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第68話 Fire Inside

 枢密院殿は撤退でも開戦でもどっちでもいいと言ってるが、オレは変わらず撤退の可能性が一番高いと思っていた。雇い主なのでそれを賢しらにオレから主張したりはしないが、精神的重圧から眠りに落ちることで自己をまもった女の子が、ようやっと目を覚ましたのだ。

 政治向きの話を聞かせる気分にはなれなかった。


 すると女の子が目を覚ましたことが広場に集まる村の衆にも波紋のように広がったらしく、オレが一顧だにせず無視していた坊主が女衆達の隙間を縫って女の子のところまで行き、よかったねと声をかけていた。

 その声に気づいたサマースが坊主を見た。


「エリ……」


 オレがシッと自らの口に指を立てると、サマースに黙ってもらった。


「すまんがあの坊主の名前なら、オレは聞きたくもないぞ、サマース」

「おいヒュー」

「そもそもこの場に一緒に立っていたくもないぐらいだ」

「おい」「ぬ?」


 サマースにつづいて枢密院殿もオレの方を振り返った。

 そして不穏な言葉が聞こえたか、先輩方や小隊の目も含め、それに連なって村の衆までその視線がオレにむかって注がれた。オレとしては政治向きの話をする気はないが、この娘の身に危険が迫るような事態にもしたくない。

 それはリアを肉親に持つオレならではの最優先事項であった。


「今目覚めたそこの女子(おなご)は、悪党共に捕まっているとき、オレにすがるような目で助けを求めたのだ」

「うむ。そうであったな」


 枢密院殿が肯いた。

 枢密院殿の裏打ちを得て、オレはこの坊主とは向き合う気もなかったが向き合うことにした。これは、あるいは村の者にもきちんと伝えておかないといけないことだろうと思い直したからだ。


「この女子がお前にそのすがるような目をオレにではなく坊主に向けたとしよう。そうしたら坊主、お前はその時どうする」

「助けるさ」

「そうか。だがオレはそれを信じない」

「なに!」

「なぜならお前は村人がいないところで、盗賊に頭(こうべ)を垂れていたからだ。坊主は悪党共の荷物番までしておったな。悪党が去り、一人になっても逃げようともせず、おまえは村の中央で村人が懸命に戦っているのを尻目に、それでいいのかと問うたオレに仕方ないだろと言って荷物番をしていた」


 村人が驚いた顔をした。誰一人知らなかったようだ。まぁ敵の侵入した経路とは反対の出入り口だったから目を向けることがなかったのもわかる。こちらとしても完全な遭遇戦であったのだから。

 だが坊主は戦わなかった。戦わない理由もきちんと考えていた。


「そんなお前が本当に助けに向かうのか?」

「おい、ヒュー。やめてやれ。まだ子供だ」

「子供だろうが何だろうが性根は変わらない。坊主がその性根で大人になるのなら、お前では絶対にこの女子は救えない。それどころか女子の身を危険にさらすことも厭わないだろうな。坊主が盗人どもの荷物番をしているときに、そこの女子は敵の大人達に取り囲まれ、それでも懸命に何か手はないかと探していたぞ。戦っていたのだ。

 だがお前はどうだ。

 盗人どもが消えた後も荷物番をしてたお前が、戦う理由を提示されてもそれを選べるとは思えない。また今度も盗賊共に頭を垂れるのが関の山だ」

「おまえっ」


 坊主が拳を握って振りかぶった。

 と同時にトライデントがオレの前におどりでて坊主の動きを止めていた。

 それにしてもよく坊主が殴りかかろうとしてるのがわかったものだ。オレより離れていたのに動作が始まる前から、するするとこちらへ寄って止めてみせた。

 さすが子持ちの親といったところだろうか。子供の考えることは手に取るようにわかるらしい。そのトライデントが坊主に厳しいことを言った。


「やるなら殺し合いだ。俺はヒューにお前を殺させるぞ、坊主」


 そしてトライデントはオレの目の前でそう告げた。盾になってくれたのはいいが、その時の坊主の表情が見えなかった。邪魔だ。

 そしてトライデントはお構いなしにオレたちが殺したゴブリンと盗賊共の死体を指差し、こういうことをすると指し示した。村人達が本気か? といった目でトライデントを見ているが、そこに文句を言うものは結局いないようだった。


