寝起きに驚きはいらないと思うの
「……ん、……あれ、私いつ寝たんだっけ? ていうかさっきのは……まあ普通に考えて夢か」
トイレの扉を開けたら他人様のお家の天井だった、と考えてみると本当に訳のわからない夢だが何はともあれ夢でよかった。なんかお金持ちっぽそうなお家だったし関わらんのが得策だよね。
ウンウンと納得して体を起こして今度こそ夕飯を作りに行こうと意気込んだ夕月はそのあまりに柔らかなベッドに違和感を覚えた。
私はベッドや枕は柔らかいものよりも少し固めのものを好むため、この異常なまでに沈む柔らかベッドは私のものではないのは確かだ。かといって美知子さん達の寝室のものかと言われればそうとも言えない。何故ならいくらダブルベッドの大きなベッドを使っているとは言え、天蓋を付けるようなオシャレな人たちではないのだ。
では一体これは誰のものなのか……。
慌てて体に掛かっていた毛布をめくりあたりを見渡す。天蓋付きの大きな、どう考えてもキングサイズのベッド。ベッドの脇には小さなテーブルにコップと水差しが。その他にも高価そうな皮のソファーにお洒落なランプ。どこを見ても家のものとは思えないもので飾り立てられ、ここが我が家ではないのだと如実に物語っている。
ここどこよ……と言いかけて思い出した。お洒落な調度品も壁の色もどこか夢で見た部屋の内装と似ているのだ。
「まさか……夢じゃなかったってこと?」
コンコンコン
突然のノックの音に夕月の身体は飛び跳ねた。ついでに心臓も飛び跳ねた。やめて欲しい、私は案外ビビりだと先ほどわかったばかりなのだ。
いやそれよりもこれは何か答えた方がいいのだろうか。いやでもここ私の部屋じゃないし。なのに私がどうぞっていうのおかしくない?
返事をするか考えあぐねていると扉はゆっくりと音を立てずに開いた。扉を開けた人物は夕月を視界に入れると驚いたように目を見開く。
それを見て流石に慌てた夕月は弁解するようにワタワタと話し始めた。
意識がなかったとはいえ、人様の家に不法侵入の上安眠までしてしまうなんて。ちょっと待てよ……私は何でここにいる? わからない。どうやって来た? わからない。よし! ここは夢遊病ってことで誤魔化そう! そうしよう!
「あ、あのすみません!私起きたらなんかここにいて……。で、でも決して悪いことをしようということではなく!気付いたらここに、あの、怪しい者ではないんです!」
ああああどうしよう! テンパって全然上手く話せない! ていうか今気づいたけどこの人日本人じゃない気がしてきた。だって全然顔が平たくない……じゃなくて! 日本人離れした顔立ちしてるし!
うううううう~英語嫌いなのにどうしよう。私が言ってること全く伝わってないのかな。
「えと、とにかく本当にごめんなさ……!」
「£!@¥:¥:!:€&§)//:djksbsh?」
「はえ……?」
やっと話してくれたその人の口から出た言葉は明らかに日本語ではなくて。更に英語でもなさそうで……。え、これ私詰んだ……?