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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第六章 ユージは自宅に元の世界の人たちを迎える』

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IF:第一話 ユージと掲示板住人たち、今後の計画について軽く話し合う


「えっと……サクラ、なにこれ。どうしよう……」


 庭先に現れた、30人のキャンプオフ参加メンバーたち。

 盛り上がる彼らをよそに、ユージはついていけずに動揺している。

 ユージにリーダーシップはない。

 当然である。


 異世界トリップを果たし、念願のアリスとコタローに出会った掲示板住人たちは、興奮のあまり万歳三唱を繰り返していた。

 喜び方が古い。

 せめてハイタッチではないのか。

 アメリカ人がいるのだ、ハイファイブと呼ぶ方がふさわしいかもしれないが。

 あとなぜかアリスが真似している。

 みんなの喜びに感化されたのか、ニコニコしながら両手を挙げて。


「み、みんな興奮してるだけだから……しばらくしたら大丈夫、うん、きっと、たぶん……」


 興奮を(あらわ)にする男たちを前に、ユージと妹のサクラは呆然とたたずんでいた。

 そんな二人の足下をうれしそうにぐるぐると駆けまわるコタロー。さくら、ひさしぶりねさくら、とばかりに。

 時々ジャンプしては、前脚を二人にかけてうれしそうだ。

 と、ユージとサクラに近づいてくる二人の姿があった。


「ユージさん、おひさしぶりです! ボクのこと覚えてますか?」


「もちろんですジョージさん。……あれ? え?」


 ユージは引きニートだった頃にサクラの夫のジョージと会ったことがある。

 結婚の挨拶のために家を訪れた際、ジョージはユージにも挨拶していたのだ。

 いかにユージが抜けていようと、妹の夫になる人、しかもアメリカ人と会ったことを忘れるわけがない。

 緊張してたいして話せなかったことも。

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「ユージさんも気づきましたか。ボクとルイスは、どうもおかしいと気づいていたんですが」


『え? ジョージ、どういうこと?』


「サクラ、英語を使わないでいいんだ。日本語で通じるから」


「え? え? あれ? ジョージ?」


「ボクらの予想通りだったねジョージ! ユージさんが異世界で話が通じるのは現地と言葉が同じなんじゃなくて現地の言葉が理解できるからだろうって! ボクらが異世界に行ったら日本語がしゃべれなくても言葉が通じるだろうって!」


「ああ、ルイス。なぜかはわからないが、そういうことらしい。だからユージさんともこうして会話できる。英語を話しているつもり、なんだが……」


「そっか、それでアリスやケビンさんと話ができたのか」


「文字がわからないのが残念だけどね! さっきチラッとスマホで掲示板を覗いたんだけど、やっぱり読めなかったよ! あ、そうそう驚くべきことにスマホも通じるんだ! これもなぜかわからないけどね!」