 だがまぁ、確かにトライデントの言うことももっともだ。

 オレにはリアが居る。怪我をしてやったり殴られてやるわけにはいかないのだ。

 敵を利そうとする者に無駄に巻きこまれ、そのうえでつまらん怪我を負っては、自治領に残した女子たちへの責任が取れない。そのつまらん怪我をオレが負ったがために動くことが遅れ、そのせいで女子共が襲われて殺されでもしたら始末に負えないであろう。そしてそれは、絶対にあってはならぬ事でもある。


「ヒューは枢密院殿の用心棒だ。サーバを守る目の、大切な盾だ。騎士団だろうが魔法士団だろうが、そこのサマースとたった二人でアート城でも枢密院殿とアート王を守った人材でもある。国政会議の場で、全てが敵かもしれないその場所で、たった二人でだぞ」


 ルイ小隊長が補足した。


「そうだね。あの時はサーバの騎士団統括部の部長、魔法士団統括部の部長を相手取ってたのよね。それはつまり、サーバの四つの騎士団、四つの魔法士団とも戦って、ハロルド様ひとりを守るきると宣言したようなものなのよね。それもハロルド様を守りながら。

 敵だらけの城内でそこのサマースくんと二人で…………考えてみたら凄いわね」

「そうですね。事と次第によっては私たちも敵対させられてたわけですし」「うん。ヒューくんは炎魔法は使えないけど内に秘めたる炎はすごいのです」


 そんなに誉められても気恥ずかしいが、やってたことはその通りなのだろう。枢密院殿の用心棒を請け負ったときに守り手が二人しかいないということは、季節料理屋のゲソでサマースとも話し合った際に突き詰めている。

 そしてルイ小隊長の謂ったことの中には、言葉にこそしなかったが、あなたとは大違いねといった意味が含まれており、その声は坊主を咎めてもいた。

 トライデントが後を引き取った。


「ヒューの背景にはそれだけの事情がある。手加減など期待するなよ。名も知らぬ子よ。おまえは全てを裏切って村を敵に売っていたようだが、ヒューを甘く見ることは、この俺が許さん」

「でもどうしろってんだ。盗人の言うことを聞かなかったら俺はその場で殺されてた」


 戦わない理由を、本当にきちんと考えてるなぁ。

 キーノの前だというのに。

 キーノの命を背負ってるという考えはないのだろうな。あったらこの場でその答えは言えぬ。ならば無事で良かったねと言ういたわりも、決して坊主が口に出してはならぬ言葉ではないだろうかと、オレは思う。


「弱さを武器にするなよ。いいか。ヒューには手足のない妹がいる。目も見えない。そして妹を裏で売るような真似をしといて、平和になった後から無事で良かったねなどと、ヌケヌケと言いに行ったりもしない」


 ちょっと違う気もするのだが。もっと言うと例に持って来る話が大分違う気もするのだが。

 具体的に言うと、オレは絶対にリアを裏切らない。裏切った時点でそれはリアが死ぬことを意味するからだ。ただでさえ四肢と眼を持ってかれてるのに、妹を売るような真似をしたらオレの敵は全てをとっとと持ち去ってしまうだろう。


