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第110話 大海の中を泳ぐような揺蕩うような

 つと思ったのは――。

 玉を持ったことでセプティリオンを通してリアの意識が流れこんで来ることだった。

 オレがいることもお構いなしに対話が流れこんで来る。


(渡さない。私の力をこれ以上渡してたまるもんですか)

(奪えと言ったのは誰だ。お前だ、誰でもない、お前だ。奪えと言って渡さないとはどういう了見だ)


 流れこんで来る。

 オレが泳いでるのか、意識が泳いでるのか。

 背中にガンと衝撃が来た。


「固いな」「刺してみれば」「親指切ろうぜ」「…………」


 向こうで枢密院殿も何か言っている。

 コペルニクスも何か叫んでいる。いいからお前は深紫の闇を暴けと言いたい。


「無駄だ。もうこの部屋の魔気は我らが制御下だ」


 アルバストまでもが自信満々に何か宣言している。


(神憑き、わし)


 不意に声がするとそこに天道神さまがいた。

 あたたかくなった。


(天道神さま)

(セプティリオンスと話せたようじゃの)

(リアの声も聞こえました。でも、オレの声は届かないようでした)

(この薄い赤い糸は綺麗に封じられた物を二つに割っているようじゃの。だから齟齬が目に見えるようになったと儂は見る)

(それは赤い糸だったらわからなっかたものが、薄まったからオレにも認識できたということですか?)

(多分違う。きちんと処理されてた物を無理矢理割って二つに分けたんじゃろう。それで本来持ってた玉の性能より、偽玉の性能が落ちたんではないかと推測する)

(そうですか、それが天道神さまの見立てですか。ここはどこですか)

(精神魔法の世界じゃよ。深紫の煙を流し込まれたんじゃ)

(それはわかってます。でも何故急に)

(セプティリオンスじゃろ。薄いとはいえ赤い糸じゃぞ。奴らの手の中にある物を奪ったその代償じゃろ)

(なるほど。敵の手に落ちてるわけですね。しかしそれでも離す気はありませんが)

(わかっておる。もう通常空間に上がれ。お主が意識を飛ばしてたおかげで大変なことになっておる)

(待って下さい、オレはいったい)

(随分とやられてしまったの)

(肉体が? やばいですか?)

(肉体ではない。ここでの話じゃ)


 精神世界とやらか。


(そうですか。いつからやられてましたか?)

(枢密院殿を飛ばした辺りからだの。あそこから向こうも急ぎだした。助けを出すにも儂らの方でも見定めたかったのでのぅ)

(何ですかそれ。とにかく通常空間に復帰しますね。…………が、これ、深紫の煙はオレにも操れそうですね)

(そりゃセプティリオンを手にした今なら出来るじゃろうな。お前さんのを、フォルテの秘事をも悪用しておるようだし)


 ――召喚魔法陣か。


(それは王家の、いえ、言うまでもないですね。こいつらはフォルテ王家の秘儀、召喚の儀でリアから四肢を奪った一味です。そりゃ研究もしていることでしょう。しかし、意趣返しには丁度いいですね)

(悪い顔じゃの。やるのか?)

(やられっぱなしはオレの趣味じゃないので。この精神系の魔法を、日の本で云うところの熨斗を付けて奴らに返して上げますよ)

(わかった。ヒューの人生じゃ。自分で決め自分で責を負い、自分の足で進め。存分に行くがいい。儂も楽しみにしておる)

(何ですかそれ)

(間違えたと思うのも正しかったと思うのもヒューのすべてとなるということじゃよ。ほれ早う行け)


 天道神さまが召喚の場でどっしりと坐りこんだ。オレは目礼して先へ進もうとする。だがオレの周囲に満ちる大海が動こうとするオレを翻弄する。思うように進めない。大海のようにも感じるこの精神世界の、流れこんで来る物、混ざろうとしてくる物が邪魔だ。まずはこれらを堰き止めると、オレは大海の中に己という意識を認識した。オレはこの意識を通常空間へと浮上させる。べつに深度一に潜ったつもりはないのだが、精神系の魔法にかかると意識レベルを沈みこめるというか、そういう側面があるらしい。

 魔法を知らないと言うのは善し悪しだ。判断がつかない。おかげで総てが手探りになるわけだが、幸いにもオレには降霊召喚の召喚の場があった。

 この召喚の場もオレが作ったのか作られたのか、神々がいるから後者だとは思うが助かった。後顧の憂いがないというか、致命となる失敗を防いでくれるような安心感がある。オレの降霊召喚もまだまだ奥が深そうだ。


 そしてオレの意識がもどった。目が醒めたような気分だ。


 オレは改めて秘奥の間の周囲に目を配った。配置はオレが最後に見たままの通り。ならばと早速魔気を動かそうとしたが動かない。深紫の闇の本体によってガッチリと固定され、魔気の使い方を限定されたようだ。


 オレの見せた魔法への対策だな。対処が早い。


 だがお前らは魔法陣によってこの秘奥の間の魔気をすべて制御下に置いたと考えているようだが、なにも魔気ばかりが魔法の媒体ではない。その事を教えてやる。


 ここには魔素だって十分にあるのだ。


(動け魔素。媒体となれ。奴らにも味わってもらわねばならぬ。オレたちが苦労させられたこの幻像を奴らに、甘いひと時を奴らにも喰らわせろ)



あとがき


 短いですが生存報告も兼ねて上梓しました。

 こんばんは。手術が終わり、寝ていたその晩に寝返りを派手に打ってバリバリと引き攣るのを何となく感じつつも縫合した糸を台無しにした茶の字です。阿鼻叫喚、痛かったです。おかげで余計に遅れました。申し訳ありません。しかしそんな時でも剣で斬られた後はこのような感じだろうかと思ったのは内緒です。

 九月の初めに本当の抜糸がありますが、その前にもう一本、今度はきちんとした長さで投稿したいなと思っております。今はこれが精一杯でも目標は大事かな、と。


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