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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『エピローグ』

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IF:エピローグ2


 ユージ家の跡地前では、大騒ぎが巻き起こっていた。

 還ってきたアメリカ人のルイスと言葉が通じる。

 名無しのニートの二人の身体能力は上がったままで、鍛えたアスリートほどの跳躍力を見せた。

 跡地に集まっていたキャンプオフ参加者が騒ぎ出すのも当然だろう。

 だが、一箇所だけやけに静かな場所があった。


「えっと、還ってきました」


「おかえり、文也くん」


 洋服組Aと、かつて洋服組Aの接客を担当したユニク◯の店員さんとその周辺である。


「メールはしてたけど、なんだか不思議な感じだね」


「そ、そうですね、ほんと、変な感じで」


 ニコニコ微笑む店員さんはいいとして、洋服組Aの視線はさまよいまくって挙動不審である。ユージか。

 二人の周囲には、店員さんと仲良くなった「サクラの友達」や、キャンプオフを取り仕切ったインフラ屋、ほかの掲示板住人もいる。

 集まった人たち、特に掲示板住人は二人を遠巻きに見つめるのみでやけに静かだ。

 二人の恋路を見守ってのことではなく、どうしたらいいかわからないのだろう。


「えっと、俺、還ってきて、還ってきたのは、その」


「はいはいはーい、そこまで! ほらこっちの食事も食べたかっただろうしいろいろ用意してあるから!」


「えっ、あの」


「ふふ、行こっか、文也くん」


 何か言いかけた洋服組Aを遮ったのは、サクラの友達だった。

 他人の恋路を邪魔して馬に蹴られたかった、わけではない。

 分の悪い告白かそれに近しい気配を感じたのだ。


「ほら、仲良くなる機会はこれからたくさんあるんだから! お茶なりご飯なり行けばいいでしょ!」


 ぐずぐずする洋服組Aの背中を、サクラの友達がバンバン叩く。

 そもそも、洋服組Aと店員さんが直接会ったのは一度だけだ。

 それも、客と店員としてである。

 キャンプオフ事務局として忙しかったサクラの友達は、最近掲示板に出没する頻度が低かった。

 頼りにならない掲示板住人たちのアドバイスを実行しようとした洋服組Aを遮った、サクラの友達のファインプレーである。

 隣のインフラ屋は、なぜか残念そうな顔をしていたが。嫉妬か。妻帯者のクセに嫉妬なのか。答えは誰も知らない。


 ちなみに、二人の様子はこちら側にも待機していたカメラ班によって撮影されていた。




  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □




「あ、あれ? お兄ちゃん、ちょっと外すね?」


「え? どうしたのサクラ?」


「んむ……わっ! 人がいっぱいだあ! おはよう? ユージ兄!」


「あ、起きちゃったか。おはようアリス」


 庭の縁側で新たなトリッパーをじっと見ていたサクラが、ふらっと歩き出した。

 ほぼ同時に、和室で眠っていたアリスが目を覚まして、寝起きとは思えない子供らしいテンションでユージの腕にしがみついた。

 ユージはアリスの頭を撫でて、庭に視線を移す。

 そこでは、サクラが新たなトリッパーに話しかけていた。


「えーっと、ちょっといいかな?」


「ボク? あっ、サクラさん。はじめまして、試される大地の民1です」


 ふらふらと近づいたサクラが、伸びっぱなしの髪で目も耳も隠れたトリッパーに話しかける。

 試される大地の民2とともにはるばる北海道からキャンプオフに参加して、この世界にやってきた掲示板住人に。


「あの、違ってたら申し訳ないんだけど……試される大地の民1さん、女の子だよね?」


 聞こえていたトリッパーたちがぎょっと目を剥いて、サクラと試される大地1にバッと顔を向けた。

 試される大地の民1の隣で、試される大地の民2がぽりぽりと頬をかいている。


「あっはい。隠してるつもりはなかったんですけど」


「やっぱり……」


 騒がしかったユージ家の庭が、沈黙に包まれた。

 一瞬後、爆発的な騒ぎが起こる。


「はあああああああっ!? マジかよ!」

「待て待て待て、試大1ってそんな書き込みしてたか!? むしろ」

「え? だってそれっぽい素振りはなかったし」


「あ、あの、ダメでしたか? やっぱりこっちは危ないから男だけとか」


「うーん、危ないのは確かだけど、そこはいいんじゃないかな? トリッパーで女性は私だけだったし、歓迎します!」


 サクラは笑顔で、不安そうな試される大地の民1の手を取った。

 二人はわかりあったようだが、周囲の男たちは騒がしい。


