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第156話 あるいは旅への誘い

(ヒュー)

(はい時量師神(ときはかしのかみ)さま)

(天井に変身スキルをかけなさい)


 パラパラと砂礫が落ちてるだけだったところに、ごそっと粘性の土が落ちて来た。


「はい?」

(はいじゃなくて、ここが崩落したらまた下に戻って出口探しからやり直しですよ)

「やばい? やばくない?」

「静かに、ライムの姫よ。今は私がヒューと話してるのです」

「あ、はい。すみません」


 メラニーが押し黙った。時折天井を見ては、自分の真上は大丈夫か気にかけている。


(急ぎなさい、ヒュー)

(しかし解除するとサドンさんの心ノ臓が一緒に解除されます)

(私はかけろと言ったのですよ。解除ではありません)

(いいからやれ、ヒュー)


 小太郎まで切羽詰まった感じで言いだした。オレは天井を見上げてスキルを発動する。


(特殊スキル発動、変身、そのままに維持)


 すると崩落が止んだ。ごそっと抜けた粘土層の更に上の層の欠片も剥がれそうなままであったが、根性を見せてそこから剥がれない。スキルも効いたのだろう。こちらの意図通りそのままに維持されていた。


(でも何でだろう)

(貴方がこれの時を動かしたんでしょうに。ようやく元に戻したのですよ)

(はい? 時量師神さま?)

(外に出ればわかります。さて次は貴方です。この星の神、ケルプさん)


 神憑かれたものの、のぞくばかりで召喚の場に入ろうとしなかったケルプの分け身さまが時量師神さまによって召喚の場に招かれた。


「こんにちは、ケルプさん。私は日ノ本の時の神、時量師神と申します。あちらが天道神」


 離れて三方に立つ者の、右手へと時量師神さまが手を指した。


「そしてこちらが日ノ本の忍者、風魔の小太郎です」

「忍者?」

「人です」

「人がこの場にいるのか?」

「人と言っても彼は風神と契約してる風の申し子です。この地で召喚され、彼がその気になれば風神の力を顕現できます」

「…………人だぞ」

「人でもです。それよりその様子だとやはり人に含むところがありそうですね。あなたは人をどう思っているのです」

「信仰もしないくせに、罪人に魔法を使わせないために神域の一部を牢屋にしていた不信心者共」


 時量師神さまは顔を曇らせることもなかった。でも何となくだが気乗りしないようだとは感じた。オレも聞いてて人への愛がないのだなぁと、そんな事を思った。


「わかってますよね、状況は。これはもう近々魔王が来るのは避けられない、定まってると思いますよ」

「…………」

「魔王が来るなら神が必要です。これまでは神の御業で危機を打開してきたけれど、今はその神がいない。もしくは存在すらおぼつかない」


 勇者がいますよ、と胸の内で思ったら時量師神さまと分け身さまにバッと振り向かれた。

 聞こえてたみたい。

 ごめんなさい。

 頭を下げると、二柱の神はまるで無かったことのようにして振る舞い、ケルプの分け身さまが時量師神さまに向けて胸を張った。


「私がいる。誰が何を言おうが私がいる」


 いいえ、とそう言って、時量師神さまが首を横に振った。


「この星を創った偉大なケルプは最早存在しません。あなたはヒューとの戦いで自覚しなかったのですか? かつては星を作るほどの大御神であったはずのあなたが、今や星を創るどころか、小さなブロックを幾つか動かす程度で精一杯なのですよ。神威も信仰がないからまるで威力がない。そんな状態で魔王が魔法による利便性を示せば、ヒトはますます魔法に傾倒します。その時あなたはどうなります。消し飛びますよ。少しは己を自覚しなさい」

