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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『エピローグ』

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IF:エピローグ1


「おおおおおおお! トイレットペーパーきた! よっしゃあああああ!」

「携帯用ウォシュレットはどこだ! 電池は!?」

「カップラーメンがある……これでまた生き残れる……」

「いやそんだけ喜ぶってお前らは帰った方がよかったんじゃない? 大丈夫?」


 ユージ家の敷地の外、門の前にある開けた空間では大騒ぎが巻き起こっていた。

 明かりを確保するため、ユージの光魔法でいくつもの光の玉が追加されている。


「全員落ち着け。まずは荷物を搬出して、リストと突き合わせよう」


「おおー、さっすがクールなニート! こんな状況なのに落ち着いてる!」

「騙されるなトニー、あいつも混乱してるぞ! だって普通、人の確認が先じゃない?」

「どうだおっさん、撮れたか?」

「バックモニタじゃわからないなあ。とりあえずパソコンに落としてみないと」


 大騒ぎである。

 クールなニートが言ったように、事前の計画では物資の搬出が予定されていたが、最初にやることではないだろう。


「これがユージの家……でも暗くて森しか見えないしまわりは日本人だし、あんまり実感わかないなあ」

「待て待て、そこでふよふよ浮いてる光の玉は魔法だぞ?……ごめん、俺も実感わかないわ」


 なにしろ帰還を望んだ五人の姿は庭になく、この世界にいないはずの掲示板住人らしき人が何人かいるのだから。

 新たなトリッパーは、ユージ家の庭でぼーっと周囲を見ていた。

 ここが異世界だと実感がわかないらしい。


「えっと、みんな……サクラ、これどうしたらいいと思う?」


「うーん、いま落ち着かせるのは無理じゃないかなあ。見てて危ないことをしようとしたら注意して、あとはほっとくしかないと思うよ」


「そっかあ……」


 戻って縁側に腰掛けて、ユージはぼんやりと庭を眺める。

 現れた二つのハーフコンテナやトリッパーのことも、深く考えずに放置だ。つまりいつものユージである。

 いや、妹のサクラに一声かけている。成長である。


「あの、ユージさん、これは本当に、その、なんと言ったらいいか……」


 ユージ家の門の前では、ケビンが呆然と何事か呟いている。

 いちおう説明されたものの、実際に目にして驚いているようだ。それも当然だろう。なにしろ、トリップしてきた掲示板住人本人さえ、まだ信じられないのだから。


 ケビンのことも新たなトリッパーのことも届いた物資のことも、落ち着くまでひとまず放置して、ユージは縁側に座っている。

 ユージの太ももに頭を乗せたコタローが、呆れたようにわふっと鳴いた。もうみんな、おおさわぎしすぎよ、とばかりに。マイペースか。さすがユージの飼い犬である。


「……まあ、朝になったらみんな落ち着くかなあ」


 落ち着くわけがない。


 朝になっても大騒ぎで、それどころか元の世界も大騒ぎで、おそらく掲示板も大騒ぎだろう。


 ユージがこの世界にやってきてから四年目。

 家の敷地から外に出るようになっていろいろ経験しても、ユージはどこか抜けたままのようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ただいま戻りました。おひさしぶりです、先生」


