第161話 浮かび上がってきた謀略
つまりヘイールの爺ちゃんはフィッシュダイス騎士団の団員が四苦八苦してるこの状況を、自分ならどうにか出来るという自信があるということだ。
「これは凄い事になってるな」
オレはコキコキと肩を鳴らした。
ヘイールの爺ちゃんにどれだけ自信があろうとオレから枢密院殿の手柄を譲る気はない。なんせ事はオレたちのお給金に関わってくるからだ。もしもここでヘイールの爺ちゃんに来援を許したら、あの時は儂の幼馴染みを働かせてお前達は何もしなかったなとお給金を減らす口実を与える事になる。そうするわけにはいかないし、突発的な事態にもオレたちで対処して事を収めたら、それはそれでそのままお給金に加棒されるかもしれないのだ。
「事前の折衝がないとは言え、働きに対して加棒されるのならそれはやる気に繋がりますから、そこらへんをくれるというなら遠慮無く頂きますぞ。ただ働きほどやる気の削がれることはありませんし」
「それはハロルドに言え」
「いやいや、それはお付きの爺ちゃんにも聞いて頂いといた方が良いですよね」
そう言ってオレはメラニーに頷いて見せた。
枢密院殿がごねたらライムの王室から出せよという催促である。
「アンタ…………」
これも王室外交だ。手段を選んではおれんのだよ、このオレは。
すると久方ぶりに召喚の間の小太郎から声がかかった。
(ヒュー)
(何だ)
(いざとなったら異界渡りも考慮に入れろ)
(おいおいそれだと根こそぎになるぞ。悪目立ちする)
(いざとなったらだ。忘れるな)
(いざとなったらか。まぁそれなら心得ておこう)
映像に映ってる五人の騎士が、突然に左を見た。
「左の方を見せて欲しい」
オレは咄嗟にリクエストした。絵像が左へと流れる。
城塞都市の北西にも魔物が大量に発生していた。そこでもやはり全て炎系の魔物が大量に発生しているようだ。だがその群がるモンスターを見えない風が壁になって吹き飛ばしてるようであり、その風によって火トカゲは頭から真っ二つにされたり躯の上半分をこそげ落とされたりして、数多の魔物が問答無用で命脈を絶たれていた。
「これは」
「空震波でしょ」
「これがそうか。実戦で使ってる姿を見るのは、実は初めてだ」
「そう」
とメラニーが答えた。
メラニーの眼も映像に釘付けとなっている。
――空震波。
それは騎士団同士の激突を意味していた。異様な衝撃波だった。普通の人がそれを浴びたらひとたまりも無く吹き飛ばされ、切り刻まれる、そんな恐るべき衝撃波でもある。城塞都市の壁が揺れ、都市がざわっとざわめくが、誰も動けない。動こうとしない。王都の人々は城塞都市の壁を信頼しているのだ。
まだ魔力が抜けた状態がつづいており、身体に力が入らないのもあろうが、恐れおののくといった様子は欠片もない。
また大気が震える。近くで、騎士団同士の激突だ、とオレたちの見る映像を目にしたのか、体感でそう感じたのかはわからないが、誰かがそうつぶやいた。
そしてその事象を正確に映し出した映像は、余波だけでモンスターが命を散らしている様子を鮮明に伝えていた。
「フィッシュダイス騎士団…………フィッシュダイス」
「ああ、こっちにいたようだな」
フィッシュダイス騎士団の本体がいた。だが数が少ない。オレはフードを下ろした。
「ちょっと集合よ」
「枢密院殿には緊急事態につき、そなたから詳細を伝えてくれ」
するとメラニーが何も言わずに指を立てると、リストリクションと唱えた。
風魔法ではないようだが、何だろう。なぜかわからないが魔気がオレたちの周囲を取り巻いて対流した。
「何をした」
「私たちの声が洩れないようにしたのよ」
「魔気の遮断か?」
「そんなものね。それよりどういうつもり」
「どういうつもりとは」
「一人で騎士団や魔物のところの顔を出すつもりなのかって聞いてるのよ」
「いや、騎士団に顔を出すつもりはないぞ。彼らの戦いを汚すつもりはない。ただ王都を護るのは譲れないというだけの話だ」