「異界の神が私に説教ですか」

「事実を指摘してるのです」


 そうして二柱の神の間にただならぬ気配が漂った。


「いいでしょう。少し、私たちの話を致しましょう」


 そういって時量師神さまが遠くを見つめ、それからお話を始めた。


「日ノ本には神は何柱もいます。それこそ八百万(やおよろず)といわれるほどの」


 分け身さまが目を見開かれた。


「そんなに数多の神が存在できるのかと、そうお思いですね。それが出来るのです。日ノ本では山や岩、木や木の葉、川や滝、揺蕩う水に吹き流れる風、そんな自然界や自然現象の一つ一つに神が宿ると信じられてます」

「そんなことが」

「有り得るのです。ちなみに私は時を司る神。天道神は善き道を示す神。ご覧のように人とも仲良く共存していますよ」


 小太郎がぺこりと頭を下げた。ついでにオレも下げといた。


「疑問がある」

「どうぞ」

「日ノ本の神は魔とも共存してるのか」

「日ノ本にも魔はいます。妖怪もいます。国を超えれば異教の神もいますし、また別の魔もいます。様々な信仰があり、様々な人の暮らしがあります」

「信じられん。そんな地では争いが絶えぬはず。混沌が支配するような世界であろう」

「それも正解ですね。ですがそれだけでもありません。好き勝手やりながら調和もしております。人も楽しそうですよ、日ノ本から遠く離れたこの地に喚ばれても彼の子に手を貸すぐらいには大丈夫そうだったり、そう見えませんか」

「むう」


 唸られても困る。証拠は分け身さまの目の前にある。


「そうですね。なぜ私がヒューと召喚契約を交わしたかという話が必要でしょうね」

「…………」

「あなたにはこの星の大いなる存在に気がついてますか」

「魔でも獣でもない、あれのことか」

「そうです。私も話したことはないのですが、ヒューによるとあれはダブルリグレットと申す召喚獣だそうです」

「ダブルリグレット…………」

「ヒューの父御(ててご)の召喚獣のようですね。二度の宇宙の破滅から生き延びたそうですが、遠大すぎて私にも量ることは出来ません。ですがそんな存在があなたの創ったこの星で一体何を見ているんでしょうかね。あなたは何か知っていますか」

「なにも、何も知らぬ」

「では見えたりはしますか」

「時折強烈な気配を感じるだけだ。あれを暴れさせてはならん」

「なるほど、わかりました。では私が見えていることをお伝えしましょう。あれにはおかしな時の流れが見えます。あれの存在は現在より未来の方が存在が濃いのです」


 ほう。

 オレも初めて聞く。


「あれの齎す現在に対する影響はまだまだ本気ではないのです。あれは、あの存在は現在に在って、ないようなものなのです。召喚獣だからと言うわけではないですよ。もっと本質的なことです。あれは現在も在りますが、未来から現在へと影響をしているのです。それをするために一体幾つの次元をまたいでいるのか、それがダブルリグレット」


 分け身さまがむずかしい顔をした。

 ふ、と時量師神さまは笑んだ。


「私はこれを知りたい。時を司る神として、未来から導きたいほどの希望とは何なのだろうかと」

「希望…………」

「別に夢でも明日でも光でも何でもいいのです。だが私はそこに確かな物を感じました。ヒューや妹御が失ってしまった大切な物がそこにはあると信じてます」

「異界の神が、か」


 つぶやく分け身さまに、時量師神さまが周囲を見回して召喚の場へとその関心をいざなった。


「召喚魔法とはものすごく理に適った魔法です」

「魔法は魔法だ」

「ですがあなたは召喚魔法に魔を感じていない。むしろ人を感じている。ヒューに対しても人の範疇で相対してましたよね」

「…………」

「ヒューは魔法も遣います。この魔法はつい最近覚えたようですが、私が思ったのは召喚契約とは意思のある者だけに対して出来るものではないのですね。この意味がわかりますか?」

「…………」

「私も今喚ばれてこの召喚の場に留まっていますけど、何も行使はしていません。それでもこの場に留まることが出来てます。ついでを申せば、こちらでどれだけ長々と経験をしたとしても、日ノ本に戻れば時の隔たりもなく元の連続した時間に戻っています。この意味がわかりますか」