 トライデントの言いたいのは殺される以前の話だと言いたいのだろうが、心が先走ってなにか順番をすっ飛ばしてるように見えた。

 だがまあトライデントの言う通りの部分もある。オレは敵に尻尾は振らない。必ず妹の前面に立つわけだが――。


 だがそれを坊主に言うつもりはない。

 むしろオレの秘事を勝手に言ってしまったトライデントを咎めるべきなような…………。

 オレは目の前にあるトライデントの臀を蹴った。


「いてっ」


 振り返ったトライデントが怒ってたのでオレも怒った。


「べらべら喋るな。我が家のことを話すかどうかは、オレが決める」


 自分の迂闊さに気づいたらしい。トライデントが済まないと謝った。それからゴホンと咳払いして、


「そういうわけでだ」


 と言った。

 どういうわけだ。


「裏切り者がソマ村を救った枢密院殿の好意を否定するのなら、お前のこれからの行為を喧嘩では済まさない。戦闘、殺し合いとしか見なさない」


 山間を容赦ない風が吹いていた。

 坊主は殴りかかってこなかった。顔からは血の気が引いて蒼白になっている。


「そんなのはずるい。俺にどうしろってんだ。こんな、こんな通りすがりの奴に」


 指で指されてヤレヤレと首を振った。


「お前は自分の事情を忖度してもらおうと甘えてるだけだ。苦しんだことがないのだ。だから平気で相手が悪いという方向で考える」

「ヒュー、やめてやれ」

「む。枢密院殿がそう仰るなら」


 確かに突き詰めすぎるとギスギスする。余裕を持たせるというものは大事なことで、その余裕をもつ遊びの部分をどれだけ取るかが、オレがフォルテの王宮で学んだ大事なことなのだが、磨きすぎた剣が使い物にならないように、坊主にこれ以上こちらの思った望みのようなものを押しつけない方が良いのだろう。


 坊主の人生は坊主のもので、ここでオレとリアの支え合う絶対の行動原理を知って後はオレとは関わることのない、すれ違うだけの人生だ。


 坊主が走ってどこかに行った。


 ふむ。殺し合いをせずに済んだわけだし、走り去る反骨心を持つぐらいには、心は折れてないようだった。坊主もたった今、命がかからなかったことで年には似合わない苦しみを覚えたわけだが、願わくば頭(こうべ)を垂れた相手が何なのかを見直し、ここから去ったことで自分を彩った鈍色(にびいろ)のしでかしちまったことを知って、自ら手折(たお)ってしまった心持ちをきちんと受け止られればいいなと、オレは思った。


 他人事のようだな。他人事なのだが。


 するとオレたちが助けたキーノがペコリと頭を下げ、走り去った坊主の後を追った。

 オレはその機知にも似た自然な所作に、幼馴染みとはいいものだと、ふと力が抜け、追いかける女子の後ろ姿を微笑ましく目で追った。

 その後ろ姿を思い出に重ね、今頃ミネルヴァはどうしてるだろうかという思いが脳裏を過(よぎ)った。ミネルヴァは母さまと一緒にリアとアンナさんとオレと、フォルテの第三后邸の庭先で、母さまの弟子として日々召喚魔法の訓練をともに明け暮れた幼馴染みだった。

 あいつの召喚獣、小さな虎の方には子供の頃何かと噛みつかれたものだったが、あいつもオレに謝りなどしたことはなかったと、フォルテ本国で過ごした数少ない幸せな思い出が、何かの拍子でふと重ねたようだ。

 重なるな。

 オレは少しだけ笑った。


「時々容赦ないの、お主は」


 雇い主殿に存外なことを言われた。


「そうですか?」

「いやいやハロルドさまよ、ヒューは相当手加減してましたぞ」

「まぁ、トライデントが言うならそうか。確かに手は出しておらんしの」


 そうではないのだ。

 実はフォルテの王族でした、という立場を出さなかった分だけ、かなり手心を加えてるのだが、その事をトライデントだけがわかっていた。

 殺し合いだと言ってたトライデントなだけに、いざそうなったらオレにやらせると言いつつ横から坊主を殺していたのだろうな。こいつには藁掻きでオレをいきなり殺そうとした実績もあるし――。

