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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第十章 ユージと掲示板住人たち、異世界で開拓する』

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IF:第十五話 ユージと掲示板住人たち、ゴブリンとオークを集落ごと潰す戦いに参加する

遅くなりました


 早朝。

 空が鮮やかな夜明けの色に染まる頃。

 静かな森に、カサカサと落ち葉を踏みしめる音が聞こえる。


「いよいよか……」


「ちょっと緊張するね、お兄ちゃん」


「正規兵の戦闘を見られるとは。きっと参考になるだろう」

「あいかわらずクールなニートの視点がおかしいんだよなあ。女性を襲うゴブリンとオークを殲滅できるのはうれしいけど」

「バッテリーよし、空き容量よし。ヤバい、テンション上がってきた」


 ささやき声で会話を、いや、各々(おのおの)独り言を漏らすユージたち。

 ユージの横ではアリスがむふーっと鼻息も荒く、コタローが爪で地面をかいて、やる気満々でその時を待っている。


 集団の中央には盾を構えたユージ、その陰に隠れるようにアリス、アリスの横には護衛のつもりらしきコタロー。

 二人と一匹の左にユージの妹のサクラ、ジョージとルイスのアメリカ組。

 右にはクールなニートや動画担当、エルフスキー、ニートなユニコーン、YESロリータNOタッチが陣取っている。


「緊張すんなってユージさん。こっちに敵が来たら俺たちが守るからよ」


「エンゾの言う通りだ。俺たちはこれでも元3級冒険者。ゴブリンやオークがどれだけ来ようと守りきってみせる」


 開拓地に移住した元冒険者パーティ『深緑の風』のリーダー・ブレーズと斥候のエンゾは、ユージたち10人と一匹を守る役目らしい。


 間もなく冬を迎える、肌寒い秋の早朝。


 ゴブリンとオークの集落の殲滅戦がはじまろうとしていた。


 やがて、元3級冒険者の斥候・エンゾがささやき声でユージに告げる。


「合図が来た。開戦だ」


 ユージやトリッパーたちにはわからなかったが、場数を踏んだ元冒険者の目は逃すことなく合図を捉えたようだ。


 ゴブリンとオークの集落は、森がぽっかり開けた場所にあった。自然にできた空間のようだ。

 集落の南側には小さな沼地が存在していた。とても飲めるような水には見えなかったが、この開けた空間と水場があるためにモンスターもこの地に集落を作ったのだろう。


 その集落は倒木や切り倒した木々、枝葉を使って掘っ建て小屋とも呼べない粗雑な建物らしきものが20棟ほど点在していた。

 雨風を凌げるかどうかも怪しいが、ゴブリンと一部のオークはその空間で寝起きしているようだ。中に入らず雑魚寝しているゴブリンたちの姿も見えるが、おそらく下っ端なのだろう。

