IF:第六章 エピローグ
エピローグのため短めです。
「よし! たおれるぞー!」
「ユージ、次の木はどうする?」
「あとは残した方がいいんじゃないかなあ。ワイバーンとかの邪魔になると思うし、防風林? だっけ?」
「おおお! ユージがまともなことを!」
ワイバーンの解体が終わって。
ユージとトリッパーたちは、また開拓をはじめていた。
ワイバーン対策本部と武器開発班は解散して、また班にわかれての行動である。
変わったこともある。
ユージはネックレスをつけていた。
ユージだけでなく、アリスやコタロー、トリッパーたちも。
お揃いである。
ワイバーンの死体を処理した際、皮のほかに爪や牙は残していた。
ネックレスは、牙を磨いて穴を開けて紐を通したものだ。
困難に立ち向かって乗り越えた証拠として、32人と一匹はお揃いのネックレスをつけていた。
いい歳してお揃いである。
ワイバーン戦は、仲間の絆を強くしたようだ。
ほかにも変わったことはある。
飛行する巨大なモンスターと戦った結果、トリッパーたちは二つのグループに分かれた。
できればモンスターとは戦いたくない者たちと、位階を上げるために戦うことを厭わない者たちである。
平和な日本で生きてきた者たちは、この世界は気楽に楽しめるファンタジー世界ではないと気づかされたようだ。
それでも問題はない。
ユージの家のまわりでは、トリッパーたちの声と作業する音が響いている。
伐採、開墾、建築、家事、情報収集、動画の編集や日本のウェブサイト制作チームとのやり取り。
ユージの家と庭では32人と一匹が生活している。
戦いたくない者でも、仕事はいくらでもあるのだ。
ほかにも変わったことはある。
ワイバーン戦に参加したほとんどのトリッパーたちは位階が上がった。
身体能力も上がったが、まだ一度のレベルアップでは微々たるものであるようだ。
それよりも。
「ミート、いっきまーす! 風よ吹け!」
「おおおおお!」
「なあ、これたまたま風が吹くタイミングに合っただけじゃなくて?」
「……使い道がわからん」
「うらやましい、うらやましいぞミート! 俺、明日から探索班がいい!」
「マジかよドングリ博士! 見せて、見せてくれ!」
「アリスちゃんほどへこむわけじゃないぞ。落とし穴」
「おおっ、段差ができた! 30センチぐらい? ……何に使うの?」
「ほ、ほら、敵がつまづくかもしれないし……あとほら畑を作る時とか……?」
位階が上がって、魔法を使えるようになった男たちがいた。
ワイバーンを銃撃したドングリ博士、車で突っ込んだ名無しのミートである。
集団で倒した場合、与えたダメージによって経験値が偏るのかもしれない。
まあそれはそれとして。
トリッパーたちは、ついに自分たちの中から魔法使いが出たことで盛り上がっている。
扇風機以下の風を吹かせる、ちょっと地面をへこませることしかできなくても、魔法は魔法。
憧れるのも当然だろう。
「自作クロスボウがあるんだし、俺も探索班にしてもらうかなー」
「そっか、遠距離武器! ワイバーンに通じたんだし、ゴブリンなんざ雑魚だな雑魚!」
自分も位階を上げて魔法を使えるようになりたいと、積極的になる男たちも出てきたようだ。
ユージがこの世界に来てから三年目の春。
30人のトリッパーを迎えてから一週間が経って、生活は落ち着いてきた。
ワイバーンの討伐という大きな困難も乗り越えた。
ワイバーン対策で作った武器は、ゴブリンやオークといったモンスターにも通用することだろう。
電動&燃料で稼働するチェーンソーと刈り払い機で伐採は順調で、そろそろ小さな畑を作ってみようかという話も出ている。
共同トイレの簡易版も完成した。
思わぬ強敵と戦ったものの、開拓も生活も順調だ。
まるで森の中の長期キャンプのように、トリッパーたちは異世界生活を楽しんでいた。
これまで異世界っぽさは魔法とモンスターの存在だけだったが。
そう、これまでは。
「ユージにいー!」
家のまわりで開拓していたユージは、走ってきたアリスとコタローを迎える。
今日はユージの妹のサクラと、自作クロスボウを持ったアメリカ組と数名のトリッパーと探索に出ていたはずのアリスを。
「どうしたのアリス? コタローも走ってきて。探索班で何かあった?」
「あのね、あのね、ぎょーしょーにんのおじちゃんがきたの!」
ユージの動きが止まる。
ついでにトリッパーたちの動きも止まる。
雪が解けて、森を歩けるようになった春。
たしかに行商人のケビンは、春になったらこの地に来るとユージに告げていた。
「あっ、ほら! サクラおねーちゃん、ぎょーしょーにんのおじちゃん、こっちだよー!」
アリスを追いかけてきた探索班が姿を現す。
ユージと何度も話をしてきた異世界人、行商人のケビンも。
ケビンは目を見開いて、口をポカンと開けてフリーズした。
数秒後、ケビンは再起動を果たしたようだ。
「ユ、ユージさん? こ、こんにちは?」
ユージの家があって、ユージとアリスとコタローが住んでいた場所。
変わりまくった状況に、ケビンは驚いているらしい。
「えっと……こ、こんにちは?」
なんと言うべきか、ユージはとっさに思いつかなかったようだ。
家のまわりは、やけに静かだった。
ユージがこの世界に来てから三年目の春。
30人のトリッパーを迎えてから一週間。
32人と一匹は、異世界人と話をすることになるのだった。