 じろりと分け身さまに睨まれた。何故かオレが。


「その者はヒューと言ったな」

「ええ、そうです」

「ヒューは、ヒューの召喚魔法は、異界渡りをしても膨大な時を経ても元の時間軸に戻るのか」


 それはオレにはわからない。時量師神さまに頼った。


「今のところはそうですね。例外はありません。でもこれは召喚魔法に特有の性能のようですよ。召喚され、送還されても、時は向こうできちんと繋がってる」

「改めて問います。あなたには何が見えますか?」

「…………」

「私はヒューと契約しろとは言いません。ですがあなたはここで、ここから見るべきです。世界が何を欲して、どうなろうとしているのか。どこへ向かわされているのか」

「この時間へ戻ることは」

「それは無理です。あなたはここに、そしてヒューもこの時間軸に存在しています。この流れの中を生きているのです、懸命に」

「…………」

「選択肢は二つ」

「ふたつ…………」

「貴方は決めなければならない。このままこの召喚の場で力を蓄えるか。それともここから出て魔王による謀略にゆっくりと滅せられて逝くかをです」

「この男が私を、いや、我を離すと思うか?」

「あなたが心から離れたいと思った時にはヒューは必ず神憑きのスキルを解くでしょう。それは私が保証します」


 いや、どうだろう。


「保証します」


 はい、もちろんです。ついでにもひとつ頭を下げといた。


「まさか、まさかこのような形で再び人と関わりになる時が来ようとはな」


 分け身さまがオレに振り返った。すると召喚の間に何だか知らないが芯が通ったような気がした。


「我の、いや、私の人間観を伝えておこう」

「…………はい」

「かつて私は手ずから人を導いたことがある。信仰の薄まったケルプに措いて、この者だけは何としても導こうと、そう決めておった者が」

「はい」

「だがその者は私にその信仰心を認めてもらってる最中に、あろうことか魔の法に手を出した」

「魔法ですか」


 分け身さまが肯いた。


「あちゃー」

「わかるか」

「その人は一度魔法を習ったことで、信仰心を認めてもらってる最中、つまりは禊ぎがまだ終わらず、分け神さまが認めていない時に魔に傾倒したと、そういうわけですね」


 厳かに分け身さまが肯いた。

 もう、あちゃーとしか言いようがない。


「それが私の人間観だ」


 いや、参った。分け身さまは思ったより手酷いしっぺ返しを喰らってたわけだ。唯一の希望と思っていた者が禊ぎの最中に魔法に手を出したのだ。相反する存在である神さまとしては堪らないだろう。うん。


「でも思うんだけど、分け身さまは神さまのつもりなんだろう。信仰が無くなったからと言って己を見失うのもどうかと思うよ」

「何だと」

「ここにいるだろう。柱が柱としてそこに在ると認めてる者がここに」

「なっ」


 分け身さまが自らの手の平を見た。

 最前までうっすらとしていた分け身さま自身が召喚の場で実体化する。色が濃くなったのだ。


「我が名はヒュー・フォルテ・ハーグローブ。ケルプの五大国が一つ、フォルテの第七王子である。縁あって王室外交でライムへと渡って来た者だ。ここでの名はヒュー・エイオリー。そのヒューが分け身さまを神として認めると、信仰すると申しているのだ」


 ハッとしていた。


「揺らがないでくれよ」


 そう願った。願い奉った。

 節目の時ぐらいはきちんとしたいという思いが不思議と込み上げている。

 うっすらと霧がかった身体をしていた分け身さまは、自らの手足を、それから身体を何度もなんども確認していた。


「スキルは発動したが、これ以上の無理強いをする気はない。時量師神さまからの誘いのように、決められないなら見て回ってから決めればいいとも思う。

 オレにも目的はあるが、時々に分け身さまの手伝いをするぐらいのことは吝かではないし無碍にする気もない。そこらへんは今も召喚の場に留まって勝手にしている者達にも聞いてくれ。オレも頼る者がない心苦しさは知っているし、そこんところで裏切ったりはせぬつもりだ」


