかキノコだのキノコだのキノコのせいで)してきたけど…。
………ふぅ…。
世界って…小さいよな。
今更ながらそう思うよ。
広い世界でも運命の相手なんて1人いるかいないか。
それを生涯で見つけることだってできる人とできない人がいる。
運命…か。
逃れられない歯車。
それが回り始めるのはきっと生まれてからではなく…鍵を手に入れてからかもしれない。
パーソンオブフェイト、きっとそれが運命の歯車をまわす鍵なんだろうか。
だったらオレは今その歯車の鍵を手に入れようとしているかもしれない。
手に入れたならば真っ先に歯車を回すために鍵を使うだろう。
鍵を使えば歯車は回る。
どう回るかは、オレ次第。
どう止めるかも、オレ次第。
完全に覚悟は決めているつもりだ。
それにもうここまできてとめることはない。
視覚も聴覚も臭覚も味覚もいらない、今は感覚だけで十分だ。
…オレは…鍵を手に入れる。
そして鍵を使って……
だが残念なことに鍵を使ったのはオレではなかった。