「はは、この状況でも変わりないのか。あいかわらずだなあ郡司くんは」


 ユージがいる世界で、ユージのまわりが大騒ぎしていた頃。

 日本のユージ家跡地もまた、大騒ぎになっていた。

 だがマイペースな者もいる。


 スーツ姿でリュックを背負い、足元だけアウトドア用の靴を履いた郡司である。

 あまりに「普通」の挨拶に、郡司の元上司だった男は拍子抜けしたようだ。


「ユージさんとサクラさんから、いくつか書類を預かってきました。さっそく」


「おいおい、まだ夜は明けていないのだぞ? 動きようがないだろうに」


 郡司から「先生」と呼ばれた男は、苦笑して郡司の肩をぽんぽんと叩く。

 変わらないように見えて、郡司は内心では焦っていたらしい。異世界に戻る気満々なので。


「夜が明けるまで、向こうのことを聞かせてもらおうじゃないか。移動した方がいいかね?」


「では私の家へ。少し汚れているかもしれませんが」


 そう言って、郡司ともう一人の男は歩き出した。

 帰還の喜びも帰還したことにも大きなアクションをすることなく、周囲の喧騒も放置だ。

 郡司、ひょっとしたらユージよりマイペースかもしれない。




「さーて、ボクはここから長い旅をして家に帰らなくちゃ! おっと、いろいろ連絡しとかないと」


 すたすた歩き出した郡司と同じように、マイペースに家路につこうとする者もいた。

 ルイスである。

 だが、郡司とは状況が違う。


「……ルイスさん、だよな?」


「うん! ああ、何か戻ってきた時の手続きがあるのかな? それともお祝いの乾杯?」


「マジか……俺英語できないはずなのに……ってことは」

「…………は? ああうん、そうか、そういう可能性もあったのか。マジかよヤバイだろこれ」

「わかる、わかるぞ! ルイスさん、なんでもいいから何か話してみて!」


「え? みんなどうしたの? はじめまして、ルイスです。はじめましてだよね? 掲示板は日本語だからあんまり読めなくて……あ」


 ユージ家跡地の周囲にいたキャンプオフ参加者と言葉を交わすルイス。が、途中でフリーズする。

 先に掲示板住人が、遅れてルイスが気づいたらしい。


 掲示板住人は日本語で、ルイスは英語で話しているのに、()()()()()()()ことに。


「うっそだろおい!」

「誰か! 誰か日本語以外を喋れる人はいませんか! 英語じゃ通じちゃうんでそれ以外で!」

「いやさすがにいねえだろ。そもそも英語と日本語で話してて通じるんなら検証いらないんじゃね?」


「わお、これはすごいね! こっちでも通じるなんて便利すぎる!」


 ルイスが日本語を喋れるようになった、わけではない。

 ユージが異世界で現地の言葉を理解できたように、ジョージとルイスが異世界で日本語を理解できたように。

 戻ってきたルイスは、日本語を理解できた。ルイスは英語で話しているのに通じている。


 元の世界に戻ってきたのに、異世界と同じように。


「待て待て待て! んじゃ魔法は!? 魔法はどうなってる!? こっちでも使えるのか? 魔法があるのか!?」

「あああああああ! 戻ってきたメンバーみんな魔法が使えないヤツらだあああああ!」

「くそくそくそっ! 俺魔法使いだから俺も魔法使えるようになるかと思ったのに!」

「いやそれはおかしいだろ。あと、魔法である必要はないはずだ」


 ルイスのまわりに、続々と掲示板住人が集まってきた。

 異世界と同じように、ルイスと言葉が通じる。

 それはつまり。


「そうだ! 魔法じゃなくたっていいんだ! 名無し、ちょっとジャンプしてみろ!」


「え? 俺、小銭は持ってないからジャンプしても」


「カツアゲじゃねえから! みんなポンコツかよ!」

「異世界にいた時と同じように言葉が通じる。魔法は残念ながら不明。……では、『位階』ってヤツのおかげで上がった身体能力は? 上がったままなんじゃないか?」


「…………あ」


 ルイスを囲む集団からいきなり話しかけられた帰還組の名無しのニート二人も、ようやく理解したらしい。

 二人で顔を見合わせる。


 二人の名無しのニートが、ほかのトリッパーより積極的にモンスターを倒してきたわけではない。

 班ごとの行動もこなしてきたし、時にはモンスターと戦闘になってほかのトリッパーと一緒に戦ってきた。


 もちろん二人とも、異世界で位階が上がっている。あわせて身体能力も。


「えっと、じゃあ」

「俺も。とりあえず荷物置くだけでいいか」


 背負ったリュックを下ろして、軽くヒザを曲げる。

 「道具が必要なくその場でできてわかりやすい部類」ということで、助走なしの垂直跳びをしてみるようだ。


 腕を振って、二人がその場で飛び上がる。


「…………ははっ、マジか。異世界やべえ」

「いや待て実は二人ともバスケかバレーの経験者とか。だったら飛ぶ前に言うか」

「元の記録は知らないけど、これは……」


 荷物を置いただけでほかに準備なし、助走なしの垂直跳び。


 名無しのニートの二人は、1メートル近く飛び上がっていた。

 出迎えた掲示板住人の腰のあたりにつま先があって、目線の高さに腰がきている。


 異世界に行ったことがない人間でも、その高さまで飛べなくはないだろう。身体能力が高ければ。あるいは跳躍系のスポーツ経験者なら。


 だが、名無しのニート二人は、身体能力が高かったわけでもアスリートでもなかった。


「はは、ははは、マジかこれ」

「異世界に行ってがんばってきたことは、無駄じゃなかったんだなあ」


 二人の顔がほころぶ。

 ひょっとしたら二人は「脱落した」「けっきょく異世界でも何もできなかった」と落ち込んでいたのかもしれない。

 25人は残って、帰還組のほかの三人はこの世界でやりたいことがあって、純粋に「帰還を望んだ」のは二人だけだったのだから。


 二人は泣き笑いを浮かべて、がしっと抱き合った。


 この事実を知られたら泣きたくなるのはこの世界で努力を続けるアスリートだろうが、それはそれとして。


「身体能力かあ。活用するには何がいいだろ。運動神経がよくなってるわけじゃないだろうしやっぱり陸上競技?」

「俺来年は異世界行くんだ。みっちり位階上げまくって戻ってきたらプロ野球のトライアウトを」

「おいやめろ、それこそチート(ずる)だろ?」

「身体能力高くて、各種言語の会話が通じるのか……これもう未開の地に送り込んで」

「けっきょく異世界とやってること変わらなくなる件。そこはほら、本人たちが好きにすればいいでしょ」

「はあ、魔法はどうなのかなあ。来年は誰か魔法使える人をこっちに」


 ルイスと二人の名無しのニートを囲んで、キャンプオフ参加者たちはいつまでも騒がしかった。



 ユージが新たなトリッパーを迎え、一部のトリッパーが元の世界に還ってきた、その日。

 大騒ぎは、まだ終わらない。



次話、7/21(土)18時投稿予定です!

エピローグは全3話か4話ぐらいかなあ、と。


※7/21追記 更新、18時から遅れるかもしれません。

遅くとも22(日)の18時までには!

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