 集落の中央には数本の木を重ね、枝葉で覆った建家が見える。集落の中心に見えること、しかも周辺の掘っ建て小屋よりも大きい。


 攻撃目標を眺めるユージ。その目に、ふわふわと風に揺られるようにゆっくりと飛ぶ()()()()()()の姿が映る。


 紅葉の森をふわふわと舞う白いゆきふりむし。

 どこかのどかで幻想的な風景。

 だが、これからこの場は戦場となる。


「アリス、出番だよ」


 エンゾと同じように、ユージもささやき声でアリスに告げる。

 右手を上げ、声は出さずにはーい、と口の形だけで答えるアリス。

 ちなみに領主は集落南側の沼地の存在を知っており、だからこそアリスの火魔法の使用許可を出したのだった。いざとなれば領軍のバケツリレーで消火する所存である。


 ユージの横で、アリスが力を込める。

 初撃ということもあり、相手に気づかれる可能性を考慮して詠唱は禁止されていた。んんーっといううなり声がちょっと漏れていたが。


 やがて、アリスが頭上にかざした手の上に炎の球が生まれる。

 えいっと腕を振り下ろすアリス。やはり小さな声が漏れていた。


 ゆるやかな放物線を描いて炎の球が集落に飛んでいく。

 放物線の頂上、落下をはじめるところで。


「はじけてとびちれーっ!」


 幼いアリスの声が響いた。


 炎の球が、バフッと音を立てて弾ける。

 小さな火の玉が無数に生まれ、広い範囲に散らばりながら落ちていく。


 ユージたちから見てゴブリンとオークの集落の手前側に、無数の火の玉が落ちた。


 ボボボボボボボボッ! と連続して、小さな火の玉が爆発する。

 それはまるで、広範囲の地面が爆発したようで。


 20組ほどの粗雑な小屋が並ぶゴブリンとオークの集落は喧噪に包まれた。

 ゲギャグギャフゴゴと、悲鳴を上げながら小屋から飛び出すモンスターたち。

 炎の海を目にして反対方向に逃げる。

 モンスターの集落はパニック状態である。


「なんだコレすげェなアリスの嬢ちゃん……」

「開拓地でオークを倒したときにも思ったが……見たことのない火魔法を……」


 ユージたちを護衛していたブレーズとエンゾは目を丸くしている。


「ア、アリス? これは何かな?」


「うーんとね、アリス、みんなからいろいろ教わったんだよ! それでね、今回はこれがいいだろうって!」


「へ、へえ、そうなんだ……」


 アリスの火魔法の威力と効果に、ユージの顔も引きつっている。

 アリスは「すごいでしょー!」とばかりにニッコニコだ。


「予想以上の効果だな。この威力なら、直接小屋を狙ってもよかったか」

「は、ははっ、俺は戦争でも撮ってるのかな? まあ戦いではあるけども」

「うーん……異世界だし、いいのかなあ。でもなあ」

「気にするなルイス。これは魔法で不発弾はなく、相手はモンスターなんだ。そう、気にしちゃダメだ」

「はあ、やっぱりアリスちゃんは最高ですっ!」

「汚物は消毒だ! エルフを狙うゴブリンとオークは殲滅だっ!」


 一方で、トリッパーたちのテンションがおかしい。

 そしてアリスの新たな火魔法はクールなニートが原因らしい。

 アメリカ組が引き気味である。


「うろたえるなッ! 儂らの役目はかわらん! 弓隊は矢を射かけろ! 歩兵は盾と槍を構えろ!」


 パニックとなったモンスターたちは、炎の海から逃げていく。

 暴走する集団を前に、領主の声が響いた。



 アリスが範囲型の火魔法を使えると聞いて、昨夜決められた作戦はシンプルだ。

 火魔法でゴブリンとオークを追い立て、半包囲で待ち構えた領軍がモンスターを討ち取る。


 あまりの威力に領軍にも混乱が広がりそうだったが、領主の一声で落ち着きを取り戻したらしい。

 集落の討伐は作戦通り進んでいた。


 ちなみに、もしアリスが火魔法を使っても動かなかった場合、ブレーズとエンゾやほかの冒険者がゴブリンとオークを追い立てることになっていた。

 新人冒険者は包囲に参加、高位の斥候たちが勢子となる第二案だ。

 想像以上のアリスの火魔法で、必要はなかったようだが。


 ゲギャグギャ、フゴッとモンスターの悲鳴が響く。

 ユージとトリッパー、冒険者たち、兵士たちに囲まれて逃げ場はなく、ゴブリンとオークの討伐は順調に進んでいく。


 半円状の包囲の外から矢が放たれ、あっさりと倒れるゴブリン。

 矢が刺さりながらも逃げた先には、盾を構えた兵士たちが隊列を作っている。

 粗末な棍棒の攻撃は兵士の盾に防がれて、隊列の間から突き出される槍にゴブリンは数を減らしていく。

 危なげない戦いぶりである。


「え……なんか、兵士のみなさん強いような……俺たちが戦った防衛戦より余裕っぽいんですけど……」


「人型のモンスター相手に集団戦となれば、冒険者よりも兵士の方が向いてるからな。訓練の成果が活かされるってヤツだ」


「それに、夜に俺たち斥候組が、集落に捕まってるヤツはいねェって確認したからよ。救出が必要ないなら『待ち』で充分だからな」


 ユージに解説するブレーズとエンゾ。

 集落全体で200はいただろう。

 大半はゴブリンでたまにオーク、どちらも強いモンスターではないと言っても、バタバタと倒れてその数を減らしていく。