「手伝うわ。私に今ここで召喚魔法を教えて。いつか機会があればって話だったでしょ。その機会が今なのよ。深度一に潜って」
ふう、とオレは息を吐いた。
考えてみればオレは幾つもの召喚魔法を見せてはいるんだよな。オレの魔法は召喚魔法の魔法だし。
確かに神域地下深くの最奥でそんな約束も交わした。いや交わさせられた。
「だがな、召喚魔法を教えるといつ限定した」
「え」
「メラニー、そなたも姫ならここで見届けろ。属国の王族が誰もいないのなら、民に安心をもたらすのは宗主国の姫の役割だろうが」
「でも私はアンタより強いわよ、冒険者だし。ただ広域殲滅魔法の相性が悪そうだってだけの話だもの。
それに私が召喚魔法を手に入れたら人手が倍になってアンタも楽でしょ」
「ライムの姫の責任感はわかった。だがまぁ見ていろ。何度も言ってるがこの国の冒険者ギルドに外に出るなと通達を出したのはオレの雇い主殿なのだ。オレの立場では雇い主殿に恥を掻かせるわけにはいかんのだよ」
秘奥の間が破壊された以上、魔法陣も機能を停止した。この状況で騎士団と魔物に囲まれたとなったら、封印されたと言ってもいいだろう。日が落ち、夜になった。王都から光も消えた。
こんな危機的状況でアート王が表に立てないならば、ここで安心をもたらすのはやはり宗主国の姫の役割ではないかとオレは思う。王族とはそう言うものだ。そしてオレはそれが出来なくて、廃嫡同然で外に出されたような存在でもあるのだ。だから民草を思えるライムの立派な姫君のメラニーには、戦いよりも立場を優先して欲しいと思う。
「それはオレとリアが選べなかった物なんだ」
「え? 何?」
フ、とオレは笑った。
眦を下げると予想以上に瞼が重くて、自分の状態がどういう情況なのかが身に染みてわかった。
「なぁメラニー」
「何よ」
「そなたには先ほど騎士団の戦いを汚すつもりはないと言ったが、オレはな、騎士団の戦いを汚させるつもりもないんだよ。
騎士団で支えきれない場所がある。そこにはオレが行くしかあるまい」
「アンタ」
「まずは手始めだな」
周囲に眼を配った。オレたちの周囲に赤く燃え上がった魔物が点在し始めている。
「そういうわけでお付きの爺ちゃんに枢密院殿を絶対護るように頼むぞ」
「ちょ」
「光あれ」
巨大な光の柱が王都から屹立した。
数瞬の後――。
ムスッとした様子のメラニーがそこに立っていた。オレと眼が合うとビックリした様子で「ひどい」と文句を言い、もう行ったのかと思ったと言った。それから周りを観た。
「な、魔物がいない!?」
「手始めと言ったろう。遅れて出て来たバックドアの置き土産を、とりあえず城壁の向こうにぶっ飛ばした」
「アンタ、やっぱり大概よ。でもいいわ、これ持って行きなさい」
「これ?」
とオレがまごついてると、予備の雷信の玉を渡された。こんな高価な物をいいのだろうかと思ったのだが、しかし、手渡したメラニーの眼は怒っている。何だろう。この目はアンナさんが時折見せる目と一緒だから怒ってるのは間違いなかろう。
「ふむ」
おそらく今手渡そうとしてる予備の雷信の玉は予備というか保険であって、たとえオレに光速移動されても連絡だけは付く状態にしたかったのだろう。本命としてはメラニーは付いて来る気でいるんだろう…………か。そうなんだろうな。
メラニーの眼はやはり怒っている。
まぁ城壁までは行くか。
「肩に手を乗せろ」
メラニーが召喚魔法とつぶやきつつ、×の字を書いて自分の肩に手を乗せた。
「ちがう。オレの肩にだ」
顔を真っ赤にしてメラニーがオレの肩に手を乗せようとし、ためらった。
「どうした」
「アンタ、肩の位置が高いのよ」
「ふむ」
少し屈むと、それはそれでメラニーの怒りを買ったらしい。文句こそ言わないが少々乱暴気味に肩に手を置かれた。
「光あれ」
今度こそ二人で夜空を飛んだ。
◇
