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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第七章 ユージと掲示板住人たちは異世界人に出会う』

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IF:第十一話 ユージと掲示板住人たち、人数を増やして森を探索する


「まだだ、まだ引きつけろ」


 ユージの家から西に進み、川に出てから南へ。

 ユージとトリッパーたちは、また森を探索していた。


 今回は戦闘を前提とした強行偵察班である。

 強行偵察で済むかどうかは不明である。

 なにしろ今回、クールなニートも参加しているので。


 そのクールなニートが、ユージたちにささやき声で指示を出す。

 声に出した後は、事前に決めていたハンドサインの出番だ。

 ユージたち9人が、クールなニートの手に注目する。

 ちなみにコタローも3、2、1、とカウントする指を見つめていた。できる女である。犬だけど。


「射てッ!」


 ゼロになった瞬間に立ち上がり、指示を送るとともにクロスボウを射つクールなニート。

 二人を残して、ユージたちも遠距離から攻撃する。

 残った二人は出番を待ち構えるアリスと、カメラを手で持って動画を撮影するカメラおっさんだ。あとコタロー。


 クロスボウのボルト、矢、先端にナイフをつけた槍、8人分の攻撃が乱れ飛ぶ。

 相手はゴブリン三匹だけなのに。


 第一射が終わってすぐユージとコタローが駆け出したが、ゴブリンは三匹とも倒れていた。


「えーっと、ぜんぶ死んでるみたい」


 攻撃を受けたゴブリンはゲギャッと短く鳴いただけで、何もさせずに完勝である。


「確認ありがとう、ユージ。よし、みんな、この調子だ!」

「張り切ってるなあクールなニート」

「仕方ないよミート。銃を使うって言わなかっただけ良しとしよう」

「ボクが本物の怪物と戦うなんて! CGは作って遊んでたけど、本当に戦うなんて!」

「ゴブリンもオークも殲滅するぞ! コイツら処女の敵だからな!」

「落ち着け、それゲームとマンガの中だけだから。これだからユニコーンは」

「うー、アリス、こんどはひっさつわざする!」


 強行偵察班の初戦は、最大火力のアリスの魔法を温存しての完勝である。

 まあ温存というか、森林火災が怖いので火魔法の使用を避けただけなのだが。


「クールなニート、この後はどうする? えっと、片付けとか……」


「そうだなユージ。まずボルトと矢、槍を回収しよう」


「げ。おい、アイツ止めた方がいいって。回収するってことは……」

「おっ、洋服組Aもグロ耐性ないヒト? はあ、俺なんでこっちに来たし!」

「ほんとだなミート。カメラおっさんとルイスさんを見習うといい。あとユージを」


「回収かあ。ボルトと投槍は引き抜けばいいけど、矢は返しがついてるからなあ……。えっと、ここを切ってっと」


「切るのかよ! ためらいないなユージ! ……俺ちょっと離れてるわ」

「早いなミート。あ、俺グロ耐性ないわけじゃないから。ユージとあの三人はおかしいけど……」


 ゴブリンの死体に刺さっている武器を回収するユージ。

 顔をしかめながら作業しているあたり、不快ではあるのだろう。

 それでも異常である。

 この世界三年目のユージ、すでに感覚が麻痺しているようだ。


「体の構造は人間と同じかなあ。ざっと見た感じ、小さくなってるだけで骨格も筋肉も違いはなさそう!」


 一方で、ルイスは平静な様子だった。

 さすがクリーチャーのCGを創っている男である。

 体の構造を観察するのは、CGクリエイターとしての(さが)だろう。

 決してサイコではない。決して。


「これは資料、これは資料、これは資料、これは資料」


 作業するユージとクールなニート、ゴブリンの体の構造を観察するルイス。

 ほかにもう一人、ゴブリンの死体に接近しているのはカメラおっさんだ。

 今回は10人と一匹対ゴブリン三匹と余裕なことから、カメラおっさんは戦闘に参加せず撮影していた。

 いまはゴブリンの死体に近寄って、動画モードで撮影しているところである。

 ブツブツ言いながらも撮影を続けるのはプロ根性の表れか。

 あるいは真・探索班として撮影した動画が掲示板住人から不評だったため、今回は気合いが入っているのかもしれない。



 戦闘を前提とした10人と一匹で強行偵察を行い、ゴブリンの頻出エリアを抜けて人里を探す。

 ユージと騒がしい仲間たちは、強行偵察班として森の探索をはじめていた。


 参加者は、家の住人であるユージ、アリス、コタロー。

 戦闘指揮を担当するクールなニート、撮影係のカメラおっさん。

 あとは何を思ったか、強行偵察班に立候補した者たちである。

 アメリカ組からルイス、そよ風をおこせるようになった名無しのミート、猟銃の持ち主で森歩きに長けたうえに小石を創れるようになったドングリ博士、弓を託された洋服組A、ゴブリン死すべしと血気盛んなニートなユニコーン、異世界の爬虫類見たさに参加した爬虫類バンザイ!。


