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第164話 Don't Stop Me Now その二

 それはオレの目を覚ますような一閃であった。七色の煌めきが夜空を割り裂き、目的を果たしたのか、その一閃はスッと闇に溶けこんで消えてったわけだが、それは見た事もない光の乱舞であった。あれは魔法でも召喚魔法でもない謂わば光の煌めきだった。


 ――いや逸るな。深く息を吸え。ふう。


 そうじゃないだろう。

 いわばこの事態を招いたのはオレにあった隙であった。オレはすっかりクレツキとコペルニクスのことを考えていて、頼まれた分だけ頼んでも良いだろうという目論見で心がいっぱいになっていた。だから周囲への警戒が疎かになっていたのだ。どうしようもない馬鹿をコペルニクスに頼まれたんだから、これで相殺だと思ってたんだがそれが隙となっていた。


「にしてもやっぱ現実だよな。どうなってんだ」


 一閃が通った後は、魔物の姿は影も形もなくなっていた。


「ちょっと黙ってて」


 何故かメラニーに叱られた。



 ◇



 王剣筆頭ヘルベルト・アーサーは興奮していた。火トカゲという炎系のモンスターは、素早い上に小さな群れを形成して襲いかかって来る面倒臭いモンスターであった。普通の人では防衛行動を取っても石や包丁では倒すことが出来ず、おまけに素早いのですぐに回避されて一匹にかかずらってるとすぐに横から食いつかれて大やけどを負うのだ。手間のかかる魔物であった。

 だが眼下に展開される対処法は今まで見たこともないものだった。何しろ石畳がクルッと回転したかと思うとそこに火トカゲの群れが居なくなるのだ。それが何度も何度も簡単に繰り返される。


「何だあれは」


 思わず隣にいる幼馴染みに訊いてみた。


「土いじりとか本人は言っておったな」

「土いじり‼ わっはっはっは」


 あんなくるっとひっくり返すのを土いじりと言うのか。

 それは見れば見るほど興味深い現象だった。魔物がいたところから石畳がクルッとひっくり返るだけで魔物がいなくなるのだ。土の中に封じ込まれたと考えられるのだが、城壁からだと石畳が損傷した様子はない。近くで見ると回転した形で割れているのかも知れないが、この場から見てる限りでは元の形と何ら変わらないようなのだ。


「一体どんな原理だ」


 思わずヘルベルトが独り言ちる形でまた尋ねていた。魔法的にも、発想的にも、ヒュー王子が展開してる魔法は異質な魔法であった。しかしハロルドが答える前に空からグリフォンが現れた。一閃が走る。


「邪魔するな」


 一瞬でグリフォンを灰燼に帰したが、眼はヒューに釘付けのままだった。


「面白い、おもしろい、面白いな」


 信じられないほど素早く的確に土魔法がピンポイントで発動している。火トカゲが居るとわかった瞬間から土いじりとやらが発動しているようだった。


 ヘルベルトが考えるに――。


 一対多に措いて、これほどの高効率な戦闘を見せた魔法使いはいない。自身長い戦歴を誇るがこんな魔法に該当するような魔法を披瀝した者もいない。そして当人はフォルテの召喚魔法使いであり、魔法使いのつもりなど更々ないだろう。むしろ言動的にはアーサー流の剣士になりたいといった感情が見え隠れしていた。


「ふふふ」


 これを面白いと言わずに何が面白いと言えるだろうか。さすがサーシア殿の息子である。


「笑っとる場合か」

「ん?」

「派手に割ったもんじゃの。煌子力ソードだと周りが騒ぎ出せば、ヒューにもお主の正体が王剣筆頭だとばれるぞ」

「む。それはまずい。折角俺の正体を宿題にしたのだ。そんなつまらん結末では間抜けが過ぎる」

「知るか」


 ヘルベルトは慌てて手にしてた剣を仕舞った。

 グリフォンには思わず手を出してしまったが、これは致し方ない。とにかく、戦闘ではなく防禦を重視することとした。


「手刀で斬り捨ててもすぐに正体はバレると思うがの」

「お前は俺にどうして欲しいんだ。少しは鍛えろ。昔から言ってただろうが。俺が苦労するのはお前に武力がないからだ」

「お主こそ見る眼を養え。反射で殲滅するな。ちょっと動けばすぐバレるような答えを設問に設定するな」


 いつもの、日常であった。



 ◇



 隙を見せたことを謝るべきか、獲物を獲られたことを怒るべきか、互いの約束はヘーイルの爺ちゃんが枢密院殿を、そしてオレはメラニーの安全を保証するのを紐付けられたわけだが、約束を履行しただけとも言える。