 そうしてオレは召喚の場から出た。

 返事は聞かなかった。



 ◇



 深度一から浮上すると、メラニーがジッとオレを視ていた。


「終わったの?」


 聞かれたので頷いた。別に一方通行で神が憑くことにこだわる必要はない。こちらから憑いてもそれは神憑き。


「これがオレの第二の特殊スキル、神憑きだ」

「噛み付きじゃないの? それは」

「うん?」

「死んだんじゃないかってこと」

「死んでない。むしろ保護した。あのまま神威を使いつづければ自らの存在を消費し続けて分け身さまは消えていた」

「そう…………」


 メラニーが微かに肯いた。

 納得できたのだろうか。オレならもっと根掘り葉掘り聞くところだが。


「なんだ?」

「なんでもないわ」

「そうか。ならいい。というか見たか? オレのスキル」


 メラニーがまた肯いた。


「ね」

「なんだ」

「こんなに圧倒的なのにどうして。どうしてアンタはあんなに自己評価低いの?」

「低いか?」

「低いわよ。私が単体で挑んだら最初の神威で瞬殺。ブロックはまぁ何とかなっただろうけど、神を保護する手段なんて私は持ってない。それなのに何で」


 神は死んでた。そう言いたいのだろう。


「無能がオレの共通語だ。異界渡りをしてもオレが手に入れるのは使えないスキルばかり。おまけに召喚魔法を発動しても魔物も魔獣も召喚できない。出来てるといっても、どこにいるんだと不思議がられ、やがてからかうなと怒り出される始末」

「え?」

「そこで自己評価を高くして『オレは素晴らしい』なんて言えると思うか? 召喚獣を出せと言われるのがオチだ。そんなフォルテの王子だからな、大口叩いて民に迷惑をかけるわけにはいかないんだよ」


 実際そう事が運ぶことはオレの目には見えていた。また嘘だと貴族に思われるのがオチ。そして異国からその話が出た以上、外交問題となって民にも呆れられるのが待っているのだろう。


「ここはライムよ。属国のサーバでもあるけど。誰もそんな事は言わない。今のアンタを見たなら絶対」

「ん? 口に出てたか」

「拾ったの」


 これだから豊聡耳は。まあいい。


「生憎ここでのオレは用心棒だ」

「じゃぁ関係ないじゃないフォルテは」

「あるんだよ。オレはいずれリアの手足と両目をこの手に必ず取り返す。いや、この手で必ずだな。そしてこの地でオレはその手がかりを掴んだ。掴んだ以上は絶対にこの話は将来表沙汰になる」

「…………」

「だからかな。後にフォルテの王子が逃げたなどと云われてはフォルテの民を失望させることになる。用心棒をやってたくせに、と。信義に悖ることを、と。

 オレは国民からクソミソに詰られるだろうが、フォルテの国民が一番気にするのはそこではない。間違いなくフォルテがライムから軽蔑されることだろうな」

「何でまた」

「フォルテの気風は王者だ。王者が戦わずに尻尾を巻いて逃げるわけにもいかないだろう。枢密院殿からの注文もある。オレとしても将来の生計(たつき)のために証明せねばならぬ事もある。いろいろと思惑が絡まっているのだ。自己評価が低くともやらねばならん時もある。そして外交録として残るのだ」