「は、はあ」


 ジョージの友人のルイスとユージは初対面だ。

 ルイスは初対面なことをまったく気にしてない、というか興味深い出来事が起きすぎて周りが目に入っていないようだ。

 ユージ、ルイスの勢いにちょっと引き気味である。


「それでユージさん、こうしてボクらも異世界に来られたんだ! もうナイショにしなくていいんだよ? 本当はいるんだろう? 例のヤツが……」


「おいルイス、いきなり何を聞いているんだ。ほら、ユージさんが驚いているじゃないか。もっと落ち着いてから聞かないと」


「え? ……あの、サクラ、何のことだろう?」


「お兄ちゃん、あのね? ……本当はいるんでしょ? ゾンビ」


 期待の目でユージを見つめるアメリカ組三人。

 ユージはポカンと固まり、足下のコタローは、こいつらだめね、とばかりに首を振っている。

 ユージ、サクラとの再会は、すっかりアメリカナイズされたサクラを見せつけられることになったようだ。


 ちなみにゾンビはいない。

 いたらこの後は、ゾンビそっちのけで人間同士の戦いがはじまることになるだろう。

 ここは人里から孤立した森の中の一軒家で、ここには30人ちょっとの人間がいるのだから。

 ゾンビはいない。

 少なくとも、いまのところは。



「ユージにいー!」


 ルイスとの顔合わせを終えた四人の下に、アリスが駆け寄ってくる。


「ユージ兄! むずかしいお話はおしまい?」


「あ、うんアリス。大丈夫だった?」


 ユージ、心配するのが遅い。

 人懐っこいアリスに問題はなかったようだが、ここには見知らぬ男たちがいるのだ。

 呆然としている場合ではない。


「アリスちゃん、はじめまして。私のこと、お写真では見たことあるかな?」


「ああっ! ユージ兄、アリスこの人しってるよ! サクラおねーちゃんだ!」


 サクラが宇都宮でユージの現状を知って以来、ユージは何度もメールのやり取りをしている。

 おたがいに写真を送り合うこともあった。

 ユージに写真を見せられていたアリスは、サクラのことを覚えていたようだ。賢い幼女である。


「おねえちゃん……なんていい響きなの……そうよアリスちゃん! 私がアリスちゃんのおねえちゃん! よろしくね、私の妹!」


 サクラ、一発でデレデレである。

 ユージもコタローもサクラも、北条家の面々は妹に甘いらしい。


「えへへ。アリス、おねーちゃんが欲しかったんだあ……サクラおねーちゃん!」


 受け入れられたことを感じたのか、ガバッとサクラにしがみつくアリス。あざとい。違う、天然である。

 サクラはアリスをぎゅっと抱きしめて、だらしなく頬を緩めていた。アウトである。いや、セーフである。サクラは女性なので。


「あれ? アリスちゃん、その袋はどうしたの? ユニク○?」


「ああっ、そうだ! アリス、ユージ兄にこれをみせにきたんだった! あのね、アリス、いっぱいおようふくをもらったの! たくさんかわいいんだよ!」


 ガサガサと引きずってきた袋を前にまわして、袋の口をガバッと開けるアリス。

 そこには、いっぱいに子供服が詰まっていた。


「おお、よかったねアリス! 家には子供服がなくて大変だったからなあ」


「えっと、アリスちゃん? それ、誰にもらったのかな?」


 素直に喜ぶユージ、ちょっと不安げな様子で問いかけるサクラ。

 聞くまでもなく、答えなど決まっている。

 サクラもキャンプオフ参加者も、その男がユニク○の大きな袋を持っていたことを知っているのだ。


「あのおじちゃん!」


 ビシッとアリスが指さしたのは、例の男だった。

 微笑みを浮かべて遠慮がちに小さく手を振る、男。

 マークするように二人の掲示板住人に寄り添われた、男。


 コテハン・YESロリータNOタッチである。

 ロリ野郎である。

 とりあえず、名前の通りアリスにタッチすることはなかったらしい。セーフである。今のところ。


「アリスの服、ありがとうございました! 誰なのかなーあの人。名無しさんかな?」


「お兄ちゃん、その、あの人は……」


「え? サクラ? あの人になにか?」


「ねえねえサクラおねーちゃん、ユージ兄! アリス、きがえてもいいかな? 今日はだめかな?」


「えっと……あとで、あとでねお兄ちゃん。それからアリスちゃん、ちょっと待ってね。お昼の後に着替えよっか!」


「やったあ!」


 サクラ、とりあえず問題は先送りにしたらしい。

 この世界に来てから、ほとんど時間は経っていない。

 アリスの着替えは落ち着くまで、それとユージへの注意喚起はまたあとで行うようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 騒がしかったユージの家の庭が、ようやく落ち着いてくる。

