第三話 ユージ、妹のサクラに送る写真を撮影する
暗い部屋をモニターの輝きが照らす。
ブーンとパソコンのファンが回る音だけが部屋に響く。
そっと立ち上がり、自室の角へ向かうユージ。
ヒザを抱えて座り込む。
寝ていると思っていたのに、コタローがスッとユージに寄り添い、ペロッとユージの頬をひと舐めする。
しんぱいだよう、げんきだして、と慰めてくれているようだ。
「ありがとな、コタロー。お前はどんな時でも俺に味方してくれるな」
コタローを抱え込むユージ。
ユージのベッドでは、アリスがスヤスヤと眠っている。
微笑みまじりにむにゃむにゃと、いい夢を見ているようだ。
ユージは先ほど現実の中で悪夢を見たが。
「サクラが元気でよかった。サクラと連絡が取れてよかった。これはいいことなんだ。うん、これはいいことなんだ」
自分に言い聞かせるようにブツブツと繰り返すユージ。
コタローがいっそう強く体を寄せてくる。
ユージにとって、長い夜であった。
「あ、おはよーアリス」
「おはよーユージ兄! そんなところに座ってどうしたの?」
翌朝。ユージはけっきょく一睡もせず部屋の角に座り込んでいたようである。
哀れではあるが、これは身から出た錆。仕方がないことなのだ。
現実はかくも厳しいものである。
「アリス、今日はね、俺の妹のサクラにメールを送るんだ。今は遠くて会えないけど、アリスにはお姉ちゃんもいるんだよ」
「そーなんだ! アリスね、お姉ちゃん欲しかったの! お母さんにおねがいしたんだけど、お姉ちゃんは作れないのよーって言われちゃったんだあ……。でもメールってなあに?」
「そうだなあ、お手紙みたいなものかな。そうだ、アリスと写真撮って、一緒に送ろうか!」
「しゃしんってすごい絵のヤツ? うん、アリスもしゃしんとるー! じゃあおめかししなきゃ!」
かしこい子である。ワンワンッ! とコタローもブラッシングをご所望のようである。
そうだなコタロー、シャンプーしてブラッシングしてやるからな、と撫でまわすユージ。
義妹と愛犬の姿に癒され、少し元気がでてきたようだ。
北条家は女性が強いのである。
「三脚よし、カメラよし、ワイヤレスシャッターよし! 家も人もキレイに入るカメラアングルもばっちり。いろいろ教えてくれた掲示板のカメラおっさんに感謝だなー。アリス、準備はいーい?」
「うん! お姉ちゃんに書いたお手紙、よんでくれるかなあ?」
「どれどれ? うん、バッチリだよ! サクラが読まなかったら俺が泣かすから大丈夫!」
できもしないことを宣言するユージである。
外で撮影することもあり、今日のアリスはコートを着込んでいる。寒い冬、グレイのダッフルコートがアリスのお気に入りである。
長過ぎる袖は内側に折り返し、裾は折り返したうえに安全ピンで仮留めしてある。
裾と袖を切らなかったのはアリスが成長しても着られるようにという配慮と、サクラのお気に入りのコートだったせいである。
サクラから責められることはできるだけなくしたい。
ユージの思いが見てとれる処置である。
アリスの手には、A4の紙をテープで繋げてA2サイズにした紙がある。ユージが下書きをして、アリスになぞらせた日本語のメッセージだ。
ところどころ線が曲がっているのが、幼いアリスが書いたものだと強調されているようだ。
『サクラお姉ちゃん
きれいなおようふくありがとう
妹のアリスより』
サクラから責められることはできるだけなくしたい。
ユージの思いが見てとれるこしゃくな作戦である。
「よーし、じゃあアリスはここ、コタローはここ。じゃあいくよー、アリスは笑顔でね! はいチーズ!」
カシャッ!
そこには満面の笑顔を見せるアリスと凛々しいキメ顔のコタロー。
そしてくっきり隈を浮かべ、弱々しい笑顔で笑うユージが写っているのであった。