「あれ? 試大2って、試大1を迎えに行ってフェリーで大洗経由でキャンプオフじゃなかった?」

「おいまさか、それってつまり男女が泊まりがけで……」


「みんな潔癖かよ。別に何もなかったから。フェリーは寝台で個別だったし」


 なんでもないような試される大地の民2の言葉で、トリッパーたちはふたたび静まった。

 おいコイツ普通人っぽいぞ、むしろなんか余裕を感じる、魔法使いじゃなさそうだ、などとヒソヒソと話し合っている。弱気か。


「あー、そういうパターンもあるのか。どう思う動画担当?」

「男だらけだったからな、女性がいた方がバリエーションが増えてありがたいぞ、トニー」

「そういう話じゃないでしょ! ま、まあほら、試大二人はテントに押し込めとけばいいんじゃない?」

「マジかミート! ふ、ふけつですー!」

「純粋かよ名無し。あ、木造の新居の方がよければちょっと時間かかるけどいいですかね?」

「リア充爆発しろ!」

「おいやめろアリスちゃんがいるんだ、それはシャレにならない」


 新たな掲示板住人を迎えても、トリッパーたちは変わらないようだ。




 一方で、変わったものもある。


「なあ、上のコンテナのヤツってどうやって出すの? 向こうと違ってクレーンないんだぞ?」

「手下ろしでいけるように、上に入っているのは軽い物資だけだ」

「さすがクールなニート! 俺ぜんぜん気にしてなかったわ」

「リストと突き合わせたら、荷ほどきは対ワイバーン用の物資を優先するように」

「了解、物知りなニート。はあ、銃があればなあ。俺だって活躍できるのに」

「アリスちゃんの服もすぐに荷ほどきするべきでは?」


 ユージ家の庭には、ハーフコンテナ二台分の荷物が届いた。

 トイレットペーパーなどの消耗品のほかに、ワイバーン戦に使えそうな物も入っているらしい。


「ドングリ博士があっちにいないからね、銃を手に入れるハードルが高すぎる」

「あれ、ミート、あっちはいいの?」

「新しいトリッパーも掲示板住人も、ニートだらけだからなあ。無職じゃ猟銃所持許可は難しいでしょ」

「俺は北海道民だし農家でもあるし、取ろうと思えば取れたんだけどな。さすがに猟銃持って行方不明ってのはちょっと」

「うっせえ試大2。お前は向こうでイチャついてろ」


 ユージが突然、家ごとこの世界に来た時とも、最初のトリッパーたちが半信半疑で準備した時とも違う。

 トリッパー30人が一年暮らして、必要なもの、欲しいものを洗い出して、掲示板住人とも検討を重ねて届いた物資である。

 実用性は比べるべくもない。


「……なあ、これ誰が乗るの? 誰か免許持ってる?」

「原付なら経験あるんだけどなあ」

「いきなりモトクロスバイク、しかもガチの森を走るとかハードル高すぎだろ。誰だ絶対使えるからって言い張ったヤツ」


 実際に使えるかどうかはまた別として。

 ともあれ、物資のセレクトと補給物資が来たこと、ひょっとしたらまた来年も補給できるかもしれないことは、大きな変化だろう。




「はは、ははは。これは夢でしょうか。私の知らない物が大量に……これ、領主様はどう判断されるでしょう。会頭が知ったら大喜びであらゆる敵を排除しそうな」


 変化を前に、ユージの家の前でケビンが呆然としていた。

 ユージの家とユージという稀人に驚いていたのに、去年はさらに30人の稀人の存在を知った。

 トリッパーたちと一緒に奔走して、領主と面談して開拓団としてトリッパーたちが生活していく算段をつけたところで、この事態である。

 呆然とするのも当然だろう。


「ふふ、しかしこれは……歴史が変わりそうですねえ。その中心に近い場所にいられるとは……」


 それでも笑っていられるあたり、好奇心が強いうえに胆力もあるのだろう。

 さすが、ユージを受け入れて協力しながら商売しようとした男である。




「ねえねえユージ兄、アリス、新しい人にごあいさつしたい!」


「はは、そうだねアリス、俺も挨拶しなくちゃいけないみたいだし、一緒に行こうか。ほら、コタローも」


 トリッパーたちとケビンの様子を見ながら縁側でぼーっとしていたユージは、ようやく動き出した。

 アリスと手を繋いで、先導するようにコタローが前を歩いて、自宅の庭を歩き出す。



 ユージがこの世界に来てから四年目、トリッパーたちが来てから二年目の春。

 人が入れ替わっても、元の世界から物資が届いても、もしかしたら往還が可能になったのかもしれなくても。

 ユージとアリスとコタローと、トリッパーたちと、開拓民となったこの世界の住人たちとの生活は続いていく。

 辺境の大森林の奥地で、ひっそりと。

 ……ひっそりできるのは、あとわずかな期間かもしれないが。



次話、7/28(土)18時更新予定です!

次話で最終回……になるはずです、たぶん。


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