 異世界にトリップしたという驚きと喜びは、ひとまずおさまったようだ。

 それを見計らっていたのか、一人の男が声を上げる。


「いまから二時間後にまた声をかける。それまでは各々荷物を確認するように。ユージ、サクラさん、ちょっといいですか?」


「あ、はい。えっと……」


「ああ、ユージとは顔を合わせたことがないからな。クールなニートだ」


「あ! 掲示板でいろいろありがとうございました」


「ユージ、敬語は止めよう。ここに集まった俺たちは年齢も様々だ。それぞれどうだったかなどと気にするのも面倒だろう」


「わかった、じゃあ敬語はなしで。でも時々出ちゃうかもしれないけど。それで、話って?」


「ここはユージとサクラさんの家だ。今後はここを出ることになるかもしれないが、最低でも家のまわりで暮らせる状態を作るまでは、いろいろと提供してもらわざるを得ないだろう。この庭と、トイレと、あとは水も」


「あ、うん。それぐらい気にしないけど……」


「ありがたい。だが、ここがユージとサクラさんの家であることは間違いない事実だ。だから、今後の予定やこちらの希望を伝えておこうと思ってな」


 ユージとサクラに話しかけて来たのは、クールなニートだった。

 隣には物知りなニートの姿も見える。

 キャンプオフでこの世界にトリップして来たメンバーの頭脳班である。

 だがそこに、弁護士であり立派な大人である郡司の姿はない。

 スーツ姿でリュックを背負った七三の男は、このファンタジー世界にやって来た感動のあまり、うろうろと庭を歩いていた。

 早く外に出てみたい、とばかりに。子供か。


「そうね、それがいいと思う。まわりは森でしばらく共同生活になるんだし、最初に話し合っておかないと!」


「ああ。ということで、少し時間が欲しい」


 クールなニートをはじめ、30人のキャンプオフ参加者たち。

 サクラと夫のジョージはユージにとって家族であり、その友達のルイスまでは身内と言ってもいいだろう。

 だがほかの参加者たち、掲示板住人はユージとサクラにとって他人、せいぜい知人である。

 ユージにとっては頼れるブレーンたちだが、掲示板を通じたやり取りは三年目。友達と呼ぶにはまだ関係性が薄い。


 そして、ここはモンスターがはびこる異世界の森である。

 いずれ希望者は他所に向かって冒険をはじめるかもしれないが、最初は謎バリアで守られた庭や、家のまわりで生活することになるだろう。

 今後、掲示板住人たちがどう動くか、家主に報告・相談して、必要なことはお願いしておくのも当然だ。


 ともあれ、ユージとサクラは縁側に腰掛け、頭脳班二人はキャンプに持ち込んだチェアを運んで来て座り、しばし話し合いとなるのだった。

 と言っても、クールなニートの言葉に、ユージはうんうんと頷くだけだったが。

 問題はない。

 必要であれば妹のサクラが口を挟んでいたので。


 こうして。

 ユージは、異世界トリップを果たした掲示板住人たちと、これからの計画を話し合うのだった。




「では、いま話したように動こうと思う」


「はい、いいと思います。安全第一ですから! 他にも私とお兄ちゃんが出来ることがあったら言ってくださいね」


 二時間弱におよぶ話し合いを終えたクールなニートと物知りなニート、サクラ。

 そこにユージの言葉はない。

 まあ頷いているあたり、同意したということなのだろう。きっと。


 ひとまず今後の動き方の報告と、相談を終えて。

 荷物の確認や掲示板への書き込みなど、それぞれ時間を過ごしていた掲示板住人にクールなニートが声をかける。


「みんな、時間だ! 一度集まってくれ!」



 ユージがこの世界に来てから三年目の春。

 掲示板住人たちの異世界トリップ初日。

 長い一日は、まだ続くようだ。



次話、11/2(水)18時投稿予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 本編も面白いけど先にこっちが気になってしまった。 IFルートありがとうございます。
[良い点] 本編を読み終え、満足とともに残念でもありました。もうこの話は続かないのか、と。一二ヶ月ほど間を開けましたが、IFルートを読み始め、2話読んで「彼らが戻ってきた!」と感激しています。 「な…
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