 王室外交を知ってる以上、ライム直属のアーサー騎士団と行動を共にしてた者なら、それぐらいは平気でやりそうだ。


 ふうむ。


 もやもやするな。


「もやもやしたから止めた上司に責任を取ってもらいますかな」

「ぬ、なんだ、ピュー」

「ヒューです。それと、枢密院殿がダルマーイカの街で頼りにされてる理由が何となくわかりましたよ、ケチだけど」


 サマースがあわわと口元を泳がせた。

 だがもう遅い。言ってしまった。それにこれぐらいは言っても罰は当たらぬであろう。実際ルイ小隊長が誉め称えたそのサーバ城での折に、オレたちが枢密院殿を騎士団と魔法士団の統括部長から守り抜いた報酬が、たったキャベツ一個だと教えたら、きっと肯いてくれると思うぞ。


「す、枢密院殿は凄いですぞ。高尚ですし」


 サマースがそんなことを言ったが、今はそういうことではなかろう。トライデントもとぼけた顔して無造作に言った。


「まぁこの人は熱いよな、ケチだけど」

「タイミングを逃がさないよにゃ、ケチだけどにゃ」


 そしてオードリー先輩がじっと隣のダンケ先輩を見た。ここはお前が続く番だろと言いたげに脇腹を肘でつついてる。だがそれは果たして鎧越しでも伝わるのだろうか。それは剣や槍の一撃を防ぐ鎧であろう。


「ぐむむ」


 ぐぬぬではないのか…………。

 ハアーとオードリー先輩が溜息を吐いた。


「ダンケ先輩はこういうところが駄目なんだにゃ。ヒューに怒られる隙を与えずに庇ってやるもんだにゃ。いずれアーサー騎士団に入ってくる馬鹿だぞにゃ」


 なんか知らんが居たたまれない空気になったので、オレは空の向こうを見た。敵はまだ、空の向こうにいる。

 オレがアーサー騎士団に入ることもないし。それはダルマーイカ辺境伯にも言われている。オレは廃嫡同然とは言え、フォルテの第七王子、ヒュー・フォルテ・ハーグローブの名を持っているのだ。ライムの傘下に入ることは決してない。王室外交を否定したら、それこそフォルテとライムで戦争になる。

 いや待て――。


「なんだ? 空の向こうにいる? 何だ、何が起きている」


 アルバストが平野部を通過しているように見える。


「どうしたにゃ?」

「先輩の目で見えますか? オレにはアルバスト達が戦場を突っ切ってるように見えるのですが」

「なめるにゃ。猫人族の目は、目は…………、ぼやけて見えにゃい」


 あんたも枢密院殿とおなじ口か。

 猫は角膜が厚いからぼやけて見えるのを召喚獣から聞いて知っている。何を隠そう、先ほど思い出したミネルヴァのこども白虎の一匹がオレにそう教えてくれたからだ。だから同じ猫系の先輩はどうかと疑ってたわけだが、これは生物としての構造上仕方ない。その隣の先輩にはなしを振る。


「ダンケ先輩はどう思いますか?」

「降りる素振りがないな。むしろ見つからないよう上空を、高度を保ってるような気がするが…………。だがそうなると狙いは」

「サーバ城ですね。まっすぐ行くと城にぶつかる」


 どよっとこの場が響(どよ)めいた。

 だがそれだけでもおかしい。アルバストがサーバ城狙いなのはわかった。だがそれなら敵の騎士団、地平の彼方騎士団だったか、その布陣がおかしいことになるのだ。いわば布陣の位置が逆なのだ。地平の彼方騎士団はボヌーヴ川を背にしている。サーバ城の攻略が目標ならアルバスト達が気兼ねなくサーバ城に行けるよう、そして敵であるフィッシュダイス騎士団をサーバ城に行かせないよう、川側でなく城側に布陣して、こちらの足止めをしないといけない。


「これでは素通りで行かせるような物ですな。フィッシュダイス騎士団がアルバストに攻撃を始めたら、アルバストはともかく部下は全滅するでしょうに」

「どういうことだ、ヒュー」

「いいかサマース。陣地取りがおかしいのだ」

「つづけろ」

「地平の彼方騎士団の方が早くこの地に訪れたというのに、なぜ、アルバストを守る形で布陣しなかったのだ。未だ開戦せず、陣取り合戦もする気配もないのは明らかにおかしい」

