第1話「出会い」
第1話です
ー暑い、暑過ぎる。
汗が流れ落ちる感覚を首に覚えながら、自分が今、この状況にある事が信じられなかった。
「何あれ、マネージャー?」
「男じゃんw」
「あんな、マネージャーじゃ、いても全然嬉しくねーよ」
ー僕も全くの同意見だ。 なんで、俺がマネージャーなんだ男だぞ。
サッカー部が練習してるグラウンドの外周には陸上用のトラックが有り、練習を終えた陸上部員と思しき人達の遠慮のない言葉が耳に入る。
僕はこれといった特徴に乏しい少年だ。
僕に話かけてくる人は滅多にいない。
突然、クラスの中から僕がいなくなったとして、出席確認さえされなければ誰も気づかないのではないか。
そんな僕は当然、周囲の視線なんてものに慣れているはずもなく、ただ顔を赤くして俯くだけだった。
「俺だって、やりたくてやってるわけじゃない。」と心の中で思うが口には出さない。
ーというか出せない。
こんな、人付き合いが下手で、存在感のない僕がサッカー部のマネージャーを元々やってるなんて事はない。
サッカー部のマネージャーが体調を崩した為代理が必要になったが誰もやりたがらないので僕に押し付けられたという事だ。
これは、周りとの関係を持とうとしてこなかった僕のせいなのだから、何も言えない。
「マネージャー、水筒!」
と言う声が聞こえ僕の左隣に置いてあったそれを持っていくと
「遅い!ハーフタイム終わっちゃうだろ!」と怒鳴られてしまう次第である。
永遠に続くと思われた練習が終わり昼食の時間になった、昼食はグラウンドの外の木で日陰になっている芝生の上で各自で弁当を食べることになった。
サッカー部に友達がいないのと、さつきまでの時間にぎこちない働きで迷惑をかけてしまった僕は皆んながまとまってワイワイ騒ぎながら弁当を食べている中、僕は芝生の隅で1人で食べることになった。
その時の僕には1人で弁当を食べる事なんか、この後の午後のサッカー部の練習のサポートを考えると全然問題ではなく思えた。
ー今頃はクーラーの効いた部屋でくつろいでたんだろうな
そんな事を考えていると、僕の隣に誰かが歩み寄ってくる音がした。
僕が見上げると彼女は、はじけるような笑顔で「隣、座っても良いかな?」と言った。
時が止まるとはこの事だろうか。
僕の隣に1人の美しい少女が立っている。
綺麗なストレートの黒髪。
理知的な瞳を宿した端整な顔でこちらを見つめている。
着ているユニホームからグラウンドの外周で練習していた陸上部員だと分かった。
ただ、その肌の色は陸上をしているにしては病的に白く、どこか儚さをも感じさせた
僕は言葉を失った。
これが僕と彼女との出会いだった。
第1話でした