 10人と一匹の大所帯である。


 10人で森を歩けば音がして敵が寄ってきそうなものだが、それも想定したうえでの強行偵察班である。

 そもそも敵の反応を確かめなければ強行偵察とは呼べないだろう。


「再利用できそうなのはこんなものか」


「クールなニート、死体はどうする? 埋めたり燃やした方がいいかな?」


「はいっ! じゃあアリスのでばんだね!」


「そうだな、埋めてしまおうか」


「アリスちゃん、俺に土魔法を見せてくれないかな? 俺も穴を作れるようになれば、いろいろはかどりそうだから」


「おい、クールなニートはちゃんと片付けるみたいだぞ。エサにするとか言い出さなくてよかった」

「はあ、アリスちゃんは無邪気で癒されるなあ」

「やってることは死体遺棄だけどね!」

「俺も魔法使いたい! レベルアップはよ!」


 とりあえず。

 最初の敵はなんなく倒して、新たな班の探索は順調なようだ。

 カオスっぷりはトリッパーが来てから毎日のことである。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「数が多いな」


「いやー、川を渡ったとこにテント張っておいてよかったね!」


「濡れて大変だったけどな。クールなニートとドングリ博士が言い出した時はどうしようかと思ったが」


「ゴブリンより冷静すぎるコイツらの方が怖いんですけど」

「落ち着け洋服組A。いざとなれば銃を解禁するから」

「よーしよし、ここで俺ががんばれば何人の女の子が襲われなくなるか! ゴブリン死すべし慈悲はない!」

「はあ、せっかく水辺なのに。爬虫類じゃなくてゴブリンが大量なんて」


「ねえねえユージ兄、ここならアリスばーんってやっていい?」


「んー、水もあるしいいんじゃないかなあ。ちょっと待ってね」


 強行偵察班の探索五日目。

 10人は武器を用意して、川の向こうを見つめていた。


 探索の二日目以降、川ぞいを南に移動してからはゴブリンと遭遇するようになっていた。

 前回、真・探索班がゴブリンに遭遇したのと同様に。

 前回と違うのは、10人と一匹は接敵するなりモンスターを倒してきたことだ。

 人数分の遠距離武器があるため、三匹から五匹のゴブリンだけの集団も、オークが一匹二匹いるグループも問題なく殲滅してきた。


 だが、二日目より三日目、三日目より四日目の方がモンスターと遭遇する回数が多かった。

 そのため四日目の野営地は、川を渡った場所としていた。

 出現状況を危ぶんだクールなニートとドングリ博士の判断である。


 四日目の午後、一行は川が浅い場所を見繕って川の向こうにロープを渡し、濡れながら渡河したのだ。

 ロープをくわえたコタローが空を駆け(スカイウォーカー)、アリスが大きな石を作り出したからできた強行突破である。

 その苦労は報われたようだ。


 いま川を挟んでユージたちの前に現れたのは、ゴブリンとオークの集団である。

 ゴブリンが30匹ほど、オークは五匹。

 これまでにない数である。


「川は深くないとはいえ、ゴブリンの胸まであるだろう。渡河は容易ではなく、こちらは飛び道具が充実している。しかもこの場所ならアリスちゃんの火魔法が使用可能だ」


「アリス、魔法を使っていいってさ!」


「やったー! アリス、モンスターをやっつけてやるんだから!」


「でも合図を出してからね? アリスの魔法は必殺技だから!」


「はーい!」


 クールなニートの発言を聞いたユージが、アリスに魔法の使用許可を出す。

 アリスはやっと魔法が使えると、鼻息も荒く張り切っている。


「よし、カメラの位置はこれでOK。音声がおかしくならなければもっと臨場感が出るんだが……」

「贅沢言うなカメラおっさん!」

「そうだよ、こんなの元の世界にいた時には体験できなかったんだから! モンスターの集団をこの目で見られるなんて!」

「ルイスさんもおかしな人か。トリッパーやべえ」


 ゲギャグギャと騒ぐゴブリンの集団とオークを前に、10人と一匹は冷静なものだ。

 川がモンスターを隔てていること、ゴブリンもオークも手にしているのは棍棒だけで、遠距離攻撃し放題なことが大きいのだろう。

 昨日、川を渡って正解である。


 奇しくもクールなニートが「先に川を渡って、川を挟んで対峙すれば楽勝じゃないだろうか。位階を上げるにもいい手だろう」と言っていた状況である。

 この状況を狙ったわけではあるまい。

 いかにクールなニートが戦闘狂染みているとはいえ、狙ったわけではないだろう。たぶん。


「よし。では、戦いをはじめよう」


「アリス、魔法はもうちょっと後でね。最初は弓矢とクロスボウで攻撃するから」


「はーい! じゃあアリス、んんーってやってまってるね!」