 危なげないその戦いに、トリッパーたちはもはや単なる観客だ。一人撮影係だ。

 あとコタローはユージの足元でちょっとそわそわしている。

 いっちゃだめ、だめよね、きょうはゆーじとありすのおもりだもんね、ああもう、こっちにもこないかしら、とでも言っているかのようだ。敵には容赦ない女である。


「まあ、これからが本番だけどな。雑魚はともかく、そろそろ集落の長が……ああ、アイツらだな」


 エンゾの解説を聞いていたユージが、集落の中心に目をやる。


 そこに現れたのは、ほかのオークよりもふたまわりも大きな巨体。

 2mを超す身長もさることながら、横幅もでかい。

 建物がわりにしていた木を左右それぞれの手につかみ、そのまま武器として使うつもりのようだ。


 あんなでかいヤツどこにいたんだ、と小さな声でユージがつぶやく。

 ワンッと同意するかのように吠えるコタロー。

 アリスは小首を傾げ、ユージをじっと見ている。


「ねえユージ兄、アリス、またまほーでえいってする?」


「ど、どうかなあ。合図があるまでは動かない方がいいと思うけど……」


「そうだなユージ。指揮官がいるんだ、ここは指示に従うべきだろう。残念だが」

「残念だがって、クールなニートさんがおかしい……」

「でも言う通りだよサクラ。作戦にない行動は混乱を招くからね」

「ああああああ! もっと近づいて撮りてええええええ!」

「オークは殲滅対象だろ。人型モンスターのオスは全員殺せ」

「物騒だぞユニコーン! 俺も同じ意見だけどさ!」


 暢気か。

 ボスらしきモンスターの登場だが、ユージはともかくトリッパーたちは余裕であった。あるいは、モンスターと元3級冒険者や兵士たちの力関係を理解したか。


 天にも届けとばかりに、フゴーッと大声で咆哮するオークの長。

 なんらかの命令であったのか、恐慌をおこして逃げまわっていた残り20匹ほどのゴブリンとオークたちモンスターが落ち着きを見せる。

 が、動きを止めたゴブリンとオークに次々と矢が刺さり、倒れていく。

 冷静になっても、雑魚は雑魚なのだ。

 むしろ遠距離攻撃されているのに足を止めるなど悪手である。


 そんな光景に憤るかのように、オークの長は左右の手に持った丸太を振りまわしはじめる。

 ブウンッと聞こえてきそうな迫力ある動きに、遠方から眺めているにも関わらず、ユージが身を硬くしたその時。


「ふははははッ! 歯ごたえのありそうなヤツがいるではないか! コイツは儂が相手しよう! 我が斧槍(ハルバード)の錆びになるがいいッ!」


 ハルバードを振りまわして、オークの長の前に立つ一人の男。

 大森林やプルミエの街を含む辺境のトップ。

 領主その人である。

 どうやら『騎士』は名目だけでなく、実力もその役割にふさわしいらしい。


 オークの長と相対した領主の両腕とハルバードは、ほんのり青く輝いているように見える。

 一瞬のにらみ合いの後、領主がハルバードを横薙ぎに振るった。

 あっさり、まるで熱した包丁でバターを切るかのごとくあっさりと、オークの長が持つ丸太が斬り裂かれ、そのまま腹までかっさばかれる。


 だばーっと腹から血を、というか内臓をこぼすオークの長。

 こらえるように立っていたが、領主に容赦はない。

 勢いのまま振りまわされたハルバードは方向を変えて、オークの長に叩き付けられた。


 頭が割れる。

 体の中ほどまで、ハルバードが食い込む。


 領主が力任せに引き抜くと、オークの長はドオンッと音を立てて倒れた。

 瞬殺。

 圧勝である。


 集落を半包囲していた領軍が沸き立つ。

 あっさり長がやられて呆然とするゴブリンとオークに矢が乱れ飛んで仕留めていく。

 殲滅はもはや時間の問題であった。


「す、すげえ、なんだあれ……領主様は貴族なのに……」


「武闘派貴族ってヤツだな。辺境の領主様は大変なこって」


「エンゾ、本来の『武闘派貴族』は必ずしも戦えるわけじゃない。領主様が特別なんだ」


「青い光……斬れ味をよくするのか? いや、ギルドマスターはあの光でアリスちゃんの魔法を消したような」


 ユージの呟きにエンゾとブレーズが反応する。

 クールなニートは違うポイントに反応している。

 検証スレの動画担当は、もっと近くで撮りたかったと涙目だ。

 アリスはさっそく、拾った木の枝を振りまわしてマネしている。開幕の魔法以降は見守るだけだったため、アリスはヒマしていたようだ。

 コタローはガウガウガウッと吠えながら、ユージとアリスの足下を跳ねまわっていた。領主の本気に大興奮である。うれションはしない。コタローは淑女なので。犬だが。



 ユージとアリス、コタロー、トリッパーたち、移住した元冒険者が参加したモンスターの集落討伐。

 初撃を担当したアリス以外は、観戦するだけで戦いが終わる。


 こうして、ユージたちを悩ませたゴブリンの頻出は、原因から絶たれるのだった。

 一発だけでは物足りなかったアリスや、見ているだけだったクールなニートは不満そうだったが

次話、2/17(土)18時更新予定です!

遅れないでいける、はず!

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