右手にティッシュを
「どうも、女神です」
目の前に、女がいた。
ボサボサの髪に野暮ったいメガネ、ヨレヨレのジャージ。
姉貴がよくこんな格好をしていた。
「そして、ここは神域です」
辺りを見渡す。
壁に立て掛けられたちゃぶ台、中央に煎餅布団、隅の方に山と積まれたトイレットペーパー。
何のありがたみもない六畳一間だ。
「猪山修治さん、貴方は年間ちり紙使用者ランキング第一位になりました。ですので、異世界に行ってもらいます」
なんだこの女、頭沸いてんのか。
「なお、ちりラン一位を記念して『いつでもちり紙が手にはいる』ような特殊スキルを贈呈しますので、頑張ってください」
「……なっ」
突っ込みたいことは山ほどある。
お前のその格好だとかちり紙ランキングだとか異世界はどこからでてきたとか………
だが、何も言えないまま、辺りに光が満ちはじめる。
その、全てを塗りつぶさんばかりに強く、白い光に、思わず俺は、顔を腕で覆い……
ビュン!!
何かが風を切る音。
少し遅れて、軽くて柔らかい感触。
「ぇッ……」
腕をどけて見てみると、ティッシュが一枚、ヒラヒラと落ちていく。ネピアだ。
「ぉぉぉお前、何しやがった!!!」
前方に、剣と弓をかまえたガラの悪そうな集団。後方に、荷馬車と妙齢の美女。
「しにさらせぇぇぇぇぇ!!!」
突然切りかかってくる男。
「ひぇッ」
とっさに腕をあげ、ガードする。
剣が腕に触れた瞬間、ティッシュにかわる。スコッティだ。
「「えぇ」」
声が重なる。
男はバランスを崩して倒れこんでくる。
「あッ」
男もティッシュにかわる。エリエールだ。
………沈黙が、いたい。
誰もが俺を見て、固まっている。
「……えっと」
軽く、手を伸ばす。
前方の集団は、何やら奇声を上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「あのぉ……」
後ろを、振り返る。
荷馬車は既に遠く、豆粒ほどにしか見えない。
一陣の風が、吹き抜ける。
やるせなくて、寝転がる。
空には雲ひとつなく、ただただ蒼くあるばかりだ。
不意に、どうしようもない空しさが込み上げてくる。
「ふぅ」
小さな溜息をつく。
そして、拳を地面に叩きつけ………
「どうなってんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
―――ひとつの世界が、滅びた。
キムワイプおいしい