サマース・キーだ。枢密院殿とヒューと別行動となって、今はサーバのアート王一行と共に水番の番小屋に身を潜めている。
来た時には静かに流れて水量を感じさせていた番小屋の下を流れる暗渠であったが、今は水音がちょろちょろと聞こえて来るばかりで、俺は不思議な感じがした。
深い川ほど静かに流れるものだから、それは暗渠に流れる川の水量が増えたということで音がしなくなる分には良いのだが、ちょろちょろとなるのは頂けない。
「王都の水が少なくなってるのか?」
しかし答えられる者は誰もいない。
「そろそろ動くか」
トライデントがまるっきり無視して言った。もしかして魔の島を攻略した英雄フーター・オールダムの血を引く者だからとか、貴族だからとか、そう言った観点から俺を苛みたいのだろうか。
立場をわからせるために。
確かに空気を悪くしたのは俺だが、歯牙にもかけずに被せてくるのは厭な男だと素で思う。
「どういうことだ、トライデントさん」
ダンケ先輩が代表して尋ねてくれた。後輩たる俺が先輩に気を遣わせるのは自分が子供みたいで申し訳なく思うが、しかしやはりトライデントは他人を使嗾してるところが透けて見えて、ちょっとばかり癇に障る。
「アート王には城はさして重要ではない」
いきなりトライデントがそんな事を言ったが、俺にすれば何を言ってるんだろうといった感じだ。すると城塞都市の東門の方から大きな喊声が沸いた。喊声である。誰かが何かに突撃をかけたのだ。
「東門を目指そう」
トライデントのひと声で東門方面へと向かう事となった。誰も反対しないし、俺にも何が正しいのか判断できないので、アート王がトライデントの案に乗ると無言の内に示している以上、俺としても反論の余地はなかった。
番屋を出て方角を確かめると、目指すべき方向の空から誰かが城壁に降り立った。東門付近の城壁がそれだけで騒然となる。
「何か遭ったにゃ」
つぶやいた猫人族のオードリー先輩が眼を流して、俺を捉えた。
「俺が行きます」
「にゃ。うちらは番屋に戻って一時待機するにゃ」
「わかりました」
王は先輩方に任せて自分は光速移動で城壁へと移動した。光速移動は通常目で見た先、二、三〇メートルぐらいにしか移動できないのが常識だが、俺も最初の頃こそそんな感じであったが、今は不思議とひと息で相当な距離を稼ぐことができる。地力が上がった自分の光魔法に手応えを感じつつ、一度目の移動で城壁の状況を高い所から把握した。二度目の移動で異変が起きたその場へと降り立つ。
ヒューがよくやる三角移動を俺もやってみた。やってみたら予想以上に便利な移動法だった。
「誰だ」
鋭い声がかけられた。女性の声だ。
「アート王のご命令で様子を見に来ました」
「アート王!?」
城壁がザワッとした。
「アート王はご無事なんだな」
「はい。ライオネル王子もご一緒です。今はアーサー騎士団のダンケ、オードリーの両先輩と、それから貴族のトライデント氏がいます」
「本当か、その情報は」「見ない顔だが君の所属は?」
疲れ切った顔の女性たちにそんな事を問われた。視線が厳しい。周囲に集まってきた彼女らの仲間達が周辺へと目を配る。油断してる素振りは全くなく、見事なほどに俺のことを敵として対応している。
居心地が悪い。
「ちょっと待ってくれ。その子の云う事はホントだと思う。私はその子に身体中がえぐれたのを治してもらった」
「何だって?」「え、ウソ?」
集まりだした人波をかきわけて、知った顔の女の人が出て来た。
「スミエさん」
ソマ村でアルバストらを相手に共に戦った人だ。
暗がりから出て来たが見間違えようのない顔だ。声は続いた。
「私もよ。ソマ村でファイアフライで高高度にいてね。そこから私に色々あって墜落して岩山に」
「ってちょっと待って。ソマ村の岩山って鋭い岩肌が剥き出しになってるじゃない」
「そう、そこよ。そこで私はガリガリ岩肌に身体を削られながら墜落したんだけど、そこの彼に身体中を復元してもらったのよ。素晴らしい炎の再生魔法だったわ、彼の腕前」
