我毒味係を所望す
先程のベッドがあった部屋から移り、初めて4人の男達を見たであろう件の部屋に通された。どうやらこの4人は随分偉い立場の人らしく、椅子に座るにも水を飲むのにもお付きの人がお世話している。中性的な顔の人もそのうちの一人だったらしく美しい動作でお仕事をしていた。
そうそう。四人の特徴を言うのを忘れてた。
一人目はクォルツという4人の中でも一番年上のように見える背の高い人だ。薄い水色の髪に瞳は金色。服装は白メインで金色の刺繍がされた豪華なもので着物にもどこか似ているが帯のようなものでゆるく纏めたあくまで過ごしやすそうな格好をしている。
二人目はギルバート。上から下まで真っ黒で瞳だけ赤い。服装は軍服のようなカチッとした服であまり表情が動かない分怖い人という印象だ。
三人目はシエン。何とも奇抜な紫の髪に目元にある二つの黒子が特徴的。瞳はグレー。服装は何だか男性版チャイナ服のようで、男性とは思えないくらい色っぽい人。
四人目はハルディオ。4人の中で唯一褐色の肌をしていて尚且つ一番体格がいい。髪は金色で瞳は緑。服装はアラビアン風で露出が激しいが見せるところは見せるといった感じであまり気にならないし、いやらしさは感じない。
ザッと見た目はこんな感じだが、あまりにもベクトルが違い過ぎて彼らがどういった間柄なのか全く想像できなかった。
この部屋に入ってからもずっと見られているが、監視するような視線というよりもむしろ興味津々といった感じであまり危機感が感じられない。まあ見世物のパンダにでもなったようで気分は良くないのだが……。
そんな中部屋の扉が開き数人のお付きの人がワゴンを押して入って来た。いい香りに料理が運ばれて来たのがわかったが正直朝食なのか昼食なのかわからない。陽が出てるし夕食というわけではないだろうとは思う。
そういえば夕食を食べ損ねたのだと思い出したのをきっかけになんだか凄く空腹に感じられた。
そうこうしているうちに料理は全て並べられ、飲み物を注ぐ人以外皆下がってしまった。
けれども不思議なことに出された食事は品数や量は多いがおそらく一人分だけ。大きなテーブルにも関わらず、私の前にだけ並べられた料理のほかは湯飲み一つ置かれていない。
……え? なんで私だけ?
湯気も出てたった今調理をされた温かいものなのだろうが自分ひとりだけに出された食事に恐怖を感じる。じっと見られてるだけでも辛いのにこの状態で飯を食えと?
見た目だけでは毒が入っているのかそうでないのか判断なんてできっこない。かといって毒ありですか、なんて正面から聞いたって答えてくれるわけがない。そもそも言葉も通じないのだからそれすらも無理なのだが。
チラリと彼らに視線を向けるもにっこり笑うかどうぞどうぞと手で促されるだけで全く気にした様子がない。
「kzkdisnah¥&£?」
毒は入ってないとでも言っているのだろうか。いやたとえそう言っているとわかっても夕月は食べる気にならなかっただろう。
フォークを握って固まる夕月を見て動いたのはギルバートだった。お付きの人に耳打ちしたギルバートは持ってきてもらった林檎のような果物とナイフを持って夕月の席に近づいた。
何をするのかと固唾をのむ夕月の脇でショリショリと皮を剥き始めたギルバートはそれを一口サイズに切って自らの口に運んだ。あっという間にそれを飲み込んだギルバートは今度はそれを夕月に渡してきた。
「kzbsbdjs、skjdk」
目の前で切って自ら食べることで危険はないと証明してくれたのだろう。恐らく食べろと言って差し出された果物を手にとって夕月はゴクリと唾を飲み込み口の中にその実をいれた。
もぐもぐと口を動かせば甘味がジワリと口の中に広がった。見た目は林檎に似ているが味は何故かバナナだった。何故バナナと思わずにはいられなかったが何も口にしていなかったからその美味しさは余計身に染みる。味と食感がバラバラだから違和感しかないけどそれがなんだかとても可笑しくてちょっとだけ笑ってしまった。
こちらをジッと見ていたギルバートに美味しいとありがとうを伝えればほんの少しだけ笑ったようだった。なんとなく言いたいことが伝わったのか、それとも私の食べっぷりに気を良くしたのかわからないが、ギルバートはその後も色々な果実を切っては食べさせてくれるのだった。