二つもいるのかな
どうもこんにちは。絶賛通訳募集中の夕月です。
困ったことに目が覚めたら知らない場所にいて、恐らくこの家の住人と思しき人物と意思疎通を図ろうと試みるも全く上手くいっていないのが現状です。
私と同じく会話を試みようとしているその人もさっきから眉が下がって困り顔。迷惑かけて本当に申し訳なく思っているのだが実はこの人とても中性的な顔立ちをしていて、男性なのか女性なのか判断がつきません。言葉がわからない上に性別の判断もできないポンコツですみません。あとで心の底からお詫びします。
「₩kdd€&!。!@」
「え、ちょっと待って……どこ行くんですか!?」
なんとそうこうしているうちにその人が部屋から出て行ってしまった。
か、考えろ。見ず知らずの人間が突然自分の家の中にいて、しかも訳のわからない言葉を喋っていたら普通はどうする。
……警察呼ぶよ!!
「ど、どうしよう……!? このままじゃ捕まっちゃうんじゃ、てかここどこだよ!!」
聞きたいこととか不安とかが爆発して小声ではあるが無意味に騒ぎ始めた夕月はその時初めて窓に目を向けた。
「そうだ、取り敢えず外の景色からここがどこなのかわかる手がかりが掴めるかもしれない」
タタッと駆け寄った窓のカーテンをそっとひいた夕月はその景色に息をのむ。
周りに住宅街のようなものは一切なく、況してやビルなども見当たらないから遠くまで見渡せる。
綺麗に整えられた庭に、少し離れた所では太陽の光でキラキラと輝く美しい湖が見える。更に向こうには小さくだが街のようなものも見えた。それすらも通り過ぎてずっとずっと遠くには木のようなものが見える。この距離でも見えるということは相当大きいのだろう。
そして、空を見上げれば宵の象徴である太陽が……二つあったのだ。
力が抜けたように床に座り込んで混乱する頭を抑える。生まれてから25年、太陽が二つになったことなんかあったか? ……いやない。
見知らぬ場所、通じない言葉。太陽が二つ。
答えを出すにはまだ早いかもしれない。それでもたった今頭に浮かんだ文字はどうにも消えてくれそうになく、そのままポツリと口から漏れ出た。
「……異世界トリップ」
まさかそんなことがあるはずがないと、頭を振ることでその考えを取り払う。けれど言いようもない不安に襲われ夕月は直ぐに立ち上がることができなかった。
それでも周りは待ってはくれなくて、扉の外が賑やかになりだした。もしかしたらさっきの人が他の人も連れて戻ってきたのかもしれないと震える足を叱咤して立ち上がる。嫌な予感を払拭するにはあの人達と話すほかない。ならばパニックになっている場合ではない。できる限り自分の有利に働くよう動かなければ。
握った拳は汗でしっとりしていて、自分がどれだけ動揺しているのかを伝えてくる。
けれど、やらなければ……。これが夢ではなく現実なら、後で振り返った時こんなこともあったなって笑い話にできるように。嫌なことがあってもそういう風に生きられるようにって教えてもらったから。大丈夫、きっと上手くいく。
どんどん近づく足音に夕月は自分の心臓の音が重なっているように聞こえた。