どよっと響めき、幾人かが本当かと云った目で俺のことを捉えた。その暗がりの間から、これまたよく知った顔が出て来てスミエさんの脇に並んだ。
「ポルカさん」
俺のことを問い詰めようとしてた二人が、驚いた表情でポルカさんを眺めた。俺が彼女の名も呼んだことで、そこには信じられないと云った感があった。
「炎の再生魔法と言ったよね? でもここに顕れた魔法は」
「光魔法も得意なようよ。凄いぞその子は」
「彼がアート王と一緒に居るというのなら居るの。ハロルド様がアート王を救いに走ったのよ。だって幼馴染みだもん、アート王とハロルド様は」
「それに何の関係がある」
「だって彼はハロルド様の従者だもん」
「しかもだ。彼ともう一人別の子は、ソマ村でハロルド枢密院の護衛としてテロリストのエルフや名付きの冒険者を一蹴していた手練れだぞ」
そして俺を問い詰めてた二人の女性がハッとした。
「もしかして国政会議でハロルド枢密院と共に宰相派を捕縛した者達というのは?」
「彼よ。というか彼がその時の立役者」
「サマース・キーか」「こんなに若いのか」
なんというか、本人を目の前にしてえらい言われようだが、そのお陰で鋭かった場の空気がようやく解けたようだった。
ホッと息を吐いた。
すると夜の気配が濃くなりだした上空に炎の火線が煌めき、ひときわ大きなファイアフライの軌跡が描かれて声が降って来た。
「サマース君がここに待機してくれるなら心強いわね」
「「「「ルイ小隊長」」」」
団員の声が重なった。
だがそのルイ小隊長の右手から突然にファイアフライの魔法が途切れた。
「あ」「墜ちる」「っ」「ちょっ小隊長っ」
その瞬間に光が迸ったかと思ったらルイ小隊長がお姫様抱っこされていた。その光景を目の当たりにした女子四人が騒ぐ。
「わぁっ」「きゃーっ」「っ」「いいなっ」
◇
スミエです。私たちのその声が対象の二人に向けられた時には、声は暗闇に溶けこんでおり、対象の光はすぐ側に移動してました。
何度見ても見事な光速移動です。
サマース君は膝立ちになってルイ小隊長を城壁に下ろそうとします。
「大丈夫ですか?」
とサマース君が声をかけたら、
「ありがと、サマース君。責任取ってね」
とルイ小隊長がぶちまけました。
サマース訓は返事が出来ません。物の見事にその場に固まってしまいました。
「わーっ」「若い燕よっ」「ずるっ」「わざとねっ小隊長っ」
あっという間の集中砲火です。
でも小隊長はしれっとしてました。私はもう一度声をかけます。
「降りましょうよ、小隊長?」
「もうちょっと」
言われた瞬間にサマース君は、いやそれは、と思ったようだけど無碍にも出来ない、そんな感じで困ってました。世慣れてないようで、その瞬間にまた私以外の魔法士団員から非難の声が上がりました。
それでもルイ小隊長はサマース君の首に手をかけたまま体勢も変えず、中々降りようとしないので、やいのやいのと騒がれました。
◇
「小隊長、臭いよ」
という誰かのひと声でルイ小隊長がようやく離れてくれて俺はホッとした。動けなかった身体がミシミシと音を立てる。
「さて」
ゴホンと咳払いして、俺はルイ小隊長をはじめとする乙女の祈り魔法士団の方々に状況を尋ねた。
「何がどうなってるんです。教えて頂けると有り難いのですが」
「その前にアート王は本当に無事なのね」
俺ははっきりと首肯した。
「さすがね、サマース君」
「ありがとうございます。ただ、今はアート王が状況を知りたがっているので」
「わかったわ。簡潔に行きましょう。散発的だけど城壁の外に魔物が顕れてね。私たちは西門からこっちの東門の方へ流れて来たの」
「戦場からこちらへ? 西ではまだ騎士団同士は対峙してるんですか?」
彼女たちはフィッシュダイス騎士団と共同戦線を張っていたはずだ。
「そのことなんだけどね、最初から謀られてたのよ。地平の彼方騎士団はどこ出身の騎士団かは知ってる?」