「なあ、クールなニートなんか楽しそうじゃない?」

「いまは気にしちゃダメだミート。俺はもう何も考えない。無心で()まくる」

「集団戦か。手持ちで撮りたいところだけど……まあ仕方ない」

「よーし、勝ってジョージに自慢してやるんだ! みんなにもメールしなきゃ!」


「えーっと、なんか余裕みたいだけど……みんなケガしないようにね!」


 最後にユージがまともなことを言って、コタローが、こいつらだめね、と呆れたようにワフッと鳴き。

 川を挟んで、35匹のモンスターとの戦いがはじまるのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「よし! 第一射、放て!」


 クールなニートの合図で、対岸の川原にいるモンスターの群れにクロスボウのボルトと矢、槍が放たれる。

 9人の攻撃でゴブリンがバタバタと倒れていった。

 オークも攻撃は受けているが、矢やクロスボウの一発では死なないようだ。

 だが、問題はない。


「アリスはオークを狙ってほしいんだって。あのデカいの」


「はーい、ユージ兄! んんーっ!」


 攻撃に参加していなかったアリスが、ユージの指示に元気に返事する。

 異世界の幼女、モンスターを前にノリノリである。


「続いてアリスちゃん砲、発射!」


「クールなニート、名前名前!」

「おう、ボクこの感じアニメで見たことあるよ! 120%チャージするんだね!」


 ゲギャグギャと悲鳴を上げるゴブリンたちを対岸に、強行偵察班は暢気なものである。

 ちなみに斉射したためクロスボウ組は装填中で、弓矢を託された洋服組Aのみ「なんで俺だけ」などとグチりながら矢を放っている。


「アリス! 必殺技の出番だよ!」


「はーい! あっつくておっきいほのお、でろー!」


 ユージの声かけで、アリスが上にかざした手の前に炎の球が生まれる。

 ていやっ! とばかりにアリスが腕を振って、炎の球が飛ぶ。


 着弾。


 炎の球が爆発して、川に向かって走り出していたオークが炎に包まれた。

 余波で隣のゴブリンも燃えるほどの威力に、オークが倒れる。


「おお、さすがアリス! ……アリス、あと何回ぐらい撃てそう?」


「うーん、アリスわかんない! てい! ていっ!」


 わからない、と言いながら火魔法を連発するアリス。

 掛け声は幼女らしいかわいさなのに、飛んでいく魔法は凶悪である。


「アリスちゃん砲、撃ち方やめ!」


「……アリス、もういいってさ」


 クールなニートとユージに制止されて、魔法を止めるアリス。

 五匹いたオークはすでに全滅している。

 川原には、数を減らしたゴブリンが残っているのみである。


 アリスが使ったのは、爆発する炎の魔法。

 対岸の川原は惨憺たるありさまであった。

 焼け焦げた石、ちょっとえぐれた着弾点。

 魔法が直撃したオークは黒く焦げ、中には爆発で手足が損傷したオークさえ倒れている。


「……よし、クロスボウと矢は射ち続けよう。投槍もまだ残ってるな?」


「あ、うん。でもこれ俺たち必要だった? アリスちゃんの魔法だけでいけたんじゃない?」

「言うなミート! 敵を倒せりゃいいんだよ! オークもゴブリンも殲滅だ!」

「魔法ってスゴイね! ボクもはやく魔法を使えるようになりたい!」

「散弾をこめていたんだが……出番はなさそうだなあ」


「ねえねえユージ兄、アリスすごい? アリスがんばった?」


「う、うん。すごかったよアリス。あとは俺たちががんばるから」


 アリス7才、褒められたい幼女であるようだ。

 無邪気な笑顔とは裏腹に、障害物とアリスの火魔法は凶悪な組み合わせである。



 川を挟んで、残るは十数匹のゴブリンだけ。


 遠距離攻撃できる武器が充実しているいま、結果は言うまでもあるまい。

 なにしろ最大火力の「アリスちゃん砲」を温存するレベルなので。


 クールなニートとユージが率いる強行偵察班。

 予想された通り強行偵察の域を超えているが、ひとまず順調ではあるようだ。

 これでゴブリンやオーク、モンスターの出現頻度が減れば、あとは当初の目的の人里探しを残すのみである。



次話、3/11(土)18時投稿予定です!


※ユージが来てから三年目の春なので、アリスは7才でした(登場時6才、二年目の秋の収穫祭で7才)

 IFで年齢を間違っていると思いますので、落ち着いたら修正します

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[良い点] アリスちゃん砲!と真面目に叫ぶクールなニートを想像すると笑えるw
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