 光速移動から城門近くの城壁に下りると城門は大騒ぎであった。


「まただ」「また魔物が」「さっきは消えたのに」


 オレの耳に届いてくるのはこんな切羽詰まった声ばかりである。

 城壁の内側、城塞都市の方を見やると、


「また何もないところからか?」「何かがあったが、また湧いて来てるのか」


 と王都民が警邏隊や城兵に尋ねていた。

 思えばこういうのはコペルニクスやサドンさんがやるはずの事だった。コペルニクスと出会った時、彼は城塞都市の中を王都民のために駆けずり回っていた。

 サドンさんは――、まあ言い分を考える前にオレがやらねばなるまい。

 オレはまた城壁上空へと光速移動すると、ちゃっかりオレの外套を掴んで付いて来てるメラニーを調整しつつ、眼に映る眼下の火トカゲを土いじりで根絶やしにして行った。


「上がれ上がれ」


 二層に王都民を避難させている。なけなしの体力を振り絞って王都民も指示に応えて城塞の二層へと移っている。本来は警邏隊や貴族以上専用の第二層であるが、緊急時ということで柔軟に対応してるようだった。

 その追い込みをかけてる火トカゲの群れを探そうとするが、人混みの中に隠れてどうもハッキリしない。細かく移動位置を変えて元凶と思われる群れを三つばかり瞬時に潰した。


「それにしても駆けずり回ってるな。あれを誘導するのも大変だ」

「アンタが言うな」

「ん?」

「アンタこそずっと駆けずり回ってるじゃない」


 言われてみればそんな気もする。だがこれは仕事だ。力の及ぶ限り遂行するのが用心棒の本懐という物だろう。

 そして警邏隊はよく情況を理解しているようだった。オレ自身も火トカゲが目に付いたそばから退治しているが、彼らが見切って行動してるように、火トカゲが一層の地面からだけ現れている事には気づいていなかった。彼らの行動からようやく気づけたといった塩梅だ。そして確かに二層の石畳からは、魔物は現れていない。


咒札(じゅふだ)をばらまけたのは一層ばかりだったんだろうな」

「テロリスト達のこと?」

「そうだ。埋設された咒札の全てが解放されつつあると見るべきだな」

「仕方ないわ。アンタはよくやってる。手駒にする以前の行動を咎めるような真似はしないわ」

「そいつはどうも。だが話はハッキリさせんとな」


 そしてオレは集合場所となった城塞都市の東門近くの城壁で、雇い主である枢密院殿とメラニーのお付きであるヘイールの爺ちゃんの元へと飛んだ。


「やれやれ、やっと来たな」

「お待たせしました、枢密院殿」


 オレは頭を下げて合流した。城壁東門近くは、夜だというのに熱気を伴った風が郊外から強く吹きこんで来ていた。

 そしてオレはヘイールの爺ちゃんに眼をやった。


「爺さん、やってくれたなぁ。オレたちで処理しないといけなかったのに」


 完全にオレの間抜けさ加減が悪いのだが、立場的にはこう言わざるを得ない。枢密院殿の下命の下で動いてる、それがオレの大前提であった。謝ろう物ならお給金が吹っ飛ぶ事案だったと、ここに来てようよう気づいた。ヘイールの爺ちゃんは両の手の平を見せて落ち着けと言わんばかりの動きをした。