「フィッシュダイス騎士団が早かったからだろ。あそこは団員が全員、光速移動を使える。瞬足を売りにしている騎士団だ。だから王都への侵攻を防ぐ陣地を取れた」

「本当にそうか? ならばなぜ開戦しない」

「何を言いたい、ヒュー」

「えーっと、最初から地平の彼方騎士団はあの場所に止められてる?」

「おいおい。属国のキボッドが独断で隣国の同じライムの属国に対して騎士団を動かしといて、それはないだろう。ジッとしてればしてるだけ不利になる。ライム本国からだって人を遣るぞ。それが騎士団なのか魔法士団なのか、それとも…………」


 枢密院殿が助け船を出した。


「王剣か王杖が、か」

「そうです」


 サマースが枢密院殿に肯いた。

 王都ではまだ気づいてないのか、気にもしてないのか。王都の城塞都市を守る巨大な魔法陣があることはわかっている。


「だがアルバストがいる。あの女エルフに魔法は通じないはず」


 オレが真実をぼかしてこの場にいる全員に伝えた。すると、そこまで凄いエルフなのか? とダンケ先輩がオレに訊いた。


「はい。そちらの乙女の祈り魔法士団のお三方が魔法に対処されてお困りになってました」


 ルイ隊長が肯く。


「困ったなんてものじゃない。こちらの攻撃は中(あた)らないのに、向こうからは中てられる。それも一撃で部下は左の手足を持って行かれた」

「本当ですか?」

「じろじろ見るにゃ」


 オードリー先輩が男たちの不躾な視線から乙女の柔肌を守った。さすがに速い。小隊の方々は一向に気にせず堂々としてるけど。

 まあいい。

 それよりあいつらだ。何だ。何を企んでいる。


「王都に向かうなら開戦して雌雄を決しようとするはずだ。だが騎士団は動かない。まさか王都で、いや、城で何かが起きている?」

「どういうことだ」

「報告待ちなら、動かない理由もわかるってことです。すでに城に敵の部隊がいて、そこにあのアルバスト達も加わるってことなら」


 言っててオレは自分の顔色が蒼白になってくのが自分でもわかった。


「どうした!」

「あいつらはオスニエル王子を既に脱出させた」

「ああ」

「でも、脱出させたからといって全員が王の御座城から撤退したとは限らないよな」


 サマースは言葉に詰まった。計算してる。


「あ」


 トライデントが真っ先に大きな声を上げた。トライデントは理解したらしい。


 そうだ――。


 そしてもしもそうならば…………、サーバ城は落ちる。


 アルバストがセプティリオンを使えば召喚魔法と同質の魔法がサーバを蹂躙することになる。サーバの兵に防ぐ手段はない。ソマ村はオレがこの地にいたことが幸運であったのだ。

 深度一にまで潜った魔法を止められる者など、ライムにはいない。


「すみません、枢密院殿。もっと雇い主の考えを深く考えるべきでした。どこに行くのか、オレはそれを撤退しただけだとまんまと騙されました。撤退ではない。攻めに戻ったのです。次の王を確保して」


 オレは風魔の小太郎と名乗って化かすことには成功した。成功したが、向こうにも化かされていた。

 失態だ。

 それも結構致命的になりかねない失態だ。


「うむ、状況はわかった。だがな、それを言うなら儂は全く思いつきもしなかったのじゃ。だからお主がそんなに気に病むことではない。そもそもサーバ城には強力な結界もあるし騎士団も魔法士団もいる」


 枢密院殿がそう言った。

 だがオレの胸から不安が消えることはなかった。そしてそれとは逆に胸の内から込み上げてくる物もあった。

 その込み上げてくる物は確かめるまでもない。

 この国は、サーバは、オレとリアが安息できる数少ない国なのだ。

 アート王にも恩がある。受け入れてくれた恩がある。安らぎをくれた恩がある。


 オレの胸の内で、炎が灯った。


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