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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『第四章 ユージは金持ちニートから森の魔法使いにジョブチェンジした』 

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第五話 ユージ、厨二病を発病して庭で魔法の練習をする

冒険者たちが街へと帰っていった翌朝。


「ふふふ……依頼も受けてもらえたし、掲示板のみんなからもよくやったって褒められたし……順調、順調」


 上機嫌で独り言を発しながら、コタローと一緒に敷地の周囲をまわるユージ。

 敷地の中にすぐに逃げ込む距離を意識しながら、手近で採取できる食べ物を収穫している。

 コタローはふんふんと匂いをかぎまわり、ここはわたしのなわばりよ、とマーキングを繰り返している。

 見知らぬ他人が来たことでついた匂いを更新しているようだ。

 アリスは家でお留守番である。


「それにしても、冒険者たちは南に向かっていったな。街が川のそばにあって、この家の西に川があるから、てっきり西の獣道をたどってきたと思ったんだけど……」


 鉈を振り、採取を繰り返すことで獣道ができた南と西をキョロキョロと見比べるユージ。


「街まで丸三日かかるって言ってたけど、南は二泊三日で行ったんだよな……。家に戻ることを考えないでそのまま行ったら、去年の夏に街にたどり着いてたかもしれないのか」


 考え込むユージに、ワンッとコタローが一鳴き。なにいってるのよ、それじゃありすがたいへんだったじゃない、と言いたいようだ。

 ユージはコタローの意思がわからず、ただ頭を撫でただけだったが。


「収穫は野草ぐらいだったけど、そろそろ戻ろうか、コタロー。この前の冒険者たちみたいに、森の中を武装した人間がウロウロしてるみたいだし……」


 わんわんっ! そうよ、もっとけいかいしなさいよ、とユージに向かって吠えたコタローが踵を返し、家に向かって先導する。


 どうやら、ユージにも警戒する心が生まれたようであった。





 午前中に探索を終え、軽めの昼食をとった午後のこと。


 ユージは庭に出て、何やら奇妙なポーズで固まっている。


 アリスは部屋でお昼寝タイム、コタローもアリスの横で丸まっている。



 左手で右手首を掴み、右腕を伸ばし、庭の広い空間に向けて手を大きく開くユージ。


「森の魔法使いユージが命ずる。魔界の火よ、神をも殺す獄炎よ。我が右腕に集いて神敵を滅ぼせ。顕現せよ、六の地獄。焦熱地獄(フレイムインフェルノ)


 厨二病を発病したようだ。


 当然、手から火は出ない。

 そもそも魔界に呼びかけているのか地獄に呼びかけているのか。

 せめて神敵ではなく仏敵ではないのか。


 滅茶苦茶である。


「ユージ兄、変なかっこして何してるのー?」


 アリスに見られていたようだ。


 お昼寝から目が覚めたアリスは、ユージを探しに庭に来ていたのだ。

 一緒に現れたコタローが、なにしてるのよまったく、と冷ややかな目でユージを見つめている。


「お、アリス、起きたかー。これはね、魔法の練習をしているんだよ。なんたって森の魔法使い殿だからね!」


 胸を張って言い切るユージ。恥ずかしくないのか。

 それよりもこの男、呼ばれただけで森の魔法使い気取りである。もちろん、魔法は使えない。


 きょとんとした表情でユージを見つめるアリス。


「えー? まほーはおなかのこのへんをんんーってやってぽかぽかして、えいってやったらできるよ?」


 アリスはヘソの下辺り、いわゆる「丹田」と呼ばれる部分に手をあて、その後、えいっと言いながら手を前に振り、ユージに見本を示す。


「うーん、でもアリス、それじゃかっこよくないよ。それに呼びかけたほうがきっと強い魔法になるよ! 一緒に練習する?」


「うん! アリスやってみる!」


「じゃあ俺は水の魔法の練習をするから、アリスも好きにやってごらん。真似しないで、アリスならではのヤツを考えるんだよ!」


 恥ずかしがるどころか、アリスを厨二病に引き込むようだ。


「水の精霊ウンディーネ、水の精霊ウンディーネよ。汝の友、森の魔法使いユージが乞い願う。清らかな水の恵みで此の地を癒せ。治癒の雨(ヒールレイン)


 今度は精霊に呼びかけたようだ。もちろん、友ではない。

 魔法は発動しない。


「うーんと、うーんと……。あかくてあっつくておっきいほのお、出ろー!」


 ぐっと手を握って両腕を上げ、えいっとばかりに両手を開いて体の前に持ってきたアリス。


 魔法が発動した。


 赤々と燃え(・・・・・)熱を発し(・・・・)、アリスの頭ほどの大きな炎(・・・・)が生まれ、庭の中心に炸裂する。


 えへへへー、でたー、おっきくなってるよ、すごいねユージ兄! と言いながら、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶアリス。


 ユージは、呆然と焼け焦げた庭の中心を見ている。

 これまでアリスが見せてくれた火の玉とは、見た目も威力もひとまわり以上違っていた。


「……いや、俺は森の魔法使いなんだ。ジョスって大男が言ってたじゃないか。俺だって魔法が使えるはず。いや違う。俺が唱えた最初の詠唱が、今頃になって発動したんだ。うん、きっとそうだ」


 でも喜んでるアリスに水を差しちゃいけないな、と呟いている。

 とはいえ、ユージだってそうではないことはわかっている。これは現実逃避なのだ。


 コタローはわたしのいもうとはすごいわね、とアリスに体をこすりつけている。


 えへへへと笑いながら、アリスはしゃがんでコタローを抱きしめる。

 えっとねー、お腹のこのへんがぽかぽかして、えいってやったらまほーが使えるんだよーとコタローのお腹に手を当て、教え込んでいるようだ。



 ユージが厨二病を発病した以外は、なんてことのない穏やかな光景。


 北条家の庭に一本だけ植えられた樹齢28年の桜は、大きく空に枝を伸ばし、今年もたくさんの蕾をつけている。


 ユージが家ごと異世界にやってきてから、もうすぐ一年。


 ユージとコタロー、アリスの二人と一匹だけで過ごした冬。

 平和で穏やかな日々は終わりを告げ、庭の桜が満開を迎える頃、新たな出会いが待ち受けているのであった……。


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