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A happy small fry  作者: インプルーブメント
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第一話 インカウンター

ずっと‟ここではないどこか”を見ながら生きてきた。


 そんなどうしようもない性格なので25歳になった今でも大人になれていわけもなく、周りがそんな自分を受け入れてくれるはずもない。


 思えば僕が生きてきた25年間はそんな感じだったし、これから先もそれは変わることはないだろう。

そんなことはわかっているし、そういう世界を生きていく覚悟もできているんじゃないかと僕は思う…


 

 朝、目覚めてカーテンを開けると昨日に引き続き雨が、降っていた。季節は6月で梅雨真っただ中だ。

これでもう4日目だ。ここまで雨の日が続くとさすがに気も滅入ってくるものだ。


 ぼくは洗面所で顔を洗い、昨晩炊いておいたお米とインスタントの味噌汁で朝食をとった後、よれよれのスーツに着替え始めた。

今日は2社、企業の採用面接を受ける予定がある。こんな天気もさえない日に、うまくいかないとわかっている面接にわざわざ電車を乗り継いでいくというのは全くもって気分が乗らない。僕は溜息をつきながら玄関の重いドアを開いた。

3月に高校を卒業してから働いていた会社を辞めてからこんな生活を送っている。貯金もそろそろ危うくなってきた。


帰りの電車に揺られているうちにその日面接を受けた2社の企業からメールが届いた。もちろん結果は不採用で何百と見たその文章を僕は最後まで読んだ。

もうちょっと考えてくれてもいいのに。と僕は思った。いや考えてるふりだけでもいい。流石にその日のうちに断りのメールを入れられるのは悪意さえ感じてしまう。

いや、悪意なんて当然だけどないんだろうな。と僕は思い直す。ただ単に僕という人間に全く興味が湧かなかっただけだ。興味がなく、もはやもう金輪際関わらないであろう人間に無駄な時間を使うほど向こうも暇じゃないだろう。

メール画面を閉じ、スマートフォンにイヤホンを取り付け、ザ・キラーズのミスター・ブライトサイドを聞いて気を紛らす。窓の外に目を向けるといつのまにか今朝から降っていた雨は止んでいた。


いつもの駅で電車を降り、帰りの道中にあるコンビニで濃いめハイボールを一本買い、それを歩きながら飲んで帰る。それが再就職活動を始めてからの習慣だった。

その日もコンビニでハイボールを買い、いつものように歩いて帰っていると、いつもは気にも止めない公園に目が止まった。そこは錆びだらけの滑り台と今にもクサリが切れそうなブランコと木でできた細長いベンチが2つあるくらいの小さな公園で、僕はその公園で遊んでいる子供はおろか、中に人がいるという光景を今まで見たことがなかった。

でもその日は違った。僕から見て奥の方にあるベンチに制服を着た1人の女の子が座っていた。彼女は綺麗な姿勢を保ったまま、何を見るわけでもなくただ真っ直ぐ前を向いていた。

僕はなんとなく彼女が気になり手前にあるベンチに座った。ベンチは降っていた雨の影響でかなり湿っていた。彼女は僕には気づいていないのか。相変わらず微動だにしない。

綺麗な子だな。と僕は思った。黒い髪は肩に届かないくらい短く、体は細身で、とても澄んだ目をしていた。

僕は相変わらずのダメ人間なのでベンチに座りながらハイボールをまた飲み始めた。5分くらいした頃だろうか、先に声をかけてきたのは彼女の方だった。

「おじさんはサラリーマン?働いてるんですか?」

いきなりのかなり踏み込んだ質問に僕はむせかえった。彼女の方から話しかけてきたことに驚いたし何より彼女の第一声をそんな質問で聞くとは全く想像できなかった。

それにして”おじさん”って。

25年間生きてきて今までおじさんと呼ばれたことは無かったし、2年くらい前まではスーパーで酒を買う時たまに年齢確認されることもあったからこれも予想外だった。

でもよく考えてみれば、帰りによれよれのスーツ姿で酒飲んで帰ってる男なんて彼女からみればそりゃおじさんだよなと思わず笑ってしまった。

「何がおかしいんですか」と彼女は不機嫌そうな顔をした。

「いやごめん。こっちの話だから気にしないで」とまだ笑いが治まらない僕は言う。

「こっちの話ってなんですか」と彼女はさらに不機嫌になったので僕は正直に言った。

「いや、おじさんなんて言われたの始めてだったから」

「どこからどう見てもあなたはおじさんでしょう」

「そりゃたしかに言えてる」

「変な人ですね」と彼女は呆れた。

僕はその間もずっと壺にはまったかのように笑い続けた。それはもう彼女が思いっきり引くほどに。

でも彼女はそんな僕に引きながらもベンチに座り続けていてくれた。

大半の人は僕みたいな人が急に現れてこんな奇行をしだしたらすぐに逃げ出してしまうだろう。

ようやく僕の笑いがおさまったころ「それで私の質問にまだ答えていただいていないのですが」

「ああそうだった。えぇっと…何だったっけ」

「あなたが働いているのか、そうでないかです」彼女はため息混じりに答える。

「どっちに見える?」

「検討もつかないですが、少なくともあなたがまともな人間には見えません」

「大正解!僕は現在無職の25歳。今日も2つの面接に落っことされてきたんだ」

「そうですか。それは残念でした」

「心配してくれてどうもありがとう」

「なんで私があなたの心配なんかしなくちゃいけないんですか。私が残念がっているのは社会というのがあなたみたいな人でも生きていけるような場所では無かったことにです」

「ああ、そっちか」

「お気楽な人ですね。当たり前じゃないですか」

「そりゃそうか。そうなんだよ。社会というのはそこまで甘くないものらしい」

「そのようですね」

こんな会話をしているうちに僕は初めて人との会話を楽しんでいることに気がついた。僕はもう少し彼女のことが知りたくなってきた。

「お互い自己紹介しようか」と僕は言った。当然「嫌です」と即座に断られたけど僕は構わず自分の自己紹介を始めた。

「僕は25歳無職のアオギリ シン はい!次はそっちの番!」

彼女は心底嫌そうな顔をして「あなた今警察沙汰になりかねないことをしてるの気づいてます?」と答えた。

「そんなことに気づかないほど僕は馬鹿じゃないよ」

彼女は彼女は諦めた様子で「ナツメ ナギ高校生です」とだけ答えた。


こうして僕は彼女と出会った。雨の隙を這うようにして現れた夕日が沈んでゆく。そんな日の夕方だった。

初めてまして。インプルーブです。

もし暇でしたら読んでみて下さい。暇つぶしになれば僕にとってこれ以上光栄なことはありません。よろしくお願いします。

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