「ついな。つい手が出てしまったのだ。しかしやはりそれが返事か」

「無論です。それで、何の魔物でした」

「グリフォンだったかな」

「へー、すごいな」


 グリフォンとなればフォルテでも召喚獣にしたがる輩は多い。それを一閃で跡形もなく消し飛ばしたとなると、やはりこの爺さんただ者ではない。


「だが嗾けた奴は見つからない。誰かさんの相手してた奴等だと思うんだが」


 城塞森林公園でのことであろう。ヘイールの爺ちゃんは見つけられずにいたようだ。

 チラリと後ろも見た。メラニーは当然のようにそこに居た。


「ふう。致し方ない。とりあえず、やった奴ならすぐ見つけられますよ」

「ヒュー王…………」


 とヘイールの爺ちゃんが言いかけて突然に空気が変わった。


「魔気を遮断しました。ここでの話は一切洩れません」


 メラニーがすかさず枢密院殿を連れて何事か言っている。まぁ問題なかろう。あの辺りも魔気が遮断されているから勢力下だろう。


「これはヘイールの爺ちゃんがやってるのか?」

「そうです」

「そうか」

「はい」


 爺ちゃんはオレを王子として遇していた。

 ならばオレもある程度は体裁がいるだろう。


「あなたの剣は」

「それは私の宿題に繋がるからお答えできません。むしろ私の方こそ訊きたい。ハロルドはあなたの土魔法を土いじりと言っていましたが、本当は何なのです」

「土いじりが駄目なら耕起ですね」

「耕起」

「畑で土を入れ替える作業ですよ。鍬の代わりに魔法でしてるんです」

「そんな魔法があるんですか」

「あるというか、正式名称は知りませんけど、やってることは土輪ですよ」

「土輪?」

「魔法の適性を調べるためにやるヤツ、あれですよ」

「あれは四、五センチぐらいの大きさだったような」

「だから大きさだけをちょっと大きくしてやったんですよ」

「!?」



 ◇



 王剣筆頭ヘルベルト・アーサーである。ちょっと大きくしてやったんですよと云うヒュー王子の説明を受けて、俄には信じられなかった。

 だが言われてみれば形としては土輪である。


「ああ、そうそう。そう言えばあなたの質問に答えてませんでしたね」

「王族とはそういうもんです。慣れてます」

「どうも」


 そう言って彼は城壁から広がる広大なサーバの国土を眺めやった。人の形も判別しない外殻都市の向こうに向けてポツリと言った。


「逃げ切ったと思ったんだろうな、バックドアは。だが思い知るがいいアルバスト。貴様ら今どこだ、光れ」


 途端、草原の先でビカビカと派手な光が灯った。


「あれがそうだな」

「何故光るのでしょう」

「こちらが矢面に立って、敵は後ろにコソコソ隠れてるなんて気合いが足りないでしょう。それは許せないので、尖兵の後ろにいる奴らも引きずり出すことにしました」

「そんな事も出来るんですか?」

「出来ます。オレの妹の四肢と眼を奪っておいて、いつまでも逃す気はない。オレは敵持ちとこれまでは言ってきたが、心の奥底では復讐者であるとずっと思って来た」

「…………」

「これがオレからの反撃、その狼煙だと、そう思って頂いて結構です」


 途切れることなく光は一定の間隔でビカビカと光っていた。闇の向こうで慌てているであろう様子が何となくその光り具合でわかる。


「逃がした気など毛頭なかったわけですな。しかしそれならば…………」

「ハッキリさせましょう。手出し無用。冒険者はギルドで待機。これは枢密院殿が出したお達しです」


 そしてそちらは冒険者を名乗ったのだ。そう云いたそうであった。


「ここで介入を許したら枢密院殿も、それからそちらも立場が悪くなるでしょう」

「しかし」

「やると決めたらやる」


 どうやらこれが正式な返事のようであった。

 ヒュー王子は中々に強情な(たち)のようだ。それならばそれで、こちらもちょっとばかり(いじ)ってみたくなる。


「あえて言いましょうか。逃げられたくせにと」

「だが鈴はつけた。どこへ行こうがもう関係ないんですよ。オレの降霊召喚の前では暴かれた時点で彼女らは詰んでいる」


 本当か? ヒュー王子の召喚魔法は他国には情報が流れてきていない。だが噂としてはフォルテからもよく流れて来る。曰く、フォルテ内で王子の立場は極めて悪く、無能だ、欠陥だと云った話ばかりが伝わってきているのだが、実は噂は噂ばかりで肝心の召喚獣の部分の話が全く抜け落ちているのだ。