「む」

「自己評価だけでは収まらないのだ。フォルテは関係ないとも吐き捨てられぬ」


 フッと笑った。自嘲というわけではない。だが何とも言えない心持ちにはなった。


「どうしたのよ」

「いや何、なんとも微妙な王子だオレは、とそう思ってな。そもそもオレは死んでもいいからと外に出された王子だぞ」

「何よそれ」

「送り出される時、オレがフォルテの貴族から何と言われたか聞いてるか?」

「いいえ」

「せめて最後は王室外交の役に立てだ」

「…………」

「そんな眼で見るな」

「だって(かせ)だらけよ。アンタに人を使役するような気はないの? 人を使えば誤解も解けるし物事もはやく進む」

「ないな」

「やっぱそうか。もう自縄自縛じゃない」


 縛った覚えはないんだがな、とオレはぽりぽりとあごを掻いた。何せ敵がそれだけの敵だったと言うだけのことだ。そうせざるを得なかったのだ。


「だがまぁ引かんぞ。リアを元に戻すためだ。オレは用心棒として、このまま枢密院殿の安全を確保する」

「それよ!」

「ん?」

「人を使役する気はない。自分の召喚魔法は欠陥召喚だ、なんて言ってる割りにはアンタ自信満々なのよ」

「自信満々? 何言ってんだ突然」

「私に嘘は通じないわよ」


 何か癖があるんだろうか。わからん。


「アンタ、自分で自負してるって言ってたじゃない」


 いやそれは自負であって、他者からの評価ではないのだが、まずいな、今この場ではこの話を広げたくない。


「良いこと教えてあげる。ライムなら、豊聡耳を持つ私ならフォルテの貴族が何を言ってきたって私の名の下に証明してあげるわよ」

「ほう。それは確かに凄い裏打ちだな」

「でしょ、良いこと教えたでしょ」

「ああ」


 じゃぁ教えたんだからやっぱり召喚魔法を教えてほしいとメラニーが言い出した。


「だからオレのは欠陥召喚だと」

「普通の召喚魔法は駄目なんでしょ」

「絶対に無理だ」

「ならやっぱアンタの言う欠陥召喚しか残されてないじゃない」

「あーもう面倒臭いな」

「真面目に聞いて。これをすれば私の力添えでアン……じゃなくて貴方はあなたの進む道が拓ける。そしてその事に感謝したアンタが私に感謝の意を示したくなるわけよ」

「ほう」

「私も私の道を拓きたい。だから欠陥召喚で手を打つわけよ。どう? 互いの人生でどっちも得する関係になれるじゃない」

「あーはいはい。契約したい召喚獣が出来たらな。考えてみるよ」


 もしかしたらオレは王室外交に向いていないのではなかろうか。今さらだが。


「よっし、まずはワイバーンと契約して騎獣の確保かな」

「言っとくが考えるだけだからな」

「ふふん。言っときなさい。それよりこれを機会にアンタは?」

「それはオレもちゃんとした召喚獣と契約しろと言いたいのか」

「そうそう。やれば出来るじゃんって評判も上がるよ。それよりやっぱ実は持ってたりするの?」

「言ったろう。オレに召喚獣はいない」


 神と人はいるけれど。


「ふうん」


 まるで信じていない様子だった。


「そんなことより時間が惜しい。枢密院殿達は」

「もうすぐ来るわ」


 となると拙いな。


「よしわかった。来たらこうなってたにしよう」

「はい?」

「ダンジョンボスとやらを倒した手柄は入り口でびしょ濡れになってのびている彼らの物だ」

「アンタ…………」

「ほら、もういいだろう。周囲の確認をする。枢密院殿とそなたの付き人をここに呼んで来てくれ」

「えーっ。何で王女の私が」

「できなければこれ以上教えるのは無しだ」


 オレは眼を瞑ってこれ以上は断固拒否の姿勢を示す。オレの狙い目としては行き違いであった。メラニーは召喚魔法のことを、オレはオレのことを念頭に置いている。果たして目的格の齟齬を気づいているのかいないのか――。

 目を瞑っているので詳細はわからないが、耳を澄ますとスキップして足止め(・・・)に行く足音がした。


「ふう。しかしままならぬ」


 ただこれで少しは時間を稼げただろうとは思われる。

 頭上からゴドーンと遠く地鳴りのような音がした。

 また震動が伝わってきたのだ。この上に何かが居る。向こうにも何かが居る。うじゃうじゃ居る。


「さてと」


 オレはあごを上げると、心持ちこの神域に響くよう声を張り、


「いるんだろう、ニシキさん。アイラちゃんの角が見えましたよ」


 虚空に向かってそう言い放った。


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