閑話6-0 第一回ユージ家跡地キャンプオフ part1
副題の「6-0」は、第六章プロローグの頃という意味です。
時系列として作中のほぼ一年前、まだ獣人一家を手配していない頃のお話です。
だいぶカオスなのでご注意ください。
JR宇都宮駅西口。
4月12日、10時45分。
ユージ家跡地キャンプオフの第一陣は、集合前から最初の混乱に陥っていた。
「おい! 餃子像の場所変わってんじゃねーか!」
彼は通称・インフラ屋。
地元宇都宮のインフラ系の会社で働く、妻子持ちの勝ち組である。地元組として第一陣を率いるはずが、のっけからつまずいていた。
そう。
待ち合わせ場所として指定したJR宇都宮駅西口、餃子の皮で包まれたビーナスという独特な像は、西口のバスターミナルからペデストリアンデッキ上に移転していたのである。
「とりあえず場所変更は掲示板に書き込んで、誰か見つけたら分散して待つしかねえか」
ユージ家跡地キャンプオフは、そのはじまりからカオスの気配が漂うのだった。
「よーし、俺も入れて9人! これで第一陣は集まったな! レンタルしたワゴン車を下に停めてるから、そこまで移動するぞー。はぐれるなよー」
インフラ屋の号令の下、ぞろぞろと男たちが続いていく。
あ、僕はコテハンなしの名無しです、お前が物知りなニートか、おいおい第一陣からロリコン野郎きてんのかよ、などとワイワイ騒ぐ声が聞こえてくる。
インフラ屋も含め、決してオシャレとは言えない男たちが合計9人集っていたが、それほど目立ってはいなかった。
なにしろこの街には北関東のアキバと呼ばれるほどの商業ビルもあるのだ。集団での来訪はいつものことである。だがさすがにアキバは言い過ぎだ。
インフラ屋が運転するワゴン車がたどり着いたのは、まさにその商業ビルのすぐ裏手の施設、その地下だった。5つの常設店舗と日替わりの店舗が入った餃子のテーマパークである。
ここなら来たことある、おいおい地元民が案内するのに観光地かよ、そんなクレームが聞こえて来る。
「うっせー! 人数多いからしゃあないだろ! ここなら食べ比べもできるんだぞ!」
地元民・インフラ屋の強弁であった。サラリーマンとして、都内からの出張客をここに連れて来て外れなしだった実績が彼の心を支えているようだ。
さっそく思い思いに注文し、お茶とビールで乾杯する一行。お、さすが有名店はうまいな、俺はこっちが好みだと盛り上がる。観光地かよというクレームはなんだったのか。
中国では水餃子や蒸し餃子が主流で、ニンニクも入れないことがほとんどなんだ、などと語り出す物知りなニート。あ、こいつの蘊蓄はリアルだとちょっとウザいなと視線を交わす住人たち。とりあえず指摘はしないようだ。これも優しさの一つの形である。
せっかくの宇都宮だから楽しまなきゃとわざわざ先行して集まった行動派の第一陣は、コミュ力高めの集団だった。
ともあれ、インフラ屋の思惑通りなんだかんだ言いながら第一陣は盛り上がるのだった。
餃子を堪能し、一部の住人は昼間っからのビールで赤ら顔を見せ、ついでとばかりに北関東のアキバと呼ばれる商業ビルを冷やかした第一陣は、インフラ屋の運転で再びJR宇都宮駅まで戻ってきた。もちろんインフラ屋はアルコールを飲んでいない。恨めしそうにビールを飲む男たちを眺めるのみであった。
時刻は12時50分。洋服ツアーへ向かう第二陣、ホームセンターへ向かう第三陣との合流の時間である。
待ち合わせ場所に向かう一行の目に、大きなリュックを背負ったスーツ姿の男が目に飛び込んで来る。何やら青年と話し込んでいるようだ。
第一陣の9人の頭の中に、一人の男の名前が浮かぶ。
スーツにあのでかいリュック、あれぜったい郡司先生だろ。
第一陣から第三陣まで、ぶじに合流できたようである。
JR宇都宮駅西口、ペデストリアンデッキの餃子像前。
けっきょく、30名の参加予定者と引率のインフラ屋・サクラの友人含め、全員が13時の第二・第三陣で集まったようである。
ひさしぶりー、あ、ジョージさんははじめまして! とはしゃいだ女性の声も聞こえてきた。だが、どうやら参加者のうち女性はユージの妹サクラとその友達の恵美だけのようだ。たしかに、最初のオフが設備の整っていない場所でキャンプというのは女性にはハードルが高かったかもしれない。
「よーし、じゃあホームセンター組はこっち! 洋服組は恵美ちゃんに付いていくよーに!」
インフラ屋の声が響く。さすが飲み会の幹事経験も豊富なサラリーマンである。
郡司先生やクールなニートは、こうした場面では力を発揮しないようだ。二人とも大人しくホームセンター組の最後尾で何やら話し込んでいた。気が合うのか。会話を聞いてみたいような聞きたくないような組み合わせである。
サクラの夫のジョージと友達のルイスの姿も見える。声がデカい。すでにテンションは最高にハイってやつなようだ。住人たちは二人から距離を取っていた。当たり前である。誰がハイテンション状態のアメリカ人に自ら声をかけられるというのか。勇者はここにはいなかった。しかも頼るべきサクラは友達の恵美と一緒に洋服組。彼らは通訳なしでホームセンターに乗り込むようである。
カメラおっさんと検証スレの動画担当は二人してさっそくカメラをまわしていた。二人とも荷物がでかい。というかそれぞれ台車を押している。本気である。
カオスである。
本番のキャンプがはじまる前から、すでにカオスであった。
この時、検証オフと違い彼らは名札を付けていなかった。
当たり前である。周囲の目があるのだ。
だが、彼らは名札を付けないという判断を、すぐに後悔することになる。
目立たぬようにひっそりと混じっていたのだ。
洋服組に混じっていたのだ。
ロリ、いや、ペド野郎が。