 俺は知らず疑義の眼を向けていた。


「ヒュー王子の召喚魔法とは何なのです」


 サーシア殿は未来召喚であった。フォルテ屈指の召喚魔法使いであり特殊召喚の使い手であった。その長男ともなると相当特殊な召喚魔法なのだろう当たりは付けていたのだが、こうれい召喚とは何か。

 高齢なのか、好例なのか、降霊、交霊、いずれにしろ実体を伴う召喚魔法とも思えない呼称が思い浮かぶばかりである。唯一高齢は想像がつくが、高齢者を呼び出してもそれが何だという話にもなる。

 目の前でお茶を点てられても、耳が遠くても、話が通じなくても、それはそれで召喚獣として無用の長物であろう。

 そこまで思って嫌な汗が背中を流れてきた。

 フォルテでヒュー王子が何と呼ばれてきたか。

 そして特殊召喚と云えば特殊召喚と云えなくもない。

 未だ想像の内の話だが――。


「それは言えません」

「言えませんか」

「言えません」

「まぁそうなりますか」

「ええ。貴方が手ぶらを強調してお茶を濁そうとしたように、オレにも事を為すまでは引いておかなければならない一線という物がある。まぁ、これから彼女らには、行った先々で光ってもらって大活躍してもらいます」


 などと自信満々の表情でヒュー王子は宣われた。



 ◇



 それは余すことなく世に曝け出させるというオレからの福の印である。そう、貧の印では駄目だったのだ。福の印にしてこそ同士打ちを画策されてもアルバストは必ず生き残るようになるのだ。たとえ秘密結社がアルバストとバックドアを害そうと思うようになっても、印を刻んだオレにろくでもない事が起こらない限り魂に刻まれた物は絶対に消えない。必ず生き延びることになる。そうして闇の奥深くに潜んでる敵を暴き出すことに繋がるのだ。悪い顔をしてオレはニヤリとした。


「とりあえずアイツをやっつけてきます」


 オレが夜空を見上げるとヘイールの爺ちゃんも一緒になって空を見上げた。夜空に奇怪な化物が飛んでいる。


「もう無様なザマは晒しませんよ」

「グリフォン、もう一匹いたのか」

「おかしいですよね。周りは意図して炎系のモンスターばかりだろうに、あれだけ通常のモンスターだなんて、本当異質です」

「確かに」

「あれは召喚獣なんでしょうかね」


 何の気なしにオレはそう言ったのだが、ヘイールの爺ちゃんは若干驚いたようだ。


「キュヒイィィィイルッ」


 グリフォンの雄叫びが城塞都市上空に轟いた。


「何だあれは」「バリアは!?」「何で上空に入られてるんだ‼」「グ、グリフォンだ」

「「「「グリフォンだーーーっ‼」」」」


 その恐怖と脅威はあっという間に伝播した。二層へと逃げていた人々の足が止まる。むしろ二層に逃げた人々こそ下層に下りたくなったようだ。


「城兵、いや騎士団、騎士団はいないのか!?」「うわああああ‼」「屈め屈め‼」


 そこへグリフォンの嘴の先に魔気が集束していった。それが転換されて巨大な火球がその大きさをどんどん増している。火球の表面をドロドロと火が対流し、時折表層から小さな紅炎が噴き出していた。

 グリフォンの超火力攻撃である。


「雷装」


 オレは都市への雷装を召喚した。規模がどれほどの物かは自分でもわからないが、少なくともここらへん一帯は覆い尽くしたはず。


 バチバチッ。


 雷装が火花を噴いた。だがグリフォンの超火力攻撃を封じ込めるためにはもっと万全を期したい。グリフォンが都市の雷装に気づいて対抗意識を燃やしている。火球がますます大きくなっていった。今や体長の倍はあるのではなかろうか。ここまで来ると下から見てても結構な大きさではなかろうか。

 ざわめきが息を飲むような悲鳴に変わる。

 だがこいつは、このグリフォンは魔気を集めているので召喚獣ではないとオレは思って安堵した。召喚獣は召喚元から無尽蔵にエネルギーが供給され、それを利用するのが召喚魔法という魔法の利点である。だがこのグリフォンは自前で当該地から魔気を集めるしか手段を持たないようなのは、二回も集め始めればそれは偽装ではあるまい。既に雷装によって対処が為されているのに、その雷装を突破するために時をかけ、隙を見せる必要はない。


