運が大事なホームルーム
「ふぅ、今日も完璧だな」
ジリリリリリリリリリリ……
隼が朝食とお弁当を作ってテーブルに並べているとちょうど2階から目覚ましの音が聞こえてきた。
隼は急いで天井をすり抜け柚遥の部屋に向かう。
「柚、ご飯できたぞ、起きろ」
目覚ましを止めて起こすと柚遥は相変わらず寝起きが悪く、お気に入りの布団を頭に被せて耳を塞いでいた。
(これ窒息しないだろうな…)
とりあえず布団を取ってやる。すると、いやいやと言うように首を少し振って布団を取り返しに来た。どんどん迫ってくるので反対側にはなして見たら向きを変えて取りに来る。
(こいつほんとに寝てんのかよ)
一旦布団を返してやると安心したように抱っこしてまた深い眠りに着いてしまった。
隼は大きなため息をつく。
「朝ごはん全部食べちゃうからな」
そう呟いてベッドから出ようとすると急に後ろからガバッという音が聞こえた。
「私も食べる… 」
「はぁ、おはよう、早く降りるぞ」
「うん……ふぁー、あ?」
「危ないっ!」
ガチャンッ……
目を瞑りあくびをしながらベッドを降りようとしてよろめいた柚遥をとっさに飛んで行き支えた。
(ふぅ、霊体で良かった)
「おい、大丈夫か?」
柚遥は顔を真っ赤にして口を開けっ放しにしていた。
「顔赤いな…もしかして熱が…」
「もう!大丈夫だし、ご飯!」
隼がおでこに手を伸ばすと柚遥はそれを避けて走って階段を降りていってしまった。
「元気ならいいんだが」
隼も床をすり抜けリビングに向かう。
今日のメニューはしゃぶしゃぶ丼だ。朝なのでポン酢のさっぱりとした味付け。
「「いただきます!」」
隼は霊体になってから飲食は不要になった。しかし、親が仕事であまり家に帰ってこないのとただ食べるのが好きなこともあって必ず柚遥と一緒にご飯を食べることにしていた。
「今日放課後なんかある?」
「んーなんもないかも」
「適当だな、じゃあ教室行くわ」
「ん、分かった待ってる。ご馳走様」
「あいよ、準備してきな!」
「うん!」
隼がお皿を片付け終わった頃準備を終えた柚遥が戻ってきた。
「弁当持ったか?」
「持った」
「じゃあ行くか」
学校は中高一貫で10分くらい歩いたところにあった。
校門近くまで来ると沢山の生徒が柚遥のところに集まって来る。柚遥は美人な上に性格がよく、結構人気があった。裏でファンクラブが出来るほどだ。
「ゆーず!おはよう!あと隼ちゃんも」
「俺はついでか?」
「さぁ~どうでしょう」
その生徒の中から1人髪を2つに束ねた元気の良い少女が走ってきた。彼女は神藤 奏音。柚遥の親友で幼なじみだ。隼が笑いながら適当な質問をすると適当に返されてしまった。
「今日ホームルームで体育祭の競技決めだってさ」
「もうそんな時期かー」
「柚何やんの?」
「まだ決めてない、何があったっけ?」
奏音と柚遥は喋りながら先に行った。途中で柚遥が後を振り返り隼を見る。
「行っておいで、また教室でな」
「うん!」
2人はまた喋りながら先に行く。
それを見送っていると後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「よっ!愛しの妹取られたな」
「うるせー」
振り返ると奏音の兄、神藤 悠だった。何故か神藤兄妹には隼の姿が見えるらしい。
「俺らのクラスも今日決めんのか?」
「知らねーよ、てか俺はでねーよ」
「えーコスプレパン食い競走とかいいんじゃないか」
「それどう考えても俺がやったらカオスだろ」
「ぷっ、たしかに、まぁメイド服とかお前が来てたら面白いんだがな」
悠は笑いながら冗談を連発してきた。やれば出来ないことはないが他の生徒には隼の姿は見えないのだから浮いたメイド服がパンを食うことになる。隼は想像して鳥肌がたった。
教室に行くとクラス委員長が黒板に競技名を書き、話し合いの準備を進めていた。
クラスメートはそれを見てガヤガヤと騒いでいる。
「やっぱり今日決めんだな」
「そのようだな」
黒板には徒競走、綱引き、玉入れ、借り物競走など普通の競技にコスプレパン食い競走と1つふざけた名前の競走が書かれていた。
「毎年思うがなんだこの競技は……」
「体育祭のウケ狙い競技だな」
「誰が作ったんだか」
「理事長だよ」
「は?!」
悠が真顔で衝撃の事実を明かした時ちょうどホームルームのチャイムがなった。
「おらお前ら座れー」
隼の席は悠の隣で真ん中ら辺の席だ。死んだ後もそのまま残っている。
やる気のなさそうな担任がだらだらと入ってきた。
「あー皆おはよう、あとは頼んだぞ委員長」
担任は委員長に投げやりにして机に突っ伏した。担任はそんなんだが、生徒の中でかなりの人気を持っていた。皆彼の動作に魅力を感じているのだと思う。
「では皆さんやりたい競技に手を上げてくださいね!」
担任に頼られたのが嬉しかったのかメガネを中指でぐいっと上げ話し合いを進めて行った。
皆適当に手を挙げて、被ったらジャンケンで決め話し合いが進んで行った。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁーーー」
突然悠が呻き声をあげた。
「負げたーーーー」
どうやら最後のジャンケンに負けコスプレパン食い競走に決まったらしい。
「ドンマイ」
「お前祟っただろ……」
悠は涙目で隼を睨んだ。
「100%お前の運だ」
「あーくそーー」
諦めたのか悠はいつもの爽やかな笑顔に戻っていた。