触ったキノコに祟りあり、だったりする【前半】
「えぇ!?そんなこと…できるワケないよ!」
うん。まぁ当然の反応。
宇佐凪はしばらく手についている白いネバネーバを睨む。
「で…できない…で…できないよぉ〜」
「でもここには水道も何もないからなぁ…」
「だ…だからといって………」
少し黙り込んだ。
それはあまりにも口にだすのさえ恥じらいをもつ言葉。
いやオレでさえ正直言いたくない。
それが女性の口から出すとあれば…
「な…なめろ!なんて!」
うん。分かってる。
そういわれて素直になめる人はいないよ、あぁいない。
「まぁダメ元だったからいいんだけども…。だがほんとにどうするの?それ…。
さすがに今日そのまま寝るというのは正直…きついよね…女として…」
「ぁぅ…たしかにそうだね…。どこかにつけれたりはしないのかなぁ〜?」
「…でも、もしつけたとしてもどっちにしろ砂糖みたいなネバネバしか感覚は残ると思うよ」
宇佐凪はオレを見ていた眼を再び手へ。
「で…でも…なめるのは…ムリ!断じてムリ!」
頬を赤くする宇佐凪を見る。
どうしようかまったく考えがつかない…。
べ…別に「なめる」ことを強要しているワケではない。
だが最善の策がこれしかないのだ。
どうすればいいんだろう…。
天然は天然なりに何か思いついてくれないものか…。
何か比喩ができれば楽かもしれな――
「何かこれ…カルピスみたいな…」
宇佐凪が唐突につぶやいた。
こ…これはチャンスだ!!
「そ…そうだ!それは実はカルピスなんだよ!」
もうちょっと落ち着いて言いたかったが焦っていたのでしょうがない。
正直なところ個人的にはバレバレな…ウソ。
…………。
に思えたのだが宇佐凪には効果的なようで…。
「ほ…本当に…カルピス…なのか…」
バレバレのウソを信じ込んだ宇佐凪は手についている白いネバ×2を見つめる。
ん〜なるほど…天然なりの思考回路の設定が若干理解できたかもしれない。
思い込みが激しい…というのも1つだということ。うん、これ必須。
「か…かかか…ッカルピス……」
「そうだ。それは原液なんだ。皆それをうすめているだろう?」
ちょっと強引な解釈をさせる。
正直原液でもこんなにスライムみたいにはならない。
なっても乾き始めたセメントみたいな感じだろう。
まぁ天然には天然なりの解釈の仕方がある。
それに賭けてみるのも…まぁ…いいだろう。
ゴクリッ…
オレか宇佐凪がツバを飲み込んだ。
オレかもしれないし宇佐凪かもしれない。
今はどちらでもツバをのみこんでしまうような状況なのだ。
「………………」
「………………」
お互いに黙り込んだままただじっと白いネ…カルピスを見ている。
さすがにどれだけ天然でもカルピスと思い込むのは難しいか…?
大体なめるという行為自体が女性にとって難しいことなのだ。
もっと考えれば別の策も考えれたかもしれない。
若干の…罪悪感…というか…なんというか…。
いや…この際ウソはつかない。
正直…後悔してるよ…。
「ええっと…」
「ん〜〜〜…」
「…う…宇佐凪さん?」
「ん〜〜〜…」
白……カルピスとにらみ合っているようでまったくこちらに耳を傾けるそぶりも見せない。
「ええっと実は…」
「ん〜〜〜…」
聞けコラ…そう口から出てしまいそうなのをおさえた。
「さっきのことなんですが…」
「ん〜〜〜…」
「ウ………」
ウソと言おうとノドまで、出かかったのに言えない一言。
そりゃあ信じ込んだことが実はウソでした、なんてそう気軽に言えるものではない…。
だが、こみ上げてくる謎の劣等感と後悔。
この心のモヤモヤは何だ…。
スッキリしたい…。
だがスッキリするには話すしかないんだ…。
どうする?
……えぇ〜い!自分の罪は正直にあやまろう!!
意を決してオレはノドまで出かかっていた言葉を口にする。
「カルピスっていうのはウソ………だったんだけどなぁ〜…」
頭を使うのが必死で周りをよく見ていないオレがバカだった。
もうちょっと早く決断すべきだったか…。
あと3秒早ければよかったかもしれない。
……前のことを言ってもしょうがない、とは言うものの…。
誰だって…過去を後悔したくなるよ…。
「!?」
と宇佐凪が自分の指をくわえているところを見ればそりゃあ……なぁ…?。