「ならば一気に行かせてもらおうか」


 オレは雷装の威力をスムースに上げていった。強度を上げて行くにつれて雷装の表層に火花放電が起きて、それが時折グリフォンの火球に穴を空けて威嚇している。


「もういい、呑み込め」


 雷装がどんどん広がって上空へと逃げようとするグリフォンを追って弓状に拡大して行く。


「ハハ。やはり笑ってしまうな」


 ヘーイルの爺さんの声が聞こえたが答える余裕はない。何か知らんが雷装が威力を上げてくにつれ、プラズマのようになって行くのだ。

 それを見たグリフォンが途中であろうに雷装に穴を空けようと火球を発射した。

 着弾する。

 しかし音も衝撃波も一切生じず、そのまま火球は雷装に飲みこまれて、後には火花放電がバチチチッと中空に流れただけだった。


「防いだのか?」


 そんな事を聞かれても防いだ気もやり遂げた気も実感としてない。


「攻撃すらされたのかって言う程度で」


 だがまぁこれで枢密院殿の下命は守られたのだ。それで良しとしよう。巨大な雷装が電離層の役割も果たしているのか、城塞都市のどこかから生じて、敵の攻撃が都市を破壊するのを防ぎはするものの、余波みたいな物が流れて外周へと拡がっている。やがてその余波も見えなくなるとオレは雷装を解いた。

 そもそもバリアが顕在してたら王都民が先ほどのように騒ぎ立てることもなかったのだ。とりあえずオレとしては責任は果たせたのかなと思ったのだが、つと耳に城が消えたぞと言う声が入って来た。

 その声はどんどん大きくなり、


「消滅した?」「さっきも無かったけど、もっと無くなってないか」「あ、三の丸」「完全に城が落ちたのか?」「サドン・バースト駄目だろう」「もっとちゃんと守れよ」「追い払っただけじゃん」


 そして確かに消えゆく雷装と共に、城がプラズマで消滅してくようにも見えた。


「三の丸? オレ守ってたよな」


 すると向こうに残っていた天守もズリッと滑り落ち始める。

 なんとなーく厭な予感がして遥か上空高く、雷装から逃げたグリフォンを眼で追いかけた。ヘイールの爺ちゃんがどんな目でオレを視てるのか知りたくもなかったので見なかった。見ていられなかった。

 請求されたらどうしよう。

 とてもではないがリアやアンナさんには言えないぞ。

 オレはグリフォンを見上げてムッと来た。また性懲りもなく火球を生み出そうとしているではないか。しかしこの頃には周囲のざわめきも収まり始めていた。

 時折「王杖が来てたから、今のはきっとサドン・バーストだ」なんてサドンさんだと喧伝している者もいる。

 だがそれはそれ。ヘーイルの爺さんの腹芸は通じまい。


「あー貴様のせいで財布が軽いぜ。光魔法光輪」


 光を伸ばしてグリフォンを飲みこむとそのまま循環させて元の場所へと突き落として行く。もう容赦なく終わらせようと光で飲みこんで分解していった。輪が歪になって棒のようになってしまったが、それは大事なところではない。魔法によって、魔素だろうが生命体だろうが、光でバラバラに分解して同化させ、そのまま地中深くに沈めて土に還すのである。

 ぽつりと隣から声がした。


「所望してた魔法と違うんだが」

「基本一緒ですよ。今回は光輪、さっきのは土輪ですから。ただ相手して思ったんですけど召喚獣ではないですね。そうなるとフォルテではないからアルバストらかとなるわけだけど、オレとしてはそれは考えられないわけでして。…………秘密結社以外の何者かがこの混乱に乗じて罪をなすりつけようとしたんですかね」

「他の誰かと?」

「枢密院殿から聞いていませんか? 冒険者、フェルマータ、サカードのホバー・ジョッグルが宰相派に手を貸してます。サーバを降そうと、こんだけあちこちから手が伸びてたらどこが手を出してきても驚きませんよ」

「……留意しておこう」

「よろしく」

「ついでに城が落ちたのは他の要因だと、私の方からも申し添えておこう」

「よ、よろしく」


 何故かオレは頭を下げていた。別に降ったわけではない。処世術である。



 あとがき


 ありがとうございます。感謝よ届け。そんな気持ちです。


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