「ライムの」
「ええ、宗主国に帰属してるわ。でもそうじゃなくて、彼らの出身は大抵キボッドなのよ。地平の彼方騎士団はキボッド出身者が中心となって設立された騎士団なの」
「そうでしたか」
「ボヌーヴ川で対陣してる時もキボッド側を背にしてたでしょ」
「はい」
「でもそれだけじゃなかったのよね。あいつら、ボヌーヴ川の堰堤を閉めて水を堰き止めてるの」
「え?」
「しかもモンスターを咒札で埋設していた痕跡があったわ」
そう言ってルイ小隊長が使い終わった咒札をぱらっと見せてくれた。
「始めからその気だったのよ。そして水を堰き止めて顕れてくるのは炎系のモンスターばかり」
やられた、と正直俺は思った。
「思えばソマ村の時も炎系のモンスターばかりだったよね、ポルカ」
「そうですね」
「で、敵のテロリストは水の魔法使いだったじゃない?」
「絶対想定してたわよね、これ」
つまり炎系のモンスターに対して川の水を利用した作戦は立てられない。
そしてソマ村で共同戦線を張ったルイ小隊長のファイアフライをはじめ、乙女の祈り魔法士団の方々は炎系の魔法使いが多い。しかもソマ村で一戦こなして魔力が尽きかけた状態の魔法士団である。回復する間もない連戦で、そのうえ相性の悪い同系統のモンスターを相手となると、これは考えるまでもなく相手に利するばかりである。炎系の上位モンスターの場合、下手したら回復の手助けをしてる可能性すらある。
そこまで追い込まれた状況で対峙させられてると、そういう事か。
「その上フィッシュダイス騎士団と地平の彼方騎士団は王都の西側で対峙してたのに、私たちをばらけさせるために、モンスターを追わせてこんな所まで来させたわよ、絶対」
「むう。悪いですね」
「そうなのよ」
今いるのは東の城壁である。西から東へ、物の見事に反対側に誘導されている。
しかも小隊単位までばらばらにされているのだ。あちこちで湧き出るモンスターの対処に追われたのだろう。気づけば再編が難しいほどに。
「ラインゴールド・ダッシュ団長、やるな」
「正直ここまで徹底するのかって怒ってるわ。一緒に任務に当たったことだって幾度もあるのに」
ルイ小隊長が憤慨している。
しかしなるほど。
こんな形で乙女の祈り魔法士団は撤退を強いられたのか。
「半数以上が王都で魔力をうしなって戦場にさえ辿り着けず。自分たちもソマ村で魔力を消費してたのでモンスターを五体ほど倒して魔力が尽きて撤退」
「魔力がない」
ポルカさんがしんどそうに相槌を打った。
「その上相性も悪かった。言ったでしょ、出て来るのは炎のモンスターばかり。火炎の魔法使いである私たちは同系統の相手ばかりで必然不利となる。特にソマ村で魔力を使い切った私たちにはね」
「ええ、皆さん凄いと思います」
「ありがとう。でも、王都でも魔力を抜かれるような事案が起きたみたいね」
「あ、はい」
「だから状況を伝えるために私らだけ先に撤退したの。西に追われもしたしね」
「そこは連絡をしに来たと言いましょうよ、小隊長」
暗くてよくわからなかったが、魔物の炎の照り返しでよく見ればルイさん達の顔色は悪かった。戦場は拡大した。散発的とは言え、魔物を見かけたら退治しに走らなければならない。東から西に、それからまた西から東に戻っても、その場所に魔法士団が中途半端に再参戦したとしても、おそらくその場にいるだけで邪魔となるだろう。魔力不足を見抜かれた魔法士団を相手に、ラインゴールド団長が反撃を許すとも思えない。
しかもおそらくだが次から次へと魔物が湧いて出て来てるのだろう。東方向へ視線を移すだけで、モンスターの影が徐々に濃くなっている。しかも何もなかったところから突然に顕れるとなると、それだけで駆けずり回されることになる。
王都の外壁を、城塞都市のその周辺を――。
「体力が持ちませんね」
返事は返ってこなかった。
思ったよりも芳しくない状況を自分は伝えることになりそうだ、とサマースは思った。